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似たもの同士?中露両国の大使館が処理水を改めて批判

処理水の放出は、まさに「科学と非科学の戦い」そのものです。ただ、非科学的な態度で処理水放出を批判している人たちは、「国の借金論」などの奇妙な理論を垂れ流してきている層と、だいたい一致しているように見えるのは気のせいでしょうか。こうしたなか、とくにわかりやすいのが、中国、ロシア両国の大使館が出してきた、処理水に関する意味不明なツイートでしょう。

処理水放出は「科学vs非科学」の争い

先日の『福島処理水論争の正体は「科学vs非科学」の代理戦争』でも指摘したとおり、福島原発の処理水放出を巡っては、「核汚染水の放出を強行する日本政府vsそれらに反対する市民」、といった構図ではなく、「科学vs非科学」、という構図であると見た方が正確です。

そもそも日本政府が海洋放出しているのは「核汚染水」ではなく、ALPS処理水――、すなわち多核種除去装置(ALPS)を使用し、放射性物質を科学的に設定された基準値以下まで除去したもので、その濃度等については国際原子力機関(IAEA)等もモニタリングに参加しています。

実際、処理水の放出は24日以降開始されていますが、現在までのところ、近海でとれた魚に基準値を上回るトリチウム等の放射性物質が含まれていたとの報告はありません。

これに加えてIAEAウェブサイトでは、地点別に放射線量を測定した結果が公表されていますが、本稿執筆時点において、東京電力とIAEAの設定している基準値を上回っている地点は、ただの1箇所もありません。

結局のところ、現在の福島県や東北地方に最大の被害をもたらしているのは、福島第一原発から放出されている「核汚染水」ではありません。

「非科学的な風評」です。

科学的に設定された安全性の基準値を科学以外の手段で否定しているという行為自体が、まさに風評加害そのものであり、科学的根拠もなしに処理水を「(核)汚染水」などと呼んだり、あたかも処理水が「健康被害をもたらす」かのように不安を煽ったりする行動自体が、こうした被害をもたらしているのです。

科学の役割は直感に反する内容を理屈で理解すること

この点、科学の最も重要な役割のひとつは、「人間の直感に反することを頭で理解すること」にあります。

たとえば、科学が発達していなかった頃の古代人に対し、「私たちが立っているこの大地は、じつは平らではなく球体である」、「お日さまは私たちの周りを廻っているのではなく、私たちが太陽の周りを廻っている」などといわれても、これについて理解できないと思う人は多かったでしょう。人間の直感に反するからです。

同じく、「光の速さに近づくと、時間の進み方が変わる」、「物質は光の速度以上に加速することができない」、「重力の影響で時間の進み方が変わる」、などと言われると、「そんなバカな!」などと思う人もいるかもしれませんが、これも科学的に検証された事実です。

もう少し卑近な例でいえば、「財政破綻論」がその典型かもしれません。

これは、「日本は国の借金がたくさんあって、今すぐ増税しなければ、いずれ必ず財政破綻する」、などという言説ですが、これも「政府資産を無視して政府債務のみを見ていること」、「本来、政府だけでなく家計、企業などをトータルで見なければならない一国の資金循環バランスを無視している」、などの欠陥があります。

この「国の借金論」、結論からいえば財務省が増税により自分たちの利権を確保するために展開してきた大ウソなのですが、これも考え様によっては、科学的思考態度を放棄した、極めて偏った言説であるといえるかもしれません。

日経新聞「科学を隠れみのにするな」

このように考えていくと、個人的には日経新聞が今回の処理水放出に関連し、「科学を隠れみのにするな」などとする珍説を唱えていること自体も、なんとなく納得がいくと思っています。

科学を隠れみのにするな

―――2023年8月23日 2:00付 日本経済新聞電子版より

日経新聞の記事では、「科学的知見で安全は保証できても、安心はうまれない」などとしたうえで、「その醸成のためには海洋放出の安全性と透明性を確保し、政府が国内外に粘り強く丁寧に説明していくしかない」、などと結論付けています

しかし、そもそも論ですが、日経新聞自身がこんな記事を大々的にウェブサイトに掲載すること自体、「政府による国内外に対する粘り強く丁寧な説明」を妨害する行為でもあります。

自分たちのこれまでの風評加害を棚に上げて、科学を全面的に否定するかのようないい加減な言説をばら撒くこと自体、科学に対する冒涜であり、福島県などに経済的損害を発生させる「不法行為」そのものではないでしょうか。

ただ、日経新聞が普段から経済理論を無視したメチャクチャな記事、あるいは日経新聞は金融緩和を敵視するような記事を多数掲載していることは、今に始まったことではありません。『7月の貿易収支は再び赤字に転落も…赤字幅は大幅縮小』でも紹介した次の記事などは、その典型例でしょう。

円の実力、53年ぶり低水準 家計負担は20万円増/主要通貨で独歩安

―――2023年8月29日19:48 付 日本経済新聞電子版

いずれにせよ、日経新聞を含めた日本の新聞業界、ひいてはテレビ業界を含めた日本のオールドメディア界隈には、科学を正面から否定する姿勢が透けて見えます。

ただし、いちおう公正さのために付言しておくなら、メディアによっては比較的公正な記事を掲載することもあります。たとえば、毎日新聞に29日付で掲載された次の記事では、SNSなどで見られる「トリチウム以外の放射性物質を測定していない」とする言説が虚偽であることを、合理的に解説しています。

処理水のモニタリング、実態は? 分析強化で異常をいち早く検知

―――2023/8/29 22:07付 毎日新聞より

余談ですが、日本のメディアが10年前からこのような記事をちゃんと掲載いたならば、「日本の新聞はあと10年以内に滅亡する」などという状況(『事実なら主要紙で初:北海道新聞が夕刊から完全撤退か』等参照)には陥っていなかったのかもしれませんね。

似たもの同士?中露両国の大使館のツイート

さて、ここでもうひとつ、大変にわかりやすい話題を取り上げておきましょう。

日本国内で処理水放出に執拗に反対してきたのが、特定メディア、特定野党などであることは、いまさら指摘するまでもありませんが、それだけではありません。特定の2ヵ国の大使館が、この問題に反応を示しているのです。

まさに「似たもの同士」、でしょうか。これらのツイートだけで、中国、ロシアという2つの国(あるいはそれに2つの無法国家を加えた4ヵ国)の本質がよくわかります。

ロシアといえば昨年2月、国際法を無視してウクライナに対する軍事的侵略を開始した犯罪国家であり、そのトップであるウラジミル・プーチンは、児童の強制移送などの犯罪容疑者として、国際刑事裁判所(ICC)から逮捕状を請求されている身分でもあります。

また、中国は国際法を無視した違法な海洋進出などを繰り返しているだけでなく、周辺国を軍事的に威圧するなどの無法国家であり、そのくせ日本を「核汚染水放出」などと偉そうに批判するわりに、自分の国も大量の放射性物質を海洋投棄していたりします(図表)。

図表 世界の主要な原発におけるトリチウムの年間処分量
サイト ベクレル
ラ・アーグ再処理施設(仏国) 1京1460兆㏃(液11400+気60) 2018年
ブルースA,B原発(カナダ) 1750兆㏃(液756+気994) 2018年
セラフィールド再処理施設(英国) 479兆㏃(液423+気56) 2019年
ピッカリング1-4原発(カナダ) 440兆㏃(液140+気300) 2015年
ダーリントン原発(カナダ) 430兆㏃(液220+気210) 2018年
ヘイシャムB原発(英国) 398兆㏃(液396+気2.1) 2019年
チェルナヴォーダ1原発(ルーマニア) 292兆㏃(液140+気152) 2018年
泰山第三原発(中国) 238兆㏃(液124+気114) 2019年
月城原発(韓国) 141兆㏃(液31+気110) 2019年
古里原発(韓国) 114兆㏃(液91+気23) 2019年

(【出所】在中日本大使館ウェブサイトに掲載のPDFファイル資料をもとに著者作成)

つまり、これら両国には「科学的根拠もなしに相手国をののしる」という共通点があるようであり、いずれにせよ、私たち自由・民主主義国家群とは相いれない存在です。

ただ、中露両国がこうやって大騒ぎすることで、むしろ国際社会に対し、中韓両国の異常性が余すところなく示されることになりますし、また、日本企業にとっても両国とお付き合いすることのリスクをさらに深く認識するきっかけとなり得ます。

このように考えていくと、本件については正直、放置しておけば、勝手に相手が「自滅」に追い込まれることになるのかもしれません。

いずれにせよ、本件は「放置」が正解でしょう。

新宿会計士:

View Comments (24)

    • ブログ主のいう"自滅"とはコレの事ですね!日本は中国の海産物は危ないです!と言えばいいのに!
      もし、中国の海産物は危ないです!と言ったらどうなるかな?中国は、中国の海産物は安全です!と言い返すのかな?

    • >中国の海産物は危ないです!と言えばいいのに!
      ダブスタのなれの果てですよね。さすがに日本が同じことを言えば同じレベルに堕してしまいますから、せいぜい、
      「中国が危ないということが本当なら、中国の海産物も危ないってことになりますねぇ(笑)」
      くらいでしょうかね。

      中国やロシアが海洋放出している処理水の量や濃度も、フリップを作って毎回提示して釘を刺す、くらいはやってもいいと思いますが。
      官房長官記者会見とかで。

  •  核兵器保有国(=核実験実施国)
    処理水海洋放出を批難できる立場でないことをわかってない w

     ついでに言えば韓国は日本沿岸に漂着するように「意図的」にゴミの海洋投棄を行なっている
    ※政府は厳重な抗議を行うべき

    ※本文末部分で「中露」とすべきところ「中韓」となってます

  • 中国、露国、韓国、北朝鮮の四ヶ国は地球に咲いた徒花だ。しかし北朝鮮はともかくも、残り3ヶ国については日本政府が援助の名のもとに成長を支援したのではないか。カネが入るうちはおとなしいんだろうけど、日本から援助を受けた事実さえも国民に知らせないで「敵」の育成に励んだのが自民党政権でそれにつきあわされたのが日本国民なのだ。傍観者が野党でカネをにぎらせられて口をつぐんでいたんではないか?たしかに中露韓北は似た者国家だ。しかし、それを育成したのは、政府でありそれにつらなる官僚ではないか?

  • 客観的事実だけの羅列であれば、毎日も正しく報じられるのですね。
    主観的意見(ひと)が入るから、侮日な内容になってくるんですね。

    きっと・・。

  • まぁトリチウム以外の核種もあるけど規制基準値未満なんだよね 

    トリチウム以外の核種
    なお、ALPS等による浄化処理後の「ALPS処理水」では、希釈前の段階で、トリチウム以外の核種の多くは、検出限界値未満となります。セシウム134/137、コバルト60、ルテニウム106、アンチモン125、ストロンチウム90、ヨウ素129、テクネチウム99、炭素14などが検出される可能性はありますが、いずれも規制基準値未満です。
    他方、日本の原子力発電所等からの環境中に放出される液体・気体廃棄物に含まれる放射性物質の規制基準は、どんな核種が含まれるかではなく、廃棄物に含まれるすべての放射性物質による影響を総合して考えられており、これらが検出されたとしても、人体や環境への影響に問題が生じるものではありません。また、国内外の原発・再処理施設でも、各国の法令を遵守した上で、放射性物質を含む廃棄物が、海洋や河川等へ、また、換気等にともない大気中へ排出されています。
    ttps://www.env.go.jp/chemi/rhm/r3kisoshiryo/r3kiso-06-03-08.html

  • そういえば、日本海に原子力潜水艦を捨てたのは、ロシアでしたね。

  • 昼食時はYoutube見ることが多くて。(笑)

    原発処理水めぐる“反日”は収束へ?カギを握るのは“中国の報道”と裏にいる“中国政府”(2023年8月30日)
    https://youtu.be/HV569uziQjA

    インタビューを受けている興梠氏によると、環球時報に「煽るな」という記事が出たそうで、過去の事例(尖閣など)から類推すると、収束に向かうと予想しています。
    突出している連中は当局に優しく「ご指導」されるかもですね。
    ここでは触れてないですが、尖閣で海保に体当たりした漁船の船長はいまだに自宅軟禁状態(家に役人がいつもいる)状態だそうです。

    次に心配になるのが、経済で自身を失った中国が掌返して日本に手もみをしてきたときに、「過去のことは水に流して協力します!」なんて意識高い日本のリーダーが「いい人」ぶりを発揮しないかです。

    • でも、中国のSNSにある偽情報があふれて、中共は削除しないし、本当に収束するか疑問。そりゃ何年も立てば収束するだろうが、、、

  •  ロシア大使館はアh……えー、ちょっと考えが足りないんじゃないでしょうか。

     世界中の問題だということに仕立てたいので「150万トンも世界の海に放流」なんて表現にしてしまったのでしょうが、「世界中」を基準にしてしまうと、海水の総量は単純計算で約140京トンです。うっす。
     まぁ周辺海域に限ったところで結局は「天文学的に薄い」のに変わりはありませんし、例えばいくらかマシな難癖として「放流地点近海にピンポイントで被害の懸念」なんて言ってしまうと、「世界中の問題」にすり替えられないので意味が無くなってしまうのでしょうが。

     事実に基づかずに、目的だけで論理を組み立てるから、こんなマヌケなことになるのです。

  • 私はとにかく「サンマが安く大量に食べられそう」だから大いに騒いで欲しい。
    冗談はとにかくぁれらにそれを求めるのは無理。サンマは捕られ放題でしょう。
    何故ならそれが彼等の文化。自分が都合が悪いことはしない。法なんか関係ない。
    世界へのアピールとしてはロシア中国が上手い、数枚も上手。
    なぜか。人権無し暴力上等の国が世界には半数以上有るから。
    自分さえ良ければ、儲かればOKの国が多いから。
    トラブルは多いけど弾圧すれば無くなる。
    アフリカの多くの国でロシアがもてはやされるのはそう言うこと。
    ここに日本なんて絶対入れない。
    口げんかも出来ない日本なんて都合良く使われてお終い。の世界

  • これ「科学と非科学の戦い」と言えるような類いのものなのか?

    国内状況の悪化で政権の運営に黄信号が灯れば、おおむね「デマ」、ないしは取って付けたような口実で、他国への敵愾心を煽り、民衆の不満をそちらに向けさせるのは、強権国家の常套手段。今回のは確かにトリチウム水の海洋放出の危険性という、科学的考察の次元で語れるはなしだが、煽りに使う口実として、問題が科学で片付くはなしか、もっと人間くさいドロドロしたはなしかであるのかは、実際のところどうでも良いはなしに思えます。科学的な話題に下手に首突っ込めば、論理的に反駁されて、却ってやぶ蛇という恐れはあるのだが、情報統制下にある強権国家では、支配層はそれほどのリスクとは考えないのでしょう。

    デマによる扇動というのは、民主主義国家でも、なにも政治家に限らず、さまざまな不合理な主義主張を広めたい、あるいは社会的利権を獲得したいと狙ってる連中にとって、魅力的な手法であることに変わりはないでしょう。だけど、これだけ国民間の情報共有が進む中では、余りにおかしなことを言いだせば、ただちに反駁されて、却って社会的信用を失うことになる。

    だから、この手の手法をとくに愛用するのは、強権国家の指導者。そして民衆が厳格な情報統制の下、無知蒙昧な状況に置かれていることが、必須の条件ということになるでしょう。

    非科学的な煽りが通用するのは、民衆が科学に対して無知というより、「情弱」という面がより強いと思うのですが、さて民衆は、本当に指導者が期待するとおりの無知蒙昧な存在なのか? 一応、近代的社会の担い手を育てるため、中露のような強権国家だって、科学教育はやってるわけだし(最近は習近平科学なんてのも教えられてるそうですが)、トリチウム怪談なんてのを煽り立てるのは、どう考えたって悪手としか思えないんですけどね。むしろ、こんな手使わざるを得ないほど、追い込まれてるって、証左のようにも思えてくる。

    そういうことで、今回の問題の本質は「科学と非科学の戦い」というより、「誰もが自由に情報を発信でき、それに対する批判もまた活発におこなわれている社会」と「為政者の恣意で情報交換が極度に抑制されている社会」の相克と言えるんじゃないかと考えるのですが。

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