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立憲民主党「首相の解散権制限」法案提出へ=時事通信

「護憲派」「左派政党」は衆院で4分の1以下に減ってしまったのは、「現実性がない」からでは?

なぜか頑なに憲法改正議論を拒絶する「現実性のなさ」こそが、左派政党が衆院で4分の1以下になってしまった原因かもしれません。時事通信は、立憲民主党が早ければ今秋、首相による衆院解散権を制限する法律を提出する、と報じました。文脈から判断して、おそらく「第7条解散」を立法措置で制限する、ということだと思われますが、憲法の下位にある法律で上位規範である憲法の規定を制限するというのは、どうにもおかしな話ではないでしょうか。

二大政党制が根付かなかった日本

いわゆる「二大政党制」のもとでは、「最大野党」は、いつでも政権を放逐し、現在の与党に代わり、自分たちがいつでも与党として政権を担うことができる――、といった役割が期待されている存在でしょう。

そして、二大政党制の典型例は、米国です。4年に1度行われる大統領選と、2年に1度行われる連邦議会選挙で、民主党と共和党という2つの政党がせめぎあい、頻繁に政権交代も行われますし、大統領の所属政党と議会の多数派が入れ替わることも頻繁にあります。

しかし、残念ながら日本では、この「二大政党制」は結局、定着しなかったようです。

「なぜ日本で二大政党制が根付かなかったのか」については、正直、よくわかりません。

これについては「日米だと『大統領制』『議院内閣制』などの政治体制の違いがあるからだ」、「日本には存在する『衆院解散』などの制度は米国には存在しないからだ」、といった点を指摘する人もいますが、これについては本稿で詳しく言及することは避けます。

左派政党は衆院の4分の1以下

ただ、ここで重要なのは、現在の最大野党が今すぐ政権を担当することが難しい、という状況でしょう。

現在の最大野党は立憲民主党であり、衆議院では96議席を有しています(なお、衆院の「立憲民主党・無所属」も、海江田万里氏が副議長として会派を離脱している一方、社民党の新垣邦男氏が統一会派に加わっているため、結果的に96議席です)。

しかし、96議席といえば、衆院の定数は465議席の20%少々に過ぎず、また、政治性向が似ている(?)日本共産党(10議席)、れいわ新選組(3議席)と合わせても総議席数は109議席、つまり全体の約4分の1弱に過ぎません。

したがって現実問題、立憲民主党を中心とした「左派連立政権」ができる可能性は、現時点においてはほぼゼロでしょう。

一方で、「自由民主党・無所属の会」は絶対安定多数の261議席に達していて、連立を組む公明党が32議席であり、さらに最近支持を伸ばしている日本維新の会は41議席、「国民民主党・無所属クラブ」は10議席、「有志の会」も5議席を持っています。

いわば、立憲民主党とは政治性向が明らかに異なる政党の議席が、全部で349議席(つまり全体の4分の3)にも達しているのです(なお、上記数値については足しても465議席に達しませんが、その理由は議長、副議長を含めた無所属が6議席、欠員が1議席あるからです)。

これでは、「現在の立憲民主党(や左派政党)が、国民の圧倒的多数から支持されている」、とは言い難いでしょう。

大躍進の可能性も低い

では、解散総選挙によって立憲民主党、社民党、日本共産党、れいわ新選組などが大躍進する可能性は、どれだけあるのでしょうか。

これについては以前の『選挙でカギを握る自民・立民「99人のボーダー議員」』などでも示した通り、むしろ立憲民主党の現職議員のなかには、小選挙区で自民党の対立候補などに「ギリギリで競り勝った」という議員も多く、2位以下との得票差が2万票だった候補者はじつに41人です。

立憲民主党が2021年の総選挙で獲得した96議席のうち、小選挙区は57議席でしたので、小選挙区の7割以上が「ボーダー当選」、というわけです。もちろん、自民党にも「ボーダー議員」は58人所属していますが、これは小選挙区で当選した187人のうち、30%少々に過ぎません。

これに加え、『数字で予測する衆院選:大量移籍で維新躍進が可能に?』などでも指摘したとおり、現在、日本維新の会が各所で支持を伸ばしていることを考慮に入れるならば、選挙が近づけば、立憲民主党のボーダー議員・比例ゾンビ議員らが大挙して維新の門をたたく、といった展開もあり得るでしょう。

これまで当ウェブサイトでは、特定の政党が票を失い、他の政党に票が移っていた場合、選挙結果がどう変わったか、に関するシミュレーションを実施してきました。そのなかで、「維新が前回並みの立候補者数だったとして、最大野党になるためには、自民、立民両党からそれぞれ何票ずつ取って来なければならないか」を計算すると、その答えは2~3万票という、やや非現実的にも見える数値が出てきます。ただ、維新躍進のためにもう少し手っ取り早いアプローチもあります。それが立憲民主党の現職議員や候補者の3分の1程度が維新に移籍...
数字で予測する衆院選:大量移籍で維新躍進が可能に? - 新宿会計士の政治経済評論

つまり、次回選挙では大躍進どころか、(展開次第では)「壊滅的打撃」を被る可能性すらでている、というわけです。

憲法で規定される首相の解散権を「法律で」制限するという発想

こうしたなかで、なぜ立憲民主党が国民からの支持を拡大することに苦慮しているのか、その原因の一端がうかがえるような話題が出てきました。

立民、首相の解散権制限検討 臨時国会にも法案提出

―――2023年08月21日07時49分付 時事通信より

時事通信によると、立憲民主党は「首相による恣意的な衆院解散・総選挙を制限するための法案」を、「早ければ今秋の臨時国会にも提出する」のだそうです。

具体的には、「解散日と理由を衆院に事前通知することを内閣に求めたり、衆院の4分の1以上の要求があった場合に解散に関する国会審議を義務付けたりする案」が軸なのだそうで、「手続の厳格化により(衆院解散の)乱用に歯止めをかける姿勢をアピールする」狙いがあるのだとか。

このあたり、衆院解散は日本国憲法第7条第3号(天皇の国事行為としての解散)と、第69条(内閣不信任案を受けての解散)の2つの規定がありますが、文脈から判断して、おそらく立憲民主党が制限しようとしているのは、第7条解散の方でしょう。

ただ、これも冷静に考えてみれば、おかしな話です。

(あくまでも解釈という側面もありますが)解散権は「内閣の助言と承認に基づく天皇の国事行為」として憲法に規定されているわけですから、これを憲法より下位にある法律で制限できるのか、という問題は、グレーでしょう。

この点、「時の首相が自身の政治権力を維持するために衆院解散を濫用(らんよう)するのは、けしからん」、といった主張が成り立つ余地もあるのかもしれませんが、そうであればなおさら、これは憲法改正によるべきではないでしょうか。

立憲民主党が時事通信の報道通りのことを検討しているのなら、まずは憲法に、「衆院解散をするための要件は、法律でこれを定める」、といった規定を書き込んだうえで、衆院解散のための手続法を制定するのが筋です。

それなのに、現実を見ようとせず、あくまでも憲法改正を避けようとするから、おかしな話になるのでしょう。こうした「現実性のなさ」こそ、「政権担当能力のなさ」の裏返しでもあります。

いずれにせよ、こうした「現実性のなさ」「政権担当能力のなさ」を見るだけでも、立憲民主党を含めた左派政党(あるいは「護憲派」)が、なぜ衆院で4分の1という勢力になってしまったのか、なんとなく想像がつくのではないでしょうか。

新宿会計士:

View Comments (22)

  • 総理の解散権に制約を設けたいってのはわかんないでもないけど、そこに国会の審議とかを入れるのは変な気がするのです♪

    総理は国会で選ばれるにしても、内閣の解散権って行政と立法の対立で国政が滞るのを防ぐためのものだと思うのです♪

    >党内には、憲法69条で規定された内閣不信任決議案が可決された場合のみ解散を認めるべきだとの主張もある。

    あと、元記事の最後のとこだけど、正直なとこ、よくわかんないのです♪

    立憲の主張は総理の解散権の制約なんですよね♪
    内閣不信任決議が可決されるのってのは、国会が内閣にダメ出ししたってことだと思うのです♪
    だったら、不信任決議が可決されたときは、総辞職一択にしなきゃなんじゃないかな?

    解散が伴わないと、再度、与党から総理が選ばれちゃうから、意味がないってことなのかもだけど・・・・

    でも、それだったら、国会自身に解散決議をする権限を与えるとかはどうなのかな? 現職にとっては、自分の首を絞めるだけだから、そんな決議はできそうもないし、総理は与党の党首だから、結局のところおんなじかもしれないけど・・・

  • 解散権を法律で御せるのであるのならば、
    自衛権もまた然りのはずなんですけどね。

  • これってどういうことですか?
    内閣不信任案提出(何もしてないと思われないように、、、)
    →首相「では、民意を問うために解散総選挙を行います。」
    →それは解散権?の乱用だ!

    民意を確認されたらこまることでもあるのでしょうか?

    •  同性婚と言い、本来なら改憲の領域に踏み込まなければならない事案をパヨクは普段けしからんと糾弾している「解釈改憲」を平気で持ち出すのですからダブスタここに極まれりです。
       こんな連中の標榜する「護憲」なんて胡散臭い所の話じゃありません。現に公選法と道交法違反の常習政党がいますから。

  • 三権分立は牽制を前提としていますから、行政府の権限を弱める立法となりますが、三権のバランスはそれで保てるんでしょうかね。

    >衆院の4分の1以上の要求があった場合に解散に関する国会審議を義務付けたりする案

    というより、少数政党に行政府の権力を封じる権限を与える、って意味合いにしか見えませんが。

    民意によって選出された立法府内での良識に基づく冷静な議論で結論を出してもらいたいものです。

  • 成立させるべき法案が、山積している。やってる感満載の法案を提出する事、事態が立憲の不要感を際ださせる。自衛隊法、核三原則、スパイ防止法、議員削減法、、、まだまだ探せばいくらでもあるだろう。消費税減税法案だってある。与党のあら探しばかりで国民の信頼は得られまい。立憲民主党の存在自体がとわれている。

  • 時事通信の記事を読んでみての感想

    (記事抜粋)
    ただ、「党利党略」に基づくケースも目立ち、識者からは、より抑制的に用いられるべきだとの声も出ている。
    (感想)
    具体的にはどこの識者でしょうか。書き直してください。

    (記事抜粋)
    安倍晋三元首相が2014年と17年に行った2回の衆院解散は野党の準備が整わない状況を狙ったとされ・・・(以下略)
    (感想)
    「狙ったとされ」とありますが、安倍総理が同様の趣旨を発言されたのでしょうか。違うのであれば、誰が「狙った」と決めたのでしょうか。正確に記載してください。

    このような、客観的事実を装って主観が混在している文書は書き直しとなるのが一般的ではないでしょうか。自分自身、報告書作成時は「客観的事実」「主観」は分けて書きます。
    記者って知的訓練を受けていないのでしょうか。
    それとも当記事を書いた方はインターンシップ中の学生とか。

    • 新聞記者新人教育:
      「いいか、記事を書くときはこうやって角度を付けるんだ!」

      今となっては知的落伍者養成所になってしまっているのでは。

      • 元雑用係さま

        客観的事実と主観を分けた記事が書けない新聞記者には、
        「小学生(の読書感想文)からやり直せ」とアドバイス差し上げたいところです。

      • 元雑用係様

        >「いいか、記事を書くときはこうやって角度を付けるんだ!」

        何か、これは、読み物を書く時の心得じゃないですか?
        こうやって読者に媚びようとするのか、自分達の取材の手抜きをしようとするのか?
        いずれにせよ、こんな真実性の無いものは、見抜かれますね。そして、見捨てられる運命が待っていますね。

    •  主張は理解できるが
      情報元の秘匿という縛りを考えると
      メディアにそれを求めるのはかなり厳しい

      • わんわんさま

        ニュースに客観的事実以外の文言は不要と思っています。
        さも「客観的事実」のように「主観」を混ぜるので、結果的としておかしな文章になるのだと思います。

        「情報元の秘匿」を恣意的に運用することで「主観を客観と誤認させる=角度をつける」ことを覚えたメディアは、その「情報元の秘匿」の御旗とともに自壊するのだろうと思います。

        ストレートニュースだけで良いのに(個人的意見)

  • 手本にしろと言われたイギリスもとうの昔に二大政党制は崩壊しましたし、憲法改正しないんなら死票が少なく『一票の格差』も少ない中選挙区が日本には妥当だと思います。
    小選挙区のままにしても比例代表は廃止すべきです。

  • 議員たるもの常在戦場だと一兵卒だか野戦司令官かよくわからないあのお方が何と言っているか気になります。

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