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日本の半導体産業にとって「韓国は要らない」=鈴置氏

鈴置高史氏と大山聡氏の対談動画の第4弾が11日、公開されています。「尹錫悦(イン・シーユエ)政権で韓日関係は改善された」、などと思っている方にこそ、是非とも視聴していただきたいと思います。『チップワンストップチャンネル』がアップロードした動画では、鈴置氏は歯切れよく、半導体産業において「日本にとって韓国は不要」と言い切っているからです。その理由は何か。そして日韓が連携することの本当のリスクは何か。じっくりと考えてみたいものです。

鈴置高史氏は「韓国観察者」ではない…のかも?

当ウェブサイトで頻繁に言及する識者のなかに、鈴置高史氏という人物がいます。

鈴置氏は自身で「韓国観察者」と名乗っている通り、韓国に関する観察という観点からは、非常に信頼度が高い人物のひとりであることは間違いなく、実際に鈴置氏が「予言」した内容のうちのいくつかは、日本に「脇の甘い首相」が誕生したことで、見事に実現していたりします。

ただ、個人的に鈴置氏を「韓国観察者」と称するのには、やはり抵抗があります。というのも、鈴置氏が観察している対象物には、「韓国」だけでなく、それを取り巻く環境――米国、中国に加え、とりわけ「日本」――も含まれているからです。

韓国は鈴置氏にとって、観察に際しての「焦点」のひとつに過ぎず、その観察眼は日本の首相や政治家、外務省などにも向けられているのです。

その意味で、鈴置氏の仕事の正体は「韓国観察」ではなく、じつは「日本そのものの観察」、と称した方が正確なのかもしれません。

チップワンストップチャンネルの動画シリーズ

さて、そんな鈴置氏ですが、『鈴置氏「韓国人にとっての中国は日本にとっての地震」』でも紹介したとおり、YouTubeの『チップワンストップチャンネル』が作成・アップロードしている、半導体に詳しい大山聡(おおやま・さとる)氏との全4回の対談動画に出演しています。

まだ視聴されていない方は、第1回目から第3回目までのリンクを貼っておきますので、是非とも視聴なさってください。いずれも10分弱の比較的短い動画でありながら、大変に内容が濃く、鈴置氏の韓国観察のたしかさとともに、大山氏の知見などが反映された、非常に有意義なものばかりです。

第1回『韓国メーカの中国工場はいずれ止まる』
第2回『「4つのNO」で中国が韓国を恫喝』
第3回『強がっても韓国は中国には逆らえない』

各動画の概要については当ウェブサイトでも手短にまとめていますが(※下記参照)、正直、どれもそれほど長い動画ではありませんので、もしも可能ならば直接、動画の方を視聴していただきたいと思います(ついでに「面白かった」と思った方は、動画の「いいね」ボタンのクリックと、チャンネル登録などもお願いします)。

半導体で「日本にとって韓国は要らない」

こうしたなか、その第4回目が11日夕方、公開されていました。

第4回『結局、韓国は西側から孤立する

今回も動画の時間自体は10分弱と短く、気軽に視聴できるのですが、内容自体は「この短い時間によくぞここまで詰め込めるな」と思えるほどに濃厚であり、論点も盛りだくさんです。

本稿では動画の全部を丸ごと文字起こしして転載する、といったことはしませんが、それでも数箇所、取り上げておきたい部分があります。

はずは尹錫悦(いん・しゃくえつ)韓国大統領の半導体産業に対する狙いについて解説したパートです。開口一番、鈴置氏は容赦なく、こう指摘します。

半導体において、日本と米国(にとっては)台湾は必要だが韓国はなくてもやっていける」。

鈴置氏によると、韓国は現在、世界のメモリの半分を生産していますが、これは極端な話、生産能力さえあれば、韓国以外の国に移転させることが可能です。

これに対し熊本に工場を建設中の台湾TSMCはロジック半導体の世界最大手であり、日本は(弱くなったとはいえ)半導体に関する素材や製造装置を供給していて、米国は基本特許を押さえているため、日米台3ヵ国が連合を組めば、そこに韓国が入らなくても完結してしまう、というわけです。

そして、こうした「危うい立場」を尹錫悦政権自身が理解しているからこそ、「尹錫悦政権は死に物狂いで日本に抱き着いてくる」、というのが鈴置氏の見立てです(これは言外に、「思いっきり抱き着かれている岸田文雄首相」に対する痛烈な批判なのでしょうか?)。

ちなみに鈴置氏の恐ろしいところは、さりげなく、本質的な発言を目立たないところに滑り込ませることにあります。

役人は実体経済を知らないから、それを信用して、日経新聞もそれをそのまま書いていましたが、『日韓は半導体で協力すべきだ』、と<中略>。(でも)日本にとって(韓国は)要らないですよね」。

さり気なく、「日本が国家戦略を誤ってきた原因が霞が関と日経新聞にある」、ということを匂わせていると考えるのは、決して気のせいではないでしょう。

米韓同盟崩壊を止めたのは日本だったが…?

さて、今回の動画ではほかにも、大変に重要な指摘が出てきます。

それが、「在韓米軍撤収の動き」について、です。

鈴置氏によると、リチャード・ニクソン政権時代(1969年1月20日~1974年8月9日)やジミー・カーター政権時代(1977年1月20日~1981年1月20日)に在韓米軍撤収の動きが生じ、それを止めたのが日本だったのだそうです。

そのうえで、韓国が米韓同盟を維持するためには、じつは日本との関係を良好に維持しなければならないはずだ、というのが鈴置氏の指摘ですが、この部分に関し、朴槿恵(ぼく・きんけい)、文在寅(ぶん・ざいいん)両政権時代の韓国の対日姿勢は、これと真逆だったことも思い出しておく必要があるでしょう。

いずれにせよ、米国が半導体に関する対中牽制を目的とした国際的連携を強化するなかで、米国陣営につくのか、それとも中国側に擦り寄るのか、韓国自身の態度は、どうにも明確ではありません。

そんな韓国との関係「改善」を大急ぎでやってのけた岸田文雄首相は、単なる「愚か者」で済まされる話ではなく、むしろ韓国との関係強化を通じ、日本という国全体の利益を損ねただけでなく、日本を韓国と一蓮托生の関係にしてしまった、という可能性については、もう少し深刻に受け止める必要がありそうです。

在韓米軍撤収ならば?

それはともかくとして、ここから先は、ちょっとした推理ゲームです。

かつての日本が在韓米軍撤収の動きを止めた、とする鈴置氏の指摘が正しかったとして、それが今後も当てはまるのかどうか、です。

歴史にIFはありませんが、もし安倍晋三総理大臣が暗殺されておらず、2024年9月の自民党総裁選で安倍総理の再々登板が実現し、米国でもドナルド・J・トランプ政権が再登板することになった場合は、果たしてどうなるでしょうか?

この場合、トランプ大統領は再び韓国から米軍を撤収させようとするかもしれませんし、安倍総理もそれを積極的に止めるかどうかは微妙でしょう。安倍総理の念頭にあった「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)には、韓国は含まれていないからです。

むしろ安倍総理(とその後継者である菅義偉総理大臣)は、韓国が日米陣営と中国との間でどっちつかずの態度を取っていることを見抜いていたフシがありますし、そのような国を「自由で開かれたインド太平洋」の仲間に加えることのリスクを理解していないわけはないでしょう。

(※ついでに申し上げれば、このことは、岸田文雄・現首相の外交・安全保障に関する判断能力が極端に低い、という意味でもあります。)

この点、安倍総理はすでにこの世の人ではありませんし、菅総理も年齢的に見て、岸田首相の「後釜」に再登板することは難しいのが実情でしょう。

また、自民党内には例の「エッフェル塔議員」を筆頭に、最近では人材難が顕在化しており(だからこそLGBT法のようなふざけた法律が通ってしまったのでしょう)、安倍総理の遺志を継ぐことができる政治家は限られています。

岩盤保守層の一部からは任期が高い高市早苗氏にしたって、2024年の総裁選立候補に漕ぎ着けたとしても、自民党の現在の派閥力学に照らすならば、安倍総理のバックアップなしに当選できるものかどうかについては微妙、といったところでしょう。

ただ、ここで非常に楽観的に、岸田政権が来年9月で終焉し、安倍総理の遺志を継いだ人物が次の総理に就任したとして、さらに尹錫悦・韓国大統領が2027年5月までに退任し、その後釜に左派――たとえば李在明(り・ざいめい)氏のような人物――が就任すれば、どうなるでしょうか。

今度こそ本当に、在韓米軍の撤収が実現するのでしょうか?

それともその前の段階で、台湾有事と半島有事が同時に発生するのでしょうか?

国際情勢、しばらく目が離せない展開が続きそうであり、政治力学と並んで「産業のコメ」である半導体の動向は、こうした情勢を読む上では欠かせない手がかりであることは間違いないといえるでしょう。

新宿会計士:

View Comments (26)

  • さて、サムスンが米企業に、SKが中国企業と化した後、韓国には何が残るのでしょうね?
    ・・・・・
    >在韓米軍の撤収を日本が止めた

    米国の認識は「韓国はリンチピンで、日本はコーナーガード」だったと思います。
    言い換えれば「韓国が外れても日本でせき止めるから大丈夫」とのことなのかと。

    よくよく考えると、韓国が外れても「脅威の数自体」は、変わらないんですよね。

    ミサイルの射程距離が伸びて、韓国に期待していた緩衝機能は低下しました。
    お役目御免?に伴って、姑息な干渉機能も低下して欲しいんですけどね・・。

  • マトモな経済人で日経の書くことを真に受けている手合いはいないと当方は思います。
    彼らのやっているのは経済という名のスノビズム(俗物根性)ジャーナリズムに他なりません。

  • 権力者といえども、個人の妄想で政治をしているわけでは無いと思います。刻々と変わる社会情勢に対応する為にも、沢山のブレーンや情報源を持っていると思います。自党の議員、官僚、財界、学会、ジャーナリスト、それに家族や友人。誰一人、韓国の狡さや不誠実さ、日本の国益に寄与しない事を指摘する人はいないのでしょうか?2年前の総裁選時、何冊ものノートを見せ、沢山のご意見を聞きました、私は聞く力はあります!と、今となってはそれって政治力?実績?というような事を盛んにアピールしていたのを思い出します。あのノート、中身はあったんでしょうか。
    岸田首相のニュースや写真を見るたび、イライラと不愉快になります。岸田首相絡みの記事を丁寧に解説する新宿会計士さんは、本体、忍耐力のある方だなと感心いたします。

    • >2年前の総裁選時、何冊ものノートを見せ、
      >あのノート、中身はあったんでしょうか。

      権力者たる国会議員に近づいてくる人達の声であふれかえっていたんじゃないかと想像しています。
      安倍氏在任中は、在野の志ある民間人から「実は安倍氏から電話をもらったので、こう話した」なんて話がポツポツ出てましたが、岸田政権では見たことがありません。

    • 総理だから日々いろいろ人がいろんなことを言ってくるわけですが、岸田の場合、話は聞くけどその良し悪しを見極める能力がないからおかしな意見ばかり聞いて中途半端な政策ばかりになる。信念がないから人の意見でブレておかしな方向に突き進んでいく。さらに鳩山並のお人好しだからすぐに騙されてしまうのです。

  • 「メモリー半導体の需要が伸びない」という記事を読んだ。
    メモリー半導体の半分はスマホ、パソコンに搭載されている。
    そのストレージの容量が余っていて、今後新機種が出ても容量は増えないのではないかというもの。
    その原因として動画視聴などはストリーミングが主流となり、いちいちダウンロードしてデータ保存する必要がなくなっているということらしい。
    データセンター向けはまだ伸びるとみているが、メモリー半導体は液晶パネルのようなコモディティ化の運命をたどるのではないだろうか。

    • インターネットの黎明期に 「いずれはアプリケーションも、その都度ウェブから呼び出すようになって、パソコンにインストールする必要はなくなる」 と予想していた人達がいたけど、最近は本当にそんな感じなってきた。今は画像の編集もウェブ上でできるし。

    • パソコンはもう有り余っているというのはその通りですが、スマホはもう少し欲しいですねえ。
      64GBの機種が半分くらいですが、OSやらプリインストに食われて20GB位しか使えませんし。
      SDカード無くすなら全機種ストレージ256GB位までは欲しいです。ROMメモリは今で十分なので。

  • 日韓半導体協力などいらないのですよ。日経が韓国大使館のロビーイングにやられているのか韓国擁護の記事ばかり書くからみな勘違いする。
    そもそも韓国は日本からシェアを奪った国ですし、中国と米国の間でどっちつかずなのだからむしろ日本もこの機に米国と一緒に韓国の半導体を潰しにかかった方がいい。残念ながら岸田は韓国に籠絡されて韓国からシェアを奪い返すという心意気がない。

  • ITに従事してきたものの印象として、日米政府は韓国を信用していないのは明確。
    対中国政策として半導体規制と供給確保策として半導体工場の日本や米国への展開を進めているが、ロジックICはTSMC一辺倒。NANDフラッシュメモリーはキオクシアやウエスタンデジタルがあり保険はかかっている。また韓国の第二ベンダーのSKハイニックスのNANDフラッシュ事業は中国への過度な投資で苦境に陥っている。DRAMはマイクロン広島増設などをすすめ日本としては保険がかかっているが、まだ韓国のサムソンやハイニックスが強く世界レベルでは韓国リスクが残っている。
    DRAM分野でマイクロン強化ができれば韓国リスクは消える。ただDRAM市況が厳しく投資するような環境ではないところが残念。

  • アメリカ合衆国政府がイラン政府と取り引きを行い、イランが拘禁しているアメリカ人5名を解放する代わりに、合衆国は収監したイラン人の解放と凍結資金の解除を行う―と言うニュースが出てます。韓国にあるお金でアメリカ人を救出する。米国は痛みの伴わない措置。ウォン安も進んでますしどうなりますか?

  • 鈴置さんシリーズ、今回で完結なんですね。
    デイリー新潮も終わった(?)様ですし次はどこで連載があるのでしょう?

    有料コンテンツで良いので新宿会計士さんと対談企画してください!
    結構値段高くしても見たい人多いはず

  • 在韓米軍の撤退を日本が止めさせたのは何故か?
    南国に米軍が居なくなれば、その無くなった量の軍事力を
    どこかが補填しなければなくなります。
    それが、北国か中か露はたまた南国であるか?
    日本がそれを補填するのが、米国軍事的には理想であるが
    日本国内の反対勢力が、日本の軍事力の増加に反対し続けており
    日本が補填できなくなった。
    だから、日本は米軍が南国から撤退する事に
    反対せざるをえなかった。
    現在の状況をみても、過去の状況と同様な状況にある事は
    とても不幸な非常に不幸な事です。
    第二次朝鮮戦争が勃発した時、南国軍ははたして北国軍と
    ウクライナ軍のように戦えるのだろうか?
    南国人の意識調査では、北国軍が南国に攻め込んだら
    日本軍と戦うとしています。

    • ポーランドを攻める『ウクライナ軍』ってか~…、南軍は・・・。

    • 在韓米軍の撤退は「アメリカは韓国を守らない」と表明することと同じ。
      朝鮮戦争の原因と言われている「アチソンライン」と同じ効果になるだろう。
      朝鮮戦争時ではアメリカは「面子をつぶされて」参戦したが、完全撤退後なら参戦しなかったかもしれない。

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