日露貿易3割縮小も…そもそも重要でない対ロシア貿易

帝国データバンク(TDB)によると、2023年3月末において、ロシアと直接・間接に取引を行っている日本企業の数は、2022年3月末と比べて3割近く減少したそうです。ただ、中古自動車の輸出や水産物の輸入など、制裁対象外の品目ではむしろ取引が増えている分野もあるとのことですが、それと同時にそもそも日本の貿易高において、ロシアとの貿易が占める割合は1%にも満たないことを忘れてはなりません。

ロシア向けの中古乗用車輸出の急増

先日の『対ロシア中古自動車輸出制限で期待される転用防止効果』などでは、財務省の貿易統計のデータをもとに、日露貿易の現状を「数字で」確認してみました。問題の図表を再掲しておきますが(図表1)、「中古乗用車」の対露輸出が明らかに急増しているのです。

図表1 日露貿易額の推移(輸出)

(【出所】財務省税関『普通貿易統計(概況品別国別表)』より著者作成)

実数でいえば、2022年6月には190億円(前年同月比2.19倍)、7月には231億円(同2.79倍)、そして8月には303億円(同3.34倍)と急増し、最盛期の11月には前年同月比3.69倍の384億円に達していることが確認できます。

西側諸国がロシアによるウクライナ侵攻を失敗に終わらせようと努力しているなかで、日本からの中古車の輸出が急増すれば、結果的にロシアを助けることにつながりかねません。物資不足のロシアにとって、中古車の部品のなかにも、軍事転用可能な品目が多く含まれているかもしれないからです。

その意味では、日本政府が遅まきながらもロシアに対する中古車輸出に規制の網をかけたことは、適切な行動だと考えて良いでしょう。

TDBのレポート「ロシア取引は1年で3割減少」したが…

ところで、日露貿易に関連し、帝国データバンク(TDB)が先週、『日本企業の「ロシア貿易」状況調査(2023年)』と題するレポートを公表。これに関連し、J-CASTニュースに7日付でこんな解説記事が掲載されています。

日本企業のロシア取引、1年で3割減少 水産物や中古車など、一部では取引活発化も…

―――2023年08月07日08時15分付 J-CASTニュースより

これらによると、2023年3月末時点における日本企業のロシアとの取引は、2022年3月末と比べ、1年間で3割減少したものの、ロシアからの水産物の輸入やロシアに対する中古車輸出など、一部品目では取引が活発化している、などとしています。

在ロシアの企業と直接取引(貿易)を行う日本企業は、2023年3月現在で国内に295社あることがわかった。また、こうした直接輸入・輸出企業と取引関係にある企業は全国に1万633社あることが判明し、ロシアと直接・間接的に取引のある企業は全国で最大1万928社にのぼるという」。

このTDBによる統計では、対ロシアの取引企業数は2022年3月末時点で1万5287社だったため、「ロシアと直接・間接的に取引でつながりのある企業は1年間で4359社、28.5%減少した」という計算です。これが記事タイトルにある「3割」の意味でしょう。

ただし、取扱品目では「対ロ輸出が大きく増えた中古自動車」や「生産設備など機械・設備」が多く、また、対露禁輸制裁の対象外となる食品などでは「ロシア向け需要の高まりから取扱高が伸長したケースもみられた」のに加え、輸入関連取引はむしろ149社(3.2%)増加。

「取扱品目では、ウニやイクラ、カニをはじめとした水産物など食品に加え、建築資材向けの木材などが多くを占めた」などとしています。

日露貿易は日本にとって重要ではない

もっとも、くどいようですが、そもそも論として日露貿易高は、2023年1月~6月の半期において8067億円(うち輸出が2399億円、輸入が5668億円)で、日本全体の貿易高(101兆5332億円)に占める割合は、なんと0.79%(!)に過ぎません。

つまり、対露貿易自体がもともと日本にとって無視し得るほど小さいうえに、今後、さらにその割合は小さくなります。対露輸出額の6割弱を占めていた中古乗用車の対露輸出が今後、大きく落ち込むと予想されるからです。

また、輸入面に関しても、対露輸入品目の多くは「鉱物性燃料」(石油、石炭、LNGなど)であり、これに対して「食料品及び動物」(その圧倒的多数は「魚介類及び同調製品」)のカテゴリーに関しては毎月100億円を少し上回る程度に過ぎず、「全体」に対するインパクトは僅少です(図表2)。

図表2 日露貿易額の推移(輸入)

(【出所】財務省税関『普通貿易統計(概況品別国別表)』より著者作成)

もちろん、日本がロシアとの貿易を継続すれば、少額であってもロシアに外貨収入がもたらされるのは事実であり、ウクライナ侵略戦争の試みを失敗に終わらせるためには、まずはロシアに対し外貨獲得源を徹底的に封じることが有効であることは間違いありません。

ただ、想像するに、日本の当局としても現在、日露貿易高を慎重にチェックしながら、金額インパクトが大きい者については締め上げつつ、状況を見ながら適宜コントロールする、という方針なのかもしれません。逆にすべての品目に関する貿易を制限すれば、日本経済にもそれなりの影響が生じかねないからです。

もっとも、見方によっては、日露貿易がここまで減少しているのですから、もしもロシアが今後もウクライナから撤退しない場合には、いっそのこと、日本にとってのロシアを北朝鮮と同様、ほぼ貿易高ゼロの相手国にしてしまっても構わないのかもしれません。

もちろん、鉱物性燃料の輸入をいきなりゼロにするのは難しいかもしれませんが、原発の再稼働・新増設を進めつつ、対露依存度を下げることは重要でしょう。

いずれにせよ、ロシアという無法国家との付き合い方については、全面的に見直すべきであるだけでなく、現在の日本にとってはロシアとの取引をほぼゼロにしたところで実害はないというのが現状に近いのではないでしょうか。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. さより より:

    このサイトの記事を読むようになってから気がついたのだが、ロシアは経済的な関係が殆ど無い相手なのに、何故こんなに名前が覚えられているのかと。
    領土問題だけで、政治関係を持たなきゃならない相手なんだな、と気がつきました。

  2. sqsq より:

    最近のプライムニュース、報道1930、毎回のようにウクライナ戦争関連。
    出てくる人の顔ぶれはほぼ同じで戦況の解説。
    みんな観なくなるんじゃないかな。

    1. さより より:

      仕方がないです。戦況が膠着状態なんですから。コメンテイターに呼ばれた人も困ってるんじゃないですかね。

  3. カズ より:

    JTの年間売上がざっと2兆3000億円ほどあって、その約一割がロシアでの数字みたいですね。
    西側諸国の同業他社と足並みを揃えたりはしないのだろうか? ねぇ、筆頭株主(財務相)さん。

    1. sqsq より:

      ロシアに工場持ってるみたいですよ。
      いつ接収されるかヒヤヒヤ。
      あそこは配当がよくて株主なんで。

  4. 通りすがり より:

    岸田のお膝元の広島ガスはロシアからの輸入が切れたら死活問題。

  5. ねこ大好き より:

    よく言われる事が、韓国人は潜在的に中国が怖くて、何をされても中国を批判できない、逆らえない「恐中症」である、というのがあります。
    日本も恐露症にかかっていて、実態以上にロシアを恐れている気がします。ロシアと交流して仲良くすれば北方領土が帰ってくるとか、北の海で漁船が拿捕されても文句も言わず身代金を払ったりとか、第二次対戦後の日本兵のシベリア抑留に無言であったりとか、卑屈な対応しか取っていない。これはロシア(ソ連)を怖がっているからだと思う。
    ロシアは中国と同様、中進国どころか本来であれば途上国で終わる民度の低い国です。ついでに言えば軍隊もかなり劣化しているようです。それをG7国が支援したり投資したりして肥え太らせてしまった。そしてその結果、日本や世界を苦しめている。
    ロシア(中国も)とは最低限の付き合いとし、ひたすら国境線を軍事的に固め、国際世論を誘導し、弱体化させる事が日本のすべき事かと思います。

    1. さより より:

      この貿易関係を見ると、完全に日本の戦後の対露政策は間違っていましたね。鈴木宗男なんかがちょろちょろ動いて足元見られていました。

    2. あかべこ より:

      河野親父なんかも小遣い稼ぎにソ連相手に情報売ったりしてたそうで。
      サカナとヤクザって本によると

  6. はるちゃん より:

    プーチン政権は迷路に入り込んでしまいましたね。
    今から思えば、安倍さんが熱心にプーチン大統領を説得していたころが華でしたね。
    安倍さんからの提案を受け入れていれば、今のロシアの国際的地位は随分と違ったものになっていたのではないかと思います。
    何故ロシア帝国の復活などという妄想に取り憑かれたのでしょうか?
    アメリカに対する不信感が大きかったからでしょうか?
    プーチン大統領が入り込んだ迷路は出口のない迷路に思えます。

  7. 伊江太 より:

    旧ソ連時代、COCOM規制下でも細々と続いていた日ソ間貿易で、商社関係者なんかがあちらの役人、関係者に会いに行くとき、お土産として大歓迎されたのが、奥さんか愛人かへのプレゼント用のパンティストッキング、なんて話があったようです。

    ソ連崩壊後、西側との経済交流で、パンストくらいは今では自国生産が可能になっているかも知れませんが、何にせよ、ロシア人には細かい物づくりというものは性に合っていないんだと思います。一時世界をリードしたロケット開発にしたところで、敗戦国ドイツの科学者、技術者を連行してきて、やらせただけのはなしでしょうからね。

    ロシアでは石油、天然ガス、希少金属などの鉱物資源や、小麦、木材,海産物などの農林水産資源といった、日本が欲する物資が豊富に産出されます。資源国のロシアと物づくりに長ける日本。日本海航路を使えば、すぐの隣国。互恵的関係を築けるとしたら、本質的な条件からすれば、中国よりむしろロシアとなるでしょう。

    安倍元首相はその辺のところを説得すれば、ロシアとの良好な関係に発展させることができると踏んでいたのかも知れませんが、これはプーチンという人間を大いに買い被っていたんでしょうね。冷徹な戦略家と持ち上げられていた彼の頭を占めていたのは、本当の意味での国益の合理的な計算などほんのわずか。旧ソ連の栄光を取り戻し、自らがその盟主になるという妄想だったんでしょう。

    対ウクライナ戦争が惨めな失敗に終わり、仮にプーチン失脚となったとき、ロシア人は、再び世界の覇権国に返り咲くなんぞの、身の丈に合わぬ願望はキッパリ切り捨て、本当の国益、国民の生活レベルの向上を追求するという、理性的な道に進むことができるでしょうか。もし、万が一、そうしたことが起きたなら、

    >日本全体の貿易高(101兆5332億円)に占める割合は、なんと0.79%(!)に過ぎません。

    なんて、「山手線の駅名を冠した、怪しげな会計士」さんに喝破されるような状況は、早晩解消されるかも知れませんね。

    1. さより より:

      >>世界をリードしたロケット開発にしたところで、敗戦国ドイツの科学者、技術者を連行してきて、やらせただけのはなしでしょうから

      これについては、第2次大戦後、ヨーロッパから、夫々、米国とソ連へ渡ったユダヤ人たち同士で競争した、つまり、ユダヤ人科学者同士の競争だったと言われる事もあるようですね。ユダヤ人は、欧米の各地に散らばっていますから。世界で、頭の良い民族は決まっているようですよ。勿論、このことに関するエビデンスが有るのか無いのかは知りませんが。しかし、ロシア人が、その中に入るのかどうなのか?

      >>本当の国益、国民の生活レベルの向上を追求するという、理性的な道に進むことができるでしょうか

      ロシア人からは、勤勉と理性的と誠実と言うイメージは、湧かないですね。

      1. 伊江太 より:

        さより様

        >ロシア人からは、勤勉と理性的と誠実と言うイメージは、湧かないですね。

        だからこそ、良いんだと言えるかも。

        少なくともロシア人は、K国人やC国人みたいに、パクりをやろうが何しようが、物づくりで日本を出し抜いてやろうなんて、考えも根気もないでしょうから(笑)。

        ロシア通の人が言ってたことで、個人として一般のロシア人と接する分には、開けっぴろげでお人好し、気持ちよく付き合えるんだが、彼らは集団となった途端、悪逆非道を平気でやらかす。その落差は理解不能、とのこと。本当に当たってるのかどうかは、知りませんけどね。

        まあ、あくまでビジネスライクに、互いのウィンーウィンの関係をマネージメントできる間は、ってことで。

        1. さより より:

          伊江太様

          >>彼らは集団となった途端、悪逆非道を平気でやらかす。その落差は理解不能、とのこと。本当に当たってるのかどうかは、知りませんけどね。

          ロシア通の方から、この言葉が出てきたのなら、真実味が増してきました。
          と言うのは、日本が、第二次大戦の終戦(敗戦)を受け入れ、満州から人々が引き上げる時に、突如参戦して満州に乱入して来たソ連兵達の所業に、この「悪逆非道を平気で」という表現が良く使われているからです。
          本の中だけでの形容表現として捉えておりましたが、現実にしかも現代においてその国の人々と接している方から、同じ表現が出て来ることをお聞きし、真実味がある表現なのかなと思った次第です。

          尚、個人では大人しくてお人好しなのに、集団になると豹変する人間は、小心者なのだそうです。
          倉前盛通という政治学者が書いた「悪の論理」という本に、ロシア人は小心者だと書いてありました。そして、こういう小心者には、居丈高に上から押さえる形で接した方が、こちらの言うことを訊き入れるらしいです。日本は戦後、その逆の接し方をして来たのですから、何も解決するはずがありませんね。
          尚、「悪の論理」は、多分、日本に地政学というものを初めて?知らしめた本のようです。出版当時大ベストセラーになりましたが、今は、残念ながら絶版です。文庫本も絶版です。
          この本は、半島の宿命について主に書かれております。勿論、朝鮮半島についても詳しく書かれております。
          大変に面白い本でした。公的な図書館には、蔵書があるかもしれません。

  8. まんさく より:

    今年はカニが安く食べられるのかな?
    だったら嬉しい。

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