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増えても5議席?それでも国民民主「現実路線」は重要

当ウェブサイトでは今朝、『現代ビジネス』の記事をやや懐疑姿勢で引用しましたが、その後、ツイッター上の指摘などを受けて再計算したところ、数字がそもそも合っていないという事実が判明し、個人的には呆れ返っています。その一方で興味深いのが国民民主党の「現実路線」でしょう。前回の選挙情勢分析などに基づけば、国民民主党が大躍進するという可能性はまだ高くありませんが、その一方で同党の玉木雄一郎氏はマイナンバーカードのトラブルを巡り、「むしろ保険証をスマホに入れてほしいくらいだ」などと発言したのです。こうした提案力の有無は、国民民主党と立憲民主党の最大の違いなのかもしれません。

前言撤回

懐疑的な現代ビジネスの議席予想

今朝の『数字で読む「衆院選・自民過半数割れはあり得るのか」』では、当ウェブサイトでこれまで示してきた「数字に基づく国政選挙の情勢分析」をベースにしつつ、ウェブ評論サイト『現代ビジネス』が報じた、「衝撃的な議席予想」を、やや懐疑的な立場から紹介しました。

果たして、自民党は次回衆院選で大敗を喫するのか――。その精緻な予測を出すことは現時点では困難ではありますが、前回の選挙結果やいくつかの報道で見る限り、その可能性はあまり高くなさそうです。ただ、なぜそんなことを述べるのかといえば、ウェブ評論サイト『現代ビジネス』が14日夜、今選挙をすれば自民党が過半数割れを発生させる、といった趣旨の記事を配信しているからです。これについて、これまでの当ウェブサイトにおける「数字を使ったシミュレーション」も交えつつ、検討してみましょう。解散総選挙の可能性初めに:おこ...
数字で読む「衆院選・自民過半数割れはあり得るのか」 - 新宿会計士の政治経済評論

その内容を再掲しておくと、こんな具合です。

現代ビジネスが報じた「議席予想」
  • 自民…220議席(▲42)
  • 公明…*23議席(▲*9)
  • 立民…114議席(+17)
  • 維新…*75議席(+34)
  • 共産…*13議席(+*3)
  • 国民…**9議席(▲*1)
  • れ新…**6議席(+*3)
  • 参政…**1議席(+*1)
  • その他…9議席

(【出所】2023年6月14日付・現代ビジネス配信の『Yahoo!ニュース』記事

これについてはくどいようですが、もし本当にこの情報源が自民党なのだとすれば、「わざと自民党にとって厳しめの数字を出してみて、現場を引き締める」という、いつものパターンに見えてしまいますし、議席予想としても少し不自然なものでもあります。

したがって、当ウェブサイトとしてはこの数値について、「絶対にあり得ない話ではない」ものの、「あまり真に受けない方が良い」というスタンスで接するのが正解ではないか、などと考えていた次第です。

そもそも合計が間違っていませんか?

ただ、こうしたスタンスについては謹んで撤回し、次の通り、修正したいと思います。

せめて合計値くらい、あわせようよ」(笑)。

そう、じつはこの数値について、ウェブ評論サイト『SAKISIRU』編集長の新田哲史氏がツイッターで、「定数を超えている」と指摘しているのです。

たしかに!

『現代ビジネス』に掲載された議席を合計すると470議席となり、定数(465議席)を5議席も超過してしまいます。このあたりは「山手線の駅名を冠した自称会計士」としても、反省点しきりです。引用するならば、せめてちゃんと「タテ計」が合っているかをチェックすべきだったからです。

当ウェブサイトとしては最初からこの数値に懐疑的でしたが、それでも「本当に自民党から出てきた数値」という可能性を捨てきれず、やむを得ず今朝のようなスタンスを取っていたのですが、正直、「タテの合計」をチェックすればインチキということがすぐにわかったのに、と、少しだけ後悔している次第です。

自民大敗シナリオの実現可能性

ポイントは小選挙区:「今すぐ選挙」なら自民大敗の可能性は低い

それはともかくとして、衆議院議員総選挙でカギとなるのが小選挙区である、という点の重要性については、いくら強調してもし過ぎではありません。

例の「LGBT法案」や増税をうかがわせる発言、さらには日韓通貨スワップを含めた対韓外交など、現在の自民党ないし岸田首相が推進する政策・法案のなかには、岩盤保守層を激怒させ、失望させ、落胆させかねないものが多く含まれています。

ツイッター上でも連日のように、それまで保守的なスタンスを示していたアカウントが、「岸田(首相が率いる自民党)には絶対に投票しない」、などと表明する人を見かけますが、これは故・安倍晋三総理大臣の時代だとほとんど見かけませんでした。

こうした主観的印象に基づけば、自民党はさぞや大敗を喫するに違いない、などと思ってしまいますが、やはりこうした主観を排除すれば、「もし今すぐ選挙をやれば」という前提条件が付くにせよ、自民党は現状の勢力から大きく減らない、いや、下手をすると維新タナボタ効果で少し増える可能性すらある、という予想が出てきてしまうのです。

もちろん、これは最新の選挙情勢分析などを反映していないものですが、ただ、各種世論調査を眺めている限りにおいては、自民党が直ちに惨敗するというのは考え辛いところです。

それに、そもそも論として、自民党に対抗し得る立憲民主党が弱すぎる、という問題があります。

各種世論調査から判断するに、逆風が吹いている立憲民主党は、比例代表で多少議席を減らすでしょうし、その分の議席が日本維新の会に流れる可能性は非常に高いのですが、その比例代表の議席は465議席中、176議席と4割弱に過ぎません。全体の6割強にあたる289議席は、小選挙区で決まります。

そして、小選挙区では結局のところ、現職、あるいはすでに地盤を持っている候補者にとって有利に働くため、新参の候補者が現職らの地盤という壁を突き破って当選を果たすのは、容易ではありません。

ボーダーライン候補者数

日本の小選挙区の場合、(その選挙区にもよりますが)平均してだいたい10万票前後を取れれば当選できるため、たとえば「前回、自民党候補は11万票で当選し、立憲民主党候補は6万票で落選した」という選挙区の場合だと、自民党から立憲民主党に1~2万票動いたくらいでは選挙結果は変わりません。

選挙結果が変わるとしたら、「前回、自民党候補は11万票で当選し、立憲民主党候補は10万票で落選した」、というような具合に、両党の候補者が激しく競り合っていたようなケースでしょう。

昨日の『選挙でカギを握る自民・立民「99人のボーダー議員」』でも紹介したとおり、仮に得票差2万票以内の選挙区を「ボーダー選挙区」と定義するならば、そのような議員は自民党が58人と最も多く、続いて立憲民主党が41人、その他政党が16人です(図表)。

図表 小選挙区当選者の2位との得票差(2021年データ)
区分 自民 立憲 その他
1千票未満 4 4 0
1千票以上5千票未満 13 10 維新1
5千票以上1万票未満 17 12 国民1
共産1
無所属1
1万票以上2万票未満 24 15 公明2
維新3
社民1
無所属6
2万票未満・小計 58 41 16
2万票以上 129 16 29
合計 187 57 45

したがって、自民党候補者から全国で一斉に数千~1万数千票が他党候補者に流れれば、当落線上の自民党議員が数十人単位で落選する、という可能性は出てきます。

しかし、現実に「ボーダーライン上」にいる候補者は、立憲民主党にも41人いるわけであり、現実的に考えて、「自民党から票が流れる」可能性だけでなく、「立憲民主党から票が流れる」可能性も同様に高いでしょう。

なにより、自民、立民両党から票が流れようにも、流れる先がない、というケースもあり得ます。

だからこそ、今朝も取り上げたとおり、日本維新の会の馬場伸幸代表は、日本維新の会として候補者を擁立できているのが全289選挙区のうち120~130程度であることを明らかにしており、残り159~169選挙区では、有権者にとっては「自民、立民以外」という選択肢が限られている可能性があるのです。

しかも、日本維新の会が小選挙区で新人を擁立したとしても、その新人が自民、または立憲民主党の現職候補者の地盤にどこまで食い込めるかという問題もあります。

こうした点を踏まえれば、やはり自民党が惨敗するシナリオというは、現時点では非現実的です。

どうにも全幅の信頼を置けない維新

ただし、もしも岸田首相が解散総選挙という選択をせず、日本維新の会にもう少し選挙準備する時間が与えられるならば、こうしたシナリオも変化します。

日本維新の会が各地でもう少し多くの候補者を立てたうえで、自民、立憲民主両党の候補者から大量の票を奪う、という候補者が各地で出現すれば、自民党、立憲民主党が大敗を喫し、日本維新の会が大躍進することも、現実のものとなり得ます(『衆院選「維新勝ちすぎシナリオ」をより精緻に検証する』等参照)。

当ウェブサイトでは今朝、「かなり可能性は低いが、仮に衆院選で維新が勝ちすぎるならば、岸田文雄内閣自体が崩壊してしまう可能性はあり得る」、と述べました。ただ、これについては最大野党である立憲民主党の動向とも密接にかかわってきます。そこで、本稿では今朝の議論の続きとして、自民党だけでなく、立憲民主党と含めて日本維新の会に票が移った場合のシミュレーションについても加えておきたいと思います。今朝の『衆院選で「維新勝ち過ぎ」なら岸田内閣崩壊もあり得る』では、こんなシミュレーション結果をお示ししました。...
衆院選「維新勝ちすぎシナリオ」をより精緻に検証する - 新宿会計士の政治経済評論

もっとも、著者自身は正直、日本維新の会は立憲民主党ほどひどい政党ではないにせよ、自民党と比べてより良い政治を実現し得る政党なのかどうかについては、懐疑的ではあります。その理由はいくつかありますが、もっとも大きな点は、所属議員の「質」です。

たとえばロシアが大好きな某議員のように見識を疑うような人物もいれば、財政破綻論・ハイパー円安論が大好きな某議員のように、財政学、会計学、経済学、あるいは三角関数など、基礎的な知識自体が疑わしい人物も所属しています。

このように考えていくと、やはり「まともなことを主張する政党」というのは、あまり多くないようです。

注目に値する国民民主党

玉木雄一郎氏の興味深い発言

ただ、こうしたなかで目に付いたのが、こんな記事です。

マイナカードトラブルは衆院選の争点になるのか 国民・玉木代表が疑問視「どの切り口でやるのか」

―――2023年06月13日15時07分付 J-CASTニュースより

J-CASTニュースによると、国民民主党の玉木雄一郎代表は13日の定例会見で、マイナンバーカードを巡る一連のトラブルを「次期衆院選の争点にすべき」との声に否定的な見方を示しただけでなく、むしろ保険証を「スマホに入れてもらいたい」、などと述べたそうです。

これが、立憲民主党と国民民主党の大きな違いではないでしょうか。

記事によれば、玉木氏はマイナンバーカードを巡るトラブルそのものについては「『直してください』というだけ」(で済む)としつつ、マイナンバーそのものや、その推進をやめるということは「ちょっと違うと思う」と述べたうえで、紙の保険証を維持すべきだという主張には、「むしろスマホに入れてもらいたいな、というぐらい」と述べたそうです。

これは、立憲民主党の態度とは大きく異なります。

記事によれば、立憲民主党の安住淳・国対委員長は12日、「来年強制的に保険証を廃止するなんてとんでもない」、紙の保険証が「日本の社会で一番信用のある紙」だ、などとしつつ、「国民に信を問いたいぐらい」などと発言していたそうです。

失礼ですが、安住氏はマイナンバーカードを巡るトラブルという個別の問題と、「紙の保険証を廃止する」という動きをごちゃまぜにして、問題を複雑化しているように見えてなりませんし、「あれもだめ」、「これもだめ」では、社会というものは進んでいきません。

国民民主党に全幅の信頼を置くべきかどうかはともかくとして、少なくとも玉木氏がここ数年、正論を発することが増えていることは間違いありません。

国民民主、伸びても4議席が限界か

残念ながら、国民民主党はまだ国会では少数勢力であり、また、次回衆院選でも爆発的に議席を増やすことは難しいでしょう。しかし、良い政策を提案する能力があり、現在の少数政党のままでも踏ん張って政策提言を続ければ、今後、同党が少しずつ議席を伸ばしていくことはできます。

国民民主党自体、新しい政党であるため、過去からの趨勢を分析することは難しいのですが、それでも2021年の衆院選では小選挙区で125万票・6議席を、比例代表で259万票・5議席を確保しており、22年の参院選では選挙区で326万票・3議席を、比例代表で348万票・3議席を確保しています。

国民民主党・選挙区の得票と議席数
  • 2021年衆院選:1,246,812票→6議席
  • 2022年参院選:2,038,655票→2議席
国民民主党・比例代表の得票と議席数
  • 2021年衆院選:2,593,396票→5議席
  • 2022年参院選:3,159,626票→3議席

しくみの違いもあり、衆参両院選を単純比較することはできませんが、比例代表で考えるならば、選挙を経るたびに得票が50~60万票程度は増えている計算です。

このペースで伸びれば、仮に今回、6月に総選挙があった場合、国民民主党は比例代表で350~360万票、うまくすれば400万票弱を獲得し、日本共産党(417万票・9議席)に続く7~8議席程度を確保することも視野に入ります。

ただし、小選挙区での躍進は、まだ難しいでしょう。

候補者が前回とまったく同じ21人だったとすれば、前回落選した選挙区のうち当選者と逆転できる可能性があるのは滋賀1区(自民党97,482票vs国民民主党84,106票)くらいなものであり、それ以外の選挙区では依然として2万票を大きく超える票差をつけられているからです。

さすがに国民民主党候補者が出馬しているすべての小選挙区で数万票差の差を覆せると考えるには、少し無理があります。

このように考えていけば、「今すぐ衆院解散総選挙」となった場合、国民民主党の議席は最大限伸びたとしても、選挙区で6議席から7議席程度に、比例代表で5議席から9議席程度にとどまり、合計しても現在の11議席を16議席程度に上積みするにとどまる、といったところが現実的です。

国民民主は現実路線で実績を積め

しかし、国民民主党の将来にとっては、この程度の伸び方でも、決して悪くはありません。

衆参両院で提案などの実績を積み、2022年に5議席だった獲得議席数を、2025年の参院選では7~8議席程度に増やし、その次の衆院選で勢力を15~16議席から(法案提出権を有する)20議席超に一気に増やす、といった具合に少しずつ勢力を増やしていけば、ある時点で爆発的に成長する瞬間がやって来るかもしれません。

あるいは将来、自民党が大敗したとき、立憲民主党が最大野党の地位から転落したとき、自公連立が解消されたときなどに、一気に政界の主役に躍り出る可能性もあるでしょう。

くれぐれも、立憲民主党の轍を踏むべきではありません。

というのも、立憲民主党は2021年11月末に発足した泉健太体制下で「提案型政党」への脱皮を図ったものの、2022年の7月の参院選で思うように議席が伸びなかったため、再び「批判型・追及型・揚げ足取り型」の政党に戻ってしまったからです。

国民民主党がたった半年あまりで挫折した立憲民主党の事例をひとつの教訓とできるかどうかは、今後の同党次第でしょう。

新宿会計士:

View Comments (7)

  • SIM の書き込み可能領域へ電子証明書情報を格納するようにする動きは広まっています。
    さる三月にスマホを最新型に替えたのですが、指紋読み取りがとても自然で驚いています。間違ってひとに手渡っても大丈夫そう。

  • 前回の選挙で、すでに玉木さんまともなことを言って評判良かったわりにはさほど伸びなかったと思っていましたが、その理由を教えていただけてありがとうございました。
    で、現在の個人的私見ですが、小選挙区では高くてまずい食堂を選び(2F派、キッシー派がいないので)、比例には生まれて初めて国民〇〇党に入れようかと思っています。

  •  玉木代表の評価は過去の民主党時代にどうしてもひっぱられますが(今思ってもそれはもう情けなかった。あそこに居ると呪いにかかるのか。あと獣医師会。)、さておいて国民民主党が、提案や駆引きによって躍進できるし国益にもなるという「成功例」になってくれればとも思います。政権を取るに至るかはまた別で。
     民主党は当然「失敗例」で、これは破壊力が伝説級だったので一度でもう十分。本当に勘弁してほしい。マスコミからすれば(瞬間風速のみ)大成功例なのでしょうが。

  • ただ、またロンダリング議員を入れないか心配なんですよねあそこも。マズかったり食中毒だったりロクな食堂がない

  • >玉木氏がここ数年、正論を発することが増えていることは間違いありません。

    前回の衆院選でのスローガン「給料を上げる(積極財政に転換)、国を守る」は、その通り!と思ったが議席は微増に留まった。吉村知事のテレビパフォーマンスで党勢拡大した(と思っている)日本維新の会のような派手さはないが、独自のポリシーで地道に政策提案する姿は「山椒は小粒でもぴりりと辛い」がぴったり合う。頑張れ国民民主党、玉木代表!

    https://mainichi.jp/premier/politics/articles/20220629/pol/00m/010/010000c

  • 選挙になりそうになると 「自民党の情勢調査によると…」 という報道が出てくるけど、そもそもどんな調査なんだ? マスコミがそれを報じるのは、マスコミの世論調査よりも正確だということなのか?

  • 玉木さんも良いのですが、小党乱立では自民党の対抗馬にはなり得ません。
    また、国民民主党は連合の支持がありますので自民党より左ではないかと思います。
    私が期待しているのは、宏池会のような自民党リベラルよりも右の政党です。
    確か国民民主党を支持している連合の旧同盟系は大阪が強いように記憶しています。
    旧同盟系と話し合って、玉木さんが維新と合流出来れば良いのですが。

    議員の質に関しては、維新はまだベンチャー企業ですので、立派な候補者の確保はまだ難しいと思います。ベンチャー企業は、とりあえず寄せ集めの部隊で戦うしかないのです。
    幕末長州藩の奇兵隊のようなもので、武士の価値観で凝り固まった軍隊ではなく、身分に関係なく志を持った人による軍隊を組織する必要があります。
    改革には、議員の既成概念に囚われない初心者のほうが向いているという事です。
    馬場さんには高杉晋作の役割をしっかりと果たして頂きたいと期待しています。