いったいぜんたい、岸田派(宏池会)は選挙に強いのか、弱いのか。昨日の記事では宏池会の衆議院議員の4分の1が「ゾンビ」だという話を取り上げましたが、それと同時に違う角度で検討してみると、現時点で小選挙区で当選している議員に限定すれば、宏池会は意外と選挙に強い派閥であるという事実も浮かび上がってきました。これについて、どう考えていくべきでしょうか。
比例ゾンビ人数一覧表
昨日の『衆議院議員:宏池会の4人に1人は比例ゾンビ=自民党』では、こんな一覧表を紹介しました。
図表 自民党の派閥別衆議院議員数と当選形態
派閥 | 議席 | 小 | ゾ | ブ |
安倍派 | 60 | 40 | 15 | 5 |
麻生派 | 39 | 31 | 6 | 2 |
岸田派 | 32 | 21 | 8 | 3 |
二階派 | 32 | 24 | 6 | 2 |
茂木派 | 30 | 23 | 5 | 2 |
森山派 | 7 | 7 | 0 | 0 |
上記以外 | 62 | 44 | 16 | 2 |
合計 | 262 | 190 | 56 | 16 |
(【出所】著者調べ)
これは、現時点で自民党に所属している262人の衆議院議員について、当選形態別に展開したものです。
安倍派と岸田派は4分の1が比例ゾンビ
この図表、「小」とは「ちゃんと小選挙区で勝ち上がった議員」の数を意味していますが、それに続く「ゾ」は「比例ゾンビ」、すなわち小選挙区で落選して比例復活した人たちです。また、「ブ」は最初から小選挙区に立候補せず、比例で当選した議員を意味します。
先日の補選で当選した吉田真次、岸信千世、英利アルフィヤの各氏は補選とはいえ小選挙区で当選していますので、「小」の区分に含まれています。
また、「比例ゾンビ」、すなわち小選挙区で落選し、比例で復活当選した議員の割合が高いのは安倍派と岸田派で、どちらもちょうど25%、すなわち所属議員のうち4人に1人が「比例ゾンビ」というわけです。派閥ごとに比例ゾンビ率を一覧にしておくと、次の具合です。
自民党派閥別比例ゾンビ率
- 安倍派…25.00%
- 麻生派…15.38%
- 茂木派…16.67%
- 岸田派…25.00%
- 二階派…18.75%
- 森山派…0%
- 上記以外…25.81%
(【出所】著者作成)
安倍派は所属議員数が自民党内で最も多いため、党内での政治的影響力が強い派閥であろうことは想像がつきますが、それでも「4人に1人が比例ゾンビ」というのは、やや心もとないところです。
ただ、それ以上に興味深いのは、岸田派が所属衆議院議員32人と、衆院では少数派であるにも関わらず、比例ゾンビ率が安倍派と同じく25%であるという事実でしょう。
このあたり、現在の岸田「宏池会」政権は、自民党幹事長でもある茂木敏充氏が率いる茂木派、自民党副総裁でもある麻生太郎総理が率いる麻生派の3派が強く支えている構図ですが、肝心の岸田文雄首相自身の出身母体である宏池会は、人数も少なく、比例ゾンビ率も高いのです。
その一方、岸田派は意外と選挙に強いという側面も!
ただし、ここでもうひとつ、本稿で検討しておきたいのが、こんなシミュレーションです。
「2021年の衆院選で、小選挙区で勝利を収めた自民党議員について、獲得した票数のうちのX票が第2位の候補に流れていたら、当落はどういう影響を受けていたか」。
(※ただし、この場合であっても小選挙区で落選した候補者は惜敗率が高ければ比例復活の可能性もあるのですが、今回のシミュレーションでは比例復活は考慮しません。)
じつは、このシミュレーションを行うと、岸田派は意外と強いのです。
ためしに「X=10,000票」でこのシミュレーションを実施すると、小選挙区で落選する議員が最も多いのは安倍派で12人、落選する議員の割合が最も多いのは森山派(全体の42.86%に相当する3人)ですが、岸田派は落選が4人に留まり、これは全体の12.5%に過ぎません。
X=10,000票の場合
- 安倍派…12人落選(20.00%)
- 麻生派…10人落選(25.64%)
- 茂木派…*8人落選(26.67%)
- 岸田派…*4人落選(12.50%)
- 二階派…*9人落選(28.13%)
- 森山派…*3人落選(42.86%)
- 上以外…*9人落選(14.52%)
- 合 計…55人落選(20.99%)
(【出所】著者作成)
ちなみにXを20,000票や30,000票に設定しても、岸田派は同じく他派閥と比べて小選挙区で落選する議員の割合が最も少ないことがわかります。
X=20,000票の場合
- 安倍派…23人落選(38.33%)
- 麻生派…17人落選(43.59%)
- 茂木派…12人落選(40.00%)
- 岸田派…*9人落選(28.13%)
- 二階派…12人落選(37.50%)
- 森山派…*3人落選(42.86%)
- 上以外…20人落選(32.26%)
- 合 計…96人落選(36.64%)
(【出所】著者作成)
X=30,000票の場合
- 安倍派…29人落選(48.33%)
- 麻生派…24人落選(61.54%)
- 茂木派…17人落選(56.67%)
- 岸田派…13人落選(40.63%)
- 二階派…15人落選(46.88%)
- 森山派…*3人落選(42.86%)
- 上以外…31人落選(50.00%)
- 合計…132人落選(50.38%)
(【出所】著者作成)
現に小選挙区で勝っている議員は選挙に強い
このあたりは個人的に、やや意外感もあります。
現時点の岸田派は、「比例ゾンビ率」はそこそこ高いのですが、「比例ゾンビ」ではない議員に関しては、そこそこ2位以下の候補者に差をつけて当選しているという言い方もできるからです。
すなわち、比例代表での自民党の得票数が減れば、もともとの「比例ゾンビ」議員の復活の可能性は低くなりますが、すでに小選挙区で勝ち上がってきている議員に関していえば、多少票が減ったところで容易に落選することはないだろう、という見立てが出来上がるのです。
いずれにせよ、シミュレーションとしてはあまりわかりやすい結果になりませんでした。
ウェブ評論家としては、「宏池会は選挙にも弱い」、「だから有権者が宏池会議員だけを狙い撃ちにして落選させれば、岸田首相の政治基盤を弱体化することができる」、といった結論に持って行くのがわかりやすいのですが、現実の数字からは、そうした結論を導くことは難しそうです。
現時点の宏池会において、比例復活議員の割合が他派閥と比べて高いことは事実ですが、小選挙区で勝ち残っている議員に関していえば、圧倒的な票を得ているという意味において、「少数精鋭」のようなものでもあるのです。
したがって、もしも次回選挙で自民党候補者から一律に数万票、他党の候補者に流れるようなことがあったとしたら、宏池会も議席を減らすものの、宏池会以外の派閥はそれ以上に議席を減らす(かもしれない)ため、宏池会の相対的な力が強くなる可能性がある、ということです。
なお、シミュレーション自体は、次回総選挙でそのまま通用するとは限りません。とくに東京などにおいて、例の「10増10減」にともない、区割りが大きく変更されるからです。
有権者は賢明な選択を!
いずれにせよ、解散総選挙があるのかどうかについては、早ければ今週にも明らかになるでしょう。そのとき、最も賢明に行動しなければならないのが私たち有権者自身であることは言うまでもないことです。
自民党政権を支持している方は、どうかそのまま小選挙区でも比例代表でも、自民党に投票していただければ良いと思いますが、自民党政権に不満がある(けれども立憲民主党には入れたくない)という場合でも、くれぐれも棄権はしないでいただきたいと思います。
棄権、白票は、有権者の行動のなかでも最も唾棄すべき、最も無責任で最もトンチンカンな行動です。『「少数野党」に投票することが決して無意味でない理由』でも詳しく述べたとおり、投票したい政党が少数政党だったとしたら、あなたはなおさら、投票しなければならないのです。
あなたがもし、「少数野党」を支持していたとします。選挙でそのような政党に貴重な1票を投じたとしても、その政党はしょせん「少数野党」なので、「その政党が掲げる政策が実現することはあり得ない」、「したがって、選挙では棄権する」。もしあなたがそんなことを考えているのだとしたら、そうした考え方は、即刻改めてください。政界は一寸先が闇です。与党が過半数割れを発生させるなどした場合、あなたが少数野党に投じた票は、結果的に無駄にならないどころか、わが国の政治を変えていく原動力となるかもしれません。解散総選... 「少数野党」に投票することが決して無意味でない理由 - 新宿会計士の政治経済評論 |
国民民主党のように、衆院でたった10議席しか持っていないにもかかわらず、法案に是々非々で柔軟な態度を取ることで、結果的に要所要所で自党の主張を呑ませるのに成功しているという事例があることを踏まえるならば、あなたの票が無駄になることはありません。
そのことを、改めて訴えたいと思う次第です。
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宏池会も議席を減らすものの、宏池会以外の派閥はそれ以上に議席を減らす(かもしれない)ため、宏池会の相対的な力が強くなる可能性がある
このパターンは実現しそうですよねえ。宏池会が最大派閥になる。
自民党はずるいです。
何がずるいって、主義主張が全く違うにも係わらず、保守の仮面を被って保守層の票も取り込む人がいる事です。誰とは言いませんが。
自民党ポスターには「〇〇派」と書くべきです。
その上で、本当に宏池会が小選挙区で強いのかどうか判断すべきだと思います。
これまでずっと自民党候補者に投票してきましたが、国賊宏池会岸田内閣にはもうガマンの限界。こやつらを打倒するまで自民党には入れません。次回衆議院選挙では維新が私の選挙区に候補者を擁立するそうです。政権が変わっても岸田内閣より良くなるか?どうか?は確かに判りませんが、ダメならまた替えたらよろしい。コロコロ替えれるのが議員内閣制の利点だと思います。『別れたら次の人』って言葉があるじゃないですか?あれ、『別れても好きな人』でしたっけ。岸田さんはまったく好きになれないな。
宏池会における得票数の派閥内格差が垣間見れて面白かったです。
派閥内格差を各派閥で定量的に比較するなら、ジニ係数を算出してみるのも面白そうですね。