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「お客様は神様」?カレー食べた高速バス運転手に苦情

「お客様は神様です」。これは三波春夫の1961年の発言と伝えられていて、「カネを払う客の側が偉い」、「カネを払えばどんな理不尽なことを要求しても許される」という意味だと勘違いされているフシがあります。しかし、三波春夫はそういう意味で「お客様は神様」と述べたのではありません。こうしたなか、とあるツイッター・ユーザーの方が発した、「高速バス運転手が休憩中にサービスエリアでカレーライスを食べていたらクレームが来た」というツイートが話題となっているようです。

葛飾区亀有の巡査長の事例

警察官、消防官、救急隊員といった公務員や鉄道、バスの運転手などが勤務中、私的な行動を取ること(たとえば買い物をしたり、食事をとったり、コーヒーを飲んだり、あるいはスマートフォンを操作したりすること)については、いったいどこまでが許容範囲で、どこからが「アウト」なのか――。

これについて、いくつかの事例を調べてみたことがあります。

たとえば葛飾区亀有公園の近辺に所在する派出所に勤務する巡査長の事例だと、制服を着たままで買い物をすることはもちろん、酷いケースでは派出所内で堂々とプラモデルを組み立てたり、公務員でありながら副業(企業買収、起業など)に精を出したりするなどの公私混同ぶりが有名です。

ただ、この巡査長のケースだと、何らかの不祥事を発生したときに、上司である巡査部長から何らかの制裁を受けることが一般的です。

たとえば何らかの重火器や真剣、バズーカ砲などを持参し、ときとして戦車に乗り込み「●●はどこだ!」「出てこい●●!!」などと叫んで派出所に乗り込む、などの姿が有名です(※なお、プライバシーに配慮し、人名については伏せています)。

また、この巡査長は何らかの不祥事を発生させたとしても、なぜか翌週になるとすべて元通りになることでも知られているようです。

制服姿の警察官がコンビニで買い物できるように

それはともかくとして、勤務中で制服姿の警察官が先月、コンビニやドラッグストアなどで買い物をすることができるようになったことが話題となりました。

制服姿の警察官 15日からコンビニなどでの買い物可能に 犯罪抑止に期待【福井】

―――2023年5月15日 18:40付 FNNプライムオンラインより【福井テレビ配信】

福井テレビによると、コンビニに入店した警察官が「巡回させていただきます」と発言し、ひととおり店内を見回ったあと、自身の昼食を購入して退店した、という姿が報じられています。その狙いは警察官が制服姿でも買い物できるようにすることで、店への立ち寄り頻度を増やし、犯罪防止につなげたい、という点にあるのだとか。

これは、大変良い試みでしょう。犯罪抑止につながり、店としても安心できますし、警察官も勤務中にコンビニに寄ることでリラックスできると考えられるからです(ただし上述の亀有巡査長のように、コンビニでマンガの立ち読みをする、というのは少しやりすぎかもしれませんが…)。

実際、福井テレビは「これまで警察官は、制服での買い物を禁止する規則はなかった」としつつも、警察官が買い物をするときは「私服に着替えたり、ジャンパーを羽織る」などしていたそうです。禁止する規則がないなら、どんどんとやればよいのではないでしょうか。

救急隊員のコンビニは認められるのか?

もっとも、こんな話になると、必ず「勤務中の公務員らがコンビニなどに入店するのはいかがなものか」と苦情(というかイチャモン)を申し立てる「市民」もいるようです。

これに関連し、昨年はこんな記事がありました。

救急隊コンビニ認めて…熱中症やコロナ搬送忙殺、食事や水分とる時間なし

―――2022/08/18 15:00付 読売新聞オンラインより

夏の暑いさなかにもかかわらず、救急隊員が飲料水や食料を購入するなどの目的で、救急車で買い物に立ち寄ることを認めていない消防が多い、とする指摘です。「市民」からの「サボっているのではないか」などの批判に対応するため、などとしています。

正直、意味がわかりません。

私たち国民生活の安全、安心を支えているのは、まさに24時間態勢で過酷な勤務をしてくれているこれらの公務員です。買い物に立ち寄っただけで「サボっているのか」という批判をするというのも非常識ですが、そのような言いがかりめいた批判に配慮する必要が、果たしてあるものでしょうか。

もちろん、どこまで認めるべきかの線引きは、ある程度は必要でしょう。

たとえば定時運行をしなければならない鉄道、バスなどの公共交通機関の運転手や車掌などが、途中の駅・停留所などで業務をサボるのは論外ですし、ましてや運転手が運転中にスマートフォンを操作するのは大変に危険な行為であり、それらを禁止することが必要であることはいうまでもありません。

しかし、警察官や消防官、救急隊員らが勤務中にコンビニに立ち寄り、飲料水や食料などのついでに、勤務終了後のためにマンガ雑誌や酒類を購入するくらいのことは認められてしかるべきでしょう。

高速道路SAで運転手がカレー…良いのか?

では、こんな事例はどうでしょうか。

「高速バス運転士@中部地区」と名乗るツイッター・ユーザーの方が3日、「バスの運転手さんがサービスエリアでカレーライスを食べている、というクレーム(があった)」とし、「休憩中にカレーを食べてはいけない理由を具体的に説明しろや」、と怒っている、というものです。

このツイート主の方が本当に高速バス運転手で、本当にそんな苦情が寄せられたのだとしたら、これもなかなかに強烈な話題です。

高速バス運転手が「バス運転中に」カレーライスを食べた、というのであれば大問題です。

高速バス「ウィラー・エクスプレス」などでも知られる「ウィラー・グループ」系のウェブサイト『ウィラコレ!』によると、一般に高速バスは2時間に1回程度、休憩時間が設けられています(同サイト・2022年3月17日付『高速バス・夜行バスには休憩はある?高速バスの休憩時間と回数、過ごし方を解説』参照)。

一般に高速バスは多数の旅客を乗せ、長距離を運航するため、運転手にも休憩が必要です。当然、休憩時間中であれば、食事をとろうが、スマートフォンを操作しようが、それはその運転手の自由でしょう(ただし「食べ過ぎて眠くなる」など、運転に戻るうえで危険な行為は避けるべきかもしれませんが…)。

「お客様は神様」の真意

ただ、こうした事例の数々を眺めていて浮かぶのは、「サービスを提供する側」(公務員、バス運転手など)と「サービスを受ける側」(国民、乗客など)の間で、一種の「身分制度」のようなものがあるのではないか、という疑問です。日本社会には「お客様は神様だ」、などと勘違いしている者が多数いるようだからです。

この「お客様は神様」は、歌手の三波春夫がデビュー4年目の1961年に舞台の上で「お客様を神様とみる」と自身の心構えを話したところ、漫才トリオのレッツゴー三匹が「三波春夫でございます。お客様は神様です」とする表現を流行させたのが起源です。

これについて株式会社三波クリエイツが運営する三波春夫オフィシャルサイトの『「お客様は神様です」について』というページでは、この「お客様は神様」を巡って、同社代表取締役の三波美夕紀氏が次のように明確に説明しています。

三波にとっての『お客様』とは、聴衆・オーディエンスのことです。また、『お客様は神だから徹底的に大事にして媚びなさい。何をされようが我慢して尽くしなさい』などと発想、発言したことはまったくありません」。

しかし、このフレーズが真意と離れて使われる時には、『お客様』は商店、飲食店、乗り物のお客さん、営業先のクライアントなどになり、『お客様イコール神』となります。例えば買い物客が『お金を払う客なんだからもっと丁寧にしなさいよ。お客様は神様でしょ?』という風になり、クレームをつけるときなどには恰好の言い分となってしまっているようです」。

まったくそのとおりでしょう。

海外で受け入れられない日本のカルチャー

このあたり、山手線の駅名を冠した怪しげな自称会計士の経験上も、「カネを払う側が偉い」とする発想は、じつは戦後日本特有のカルチャーのようなものではないかと思います。

たとえば日本ではコンビニやスーパー、レストランなどに入店した際に、店員にあいさつする人は少ないうえ、店員からなにかサービスをしてもらったときに「ありがとうございます」のヒトコトも言えない者すらいます。良い年をした社会人ですら、そうです。

そして、こうしたカルチャーに慣れ切っていると、海外に出かけて酷い目に遭うこともあります。外国では「お客様は神様」などの文化は存在しないからです。

現実に海外旅行に出かけてみるとわかりますが、日本式の「あいさつもしない、ありがとうのヒトコトも言わない、横柄に接する」などの態度をとると、店員から不審者扱いされることもありますし、酷いときには追い返されます。

「お客様は神様」という発想自体が明らかに間違っているのですから、当たり前です。

本来、おカネを払う側はサービスを受ける側でもありますので、両者に上下関係などありません。そして、客はそのサービスを受けるために対価を払っているわけであり、払った対価以上のサービスを受ける権利など、もとよりないのです。

ちなみにとある人によると、米国発の全世界的なハンバーガーチェーン店であるマクド・ナルドの場合も、メニュー表にわざわざ「smile $0」と記載されている理由は、「頼めば笑顔で接客しますよ」という意味であるとともに、「頼まれなければ笑顔にならないぞ」という意思表示なのだそうです(本当かどうかはわかりませんが)。

いずれにせよ、「お客様は神様」は三波春夫の本心ではありません。

1960年代以降の日本に発生した、「カネを払う側はどんな理不尽なクレームをつけても良い」というカルチャーは、さっさと捨て去りたいものです。

新宿会計士:

View Comments (45)

  • そう、これが団塊の世代以上が特に嫌われていた理由
    数が多いから、横柄だし、その割に小心者ばかりで日本に何も貢献しない、どころか足引っ張りまくりの、はずれ世代ww
    今はかなりお亡くなりになりつつあり、さまざまな面で日本が良くなってますね♪

    • 「バスの運転手さんがサービスエリアでカレーライスを食べている、というクレーム」を付けたのが団塊の世代以上の高齢者なのですか?
      「お客様は神様」という文化が昭和に出来たというのは同意できますが、では今現在それを支えているのは団塊の世代以上の高齢者だけではなく、世代を越えて日本のカルチャーになってしまっているように思います。
      誰かがカレーライスを食べていることにクレームした => 底辺に「お客様は神様」だから何をクレームしてもよいという意識があったのだろう=>お「お客様は神様」は1961年に端を発する=>だから団塊の世代以上の人々は横柄なのだ、という考えは飛躍しすぎでしょう。
      まあそうは言っても、団塊の世代に限らず老人は価値観が固まって横柄になる人が多いようです。飛躍する文章から察するに、貴兄も数十年後には同じことを言われているかもしれません。

  • 「しかし、このフレーズが真意と離れて使われる時には、『お客様』は商店、飲食店、乗り物のお客さん、営業先のクライアントなどになり、『お客様イコール神』となります。例えば買い物客が『お金を払う客なんだからもっと丁寧にしなさいよ。お客様は神様でしょ?』という風になり、クレームをつけるときなどには恰好の言い分となってしまっているようです」。

    これ、最近までの日本人女性そのもので草
    深田えいみが「男は奢れ!女はお客様!」発言が炎上した一年前くらいから、風向きが変わったよねー
    まあ、海外では連れ去り婚や給料ぶんどり、など悪評もかなり知れ渡り、虻蜂の如く日本人女性はもう嫌われてますが...

  • お客様を神様とする考え方には、方向性があるんですよね。

    サービスの提供側からお客様に対しての心構えの一つとして有意義なのでしょうが、これをお客様側からサービスの提供側に求めはじめるとおかしくなる。
    儒教における「年長者を敬え」とする考え方などでも、同じような構図で、為政者側、支配側が都合よく、オリジナルにある方向性を無視して利用される傾向がある、などと言われることがあります。

    個人的には、本来方向性のある考え方を、方向性を無視して利用するのは、例えば方向性があるベクトルの足し算を、座標を無視してスカラーとして足し算するかの如きインチキだと思っています。当然、計算結果は誤りになります。

  • 自宅の目の前のコンビニです。
    お巡りさんが警戒パトロールで来て、軽食などを買っているのをよく目にします。
    ここの交差点では、小規模な交通事故がままるので、こういう巡回はありがたいと思います。
    腹が減っては戦ができないと言う、ことわざを知らない、粗雑な日本人が増えたようです。

    • そうですか?
      2年前まで、大学生としてコンビニバイトしてましたが、体感としては真逆です。お年寄りに、すごく勘違いされた方が多いです。
      若年層は愛想が悪いくらいですが、お年寄りはよく突っかかってくる人が割といましたし、説明能力が世代のせいで低いのか、質問してもなぜ怒ってるか分かりませんでした。
      だから、今のおかしな左翼には高齢者が多いのかな?と思いました。

      • ホントに、じいさんで偉そうにしているのは、言う事が独特の世界観です。更に、決して他の意見を受け入れて、その世界観を変更修正する事がありません。左系の有り様と全く同じですから、相性が良いのでしょう。何しろ、同じ事言っていればいいので、新たに考える必要が無いですから、楽なのでしょう?

      • >説明能力が世代のせいで低い

        世代のせいというより耳の「聞こえが悪い」人が多いからです。
        高齢者は難聴になっている人が多いです。
        聞こえないから聞き返すのです、気にしてはいけません。
        そういうあなたも数十年後には「聞こえが悪い」老人になりますよ。

      • 根も葉もない言い方をすれば、貧困者は総じてクレームをつけたがる。富裕層ほどおおらか。歳は関係ない。仕方ないことと割り切って接客してください。

  • サービスエリアでは休憩が10分とか20分とかあるので休憩時間を逸脱しなければ食事をして良いと思います。文句を言った人もトイレに行くなとは言わないと思いますが、文句を言った人もトイレと食事の違い、食事でもカレーや惣菜パンなどの違いを明確に定義できないでしょう。
    バス会社はこんな乗客がいることを見越してサービスエリアで何をしても良いか或いは悪いか等を明確に規定したら良いんじゃないでしょうか。

    > 運転手が運転中にスマートフォンを操作するのは大変に危険な行為であり、
    これはプロの運転手でなくても危険で法律で禁止されてますよね。

  • 「"芸ゴト"てなぁ"お神楽"みたいなモンで、極端なハナシ目の前の有象無象はドーデモイイわけヨ、要は研いた芸を神様に披露させていただいてるっつーもんだから」
    …ナーンテナ

    万物は流転する…る…る~
    "リベラル"と同じく通用が元意から離れた(離した?)様も眺むるに、マサシク「諸行無常」でアリマスナ

  • 葛飾区亀有の巡査長が、制服のまま買い物をするのは、当時は、有り得ない行為だからギャグ漫画として成立するのであって、あり得るのならギャク漫画として成立しないのではないでしょうか。
    もっとも、当時も、世間一般には広がらなかっただけで、田舎(?)では制服の警官の買い物も、あったかもしれません。

    • ふと思ったのですが、制服の警官がコンビニで買い物するのが当たり前になった世界に、葛飾区亀有の巡査部長が紛れ込んだら、話が一本、書けるのではないでしょうか。

  • 人に何かをしてもらったら、「ありがとう」とお礼を言いなさい。
    子供の頃に親から教わることです。
    店員に限らず、他家の使用人に対しても「ありがとう」と言います。
    親から最初に教わった英語は、「thank you」「please」「pardon」でしたから、
    海外旅行でも「thank you」はよく使う言葉です。
    そもそも他人に何かを期待するような人間ではないので、人に何かをしてもらった時は、
    心の底から「ありがとう」と言ってしまいます。

    三波春夫氏の言葉の真意は承知しておりましたので、「「お客様は神様です。」というのは誤りだと思いますよ。」と某先生業の方に申し上げたことがございます。

  • >高速道路SAで運転手がカレー…良いのか?

    運転手さんのツィートだけでは、状況が不明です。
    SA内の飲食可能な場所でなのか、SAに停めた車内なのか?
    もしも、車内ならば 配慮が足りないと思います。

  • 三波春夫の娘さん、三波美由紀さんの動画を見た事があります。「お客様は神様です」と常々言っていた、お父様の真意を、会計士さんのように話されていました。しかし天才的なアミューズメントの出来る方でしたね。「東京五輪音頭」(64年東京)から「世界の国からこんにちは」(70年大阪万博)、故郷の「佐渡おけさ」まで、何でもミリオンセラーにしてました。(子供の頃は興味無かったですが、今なら理解出来ます)。

    警察官や消防官、救急隊員らが勤務中にコンビニに立ち寄り、一声かけて買い物なんて素敵じゃないですか!万引きとか不埒な事を企むヤカラのバリアーになります。制服で行って貰ったほうが尚、効果的です。高速道路SAで運転手がカレー?休憩中なら、何も言われる筋合いは無い。最近客は「◯◯して貰って当然だ」「客が上だ」と隣国人のような考えを持つ人が増えました。情けないです。

    • いつまで若いやつらのせいにしつづけるんだ?
      一番酷かったのは団塊の世代以上だぞ?
      1961年の発言なんだからそりゃそうだろ、真に気をつけるべきは傲慢な年寄り

      • そういうあなたも数十年後には老人になりますよ。
        同じことを言われる時が来ます。

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