当ウェブサイトの著者は現在、衆参両院選の全データの収集作業に着手しており、その第一弾として、2021年10月の衆議院議員総選挙のデータの取得が完了しました。これに基づけば、自民党は前回、全289の小選挙区のうち3分の2近くに相当する187選挙区で勝利を収めましたが、うち58の選挙区で、2位の候補者との得票差が2万票以下だったことが明らかになりました。また、立憲民主党は57選挙区を制したのですが、その立憲民主党にしても、2位の候補者との得票差が2万票以下だった選挙区は41選挙区であり、「ギリギリの当選」という状況でいえば、立憲民主党も状況はたいがい深刻です。
自公選挙協力解消の影響とは?
当ウェブサイトでは先般より、「数字に基づく選挙情勢の検証」という作業を行っており、その結果の一部については『「自公選挙協力解消」、結局は公明党の瀬戸際戦術か?』などでもお伝えしてきました。
公明党から自民党に対し、東京における選挙協力の解消の申し出を受け、自民党内で浮足立っているとする報道も出てきています。ただ、本件について、個人的には公明党なりの「瀬戸際戦略」の一環に過ぎないのではないか、という気がしてなりませんし、これを機に、自民党内で本気で公明党との連立を見直す動きが出て来る方が、国民に対する説明上もすっきりしてわかりやすいのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。自公、東京で選挙協力の解消か先週は、公明党が次期衆院選に向けて、東京での自民党との選挙協力を解消すると通... 「自公選挙協力解消」、結局は公明党の瀬戸際戦術か? - 新宿会計士の政治経済評論 |
現時点での暫定的な結論としては、もし岸田文雄首相が「早期解散総選挙」に踏み切った場合、各選挙区に有権者の投票行動が前回総選挙とあまり変わらなければ、自民党が政権を失うことも、立憲民主党が最大野党としての地位を喪失する可能性も、そこまで高くはないと考えられます。
もちろん、「自公選挙協力の解消が全国に及ぶ」、「特定政党に対して何らかの『風』が吹く」、といった事象でも発生すれば話は別です。
しかし、衆議院議員総選挙の場合、小選挙区と比例代表の並立制を取っており、このうち小選挙区では「ウイナー・テイクス・オール」とでも言えばよいのでしょうか、どんな接戦となろうが、とにかくその選挙区で1位になった候補者が勝利する、という仕組みが取られています。
昔、とある政治家が「2位じゃダメなんですか?」などとする妄言を吐いてネットで叩かれていたことがありましたが、少なくとも小選挙区制度においては、「2位じゃダメ」なのであり、あくまでも1位でなければ勝利することができません。
比例ゾンビより小選挙区当選に価値がある
この点、衆議院では「比例代表並立制」を採用しており、小選挙区と比例で重複立候補していれば、小選挙区で敗北しても、惜敗率(1位の候補者との得票の割合)が高かった候補については、比例で復活する可能性があるという救済措置が取られています。
これが「比例復活」であり、口が悪い人に言わせれば、「比例ゾンビ」です。
ただし、日本共産党を除く主要政党の場合、さすがに「比例ゾンビ」が党代表や党幹部を務めることに対しては厳しい目が注がれることが多く、実際、2021年10月の総選挙では、甘利明氏が小選挙区で落選(※比例復活)したことを受けて自民党の幹事長職を辞任しています。
したがって、衆議院議員の場合は「小選挙区で当選したかどうか」が、ひとつの大きなステータス・シンボルでもあるのです。
こうしたなか、当ウェブサイトでは先日より、総務省が公表する過去の選挙データを使った分析を行っているのですが、総務省が公表するデータのフォーマットがあまりにも加工し辛いため、各選挙区の詳細な分析について実施することはできませんでした。
ただ、これに関してはPDFファイルをうまくエクセルに変換する方式を編み出すことに成功し、とりあえずは2021年10月の衆院選のデータを読み出すことができました(※今後、同じ方式で2017年以前の衆院選、あるいは2022年以前の参院選についても、データの読出しを行ってみたいと思います)。
本稿では取り急ぎ、前回総選挙における全289選挙区における全候補者の得票数データをもとに、ちょっとした気づきをメモしておきたいと思います。
自民党は58選挙区で2万票以下
まず、全289選挙区のうち、自民党候補者は全体の3分の2近い64.71%に相当する187議席を獲得したのですが、この187選挙区のうち、第2位の候補者との得票差が1万票以下だった、という選挙区は、全部で34選挙区あり、うち4選挙区は得票差が1,000票以内です。
また、2万票以下に拡大すれば、58選挙区です。
自民党候補者が2万票以内の得票差で勝利した選挙区
- 2位との得票差が*1,000票以下…4選挙区
- 2位との得票差が*1,000票超・10,000票以下…30選挙区
- 2位との得票差が10,000票超・20,000票以下…24選挙区
- 合計 58選挙区
このうち、とくに僅差での勝利となった選挙区が北海道第4区、三重県第2区、長崎県第4区、大分県第2区の4選挙区です。というのも、2位の候補者との得票差が、わずか数百票しかなかったからです。
自民党候補者が1000票以内の僅差で勝利を収めた選挙区
- 北海道第4区…217,956票中109,326票(2位との得票差…696票)
- 三重県第2区…219,320票中110,155票(2位との得票差…990票)
- 長崎県第4区…133,080票中*55,968票(2位との得票差…391票)
- 大分県第2区…158,212票中*79,433票(2位との得票差…654票)
また、得票差が1000票以上であっても1万票以下の選挙区が30あり、その場所も北海道、東北、北関東、東京、南関東、北陸、東海、近畿、中国、四国、九州、沖縄と、全国各地に散らばっています。
このあたりの選挙区は、ちょっとした組織票の離反などにより、容易に当落が変動する可能性があるところでしょう。
すなわち、いま話題の「自公選挙協力解消」に関していえば、仮に自公の選挙協力が全国的に解消され、かつ、公明党が各選挙区で保有している組織票が完全に離反した場合、落選危機に陥る自民党候補者は34人(組織票が1万票の場合)ないし58人(組織票が2万票の場合)です。
ついでにどうでも良い話ですが、もし自民党候補者が58人落選し、立憲民主党の候補者が同数当選したとすれば、泉健太代表は辞任しなくて済みそうです(『自民、立民ともに「早期解散総選挙」で利害は一致する』等参照)。
泉代表が議席巡って発言ブレブレ:菅総理は解散を牽制立憲民主党の泉健太代表が「150議席未達ならば代表辞任」と言ってみたり、それを軌道修正してみたり、かと思えば再び「150議席未達なら代表辞任」と言ってみたり…。泉氏、どうも「言葉の軽さ」が目立ちます。しかも謝(斎藤)蓮舫氏とツイッター上でやり合ったりするなど、立憲民主党内部のいざこざも目立ってきました。もっとも、早期解散総選挙なら日本維新の会の伸長を抑制することができるかもしれないという点においては、じつは、自民、立憲民主両党にとって、利害は一致する... 自民、立民ともに「早期解散総選挙」で利害は一致する - 新宿会計士の政治経済評論 |
小西問題という逆風が吹いた立憲民主党
ただし、上記の試算は、「自公選挙協力の全面的解消」だけに焦点を当てたものですが、現実には、選挙の得票は、ほかにもさまざまな思惑で動きます。
たとえば、立憲民主党は今年3月から4月にかけて、いわゆる「小西問題」――小西洋之・参議院議員が総務省の内部文書と称する怪文書をもとに高市早苗氏を追及したり、衆院憲法審査会メンバーを「サル・蛮族」と侮辱したり、メディアに報道圧力を掛けたりした問題――で、かなり支持を落としたとみられます。
実際、統一地方選では立憲民主党は全国的に議席を減らしているそうです。
したがって、前回・2021年の総選挙で2位の候補に辛勝した選挙区では、その分、得票差が容易にひっくり返る可能性があります。
立憲民主党は41選挙区で2万票以下
たとえば、前回の総選挙で、立憲民主党は全289選挙区のうち57選挙区を制していますが、得票差が2万票以下だった選挙区は全部で41選挙区にも達しており、とくに得票差が1,000票以下だった選挙区は4選挙区と、自民党と大差ありません。
立憲民主党候補者が2万票以内の得票差で勝利した選挙区
- 2位との得票差が*1,000票以下…4選挙区
- 2位との得票差が*1,000票超・10,000票以下…22選挙区
- 2位との得票差が10,000票超・20,000票以下…15選挙区
- 合計 41選挙区
立憲民主党候補者が1000票以内の僅差で勝利を収めた選挙区
- 宮城県第2区…237,590票中116,320票(2位との得票差…571票)
- 新潟県第4区…194,750票中*97,494票(2位との得票差…238票)
- 新潟県第6区…182,939票中*90,679票(2位との得票差…130票)
- 佐賀県第1区…184,771票中*92,452票(2位との得票差…133票)
少なくともこの4選挙区を含めた多くの選挙区において、「小西問題」のような事件が生じれば、立憲民主党は容易に議席を失いかねません。
しかも、立憲民主党はただでさえ支持を失っているわけですから(『衆院比例で維新と立憲が逆転する可能性が視野に入った』等参照)、ちょっとした「風」が吹けば、次回総選挙では小選挙区で10~20議席は落とす可能性もみておくべきなのかもしれません。
もっとも、早期解散なら立憲民主党が第2党の座を死守の可能性は高い朝日新聞の世論調査で、次期衆院選における比例代表での投票先を見ると、日本維新の会が17%で立憲民主党の10%と逆転したそうです。2021年の選挙では、立憲民主党が約20%、日本維新の会が約14%を獲得していたため、前回の選挙結果をそのまま当てはめると、比例代表での獲得議席は維新が30議席の大台に躍進する可能性が出て来る反面、立民の議席数は20議席を割り込む惨敗となる可能性もありそうです。もっとも、衆院選は小選挙区が大事です。「早期解散」なら維新... 衆院比例で維新と立憲が逆転する可能性が視野に入った - 新宿会計士の政治経済評論 |
ただし、以前から議論しているとおり、正直、小選挙区では候補者の知名度が有権者に対し浸透しなければならないなどの事情もあり、たとえ立憲民主党の候補者であっても、小選挙区では強みを発揮するというケースもあります(※もっとも、立憲民主党の場合は日本共産党との選挙協力による票の上積み、という要因もありそうですが…)。
したがって、いくら日本維新の会に対する政党支持率が高まっているにせよ、仮に早期解散・総選挙がなされた場合、維新は各地の小選挙区で有権者に浸透する活動が間に合わず、したがって「全国の小選挙区で圧勝する」、といった事態は、よっぽどの「風」でも吹いていない限り、考え辛いというのが実情です。
惜敗率などのデータで見る限り、今のところ最も可能性が高いシナリオは、立憲民主党が小選挙区で減らす議席がそのまま自民党に横滑りする(つまり、岸田文雄首相が率いる自民党が勝利を収める)というものでしょう。
岸田首相の政策が支持されているというよりはむしろ、第2政党である立憲民主党から離反する有権者が大変に多く、潜在的に第2政党になり得る日本維新の会の浸透が間に合わない、という2つの要因に基づくものです。
いずれにせよ、こうした分析については今後も随時、当ウェブサイトにて詳しく議論していきたいと思う次第です。
View Comments (6)
>しかも、立憲民主党はただでさえ支持を失っているわけですから(『衆院比例で維新と立憲が逆転する可能性が視野に入った』等参照)、ちょっとした「風」が吹けば、次回総選挙では小選挙区で10~20議席は落とす可能性もみておくべきなのかもしれません。
そよ風で観閲式を中止した韓国国防部みたいですね。
岸田-茂木コンビは、とりあえず自公選挙協力の解消を東京都のみにとどめ、愛知埼玉では公明党の意向を尊重することで、”連立の維持”を再確認しました。
これで(翔太郎秘書官の更迭も相俟って)、岸田首相は再び解散のフリーハンドを得たことになります。岸田首相は改めて「政界一寸先は闇」の言葉を噛みしめたでしょうから、6月解散の可能性も高まっていると思われます(来年初め50%、今年6月40%、今年秋10%でしょうか)。
解散しても、東京以外の選挙協力は維持されますので、与党の過半数は確実です。それは問題にもなりません。
むしろ今後の自公の関係を決定づけるのは、東京での自民党の伸長です。もし仮に東京での自公選挙協力解消に自民党の岩盤支持層が奮起して、現有議席を維持できれば、公明党は「踏まれても蹴られてもついていきます下駄の雪」とならざるを得ないでしょう。逆に東京での自民党の議席が大幅に減れば、自民党は引き続き公明党の顔を立てながらの運営を強いられるでしょう。その意味では、東京都民である保守派の奮起が望まれます。
> 逆に東京での自民党の議席が大幅に減れば、自民党は引き続き公明党の顔を立てながらの運営を強いられるでしょう
公明の比例東京ブロックにおける衆院選対総得票数比は2017年・2021年とも大雑把に11%
小選挙区での影響力もそれくらいと勝手に仮定し、さらにその全てが自民候補者から次点者に流れると強引に仮定した場合、得票率差22%以上無いと安全ではありません。例えば2021年衆院選小選挙区で大差のあった東京11区、自民122千票・次点87千票でもひっくり返る。
上の、taku さんのコメントの一部を引用して書かせて頂きます。
>>>自民党の岩盤支持層
自民党に「岩盤」支持層なんかあるのでしょうか?
あれば、小池百合子氏の都知事選、東京都議会議員選挙で、あんな無様な負け方はしなかったのではないでしょうか?
基本、自民党は、国民からは嫌われている、しかし、保守政治を維持するには仕方がない、ということでしょう。そうでも考えなければ、民主党に政権を奪われた時の惨敗や、東京都の地方選挙であんな惨敗はしないでしょう。
よって、次に何かの「風」が吹けば、惨敗もあり得ます。
その「風」は何か?
小池百合子氏は、その「風」を自分で作ったのです。
しかも、それを小池百合子氏に決断させたのは、当時の石原伸晃東京都連会長でした。本当に彼は、碌なことはしない。親父の後光だけで生きて来たのではないかと思われる程、実績が何もない。
だから、前回選挙では、比例でゾンビ復活も出来ない程に、票が取れない、つまり有権者に愛想を尽かされ、ノーを突き付けられたのです。
これと、同じことは、「軟弱」地盤の自民党にはいつでも起こり得るような気がします。
今、国民は、総理の愛息と親戚一同の驕りに密かに怒りをためているのではないでしょうか?そして又、更に、総理と夫人を含めた親戚一同の写真も出ました。
更に、韓国への全く無思慮で無意味な譲歩。総理であれば国民の感情を無視して何をしても良いのでしょうか?
今、総理は国民の感情を読み誤っているような気がしてなりません。
石原伸晃氏のように、有権者の気持ちを全く知ろうともしない議員が、いとも簡単に捨て去られるように、自民党がそうならないことを祈るばかりです。
まあ、兎に角、民意を読み誤らないことです。
「過去の票数」の中に「現在の民意」はありませんよ。
つまり、過去勝ったからといって、次回も勝てるという相関関係が成り立たないのが、選挙です。つまり、過去と未来に何の関係も無いのが、選挙です。
「民意」とは、「風が吹けば桶屋が儲かる」という言い様のように、どのような「連鎖」を作り出すか分からないものです。
それが、小池百合子氏の都知事選挙と都議会議員選挙でした。
当時の自民党の都議会議員で、自分が選挙に負けると思っていた人は余りいなかったのではないでしょうか?自分には、「岩盤」支持層がある、とかなり自信があったのではないでしょうか?
然し乍ら、都知事選挙と都議会議員選挙での「風」は、どこかの国で観艦式が中止される「風速3m」レベルとは比べものにならない程の、巨大台風並みになってしまいました。
しかも、その巨大台風並みの「風」は、一人の女性都知事候補だった人が、始めはささやかに作り出したものでした。
その「風」が、あれよあれよと言う間に、風が吹けば桶屋が「大儲け」できる程の影響力のある巨大な「台風」になってしまったのでした。
「風」の威力とは不思議なものです。ビル風と言われるような、大した風速でもない風が、ビルの横を通過するときに、強風になるのです。ヘタすれば、前に歩くのに難儀をする程の、風速と風量になります。
重ねて言いますが、「過去の票数」の中に「現在の民意」はありません。
どこかの政党との連立という鎖ほどに強いと思えるの綱も、「大風」の前には、いとも簡単に千切れることもあるのです。
「安全地帯」は、「民意の中」にのみあります。これを肝に銘じて欲しいです。
「聞く力」で、「刻々と変わる民意」を聞き漏らさないようにしないと、明日はないですよ。
愛息と共に去りぬ、にならなければ良いですが・・・。
FM様
同感です、今の自民に岩盤支持層は存在しません。
安倍さん暗殺後の岸田さんのあらゆる売国政策で、それらの人達は本気で自民を見限っています、バカ息子バカママの醜聞もそうですが、LGBT問題が致命的です。
自民執行部が、岩盤支持層に期待しているのだとすれば、その現状認識力の欠如は救いようがありません、チワワ岸田さんの愚行に殆ど意を唱えず、ただひたすら自己の保身のためにダンマリ、これが保守と言えますか? これが国益を第一に考える政権政党の党員ですか?
公明との関係よりも、保守の岩盤支持層が離れてしまったことがはるかに選挙に影響を与えるでしょう、自民党内の真の保守、国士は自民党から離れ、維新や参政党等の保守政党に参加する選択肢もありかと思います、リベラル左翼化した自民に残る意味はありません。
エントロピーの法則から言っても、長らく続いた自民の政治は終局に向かっていると思います、これからは混乱&戦国の時代でしょう。
私も身近な人へ次のように言っています。
「選挙に行きましょう。投票率が低いのを喜ぶのは国会議員です。組織票を持っている議員です。投票率を上げ国民の意見を反映させましょう」
この間から追加したのは
「テロは止めましょう。日本は選挙で意思表示をします。法事国家なのです。226事件を起こす国にしたくありません」
とにかく投票しないことには自由民主主義は守れません。