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韓国紙、社説で尹錫悦氏の「米国傾斜・中国軽視」批判

先週金曜日の鈴置論考の「答え合わせ」のようなものが出てきました。尹錫悦(いん・しゃくえつ)政権に対し、「米国側に傾きすぎるな」と警告する、韓国・ハンギョレ新聞の社説がそれです。今後、韓国を巡って、「日米陣営」と中国との綱引きが激化することは間違いありません。故・安倍晋三総理大臣が作り出した韓国との「ほどよい距離感」を壊した岸田文雄首相は、罪深いことをやらかしてくれたものだと言わざるを得ないでしょう。

「尹錫悦氏は素晴らしい人物だ」

尹錫悦(いん・しゃくえつ)氏といえば、日韓関係と米韓関係を同時に「改善」した、素晴らしい人物だとする評価が増えてきました。

自称元徴用工問題の「解決策」を3月に打ち出し、岸田文雄首相との首脳会談を実施。4月には国賓として訪米してジョー・バイデン米大統領との会談をこなし、5月には訪韓した岸田首相と会談することで、日韓「シャトル外交」を事実上、復活させたからです。

それだけではありません。

週末に開かれたG7広島サミットではゲスト国の首脳として来日し、日韓・日米韓首脳会談を行ったほか、時事通信ニュースなどの報道によれば、広島平和記念公園内にある韓国人原爆慰霊碑を岸田首相とともに訪れて献花したそうです。ちなみに同慰霊碑への訪問は、現職の韓国大統領として初めてなのだとか。

韓国人原爆慰霊碑で祈り=現職大統領初、岸田首相を称賛

―――2023-05-21 16:59付 時事通信ニュースより

こうした行動をもって、尹錫悦氏の日韓・米韓関係改善への意欲は「本気だ」、などと評価する人もいるようであり、たとえばツイッター上でも、(敢えて名前は明かしませんが)一般に「保守派」と思われている論客が、「尹錫悦氏の行動は尊敬できる」、「日韓関係は良くなる」、などと絶賛していたりします。

鈴置氏は「米韓関係は二流の同盟に格下げ」

もっとも、これで韓国が「日米陣営」の側に戻ってくる、などと素直に信じる方に無理があります。

週末の『鈴置氏「米韓は二流の同盟、日韓関係も極めて不安定」』でも取り上げましたが、韓国観察者である鈴置高史氏が先週金曜日、ウェブ評論サイト『デイリー新潮』に、韓国が「日米陣営」に戻ってきたと解釈することの誤りを指摘する論考を寄稿しています。

「たとえ北朝鮮が韓国を併呑しても、影響は朝鮮半島どまり」本日以降開催されるG7広島サミットに合わせ、ウォロディミル・ゼレンシキー大統領が広島を訪問するとの報道が出てきました。「関係者の話」としてブルームバーグが報じたものですが、これが事実なら、ロシアに対してだけでなく、中国や韓国などに対しても、非常に重要な効果がありそうです。それでなくても注目点があ多数ある今回のG7、関連する情報を注視する価値はありそうです。岸田首相にとっての外交成果昨日開幕したG7広島サミットを巡っては、さまざまな話題が...
鈴置氏「米韓は二流の同盟、日韓関係も極めて不安定」 - 新宿会計士の政治経済評論

原文は次のリンクで読めますが、かなり乱暴に要約すれば、「尹錫悦大統領が訪米した際に明らかになったのは、いまや米韓関係は『二流の同盟』に過ぎなくなったことだ」、といった主張です。

韓国は中国から独立できるのか? 米韓同盟を「対北限定」に定めた尹錫悦

4月の米韓首脳会談を機に米国との同盟を強化し、中国包囲網に加わったかに見える韓国。だが、韓国観察者の鈴置高史氏は「米韓同盟は砂上の楼閣」と見切る。<<…続きを読む>>
―――2023/05/19付 デイリー新潮『鈴置高史 半島を読む』より

この点、論考の本文をろくに読みもせず、「鈴置(氏)といえば、どうせまたネトウヨ受けするような与太話を書いているに違いない」と思われている方は、かなりの損をしています。鈴置論考では多くの場合、結論に至るまでの根拠が、一次資料とともに大量に提示されているからです。まさに「インテリジェンス」そのものです。

正直、この鈴置論考の価値が理解できない人は、今から84年前の1939年に平沼騏一郎(きいちろう)内閣が独ソ不可侵条約を見て、「欧州の天地は複雑怪奇なる新情勢を生じた」と言い捨てて総辞職したほどインテリジェンスが欠如していた時代から、さして進歩していません。

全文をここで引用することは控えておきますが、結局のところ「韓国は米国や日本が作る『対中包囲網』には加わらず、それどころか米韓同盟を『対北朝鮮』に限定するものに事実上格下げされたのだ」、とする議論が、その根拠とともに示されている、というわけです。

米国側に傾くことを牽制したハンギョレ新聞の「社説」

この点、論考が公表されたタイミングが、ちょうどサミットの期日と重なってしまったためでしょうか、『Yahoo!ニュース』に転載された記事への読者コメント数などから判断する限り、残念ながらこの論考、世の中的にはあまり読まれなかったようです。

しかし、この鈴置論考の内容が正確であるという証拠が、サミットの直後にひとつ出てきています。

韓国の「左派メディア」とされる『ハンギョレ新聞』(日本語版)に今朝掲載されていた、こんな「社説」が、それです。

[社説]韓米日 2分会談、「中国失踪」が一層明確になった尹錫悦外交=韓国

―――2023-05-22 06:51付 ハンギョレ新聞日本語版より

鈴置論考を読んだ直後にこの社説を読むと、大変にわかりやすいと言わざるを得ません。

ハンギョレ新聞は21日の日米韓3ヵ国首脳会談が「わずか2分間の短い会談にとどまった」ものの、韓国の「韓米日一辺倒」の「中国牽制の最前線に向かう」という外交姿勢が明らかになったとして、これを批判しているのです。

こうした主張が凝縮されているのは、こんなくだりでしょう。

安保・サプライチェーン再編などで米日との協力強化は必要だが、尹大統領が過度に韓米日中心の『価値観外交』に外交力を集中し『中国外交』を失踪状態にさせる状況は強く憂慮される」。

ハンギョレ新聞は尹錫悦政権になってから日米韓の密着が「前例のない速度で進み」、「米中競争の中で韓国の外交が米国側に過度に傾いている」と指摘。今回のG7首脳宣言では中露両国を牽制する内容が相当部分を占めていることを受け、次のように述べているのです。

韓国は加盟国ではないため、共同声明には参加しなかったが、尹大統領は今回の主要7カ国首脳会議で北朝鮮とロシアを<中略>強く批判し、『価値外交』基調を強調した」。

尹錫悦氏が「強く批判」した相手に中国が含まれていないのはご愛敬のようなものでしょうか。

ただ、『ハンギョレ新聞』自体が「左派メディア」とされ、「保守派(?)」である尹錫悦政権とは対決路線を取っているという点は割引いて考える必要があるにせよ、「中国に背を向けること」をここまでダイレクトに牽制するというのは、やはり韓国国内に根強い恐中症があることの間接的証拠です。

日本は再び不毛な競争に巻き込まれた

ハンギョレ新聞は歴代の経済副首相などが最近、企画財政部が公開した映像インタビューで「中国に背を向けてはならない」「米国との協力を維持し、中国とも経済関係を活用して柔軟に衝撃を減らすことが必要だ」と述べた、と紹介します。

そのうえで尹錫悦氏に対し、次のように要求するのです。

『韓国の現実を考慮した複合的な外交をしなければならない』という各界各層の苦言にこれ以上背を向けてはならない」。

おそらく、これが韓国国内の「伝統派」の考え方に、最も近いのではないでしょうか。

もっとも、ハンギョレ新聞の社説でも触れられているとおり、中国を牽制するかのようなG7コミュニケからは、韓国は微妙に距離を置いています。中国を刺激しないような配慮が働いているからなのでしょうか。

台湾侵攻の野心をおそらくは捨てていない中国としては、今後、日米、あるいは日米豪印の枠組みを崩すために、やはり韓国で「巻き返し」を図ることになるはずです。つまり、韓国を日米側につけるか、中国側に渡すかという「綱引き」は、今後も続くでしょう。

これなど、地政学的にいえば、「韓国を日本の味方につけるための競争」に再び日本が巻き込まれたという意味でもありますので、少なくとも対韓外交に関していえば、故・安倍晋三総理大臣の時代の「ほどよい距離感」を壊したという意味では、岸田首相はじつに罪深いことをやらかしてくれたものだと言わざるを得ないでしょう。

新宿会計士:

View Comments (13)

  • サムライアベンジャー(「匿名」というHNを使うことは在日の通名を使うのと同じ行為) says:

     左派(=共産主義)であるハンギョレが尹錫悦の行動を批判することは自然ですね。

     従前に、「韓国人の中には、大手紙(=保守系)を読みつつ、いろんな意見を知るために革新系のハンギョレと読み比べたりする人もいる」という意見を聞いたことがありました。

     日本の有志がハンギョレの記事の訳したものを読んでいる時代は、読む価値のある記事がある新聞だと感じていましたが、日本語版がWebで公開されるや否や、狂犬のように「反日」の記事をたくさん出していましたね。まあやっぱりいつもの韓国人、日本語版を作るけど親日じゃないよという姿勢を見せなくてはいけないのでしょう、韓国人ブロガーのシンシアリーさんが確か言っていたように、左でも右でも韓国紙は「反日ですよ」という言葉を思い出しました。新聞というよりサヨクの「活動紙」なのでしょう。

     韓国に、事実を伝える新聞を期待してはいけませんね。おっと、これは日本の新聞社にも言えることですが。

  • 日本の国力(GDP成長率)が落ちている原因は生産年齢人口の減少。
    実は韓国の生産年齢人口も2020年あたりをピークに減り始めている。
    韓国の出生率は異常に低いので生産年齢人口もつるべ落としに落ちていくことになる。
    つまり韓国の国力は今がピークであとは坂を転げ落ちていくということ。
    韓国の尹大統領(またはそのブレーン)はそのへんのところを嗅ぎ取って日米にすり寄っているのかもしれない。
    これからちょくちょく経常赤字を出し慢性的な外貨不足になるだろう。

    • 違いますよ、恥ずかしいなあ笑
      失われた30年と言われるだけあり、デフレだったから、以上です
      逆にインフレに転換した今年はG7で日本の成長率は30年ぶりくらいに1番か2番です
      賃上げ上昇も岸田が大規模増税でもしない限りは上がりつづけます
      アベノミクスのこと、もう少し勉強してください。
      ちなみ、韓国は論外です、2040年からはマイナス成長に転じる予想までありますから

  • 仰る通り韓国は左派右派変わらず反日が国是であり歴史上、変わらず恐中病です‼️尹大統領一人の口先だけで騙されるキシダ‼️危ういと感じます‼️

  • 大手左のハンギョレに加えて右の中央日報も「日米韓一辺倒」を牽制していて世論はそっち、外交部も「伝統派」が多数を占めてるということでしたね。
    それに加えて、尹大統領自身も受け入れた「二流同盟化」を事実と捉えれば、大統領の発言など単なる「リップサービス」だと読めます。

    楽韓さんで紹介されていましたが、朝日が書いたG7参加国のグルーピング図に、韓国の立ち位置がよく現れていると。

    https://www.asahi.com/articles/photo/AS20230519000339.html

    まあ見事なもんです。米中どっちつかずの結果、信頼できる仲間がどこにもおらん、といことでしょうかね。
    朝日さん韓国に仲良したくさんいるでしょうから、この絵を見せて説明してあげればいいのに。

  •  鈴置高史氏はその最新論考で、「4月の米韓首脳会談は、米韓同盟を北朝鮮限定の『二流の同盟』に格下げすることを確定した首脳会談だった」という趣旨の説明をされています。
     しかし、米韓同盟は、締結時の李承晩大統領時代から今日まで、保守政権時代も革新政権時代も常に北朝鮮限定の『二流の同盟』だったというのが実際だと思います。
     従って、日本政府も「日米韓連携」は北朝鮮限定と理解し、その範囲で必要な協力はすると割り切り、それ以上の協力(例えば「通貨スワップ」)はしないという方針で対処すべきだと思います。
     そうすれば、韓国の政権が保守になろうが革新になろうが右往左往する必要がありません。
     岸田首相がそうした方針で韓国政府に臨んでいるのならば善いのですが、「北朝鮮限定」を超える協力を実施して、その後に革新政権が誕生した場合、その時の日本政府がそのとばっちりを受けて右往左往しなければならなくなります。そうならないように祈るばかりです。 

  • ん?だったら新宿会計士さんもしっかり主張すべきではないか?
    岸田自民は支持しない!みなさん、国民、維新に入れましょう!とね

    • このサイトの一読者です。
      その一読者の意見を書かせて頂きます。

      このサイトには、政治信条はありません。
      ただ、その時々の政治を含めた社会問題や課題を取り上げて、主催者の意見・見方・考えが書かれているのです。
      今まで、どこかの政党を支持した記事を読んだことはありません。
      ただ、偶に、自分の主張が色濃く出た記事はあります。
      それを持って、読者は、盲目的にそれに影響をされることは無いと思います。
      このサイトの読者は、そういう方が多いです。
      つまり、このサイトの主催者の新宿会計士さんの一つの意見という捉え方をして記事を楽しんでいる方が殆どのように見受けられます。
      また、新宿会計士さんも、自分の意見に同調しろ、などという考えは微塵も持っておられないことは、良く分かります。

  • >>>韓国を日米側につけるか、中国側に渡すかという「綱引き」は、今後も続くでしょう。
    これなど、地政学的にいえば、「韓国を日本の味方につけるための競争」に再び日本が巻き込まれたという意味でもありますので、少なくとも対韓外交に関していえば、故・安倍晋三総理大臣の時代の「ほどよい距離感」を壊したという意味では、岸田首相はじつに罪深いことをやらかしてくれたものだと言わざるを得ないでしょう。

     
     彼の国に、左傾化の強い潮流の中で僅差とは言え、保守派の親米親日の大統領が誕生したのですから、日米ともお付き合いはしなければならないでしょう。
     左傾化の流れの強さを見ていると、保守派にとってこれが最後のチャンスとなりそうな雰囲気です。
     伊大統領の残り4年で、保守派がどれだけ巻き返すか?
     これが、日米が見ていることです。左の流れの強さが今より伸長して行くようならば、伊大統領の在任中に、日本と米国は、対半島つまり対大陸の防衛ライン戦略を固めていくべきでしょう。具体的には、対馬の自衛隊の基地などを強化しなければなりませんし、九州北部も何らかの防衛体制の強化を行う必要が出てきます。佐賀県が、オスプレイ反対などと言っている暇はありません。
     伊大統領後に左派政権が出来れば、もう韓国はこちら側に戻ってくることは無いでしょうから。
     日米と韓国の保守派にとって、最後の賭けの4年間です。
     4年後の大統領選で保守派が負けたら、即刻、伊大統領は米国へ亡命するべきでしょうね。
    左派系の勝利の結果が出次第、伊大統領逮捕に向かうでしょうから。
     今後4年間、実質は2年間程が、勝負の時間でしょう。 

    • 訂正します。
      大統領選の結果が出た後も大統領の任期が切れるのは少し後ですから、即刻という訳には行きませんね。

      韓国が向こう側に完全に行ってしまった場合は、力学がいろいろと変わりますから、日本もいろんな戦略の見直しが必要になります。

      例えば、今は、半島の38度線に防衛ラインがあるので、日本は、北の衛りに専念出来ています。
      これが、半島の先端にまで防衛ラインが下がってくると、南の衛りもしなければならなくなります。
      つまり、2正面作戦が必要になります。これは、前から言われていることで、自衛隊にそれだけの人員が確保できるか、という問題が出てきます。

      北は、今ロシアが弱体化するのではと言われていますから、手薄にしても良いかと言えばそういう訳にも行かないでしょう。ロシアに代わる勢力が出て来るのですから。

      このサイトは、韓国に注目することが多いのですが、韓国とは、対大陸対策の中に含まれる問題であって、大枠で見て対韓国に特化した独立した問題がある訳ではありません。
      あるとすれば、過去40年間、日本企業は韓国に入れ込み過ぎたということです。

      ここ2年の趨勢を見て、韓国進出の日本企業は、撤退も視野に入れた対策を立て、更には具体的な行動を取って行かなければなりません。
      もし、4年後に左派政権が誕生すれば、より先鋭・過激になっていることは間違いありませんから、いろんな理由を付けて、企業資産の没収にかかるかもしれません。これは、かなり、ほぼ確率99.99%レベルの予測です。

    • 国内支持率を見ている限り「保守派」へ米日(米国主体なので)が片思いしているだけで、普通に朴槿恵や李明博みたく途中から中国回帰を強めるようにしか思えないんですけどね韓国。
      中国が太平洋に進出するのが常態化してる段階で、韓国ってぶっちゃけ日本を繋ぎ止めていれば要らない駒だと思うんですが。
      民主党政権伝統のジャパンバッシングですかねえ。台湾の方が遥かに重要なのに最近は中国と手打ちみたいな動きばかり

      • あと、4年、実質は2年、様子を見るだけです。
        保守派と言っても、朴槿恵や李明博と違って、伊大統領は、自分で考える人の様ですから、様子は見てもいいと思います。
        伊大統領は、本人とすれば、個人的には大統領になんかなる必要のない人ですが、自分なりに韓国を何とかしたいと思って大統領に立候補したのでしょう。

        日本とすれば、韓国は付き合う必要はないのですが、韓国によって、防衛ラインを日本から距離のある所に置けるメリットがあります。
        韓国にしても、日米のこんな本音が痛いくらいに分かっているから、不安で仕方がないのです。

  • 今の韓国大統領は前任者のやらかしを修正する為にかなり命がけな事を繰り返して
    いつ国内世論から火あぶりにされるか、くらいの状態ですね。
    それでも反日をやめる訳ではないし、中国に立ち向かう勇気など出るはずがないと言うのが
    韓国と言う国のどうしようもなさですが。

    対中国では全くアテにならないが、一応対北朝鮮の”障害物”や”肉壁”くらいには
    なるので、最低限飢えない程度の”エサ”は与えるべき……が今の日米のスタンスなのかな?
    だとしたら、その”エサ代”の負担の割合で頭が痛くなりますが……