いまさら「ルーブル国際化」言い出すロシア中銀の迷走
国際的な決済網から排除されたロシアが次に手を出すのは「ルーブルの国際化」と「CBDC(中央銀行デジタルカレンシー)」なのだそうです。なんだか順調に迷走しています。こうしたロシアの行動は、主要国による金融制裁が功を奏している証拠に見えてなりません。
ロシアに対する金融制裁の効果はてきめんに
ロシアによるウクライナ侵攻からそろそろ1年が経過しますが、この1年間は「侵略者」であるロシアと「被害者」であるウクライナの戦いという側面だけでなく、経済・金融面でロシアの戦争遂行能力を低下させようとする西側諸国とロシアとの戦いだった、という側面もあるのかもしれません。
こうしたなかで、ロシアに対する西側諸国の制裁の効果がてきめんに表れた分野があるとしたら、そのひとつは間違いなく、金融面でしょう。
西側諸国はロシアのウクライナ侵攻発生直後に、さっそくにロシアの主力銀行を国際的な決済網であるSWIFTNetから排除する措置を決定。SWIFTが公表している国際決済取引における通貨別内訳の上位20位のデータから、ルーブルの姿が消えました。
先週の『中国人民元の国際送金シェアが日本円の3分の1に低下』でも取り上げたとおり、国際的な送金における通貨のシェアは、基本的には米ドルトップを占め、2位がユーロである、という構造にあります(※この順序はごくまれに入れ替わります)。
また、このランキングはユーロ圏を含めて集計した場合と、ユーロ圏を除外して集計した場合で、通貨のシェアや順位が異なるのですが(図表1)、なぜ人民元のシェアがユーロ圏を除外したデータよりもユーロ圏を含めたデータにおいて高いのかについては、理由はよくわかりません。
図表1 通貨別国際送金シェア(2023年1月。左がユーロ圏込み、右がユーロ圏除外)
(【出所】SWIFT『RMBトラッカー』をもとに著者作成)
上位20位圏から消えたルーブル
ただ、ロシアを巡ってここで重要な点があるとしたら、ロシアの通貨・ルーブルがすっかり消えてなくなってしまったことでしょう。
図表2 ルーブル(RUB)の決済シェアトランク(ユーロ圏含む)
図表3 ルーブル(RUB)の決済シェアトランク(ユーロ圏除く)
ユーロ圏を含めたデータでは、ルーブルは2015年ごろまで上位20位以内に登場することがあったのですが、最近だと20位圏内に入ることはあまり多くありませんでした。これに対し、ユーロ圏を除外したデータでいえば、2022年2月までは、コンスタントに20位圏内に入っていたことが確認できます。
しかし、昨年3月以降、ロシアの通貨はこのランキングからすっかり姿を消しました。
外貨準備も大半が凍結済み
また、ロシアの外貨準備についても、おそらくは3分の2前後がすでに凍結され、使用できなくなっているものと考えられます。
国際通貨基金(IMF)が公表している『IRFCL』(正式名称は ” International Reserves and Foreign Currency Liquidity” )というデータに基づけば、ロシアの2022年1月時点の外貨準備高は6302億ドルでした。
その内訳は証券や預金が4633億ドル、金地金が1323億ドルなどとなっており、IMFリザーブポジションやSDRを除けば6009億ドルですが、これにロシアの中央銀行が発表している外貨準備の通貨別内訳に関するレポートから逆算すれば、ロシアの外貨準備の通貨別構成を試算することができます(図表4)
図表4 2022年1月時点のロシアの外貨準備の通貨別内訳(想像図)
通貨別構成 | 金額 | 全体の割合 |
ユーロ | 2085億ドル | 33.90% |
米ドル | 671億ドル | 10.90% |
英ポンド | 381億ドル | 6.20% |
日本円 | 363億ドル | 5.90% |
加ドル | 197億ドル | 3.20% |
豪ドル | 62億ドル | 1.00% |
シンガポールドル | 18億ドル | 0.30% |
西側諸国通貨小計(①) | 3777億ドル | 61.40% |
金地金 | 1323億ドル | 21.50% |
人民元 | 1052億ドル | 17.10% |
西側諸国通貨以外(②) | 2374億ドル | 38.60% |
合計(①+②) | 6151億ドル | 100.00% |
(【出所】「割合」はロシア中央銀行・ロシア下院向けレポート【※PDF】のP123、「金地金」の「金額」はIMF、「合計額」は「金地金の金額÷割合」、各通貨の金額は「合計額×割合」で算出。「合計」額は必ずしもIMFデータと整合するものではない)
このことから、西側諸国が昨年凍結したロシアの外貨準備資産は3700~3800億ドル前後とみられます(※ただし、為替変動があるため、現時点で再計算すると金額は大きく変動する可能性があります)。
結局のところ、ロシアにとっての「頼みの綱」は、金地金を除けば人民元建ての外貨準備資産です。昨年1月末時点の為替相場(1ドル≒6.4元前後)で逆算すれば、ロシアが保有する人民元建ての資産は6700億元ほどでしょう。
この6700億元の外貨準備とは別に、ロシアは中国との間で中露通貨スワップ(1500億元)を締結していると考えられるため(『【総論】中国・人民元スワップ一覧(22年8月時点)』等参照)、ロシアが保有する人民元のポジションは8000億元前後、ドル換算で1200~1300億ドル程度です。
ただ、現時点において人民元決済の割合が大きく増えたという事実はないため、中露の通貨圏の一体化という流れは、順調に進んでいるようには見えません。
ロシアの通貨政策は迷走中
こうしたなか、ロシアの中央銀行が先日、何やら奇妙な発表をしていました。
Bank of Russia establishes International Settlements Department
―――2023/02/15付 ロシア中央銀行ウェブサイト英語版より
Russia to launch CBDC pilot in April
―――2023/02/20付 Central Banking Newsdeskより
ひとつめの記事によれば、ロシアの中央銀行は「国際決済局」なるものを新設し、「ルーブルの国際化」を推進することにしたのだそうです。もちろん、国際的な経済・金融制裁への対策ということですが、その狙いについてロシア中銀は次のように述べています
「ロシアの銀行と友好国からの取引相手との間のコルレス関係の発展、自国通貨での決済への移行、および国境を越えた取引の機会の拡大を含んでいる」。
また、ふたつめの記事によれば、ロシア中銀は4月以降、「中央銀行デジタルルーブル」の実証実験を開始することにしたのだそうです。具体的には、13の商業銀行が個人・リテール向けに「CBDC」(Central Bank Digital Currency, 中銀電子通貨)を提供する予定だとしています。
このCBDCに関しては、昨年、オピニオン誌『月刊Hanada』でも議論した(『月刊Hanada「デジタル人民元脅威論者たちの罠」』参照)とおり、正直、もともとの通貨の使い勝手があまりよくないなかで、通貨を電子化したらその通貨の決済が増えるという話にはならないと思います。
ただ、こうした動きは、国際的な決済網からの排除がロシアにとって金融面で大きな打撃をもたらしていること、そしてこれに対するロシアの対応が迷走していることを意味しているように見えてなりません(というよりも、通貨の使い勝手が悪化したときにCBDCに手を出すのは、無法国家の共通点なのかもしれません)。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
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ラジオニュースを聞き流しただけで、キチンと聞いてないのですが、NHKでは中国元決済が増えているようなことを言ってました。
いづれにせよ中国の利にはなってほしくないです。NHKはやたらとパンダのニュース流して中国推しに余念がなく鬱陶しいです。
プーチンの肖像入りのルーブルを発行して、それでしか決済できまへんとかするのかしら。戦前のウクライナのお土産(トイレットペーパー)にあったとか。
国際法破りと契約者の概念破棄も含め貨幣経済への冒涜とウクライナの種子保存施設への爆撃は、キリスト教のローマ図書館焼き討ちに匹敵する人類と地球への冒涜だと思っていますので領土問題でも核の問題以前に万死にあたいすると考えております。
人類と人類史の否定ですから。