国際法を守らない国から「日本は国際法を守れ」と言われたら、おそらくは誰もが驚いてしまうことでしょう。著者自身、不覚にも新鮮な衝撃を受けてしまいました。韓国メディアの報道によると、自称元徴用工が「日本政府はハーグ国際送達条約を守らない」として、日本を批判したと伝えられているからです。長年、コリア・ウォッチングをしてきた身としては、たいていのことには驚かない自信があるのですが…。
インターネット時代の特徴
前世紀末から今世紀初めにかけ、インターネットに初めて触れた人々は、おそらく大変な衝撃を受けたはずです。なぜなら、それまでドップリ漬かっていた日本の新聞やテレビの報道ぶりとはまったく異なる世界がそこに存在しているからです。
著者自身が初めてインターネットというものを体験したのは、ちょうど30年前のことです。
当時、著者が通っていた大学では、日本ではまだ珍しかったインターネット環境が整いつつあり、電算センターに申請すれば電子メールのアカウントを受け取ることもできました(※ただし有料でしたが)。
ただ、当時はまだ世界的に見てネット自体が一般的ではなかったという事情もあってか、大学を卒業すると、いったん数年間はネットから離れてしまいました。
しかし、その間もネットの進化は続いており、その後、会計監査業界に飛び込むと、就職した監査法人でいきなりノートPCを貸与され、クライアントとの書類のやり取りも電子メールの添付ファイル形式で行う、といったことが徐々に一般化し始めていました。
もちろん、当時はまだメールでやり取りできる添付ファイルの容量も大きくなかったためか、FAXとメールを併用する、といったことも一般的でしたが、それでも「すべてがウェブ上で完結する」という時代の到来を予見するには十分な時代だったと思います。
いったんインターネットの便利さに慣れてしまうと、そこからは毎日のようにネットに接する生活が始まります。そして、日本の新聞・テレビ以外のルートを通じてさまざまな情報を直接得るようになると、インターネットの便利さにますます魅了される、という正の循環が生じたのでしょう。
韓国メディアから受ける新鮮な衝撃
こうしたなかで、いつの間にか発見したのが、日本語版ウェブサイトを開設している複数の韓国メディアだったのです。
やはり、その報道ぶりがあまりにもぶっ飛んでいて、心の底から驚きました。記事を通じて透けて見える様々な発想が、私たち日本人の常識とはあまりにもかけ離れていたからです。
正直、長年、コリア・ウォッチングをしていると、いまさら韓国メディアの報道を少し眺めたくらいで驚くことはほとんどありませんが、それでもときどきは、不覚にも新鮮な衝撃を感じてしまうこともあります。
昨日の『別の自称元徴用工訴訟で公示送達』では、自称元徴用工問題(※)を巡って、原告84人が日本企業17社を相手取って起こした損害賠償訴訟の二審で、ソウル高裁が「公示送達」の手続をとった、とする韓国メディアの報道を紹介しました。
韓国メディアの報道によると、自称元徴用工訴訟を巡って「公示送達手続」が取られたそうです。珍しく一審で却下された訴えの控訴審を巡り、訴えられるという被害に遭っている日本企業が無対応を貫いていたところ、韓国の高裁が先月31日に日本企業に対し公示送達の手続を命じたのだそうです。公示送達:一審却下理由がなかなか強烈自称元徴用工問題を巡って、ちょっとした動きがあったようです。韓国メディア『聯合ニュース』(日本語版)によると、今度は三菱重工業に加え、住石マテリアルズなど日本企業7社を相手取った損害賠償訴訟... 別の自称元徴用工訴訟で公示送達 - 新宿会計士の政治経済評論 |
(※)自称元徴用工問題とは?
韓国国内で「強制徴用された」などと自称する者たちやその関係者らが無実の日本企業を次々と訴え、最高裁に相当する「大法院」を含めいくつかの裁判所が日本企業に損害賠償を命じる違法な判決を下している問題。さらには、韓国メディアは被害企業を「戦犯企業」などと呼称している
(【出所】著者作成)
このあたり、韓国国内では「強制徴用被害者」というウソが信じ込まれているという問題点に加え、被害者である日本企業のことを「戦犯企業」と呼称するなど、二次被害、三次被害が現在進行形で発生し続けているというのも大きな問題でしょう。
国際法を守らない国から「国際法を守れ」と言われてしまった…
こうしたなかで、韓国メディア『中央日報』(日本語版)に13日付で掲載されたこんな記事を読むと、いかに長年、コリア・ウォッチングをしていたとしても、久しぶりにびっくりするという体験ができるかもしれません。
韓国裁判所、「強制動員」日本企業に公示送達命令…訴訟5月再開
―――2023.02.13 07:36付 中央日報日本語版より
自称元徴用工らのことを中央日報の記事では「強制動員被害者」と呼称していますが、今回紹介したいのは次の記述です。
「強制動員被害者の原告側は『日本政府に訴状を送れば被告企業に伝達するべきだが、日本政府が受け取らない』とし『ハーグ送達条約上の義務も守らない』と批判した」。
これについては本当に驚きます。
そもそも2018年の大法院判決を含めた自称元徴用工判決自体が国際法に違反していて、こうした国際法違反の判決を放置しているのが韓国の側であるという事実を踏まえると、そのような国から「日本は国際法を守れ」と言われても、これはもうただひたすら「驚く」以外に反応のしようがありません。
あるいは、日本政府がこの問題を解決するために、日韓請求権協定第3条の規定に従い、平和的、友好的、紳士的に手続を踏んだにも関わらず、韓国政府がこれを完全に無視したという事実『「河野太郎、キレる!」新たな河野談話と日韓関係』等参照)については、いったいどう考えればよいのでしょうか。
先ほど「速報」として、河野太郎外務大臣の談話を紹介しましたが、その続きとして、談話、記者会見、河野氏と駐日韓国大使との面談についても紹介しておきます。とくに、河野氏と駐日韓国大使の面談については、産経ニュースが動画サイト『YouTube』にアップロードしているのですが、その内容を確認すると、河野氏がカメラの前であるにも関わらず、韓国側の「基金案」に対し、通訳を遮り、「ちょっと待っていただきたい」などと激高するなど、さまざまな面で異例ずくめです。河野大臣の発言河野大臣の談話河野太郎外相は先ほど、韓国の... 「河野太郎、キレる!」新たな河野談話と日韓関係 - 新宿会計士の政治経済評論 |
人間、あまりにも驚くことが多すぎると、たいていのことには驚かなくなるものですが、そんななかでも今回のような事例は、やはり新鮮な衝撃を覚えることができる、というわけです。
興味深いですね。
いっそのこと貫いてしまえば?
韓国政府は現在、いわゆる「財団方式」での「問題解決」を目指している、などとされています。
ただ、もともとの問題が韓国の司法システムから出ているわけですから、これを「司法システム外」で解決しようとするアプローチは、適切ではありません。やはり「司法のプロセス」に従って解決するのが筋です。
たとえば、韓国の司法プロセスを重視するのであれば、差し押さえている日本企業の資産(知的財産権や非上場株式など)を換金するのが正解です(知財や非上場株式をどうやって換金するつもりなのかは知りませんが…)。
そして、あとは日韓の外交上のプロセスとして、日本政府が韓国に対する対抗措置ないし制裁措置を講じることで、問題は自然解決します。たとえば日本政府が韓国の在日資産(円建ての外貨準備など)を凍結・没収し、被害企業に弁済すれば済むからです。
あるいは、日本企業の資産現金化に伴う日本政府の制裁をどうしても避けたいのであれば、ハーグにある国際司法裁判所(ICJ)への付託で合意すれば済む話でしょう。
ついでに日本が長年、ICJ付託を要求している韓国による竹島不法占拠問題についても、同時にハーグに付託してしまえば、日韓諸懸案のうちの大きなものが、一気に2つ、解決します。それが最も正常なアプローチではないでしょうか。
もちろん、韓国のことですから、ハーグで敗訴したとしても、ICJ判決に従わない、という可能性は十分にあります。ICJ判決に従うかどうかはその国の自由だからです。
しかし、もしも韓国がICJ判決に従わないのであれば、今度は日本の側に、「ICJ判決に従わない国」との国づきあいをどのように再考するかについて、決定する自由があります。
こうした話を持ち出せば、世の中には「日本の安全保障環境が厳しいなかで、日本は韓国と対立している場合ではない!」「日韓諸懸案は早く解決して日韓協力すべきだ!」などと甲高い声で叫ぶ者が出てきます(『松川るい氏のツイートに見る「日韓関係改善論」の詭弁』等参照)。
自民党参議院議員である松川るい氏の日韓関係を巡るインチキ議論に続きが出てきたようです。松川氏が「作家」のツイートに反論する形で、日韓関係を「改善」する必要性を滔々と力説しているのですが、これが日韓関係に関する典型的な詭弁の塊のようなものなのです。松川氏の詭弁に騙されそうになっている人は、是非とも韓国観察者である鈴置高史氏の論考を読んでみてください。松川議員の「対韓譲歩」論の詭弁昨日の『自称徴用工で対韓譲歩促す松川るい議員のインチキ理論』では、自民党の松川るい参議院議員がフジテレビの番組に出演... 松川るい氏のツイートに見る「日韓関係改善論」の詭弁 - 新宿会計士の政治経済評論 |
しかし、残念ながら、「日韓諸懸案を解決すること」と、「日韓安全保障協力が円滑に進むこと」とは、論理的にまったく繋がりません。日韓諸懸案を(日本が譲歩するかたちで)解決したとして、日韓安全保障協力が日本にとって好ましいかたちで実現するという保証はどこにもないのです。
逆に、日韓諸懸案については「積極的放置」しつつ、米国の恫喝を活用して日韓・日米韓安全保障協力を(とりあえずは)円滑に進める、という「ツートラック外交」の方が、ここでは有益です。
もちろん、韓国のような「信頼に値しない国」との防衛協力を進めるべきかどうかという論点はあるのですが(※というよりも「日米豪印クアッド」「日米蘭半導体同盟」など、論じたい点は山ほどありますが)、ここで重要な点は、日本にとっての「日韓・日米韓協力」はその程度のものだ、ということでしょう。
いずれにせよ、外務省が拙速に韓国側と変な合意を結んだりしないよう、自民党議員の皆さんには頑張っていただきたいと思います。
なお、個人的には、5月の広島サミットまで粘れば、「日韓徴用工合意」構想自体が流れてしまうと現時点においては考えているのですが、この点については機会があれば別稿にて説明したいと思う次第です。
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10年以上にも亘って韓国ウォッチをしていると、ハーグと聞けば反射的に「ハーグ密使事件」を連想してしまいます。我ながらなんだかなぁ、と感ぜざるを得ません。
まぁ,このハーグ送達条約にしても、かのハーグ密使事件同様に彼の国が勝手に踊って見せた挙げ句に見事にすっころんで終わりそうだ、という予感しか覚えませんがね。(笑)
負けるのが確定している戦いへ行く道が開けた(開けてない)としても、負けは負けな気がしますけど。何か意味ありますかねこの切り口。
日本人は周りからの目や体裁を気にする風習があると思います。
この件は、この特性を突いた、日本の外務省の入れ知恵かもしれません。
お疲れ様です。
ウソつきや約束を守らない関係は、ビジネスなら終わっているのが自然で当然だとおもいます。こちらのほうが、倒産危機になってしまいますから。
人間関係でも約束を守らないと、普通は別れるでしょう。
ウソつき国家も、そのほうが良いと私はおもいます。
もしくは限りなく、遠い関係に。
ウソつき国家とは近くて遠い関係は、日本取っては良い関係だとおもいます。
自称元徴用工の皆様へ
国際法では、国際違法行為(韓国大法院の国際法違反判決)を受けた被害国(日本)は、加害国(韓国)に対して国際違法行為(ハーグ送達条約違反)でもって対抗することが認められています。この場合、被害国(日本)が行う国際違法行為は「対抗措置」と言われ、違法性が阻却(違法性が消滅すること)されます。
つまり、日本政府のハーグ送達条約違反は、韓国大法院の国際法違反判決に対する「対抗措置」であり、国際法で認められており、国際法違反ではありません。
一度国際法違反と言ってみたかったということは想像に難しくなく、長年の胸のつかえがとれスッキリしたのかもしれない。それ以上の意味は特に無いのかと。
更新ありがとうございます。
中央日報さんが以前も同じ主張をしていた記憶があります。
ハーグ送達条約は、2018年12月21日に10条aに基づく「受け取り拒否宣言」を既に行っていたかと思います。
2017年の米国の最高裁判決を受けてとの解釈もありますが、拒否宣言を行った日付を見て、思わず笑ってしまったのを覚えています。
当時の政権なら、下手な譲歩に対する不安もかなり少なかったのですが。
ハーグ送達条約第10条(a)への拒絶宣言とその意味については、以下に詳しく解説されています。
https://japanese.pillsburylaw.com/siteFiles/28453/Legal%20Wire%2059.pdf
従って、郵送による公示送達の試みは意味を成しておらず、受け取りを拒否してもハーグ送達条約には違反しません。ただし、中央機関(central authority)を通した送達は依然として可能ですので、どうしてもということであれば、それこそ外務省を通して送達すればよいのですが、どうやら韓国側はそこまで行おうとはしていないようです。
さて、何故でしょおねえ?
結論: 郵送による公示送達の受け取りを拒否すること自体は、2018年12月21日に日本政府が行ったハーグ送達条約第10条(a)への拒否宣言により、何ら条約に違反するものではない。つまり、中央日報の記事は、素人にすら論破される程度の「言いがかり」でしかない。
龍様コメントありがとうございます。
>中央日報の記事は、素人にすら論破される程度の「言いがかり」でしかない
保坂某教授などもそうなのですが、素人が十分程調べただけでバレる無理な主張を繰り返し行います。
最初は不思議に思っていましたが、今では「そういった類いの集まり」と、個人的には認識しています。
問題なのは政府や外務省から何も否定的な表明がないことでしょうか。
まあ次から次へと繰り返して来るので、一々相手にしていられない、という方針だと思います。
東京新聞辺りがぶら下がりかどこかで質問し、騒ぎ立ててもらえれば反論にも繋がると思います。ただ流石にその手の容易に反論できることは、記者として恥ずかしい?? とでも思っていそうです。
龍 様へ
横から口出しして申し訳ありませんが、韓国の裁判所は日本政府外務省を通じて被告日本企業に訴訟関係書類を送達しようとしたのですが、日本政府外務省が被告日本企業に送付せずに、そのまま韓国裁判所へ送り返したのが事実のようです。
つまり、韓国裁判所はハーグ送達条約に従って送達しようとしたのに、日本政府は応じなかったようです。その理由として考えられるのは、国際違法行為(韓国大法院の国際法違反判決)に対する「対抗措置」ということだと私は考えます。
(参照)https://jp.yna.co.kr/view/AJP20190806004900882
なるほど。
国際法遵守にうるさい外務省が理由も付さずに返送したということは、ハーグ送達条約第13条に基づく「拒否」ではなく、何らかの文書の形式的不備があったのかもしれませんね。重箱の隅をつついて難癖をつけるのは、外務省の得意技ですから。少なくとも、ハーグ送達条約には、文書の形式的不備について、それを指摘せよという文言はありません。
また、同第14条では、送達に問題があった場合に外交当局間で協議せよとなっていますが、そのような協議が行われたかどうかは不明です。
なお、同第15条、第16条によれば、送達が完了されようがされまいが、裁判の実施には影響はありません(多少審理などの進行が遅れますが)。実際、その通りに裁判は進行し、結審してますね。
また、日本政府は、当該の裁判そのものを請求権協定に違反するものとして否認していますので、ハーグ送達条約適用外と判断しているのかもしれません。つまり「裁判」ではないとみなしているという可能性もあります。いずれにしても、アノ外務省が対抗する論理を用意してないとは思えませんので。
参考: http://www.pilaj.jp/text/soutatsu.html
日和った対応をするかもしれない日本当局側のハードルを高める行為であり、歓迎すべきことだと思います。これからもドシドシと思い上がった論説を披露していただきたいです。
>もともとの問題が韓国の司法システムから出ているわけですから、これを「司法システム外」で解決しようとするアプローチは、適切ではありません。やはり「司法のプロセス」に従って解決するのが筋です。
本当にそのとおりだと思います。
自称元徴用工問題についても、元々は、韓国大法院の日韓請求権協定違反判決に関し、当時の韓国大統領だったムンちゃんは、「司法判断に行政は介入できない」と言って突っぱねてたわけですから、韓国はその方針を最後まで貫けばよかったのです。
それなのに、もし本当に韓国が日本企業の資産を現金化してしまったら、韓国が日本から制裁されてしまって困ったことになるという、「完全に韓国側の都合」によって、ユンちゃん政権になってから、「財団による肩代わり方式」などという与太話を言い出したわけです。
なんか、司法判断に思いっきり行政介入しているように見えるんですけど。
おまけに、「完全に韓国側の都合」で動いてる話なのに、韓国はなぜか日本に対して「誠意ある呼応を見せろ」とか言ってきてるわけで、こんな話は「知るか」と言って交渉を打ち切るのが、日本の対韓外交の姿勢として正しいと思います。それなのに外務省は、「韓国と緊密に意思疎通してまいります」のセリフを何かの一つ覚えのように繰り返しつつ、韓国外交部の与太話にハイハイ言いながら耳を貸してるわけで、こんな外務省の対応自体がもう、現在進行形で日本の国益毀損行為だと思います。
自称徴用工の問題がなかなか片付かないのは、韓国の戯けた与太話に日本の外務省がお付き合いし続けているからというのが、かなり影響してると思います。外務省には、日本の国益を守るためにちゃんとまともにお仕事をしてほしいなぁと心から思います。
法を守らないのは弱者(被害者)の特権だと思っている。
「守らない」と「守れない」を意識的に混同してんだろうね。
*法は弱者を守るもの。法は弱者も守るもの。なのにね。