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松川るい氏のツイートに見る「日韓関係改善論」の詭弁

自民党参議院議員である松川るい氏の日韓関係を巡るインチキ議論に続きが出てきたようです。松川氏が「作家」のツイートに反論する形で、日韓関係を「改善」する必要性を滔々と力説しているのですが、これが日韓関係に関する典型的な詭弁の塊のようなものなのです。松川氏の詭弁に騙されそうになっている人は、是非とも韓国観察者である鈴置高史氏の論考を読んでみてください。

松川議員の「対韓譲歩」論の詭弁

昨日の『自称徴用工で対韓譲歩促す松川るい議員のインチキ理論』では、自民党の松川るい参議院議員がフジテレビの番組に出演し、「日韓とも置かれた立場を考えれば、今以上に日米韓の安全保障の連携が必要な時はない」などと述べた、とする話題を紹介しました。

日韓関係において、自民党の松川るい参議院議員は最も信頼できない政治家のひとりと断言せざるを得ません。というのも、この人物は日曜日、フジテレビの番組に出演し、「日韓とも置かれた立場を考えれば、今以上に日米韓の安全保障の連携が必要な時はない」としたうえで、自称元徴用工問題を「尹錫悦政権のうちに解決しなければならない」として、日本の譲歩を促したからです。ただ、この人物のインチキ主張、どこがどう間違っているのかについて、きちんとまとめておいても損はありません。「日韓関係が大事だよ」論の大間違い2年前...
自称徴用工で対韓譲歩促す松川るい議員のインチキ理論 - 新宿会計士の政治経済評論

これなど典型的な「日本が韓国に譲歩せよ」理論です。

松川氏が述べる内容のうち、「現在、日本が置かれた安全保障上の立場が大変に厳しい」という点についてはそのとおりですが、そのことと「日韓諸懸案を巡って日本が韓国に譲歩するかたちでの解決を図ること」は、理論的にはまったくつながりません。

鈴置論考ですでに否定されている論点だが…

ちなみに何度も引用して恐縮ですが(そしてこれからも何度も引用するつもりですが)、日本で最も信頼に値する韓国観察者のひとりである鈴置高史氏は2月1日付の『デイリー新潮』記事で、「安全保障上の理由で日本が韓国に譲歩せよ」とする主張の誤りを、懇切丁寧に説明しています。

台湾有事が引き起こす第2次朝鮮戦争 米日の助けなしで韓国軍は国を守れるのか

韓国人が「見捨てられ」を恐れ始めた。台湾有事となれば北朝鮮が韓国を挑発する可能性が一気に高まる。その時、米国と日本は台湾支援にかかりきりになっているのだ。「一人で戦え」と突き放される隣国は核武装に走ると韓国観察者の鈴置高史氏は読む。<<…続きを読む>>
―――2023年02月01日付 デイリー新潮『鈴置高史 半島を読む』より

鈴置氏によると、「日本との協力が必要不可欠」なのは、じつのところ、韓国の側だというのです。

それを知らない日本人が多い。『半島有事の際、日本人退避に自衛隊機を送ろうにも今のままでは韓国が許可しない。だから『徴用工』問題などで韓国に譲歩して関係を改善すべきだ』と主張する日本の専門家がいます」。

これはまったくの事実誤認です。韓国にとってこそ、日本との協力が死活的に必要なのです。有事の際に自衛隊機の受け入れを拒否するなどという傲慢な選択肢は韓国にはありません。それどころか、その自衛隊機に韓国人も乗せてくれ、と言い出しかねない」。

松川るい氏が「日本の専門家」なのかどうかはわかりませんが、少なくとも「自称元徴用工問題などで韓国に譲歩して関係改善すべきだ」と主張している人物のひとりであることは間違いありません。そして、松川氏のような発想、鈴置氏の言を借りれば「まったくの事実誤認」、というわけです。

「作家・ジャーナリスト」の松川氏への批判

ところで、この松川氏のフジテレビ番組での発言に対し、「作家・ジャーナリスト」の門田隆将氏がツイッターで舌鋒鋭く批判したようです。

松川氏が「日韓利権に群がる人物」のひとりなのかどうかを含め、こうしたツイートの是非についてはこの際脇に置くとして、ここで重要なのは、松川氏自身がこのツイートに反応したという事実です。

松川氏の投稿内容

大変に長い連投ですが、文体を整え、改行設定などを行って読みやすくすると、こんな具合です(単語の重複などについては削除するなど、文意を変えない範囲で文章を添削しています)。

門田先生、初めまして。私と全く面識もないのにコメントありがとうございます。

御論文には多いに同意するものもあるので残念ですが、正直、悪意を感じる切り取り及びコメントです。私は、twという媒体の限界も感じているので本位ではありませんが、これもう2回目なので今回はスルーはやめにします。

明るい未来があることを示して、伊政権が韓国自身で本件問題を解決することを逍遥することは、日本自身の国際環境を良くする上で有意義です。

輸出管理の件について言えば、地上波で時間がない中詳しく話せませんでしたが、徴用工とは別問題ですが、日韓の間の問題(韓国側が問題にしている)では輸出管理の件は、韓国側は解除を求めており、WTO提訴もしています。

輸出管理の件は、①実際に、韓国の措置が甘くて心配、②日韓輸出管理当局間の対話が途絶え信頼関係が持てなくなっている、ことに起因します。①については、韓国は人員増やしての体制強化などに取り組んだと言っています(要確認)。

②については、日韓輸出管理当局間の対話が途絶えたのもムンジェイン政権の下で「徴用工」問題が蒸し返され日韓間で正常な関係がなくなったからです。

ですから、徴用工問題の解決の道筋がつけば、日韓輸出管理当局間での意思疎通も正常化され、輸出管理の問題は、韓国の能力面での改善(①)を確認でき韓国の輸出管理体制改善を確認し、当局間での意思疎通が正常化すれば、元に戻すことは、特に日本がなにかを曲げてやる筋のことではありません。

無論、韓国のWTO提訴取り下げも混みであることは言うまでもなく当然のことです。その他にもGSOMIA正常化など様々なことがあります。

しかし、全ての全ての元凶は「徴用工」判決の問題です。韓国自身が起こした問題を韓国自身で解決しようとしているのです。日本の譲れないラインを譲るべきではありませんが、可能な範囲でユン政権ができるだけ仕事をしやすいようにするのは日本にとって望ましい結果をもたらすために重要です。

外交というのは、自分が正しいと思うことを唱えていれば上手くいくという類ものではありません。大抵、相手国は「違う世界」に生きていますし、その世界観を変えるのは「帝国」以外、というか「帝国」であっても難しいことです。

それを前提に、いかに自国の国益を守るか、その技術が外交です。韓国は政権が左派に変わればまた揺り戻しはあるかもしれません。

だからこそ、今、日韓関係改善と中国、北朝鮮についての脅威認識が共有可能な極めて稀な伊政権の下で、日本にとってよりよい環境を作りだし、その関係の後退に歩留まりをもたらす「制度化」の工夫をするべきだと思います。

あと10分で出発なので、しばらく書けません。でも、伝わる人には伝わったらなとも思います。門田先生宛てのメッセージ風になりましたが、皆様宛てです。門田先生、代表選手にしてしまってすみません。いつかわかりあえたらいいなと思います。たとえ、韓国の戦略的意義についての見解は異なるにしても。

私も日本の国益以外は考えていないのです。日本という国の地政学的条件は変えられません。その中で、この厳しい時代にいかにして日本を守り抜くか、次なる繁栄に繋げていくか、心ある人は皆そう考えていることと信じます。この長ったらしいtw読み通して下さった皆様には感謝申し上げます。

韓国を一人前の国扱いしていない松川氏

これはまた、「日本が譲歩すればうまくいく式」の、非常に典型的な詭弁です。

松川氏はまず、尹錫悦(いん・しゃくえつ)政権に対し、韓国自身で本件問題を解決することを「逍遥」(「慫慂」※の誤植でしょうか?)することが日本自身の国際環境の改善に有意義だ、などと主張します。

慫慂(しょうよう)とは?

ある行為をするように強く勧めること。

また、紹介する順序は前後しますが、文中でもこんな記述が出てきます。

韓国自身が起こした問題を韓国自身で解決しようとしているのです。日本の譲れないラインを譲るべきではありませんが、可能な範囲でユン政権ができるだけ仕事をしやすいようにするのは日本にとって望ましい結果をもたらすために重要です」。

お言葉ですが、自国が発生させた問題を自国が解決するのはマトモな国家なら当たり前の話です。それなのに、なぜ日本が尹錫悦政権の「仕事のしやすさ」に配慮しなければならないというのでしょうか?どうして日本が韓国に「問題解決」を「慫慂」しなければならないというのでしょうか?

松川氏のこの認識、暗に韓国を一人前の国家と認めていない証拠であり、それこそ韓国に対して無礼でしょう。

輸出管理適正化措置がなぜか自称元徴用工問題と結びつく

続けて、対韓輸出管理適正化措置について、松川氏は「徴用工とは別問題」としつつも、「日韓輸出管理当局間の対話が途絶えたのもムンジェイン政権の下で『徴用工』問題が蒸し返され日韓間で正常な関係がなくなったから」、などと述べますが、これも事実関係が違います。

そもそも日韓の輸出管理に関する政策対話は2016年6月を最後に途絶えており、当時は朴槿恵(ぼく・きんけい)政権時代でしたから、「文在寅(ぶん・ざいいん)政権時代」の自称元徴用工問題に原因があると見るのは無理筋でしょう。

さらには、「外交というのは、自分が正しいと思うことを唱えていれば上手くいくという類ものではない」というくだりに関しては、支離滅裂です。

「外交は相手があるものだから、自分の意向が通用するものではない」というのはそのとおりですが、そうであるならば、そもそも「国際法に照らして違法な判決を出して放置し続ける」ような国と、マトモな国同士の外交関係は成立しません。

当たり前の話ですが、相手国が「話が通じない」なら、それ相応の対処をするのは外交の鉄則でもあります。

火器管制(FC)レーダー照射事件、輸出管理上の「不適切な事案」、慰安婦合意破棄など、日韓諸懸案は自称元徴用工問題に限られるものではありません。

自称元徴用工問題を「解決」すれば日韓関係が「改善」し、日本の安保環境も「改善」するというのは、論理の飛躍も良いところです。

日本に非を認めさせる努力しかしていない韓国

そんな松川氏に是非とも読んでいただきたいのが、先ほども紹介した鈴置論考に含まれる、韓国政府・外交部の行動に関するこんな記述です。

『徴用工』問題ではまだ、日本政府に謝罪させようとか、日本企業にカネを出させようとか、どさくさにまぎれて『日本の植民地支配は違法だった』と認めさせようと小細工を弄しています」。

しかし、『キシダ』は騙せても日本の世論は誤魔化せません。それどころか、こんな猿芝居を演じ続ければ、日本人をますます怒らせてしまいます」。

韓国の外交部は狡猾な外交ゲームを展開しているつもりでしょうが、朝鮮半島有事を考えると、国を亡国の道に追い込んでいるとしか思えません」。

要するに、韓国政府が行っているのは、「日本に非を認めさせるための努力」なのです。

松川氏のいう「安保情勢が厳しい日本にとって、韓国との良好な関係は有益だ」とする主張はそのとおりですが、その前提条件として、「日本が韓国に譲歩すれば日韓関係が良好になる」というものではありません。

というよりも、日本との健全な関係構築に向けた努力ではなく、「日本に非を認めさせる努力」しかしていない国が、安全保障上、日本にとって本当に「信頼に値する国」であるといえるのでしょうか。

いずれにせよ、松川氏の主張に賛同しそうになっているという方は、最低限、鈴置論考を読んでから判断なさることを強くお勧めしたいと思います。

新宿会計士:

View Comments (45)

  • 外務省関係者の”思考ロジックと限界”が良く表れた反応だったと感じました。こういうロジックで国益を毀損し続けていたのですね。
    本投稿をそのままTWリプライに載せれば良いのではないでしょうか?

  • 以前から氏の発言では、日韓関係の重要性とか回復可能性とかには違和感を持ちつつも、結局「普通の国の関係になるべきだ」「日本は譲れないものは譲れない」と言っていたので結論は同じだろう、くらいに思っていましたが。

    天秤がひっくり返ってこんな風に結論が変わってしまうリスクがあったんですねぇ。
    ナイーブすぎです。

  • これが現在の自民主流のコンセンサスであれば
    非情に嘆かわしい状況と言わざるを得ない
    もし阿部氏が存命であれば
    今頃インドを強力な仲間に引き入れるため奔走していただろう
    中国も背後からインドが睨みを利かせていれば
    おいそれとは動けまい
    しかし田吾作に多くを望んではいけない
    田吾作にも原稿に読み仮名を振るという
    多忙を極めた大切な仕事があるのだから

  • >私も日本の国益以外は考えていないのです

    国益のみ考えてこれですか、恐ろしい…
    むしろ思いきり国益に反する言動なんですが?

    このような頭の弱い方は国会議員をやるべきではありませんね。
    財務省に騙され続ける者達と同等の国賊です。
    いやはや、洗脳されちゃうとどうしようもないんですかね?

  • 担保をとれたらいいのになと考えたことがあります。

    そこでふと気づいたのですが長い付き合いがある場合個人レベルですが結構リスキーなこともするなと思いました。
    ただそれは本当に無担保なのではなくお互いの信頼性というものを担保にしているのだと思います。
    信頼を裏切りたく無いと思うから約束は守ろうとしますし守れなくともその後を誠実であろうとします。

    翻って彼の国は国家間の信頼という目には見えないものに価値を置いていないように見えます。そして実際に信頼は毀損されており信頼を取り戻すだけの行いがされたとも感じられません。

    今回話題の議員の発言は日本人として嫌ですが本当に信頼が置けて完全に終わらせられるなら批判覚悟でやるのもありかもしれないと思います。しかし必ず裏切るという負の担保しか取れない国なので日本にダメージを与えたい人としか見ることができません。

    • 同感です。松川氏の発言は韓国の現政権しか見ておらず、韓国という国を見ていない気がします。
       政権が変わろうとも国家間の合意や国際手続は遵守されなければいけません。しかし、この国にはそんな誠意ある姿勢は期待出来ません。
       思うに、あらゆる国際問題に対して自分たちの力だけで解決したことがない国ですので、他国にぶら下がることで解決しようとするのでしょう。
       自分たちでも気付かない意識の中で、属国根性がしっかり根付いているのでしょうか。

  • 最初は学習能力の有無を疑わざるを得ないなと思っておりましたが(3歩進むと忘れる鳥か何かかな)どうやら国益詐欺の共同正犯みたいですね。

    抽象的な国益を語り守られない約束を強引に結び、騙された振りを装う

    責任の取れない者は契約を結んではいけないのだと思います。

  • 松川議員のツイートだけど、
    >日本にとって望ましい結果
    ってなんなのかな?

    少なくとも、おかしな主張をしてる韓国人に利益を与えて、2匹目、3匹目のドジョウを狙おうって気を起こしかねない状況を作ることじゃないと思うのです♪

  • ホワイト復帰は、新しい輸出管理体制の適正運用が確認されてからのことです。
    仲が良いに越したことはないにしても、仲良くなければいけなくはないですね。

    • 激怒してもよさそうな経産省が沈黙を守っていることが気になります。
      一連の報道や発言を黙認しているのか、それとも「関係者」を炙り出してからハシゴを外す気なのか。

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