菅義偉総理の「岸田批判」が波紋を広げている、などと時事通信が報じています。現在のところ、菅総理が「岸田おろし」と「自派閥立ち上げ」、「再登板」などを仕掛けようとしているようには見えませんが、菅総理が沈黙を破って発言したことで、岸田文雄首相や宏池会関係者が浮足立っているというのは興味深いところです。
菅総理の岸田批判は単なる苦言だが…
先日の『「派閥の長」辞めない岸田首相を週刊誌で批判=菅総理』などでも取り上げた、「岸田文雄首相が宏池会(岸田派)の会長ポストにとどまっていることなどを菅義偉総理が批判した」とする話題は、現在でもなにかと波紋を広げているようです。
政界で「岸田おろし」の動きは発生するのか――。岸田文雄首相の前任者でもある菅義偉総理が、岸田首相自身が派閥の長の座にあることなどに批判的なメッセージを出したことが話題になっているようです。一部週刊誌は「岸田おろしののろしが上がった」などと囃し立てているフシもあります。ただ、こうした発言が話題になること自体、菅総理の潜在的な政界への影響力に加え、岸田首相の求心力が低いことを象徴しているように思えてなりません。「こんな首相で大丈夫か?」「岸田文雄首相には『首相として』以前に、『政治家として』、どう... 「派閥の長」辞めない岸田首相を週刊誌で批判=菅総理 - 新宿会計士の政治経済評論 |
ただし、この菅総理の発言自体は、菅総理が「政局」を仕掛けようとしたというよりはむしろ、単純に岸田首相に対する「苦言」という方が正しいのかもしれません。
実際、『菅総理が再び岸田首相に「苦言」』でも指摘したとおり、菅総理は岸田首相を「引きずり降ろし」、自身が再登板しようと思えばできなくはない立場ではあるものの、どうも菅総理本人にそのつもりはなさそうに見えるからです。
菅総理がラジオ番組で再び岸田首相に苦言を呈したそうです。増税には「丁寧な説明が必要」としたうえで、岸田首相の「1兆円増税」方針や、現在自民党内の一部などで議論がなされている消費増税を財源とした少子化対策などを巡っても批判したのだとか。正論と言わざるを得ません。個人的に岸田首相が「今すぐ辞めるべき」とまでは考えていませんが、菅総理が「お目付け役」として政権を正しい方向に導くことができれば、岸田政権はより多くの成果を上げることができるでしょう。政局の分析は非常に難しい内閣総理大臣を辞任して以来、... 菅総理が再び岸田首相に「苦言」 - 新宿会計士の政治経済評論 |
その気になれば再登板も…!?
なお、客観的な事実を確認しておくと、自民党内の派閥を著者自身が調査したところ、岸田首相の出身派閥の国会議員は43人で、これは二階派と並ぶ4位です(※ただし、この勢力図は著者調べであり、多少不正確である可能性にはご注意ください)。
自民党の派閥勢力図(5大派閥)
- 第1位:安倍派…97人(衆59+参38)
- 第2位:茂木派…54人(衆33+参21)
- 第3位:麻生派…53人(衆37+参16)
- 第4位:岸田派…43人(衆33+参10)
- 第4位:二階派…43人(衆34+参9)
- その他…88人(衆64+参24)
- 合計…378人(衆260+参118)
(【出所】著者調べ。なお、所属議員数は2023/01/17時点の自民党ウェブサイトによる)
こうしたなかで、菅総理に近いとされる議員23人(衆議院の「ガネーシャの会」15人、参議院の「菅義偉を支える参議院議員の会」8人。なお、数え方によっては参議院議員が10人)と森山派7人(衆6+参1)が合流すれば、30人前後の勢力になります。
岸田おろし・菅再登板の可能性はまだ高くない
もしもこの30人前後が二階派とさらに合流して「菅派」を結成すれば、一気に安倍派に次ぐ第2派閥が出現し、その「菅派」が安倍派と手を結べば所属議員170人前後の勢力となり、少なくとも茂木派、麻生派、岸田派の3勢力を合算したよりも大きくなります。
もしも「菅派」が誕生したら…?
- 安倍派…97人(衆59+参38)
- 「菅」派…73人(衆55+参18)
- 茂木派…54人(衆33+参21)
- 麻生派…53人(衆37+参16)
- 岸田派…43人(衆33+参10)
- その他…58人(衆43+参15)
- 合計…378人(衆260+参118)
ただし、こうした試算はあくまでも机上の空論であり、今すぐ実現する可能性は決して高くはありません。
「菅派の立ち上げ」、「二階派との合流」などが思い通りにいくのかどうかという点、その「菅派」が安倍派と手を結ぶかどうかという点、岸田おろしがうまくいくかどうかという点など、ハードルはいくつもあるからです。
なにより菅総理本人に「その気」がなければなりません。
これに加え、自民党議員にとって、菅総理が「選挙の顔」として、岸田首相と比べて優れているかどうかという判断も重要であるはずです。
このように考えていけば、今すぐ「自民党内で岸田おろしが発生する」、「菅総理が勢力を糾合して一大派閥を立ち上げる」、「安倍派と菅派が手を結び、菅総理が再登板する」、といった可能性は、現時点でさほど高いものではないというのが実情です。
菅総理と岸田首相は「ギクシャク」!?
もっとも、当ウェブサイトのごとき、社会的影響力が皆無に近いウェブ評論サイトですら、「岸田おろし・菅再登板」のシナリオ・シミュレーションを実施しているくらいですので、「当事者」である宏池会関係者、そして岸田首相本人がそれに気付いていないはずはありません。
こうしたなかで、時事通信に相次いで、なかなか興味深い記事が掲載されていました。
ひとつめはこれです。
岸田首相と菅氏、日印協会会合で同席 会釈以外に接触なく
―――2023年01月25日20時48分付 時事通信より
記事によると岸田首相は25日、菅総理が会長を務める「日印協会」の創立120周年式典に出席し、日米豪印の枠組みの協力が「菅総理の下で進展した」と持ち上げたものの、「会釈を交わす以外に接触の機会はなく」、「10分足らずで会場を後にした」のだそうです。
このあたり、政治家というものは日常からさまざまな会合に参加しており、総理経験者、現職首相という2人が多忙のため、たまにすれ違うことがあったとしてもほとんど言葉を交わす暇がないというのは、さほど不自然なことではありません。
ただ、さすがに衆人環境で「会釈以外に接触がない」という姿が目撃されるのは、政治家としては注意した方がよかったのかもしれません。見た目だけでもにこやかに菅総理に話しかけるという振る舞いができなかった時点で、岸田首相の余裕のなさの証拠にも見えてしまうからです。
(※ただし、「会釈以外に接触がなかった」というのはあくまでも時事通信の報道によるものであり、本当は壇に上がる前に両者が会話を交わしているなどの可能性もあるのですが、この点についてはとりあえず脇に置きたいと思います。)
浮足立つ宏池会
一方で、注目しておきたい記事のふたつめは、これです。
岸田派、菅氏批判にピリピリ 首相の「閥務」継続巡り―自民党
―――2023年01月27日07時07分付 時事通信より
こちらの記事は27日付のもので、岸田首相が派閥会長ポストにとどまっていることを菅総理が批判したことを受け、「同派が緊張感を高めている」、「求心力低下が目に付く岸田氏にとって派閥は数少ない頼れる足場だけに、難しい対応を迫られている」、などとするものです。
このあたり、「難しい対応を迫られている」という具体的な証拠が記事のなかで詳しく挙げられているというものではありませんが、ただ、岸田首相が首相に就任しているにも関わらず、派閥の会長にとどまっている点について、こんな具合に記述しています。
「岸田氏は2020年の総裁選で菅氏に大敗する悲哀も味わっており、苦難を共にした派閥への愛着は深い。防衛費増額のための増税を決めた昨年末の自民党税制調査会の会合では、反対論の大合唱の中で岸田派議員が動員され、賛成論を展開した」。
じつは、このあたりが大きなポイントではないかと思います。
現時点において菅総理自身が「自派を立ち上げ、岸田おろしの音頭を取る」、といった動きは見られないにせよ、「その気になればそれができる」状態であると見せつけることは、非常に有効です。
くどいようですが、当ウェブサイトとしては、岸田首相には脇の甘さ、官僚の言いなりといった、政治家としての致命的な欠陥があると考えているものの、政権発足以来で見れば、「よく頑張っている」とも考えています。
経済安保法制の成立(※これには小林鷹之・前経済安保担当相の努力もありました)に加え、昨年の「安保関連3文書」の制改定、原発再稼働・新増設方針の策定など、現在の日本にとって、外交・安全保障面からも、産業・経済面からも、「やるべきことをちゃんとやっている」と評価できるからです。
ただし、例の「1兆円増税」構想に加え、たとえば日韓諸懸案を巡って、韓国に対し不必要な譲歩をしようとしているフシがある点については懸念点ですし、自身の身内を要職に就けたところ、その「身内」を巡って醜聞が相次いでいるというのも困りものです。
岸田首相の長男の「物見遊山」疑惑を巡っては、木原誠二内閣官房副長官が26日午前の記者会見で首相の「外国訪問で公務の必要上、公用車を利用して視察や訪問を行うことはあり得る」としつつ、事実関係については明らかにしなかったそうです。このあたり、昨年の「官邸情報漏洩」疑惑とともに、一連の報道が飛ばしであるという可能性ももちろんありますが、やはり秘書官に身内を起用すること自体が一種のリスクであることも間違いありません。木原官房長官は事実関係を認定せず『首相長男の新たな醜聞をも打ち消す野党党首の国会質問』... 官房副長官、首相長男「物見遊山」疑惑の事実言及せず - 新宿会計士の政治経済評論 |
こうしたなかで、岸田首相の「お目付け役」だった安倍晋三総理が亡くなったいま、菅総理がその役割を積極的に担ってくれるのは、じつは日本にとっては大変に良いことではないでしょうか。
その意味で、菅総理が「苦言を呈する」こと自体、日本の政界に良い刺激を与えているという言い方もできるのではないかと思う次第です。
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岸田総理ー菅義偉総理関係・・・「ギクシャク」しているでしょうねー。派閥、個人的友好関係にも無いし、2020年の総裁選では岸田総理は大敗しました。で、後任にはなったけど、口ベタというよりも政治家らしい話し方が出来ないので、岸田氏はお話になりません。確かにソツ無くこなしているように見えますが、財務省、外務省らに操られている。
個人的には、あと1年も持つかなあーと思います。
サミット議長国の間は、昨今のVUCAな国際情勢も鑑みて対外的な事情により辞めさせられないという説もあるようです。では辞めさせない代わりに岸田氏は完全にガワだけを残してお黙りいただいて、「中の人」として菅前総理が暗躍してほしいところ。ZやGのような「中の人たち」では困りますね。
(^^)v ハイ、そうですね。
菅前総理に、岸田総理のお目付け役を担っていただくことに、自分も賛成です。
自分も以前から、そうなってくれたらいいなぁと思ってました。
コロナ対策に専念するとおっしゃって辞任された菅前総理
コロナ5類移行決定で何らかの動きがあると期待してしまいます
リーダーたる資質のキシダでも総理をやれたのが安倍元総理の重み故だとしたら、旧統一教会問題のとばっちりで殺されたのが本当に惜しいですね。
とは言え、韓国政府が「日本は永世加害者だから韓国に謝罪と賠償をし続けろ」ってやるのは問題視するのに旧統一教会が「日本は永世加害者だから韓国にカネとオンナを捧げ続けろ」ってやるのを問題視しないとか、北朝鮮による日本人拉致問題は問題視するのに旧統一教会による日本人女性拉致問題は問題視しないとか、なんでだろなーってところです。
何はともあれ、殺されたのが教団の指導者ではなく安倍晋三氏だった事で旧統一教会が被害者面出来ないのは、旧統一教会問題の解決に当たって非常に大きなポイントですね。