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日米首脳会談に見る:「徴用工合意」があり得ない理由

岸田文雄首相が訪米し、日米共同声明が出てきましたが、その内容を見る限り、少なくとも自称元徴用工問題で「日本が米国に譲歩せよ」とする圧力が生じている形跡はありません。当たり前です。日米韓連携の重要性が、慰安婦合意のあった7年前と比べ、大きく下がっているからです。ただ、「慰安婦」と「徴用工」の違いは、それだけではありません。

二重の不法行為

自称元慰安婦問題と自称元徴用工問題には、ほかの日韓諸懸案と同様、韓国側が「根も葉もないウソ・捏造に基づき」、「法的な根拠がない要求(謝罪や賠償)を強要して来ている」、という共通点があります。これが当ウェブサイトの用語でいう「二重の不法行為」です。

日韓諸懸案に関する韓国の「二重の不法行為」
  • ①韓国側が主張する「被害」の多くが韓国側によるウソ、捏造のたぐいのものであり、最終的には「ウソの罪をでっち上げて日本を貶めている」のと同じである
  • ②韓国側が日本に対して要求している謝罪や賠償の多くは法的根拠がないか、何らかの国際法違反・条約違反・合意違反などを伴っている

(【出所】『【総論】韓国の日本に対する「二重の不法行為」と責任』等参照)

昨年、『旭日旗騒動再び 多くの人々を傷つけた韓国人の罪深い行動』で報告した、米ロサンゼルスの学校の壁画塗り潰し問題に「続報」がありました。米LAタイムズによると、焦点の壁画を巡り、作者のボー・スタントンさんが自身の監修下での修正に合意したとのことです。旭日旗と無関係の壁画に…当ウェブサイトでは昨年、『旭日旗騒動再び 多くの人々を傷つけた韓国人の罪深い行動』のなかで、米ロサンゼルスの学校の壁画を巡る騒動について取り上げました。https://shinjukuacc.com/20181218-04/「事件」のあらましは、壁画家のボー...
LAの学校の壁画が修正へ 被害者でなく加害者としての韓国 - 新宿会計士の政治経済評論

したがって、これらの「歴史問題」を巡って、日本が「譲歩」するようなことは、本来、あってはなりません。

なぜなら、これらの問題において日本が「譲歩」することは「ありもしない債務」を認めることにつながるからであり、もっと厳しい言い方をすれば、韓国による国際法秩序の破壊に日本が共犯者として加担しているのと同じことになってしまうからです。

慰安婦問題巡る河野談話の禍根

ただ、自称元慰安婦問題と自称元徴用工問題には、大変に大きな違いがあります。

その決定的なものは、「日本がありもしない罪を認めてしまったかどうか」、です。

自称元慰安婦問題に関しては、いうまでもなく、宮澤喜一という首相の下で、官房長官が一方的に発表した談話のなかで、「当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題である」と位置付けられました。これが日本政府としての正式見解です。

自称元慰安婦問題とは、いうまでもなく、「①1941年12月8日から45年8月15日までの期間、②日本軍が組織としての意思決定に基づき、③朝鮮半島で組織的に少女20万人を強制的に拉致し、④戦場に連行して性的奴隷とした」とされる問題のことです。

しかし、自称元慰安婦らの年齢や「証言」に照らし、そもそも①の部分で矛盾がケースも散見されますし、また②の部分についても日本の官憲が慰安婦の強制動員に関わったという証拠はありません。日本軍が組織としてかかわったのであれば残されているはずの命令書がただの1枚もないのは不自然極まりない話です。

さらに当時人口約2000万人だった朝鮮半島で20万人といえば、それは人口の1%に相当する人数であり、それだけの少女が強制的に拉致されたならば、組織的な抵抗の証拠などが残っていると考えるのが自然でしょう。

そして④については、むしろ慰安所の運営に日本軍が関わっていたのは、衛生その他の面で当然のことであり、慰安所で働いていた女性らは将校よりも高い給与を得ていたとの研究結果もあります(朴裕河『帝国の慰安婦』(2014/11/07)等参照)。

このように、自称元慰安婦問題には歴史的に見て明らかな虚偽が多数含まれているわけです。

そして、「河野談話」等を通じ、歴代の日本政府自らがあたかも事実であるかのごとく認めてしまったという意味で、日本政府の側にも重大な過失があったのです。

慰安婦と徴用工の「最大の違い」

実際、河野談話のせいで、自称元慰安婦問題は、「第二次世界大戦中に日本の皇軍が朝鮮人女性などを性的奴隷として使役したという非人道的な事件」として世界中に広く知られており、英米メディアなどを見ていても、そのような報道が当然のように流れています。

自称元慰安婦問題は2014年の朝日新聞社による虚偽報道の取り消しがなされたにも関わらず、自称元慰安婦問題は依然として、世界中ではあたかも歴史的事実であるかのように認識されています。

自称元慰安婦問題という虚偽の主張がが韓国などによって流され始めたときに、これを毅然と拒否しなかったどころか、わざわざ河野談話なるものを出してこれを積極的に後押しした宮澤喜一内閣(※偶然でしょうか、宏池会政権です)の日本国民に対する罪は、極めて重いと言わざるを得ません。

(※余談ですが、自称元慰安婦問題というウソ自体が数十年という時間をかけて浸透したわけですから、これを取り消すのにも同じくらい、いや、下手をしたらそれ以上の時間がかかることは覚悟しなければなりません。)

このように考えていくと、自称元徴用工問題は「虚偽に基づく誣告(ぶこく)」という点では自称元慰安婦問題とソックリですが、少なくとも官房長官クラスがこの問題を「事実である」と認めるような、何らかの談話を出したという事実はありません。

これが、最大の違いです。

もちろん、2015年7月に、当時の佐藤地(さとう・くに)ユネスコ大使(のちのハンガリー大使に栄転)がユネスコ総会の場で、朝鮮人が「その意思に反して連れて来られ」「厳しい環境の下で」「強制的に働かされた」などとするウソを述べたことはあります。

しかし、あくまでもこれは役人レベルの答弁であり、少なくとも故・安倍晋三総理大臣や、当時の安倍内閣で官房長官を務めていた菅義偉総理大臣が、自称元徴用工問題を事実であると認めたことはありません。

それどころか、政府はこれを「旧朝鮮半島出身労働者問題」と呼称し、韓国側の「強制徴用問題」ないし「強制動員問題」などの呼称とは距離を置く姿勢を明確にしています。

著者自身、現在の日本政府が自称元徴用工問題を「韓国側による捏造である」とキッパリと認めていない点には不満もあるのですが、ただ、すくなくとも「慰安婦」と「徴用工」では、日本政府が置かれている環境がまったく異なることは間違いありません。

情報伝達手段の発達

なにより、当時と現在では、情報の伝達手段に大きな違いがあります。

自称元慰安婦問題自体が日韓間で外交問題化した当時といえば、一般大衆に情報を伝達する手段は、事実上、新聞、テレビを中心とするマスメディア(あるいはオールドメディア)に限定されていました。私たち一般国民は、新聞・テレビに事実上支配されてしまっていたのです。

これに対し、現代社会にはインターネットがあります。

2018年10月と11月に韓国大法院(※最高裁に相当)が自称元徴用工判決を下して以降、日本国内では新聞、テレビなどの媒体に限られず、多くのウェブメディアがこの問題を積極的に論じてきました(東京の山手線の駅名を冠した怪しげな自称会計士が運営するウェブ評論サイトもそのひとつでしょう)。

残念ながら、社会のインターネット化は、韓国のウソ、捏造が日本国民を騙すことを許さなくなっているのです。

この点、2015年12月の日韓慰安婦合意のときには、社会のネット化はある程度進んでいたとはいえ、依然として力関係でいえばオールドメディアがネットメディアを大きく凌駕していました。

米国からの圧力は確認できない

これに加え、「日韓/日米韓協力」を重視する米国から、「日韓関係を改善せよ」とする圧力が加えられ、当時の安倍政権ですら、これに抗しきれなかったという側面はあるでしょう。

ところが、現時点では、米国からの圧力は、少なくとも表面上は確認できません(※もちろん、水面下ではなされている可能性はありますが…)。

今朝の『【資料】日米共同声明「逐語訳」』などでも取り上げたとおり、日米首脳の共同声明に基づけば、外交上最も重視されるのは「日米豪印クアッド」であり、これにASEANが続き、「日米韓」は3番目の位置づけに過ぎません(ちなみに4番目は太平洋島嶼国です)。

韓国で「保守派(?)」とされる尹錫悦(いん・しゃくえつ)政権が昨年5月に発足したこと、その尹錫悦政権が自称元徴用工問題を巡って先週、「財団方式」による解決を打ち出したことは事実ですが、だからといって米国から「歴史問題で日本が譲歩せよ」とする圧力が出ているようには見受けられないのです。

まとめ:「慰安婦」「徴用工」の大きな違い

この点、「慰安婦」と「徴用工」には、「韓国がウソ・捏造・事実歪曲などに基づき、法的な根拠のない要求をしている」という共通点があるのですが、それともともにいくつかの明確な違いがあります。

それは、少なくとも日本政府としては自称元徴用工問題を事実であるとは認めていないこと、日米豪印クアッドの概念の出現などにより、日米からみた韓国の相対性が低下していること、さらには(少なくとも表向きは)米国からの「圧力」は生じていないこと――などです。

「慰安婦」と「徴用工」の大きな違い
  • 日本政府(少なくとも官房長官クラス)は自称元徴用工問題を事実であるとは認めていない
  • 「日米豪印クアッド」の出現により、日米から見た韓国の相対的な重要性が低下した
  • 「日本が譲歩する」式の解決に向けた米国からの圧力は(少なくとも表向きは)生じていない

(【出所】著者作成)

また、新聞、テレビを中心とするオールドメディアの世論支配力が著しく低下しているため、一般の日本国民が納得しない「解決策」をゴリ押しする力は、もはや日本政府(というか外務省あたり)にはありません。有権者の反発が強すぎるからです。

慰安婦合意のような「力技」は、安倍政権だったからこそ成し遂げられたものであり、政治力のない政権に成し遂げられるものではありません。したがって、2015年の「慰安婦合意」のような合意が日韓政府間で取り交わされる可能性は、非常に低い、というのが、現時点における評価として適切でしょう。

(※もちろん、外務省の不作為により、日本企業の利益が侵害される可能性については、十分な警戒は必要ですが…。)

いずれにせよ、『韓国大統領をG7に呼ぶ意味を巡る鈴置論考の注意喚起』でも紹介したとおり、韓国観察者の鈴置高史氏による「日韓関係を改善しないと米国に怒られる」と主張する人たちが出て来ていることは間違いないのですが、その肝心の「米国から怒られている」という事実は確認できないのです。

今回の鈴置論考に「関係者」は顔を真っ赤にして激怒か「日本が韓国に譲歩する」式の「自称元徴用工問題解決策」を画策しているであろう者たちが読むと、顔を真っ赤にして怒りそうな記事が出てきました。韓国観察者である鈴置高史氏が、「『韓国大統領をG7サミットに招待しないと、米国に怒られる』と言い出す人が出そう」だと警告したのです。そして、私たち日本国民が知っておかねばならないのは、日本がちょっとやそっと韓国に「譲歩」したところで、韓国を動かすことはできない、ということでしょう。岸田首相や岸田政権は怪しい...
韓国大統領をG7に呼ぶ意味を巡る鈴置論考の注意喚起 - 新宿会計士の政治経済評論

その意味では鈴置氏の慧眼を改めて痛感せざるを得ない次第です。

新宿会計士:

View Comments (16)

  •  「河野談話」とハッキリと称して河野"太郎"氏が「徴用工問題は韓国側の虚偽であり日本国は正確に検証して反論していく。慰安婦についても21世紀の検証では日本側に瑕疵は無い。」などと談話を出せば、検索で「河野談話」で調べてこもっちに先に行き着いて、旧談話は否定記事(殊更に否定などせずとも解説があるだけでも自動的に否定になる)が増えることになりませんかね。
     河野家の汚名も雪がれると思いますが。
     対中露で日本の存在感が増している(韓国の存在感が消えている)現在では、感情的かつ無知な反発は内外とも無視できそうですし。

  • 毎度、ばかばかしいお話しを。
    韓国メディア:「我が社は、日米首脳会議で、バイデン大統領が岸田総理に、「徴用工問題で、日本が韓国に譲歩しろ」との圧力をかけたという、極秘情報をキャッチした」
    新宿会計士:「韓国メディアの情報収集能力は、そんなにすごかったのか」
    おあとが、よろしいようで。

  • ここで日本側が譲歩したら、幕末明治の開国時の不平等条約以上の長期間の不利益が発生しますね。
    そのくらいの正念場として対応しなくてはならない、という認識がこの問題に関わる日本人全てにあるのかどうかが気になるところです。

  • 日本が譲歩しようが
    つっぱねようが
    韓国は変わらない
    日本の国益のためにはひたすら
    韓国は無視し続けるのがよろしい

  • ありえないことやってきたのが日本の政治家どもですからね。もうほぼこれでやるのでしょう。
    本当に腹が立って怒りをどうしたらいいのか。

  • 米国から、日本が無視することができない要望や要求は当然あると思います。(日米間連携を破棄してもいいと言うわけがない)
    それも、過去の出来事(慰安婦合意反故)を踏まえてなされているのでしょう。不当であるとわかった上で要求するには米国とて覚悟がいりますし。

    政府に圧力をかけたり、世間を騒がせたり世論を誘導したい人はそれを「圧力」と呼ぶかも知れません。
    事あるごとに悪乗りしようとする利害関係者がいることを、意識しておきたいものです。

  • サムライアベンジャー(「匿名」というHNを使うことは在日の通名を使うのと同じ行為) says:

    >>中央日報・韓国発徴用対応策に合わせて日本では輸出規制解除…「シャトル外交も復元」
    https://japanese.joins.com/JArticle/299926

    なにやら韓国では怪しげな飛ばし記事が出てますね。「両国事情に明るい複数の外交消息筋」とあって、輸出「規制」解除もあるとか。一体どこの消息筋でしょうかね。

    • サムライアベンジャー(括弧内省略)様

      無論これがユン政権の狙いなんでしょう。そのための彼らなりの「譲歩」。

      だけどねえ、輸出「規制」解除って、外務省案件じゃなくて、経産省マター。
      経産省がアチラをどう見てるかと言ったら、例のホワイトボードにパイプ椅子「説明会」が、すべてを物語ってると思うんですがね(笑)。

  • 今やわが国は、日米がその意向に十分に配慮せざるを得ないほどの大国に成長した。
    →したがって、わが国が多少の無理を通そうとしても、日米とも相応の譲歩をして然るべき。
    これが、韓国人一般の自己認識なんでしょう。

    しかし、世界は決してそのように韓国を見てはいない。
    そう感じざるを得ないさまざまな外交惨事が、このところこの国には目白押し。
    「俺ら世界の潮流からハブられてる!」

    いよいよ、そう思い定めなければならなくなったら、
    彼ら、一体どうするんでしょうね。
    アイデンティティの喪失?

    「覚醒剤やめますかやめますか?それとも人間やめますか?」
    なんてフレーズが頭に浮かびますが、所詮は他国。
    「どうぞお好きに」としか、言いようがない。

    それより、これまで韓国の無茶苦茶な言い分を、
    「大人の度量で」とか、「日本人の良心の証し」なんぞと、言いくるめて、
    それを自らの存在理由と自認してきた、国内の識者、言論人、マスコミ業界人。
    彼らのアイデンティティこそ、これからどうなっていくのでしょうね。

    むしろその方が、たの心配(笑)。

  •  今月13日の日韓電話外相会談を受けて、本日、「懸案を解決して日韓関係を健全な関係に戻し、更に発展させるべく」日韓外務省局長会議が東京で開催されたそうです。
     新聞報道によれば、日本政府は韓国政府の「財団による賠償肩代わり案」の受入条件として、「財団の被告企業に対する求償権放棄の明確化(確約)」を求めているそうですが、これは不可能に近いと思います。
     理由は、以下のとおりです。
    ➀仮に「賠償肩代わり」が併存的債務引受(日本民法470条)であれば、「求償権放棄」は免責的債務引受(日本民法472条)を意味するが、免責的債務引受に必要な債権者(自称元徴用工)の同意を得られる見込みは小さい(ゼロではない)。
    ➁仮に「賠償肩代わり」が第三者の弁済(日本民法第474条)であれば、「求償権放棄」は財団と債務者(被告企業)の契約(求償権を放棄する旨の契約)や財団の寄付行為への明記、法律制定などが考えられるが、実現可能性はある(法律制定は野党多数の国会では困難を伴う)。
    ➂しかし、仮に➀または➁の「求償権放棄」の条件のうちいずれかが実現したとしても、将来、政権交代があった場合にも反故にされないことを韓国政府が保障することは不可能である。(仮に、求償権を放棄する法律が制定されたとしても、将来、得意の遡及法により無効化される恐れが強い。)
    ➃以上の理由により、「求償権放棄の明確化(確約)」は不可能に近い。
     ここで、仮に、尹錫悦大統領に「Trust me.」と言われた岸田首相が了解してしまい、将来、政権交代により反故にされた場合にどうなるかを想像してみます。
    ●日本製鉄と三菱重工業に加えて、今後、韓国大法院で確定判決を受けた被告企業数十社について、賠償責任(債務)が確定するのに加えて、支払済み賠償金について被告企業への求償権が残る。
    ●幅広い日本企業が実施した財団への自主的な寄付金は、寄付した日本企業に返還されない。
    ●財団が被告企業に対して求償権を実際に行使しない限り、日本政府は「対抗措置」を実施することができない。何故なら、被告企業に「損害」は生じていないから。なお、幅広い日本企業による自主的な寄付金は、あくまで「自主的な」寄付であり、寄付の目的どおりに使用されており、「損害」は生じていないため、「対抗措置」は実施できない。
     日本政府が、どうしても韓国政府の解決案を受け入れるのならば、「韓国政府が約束に違反した場合、日本政府は直ちに『対抗措置』を実施する。」という一文を入れておくしか無いと思います。そこまでしてやりますかね。 

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