X
    Categories: 外交

韓国紙「韓国は中堅国:列強同士の対決はチャンスだ」

「戦略面で現実逃避に走るのは、国際政治に携わる実務家たちの力や、同盟国としての影響力を損ない、これによって実際に脅威をもたらしている国に威嚇されやすくなってしまう」。これはエドワード・ルトワック氏の10年前の指摘ですが、その指摘どおりの記事を発見してしまいました。「韓国は中堅国なのだから、米国の磁場から脱却し、交渉のテーブルに着くべきだ」とでも言わんばかりの記事です。

自由・民主主義秩序が深刻な挑戦を受けた2022年

早いもので、もうすぐ2022年が終わります。

ロシアによるウクライナ侵攻、テロリストによる安倍晋三総理大臣の暗殺――。この年をあとから振り返れば、まさに「自由・民主主義秩序」が深刻な挑戦を受けた瞬間として、記憶されるのではないでしょうか。

このうち国際的にみて、なんといっても大きいのはロシアによるウクライナに対する一方的で違法な侵略戦争の開始です。とくに、国連常任理事国でもあるロシア自身が、国連憲章などに基づく国際秩序を蹂躙したことは、西側諸国にもかなりの衝撃を与えたことは間違いありません。

こうしたなか、自由と民主主義を愛する日本を含めた西側諸国は、ロシアに対して前例がないとされる厳しい経済・金融制裁で応じています。

具体的には、ロシアの主要銀行は国際的な決済網であるSWIFTNetから排除されましたし、クレジットカードの主要国際ブランドはロシアでの事業を停止。さらに、西側諸国はロシアが保有していた外貨準備を事実上没収してしまいました。

こうした経済・金融制裁の影響もあり、ロシアでは軍需品の不足なども指摘されるようになりつつありますが、ものごとはさほど単純ではありません。国際金融の世界において、少しずつ影響力を増しつつある中国が、西側諸国の経済・金融制裁には参加していないからです。

経済制裁に参加していない国は、中国だけではありません。日本、米国、豪州とともに「クアッド」を構成しているはずのインドも同様に、対露制裁からは距離を置いているのです。

世界は一枚岩ではないが…

日本政府はインドを「自由・民主主義・法の支配・人権」などの基本的価値を共有している、などと規定していますが、ウクライナ戦争に限定する限り、現実のインド政府の行動は、日米豪と基本的価値を共有しているとは言い難いのが実情でしょう。

したがって、著者自身はウクライナ戦争を、経済・金融制裁を通じてロシアを敗北に追い込もうとする西側諸国による努力と、その西側諸国の制裁の「穴」を巡る争いでもある、などと考えています。

なにより世界は決して一枚岩ではありません。

国際法秩序を守ろうとする国と、そうでない国が存在していることは事実であり、逆にいえば、私たちの国・日本を含めた西側諸国は、「国際法を守った国」には相応の利益が、「国際法を破った国」には相応の懲罰が、それぞれもたらされるような国際秩序を作ることを先導しなければならないのです。

この点、あくまでも個人的な見解で申し上げるなら、「国際法を破る国」になるよりも、「国際法を守る国」になる方が、長期的に見れば利益があると考えていますし、国際法秩序が存在する国際社会の方が、人類にとっても、平和と繁栄をいっそう共有することができるとも考えています。

そういえば、「国際法や国際社会のルールを守るべき」とする当ウェブサイトの主張に対し、ごく一部ではありますが、こんな具合の批判を展開する人もいます。

サイト主のように『国際法が~』などとわめくのはバカの極みだ。なぜならロシア、中国、北朝鮮、イランなどは最初から国際法など眼中にないのだから。国際法が守られる世界を前提としているサイト主は社民党と変わらぬお花畑思考でしかない。もう少し現実を見て対応されてはいかがか?

このコメント自体も支離滅裂であり、コメント主の方がおっしゃる「現実を見て対応」の意味がよくわかりませんが、いちおう真面目に突っ込んでおくならば、当ウェブサイトでは「国際法が守られる世界」を前提として議論をしているつもりはありません。

当ウェブサイトにおける主張の要諦は、「国際法を守る国が損をするような国際社会にしてはならない」、ということであり、また、「国際法を守っていればそれでOK」という意味ではなく、「国際法すら守れない国は国際社会から守ってもらえない」、という意味です。

要するに、「国際法を守るのは国家としての必要条件である」、ということですが、想像するに、上述のコメント主の方は、この「国際法を守ること」を「国家としての十分条件である」と勘違いしているのでしょう。

(※なお、以前このコメント主の方に、「『必要条件』と『十分条件』の違いがわからないなら、コメントを書き込む前に調べてからにした方が良いですよ」、などと申し上げたつもりですが、結局この方は、「必要条件と十分条件の違い」を最後まで理解なさっていないようだったのは残念でなりません。)

安倍総理のFOIPという偉大なる遺産

いずれにせよ、ウクライナ戦争を通じ、現在、国際法秩序自体が深刻な挑戦を受けていること、世界はその国際法秩序を破る側と守る側の対決になりつつあることは間違いありませんし、インドのように「どっちつかず」の国が多々存在していることも、残念ながら事実なのです。

もっとも、非常に幸いなことに、現在の国際社会においては、とくに金融の世界では、「国際法秩序を守る国々」が依然として世界の圧倒的なシェアを占めています。

国際法秩序を軽んじる国の代表格である中国にしたって、『WSJ「通貨スワップを使って影響力の拡大図る中国」』などでも取り上げたとおり、正直、現時点において世界の金融において、重要な地位を占めているとは言い難いのが実情でしょう。

当ウェブサイトでは先週指摘した「通貨スワップを使った中華金融」について、米メディアのWSJにも同様の趣旨の記事が出ていました。WSJの情報自体、当ウェブサイトよりもやや遅れているという点はさておき、中華金融の実情については冷静に把握することが何よりも大切ではないかと思います。中華金融:データを統合してみる中国が外国に貸しているカネの総額は、いったいいくらなのか――。これについては、なんだかよくわかりません。ただ、当ウェブサイトでは以前から「中華金融」、あるいは「一帯一路金融」の総額について、研...
WSJ「通貨スワップを使って影響力の拡大図る中国」 - 新宿会計士の政治経済評論

そして、日本が目指すべき方向は、やはり「国際法秩序の尊重」、「基本的価値の尊重」を柱にした、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の実現にあります。

このFOIP自体、今年7月8日にテロリストによって暗殺された安倍晋三総理が提唱した、日本国民にとっての遺産のようなものでもあります。

現在の「宏池会政権」がこのFOIPの概念をどこまでしっかりと理解しているかについて、著者自身はかなりの不安感を抱いているのは事実ですが、それでも安倍総理の考え方は「FOIP」というかたちでしっかりと概念化されたことで、日本が「国際法を尊重する国」から逸脱することはないと信じたいところです。

韓国メディア「中堅国は列強同士の対決をチャンスと捉えている」

こうしたなか、このFOIPの考え方に、対象となっているインド太平洋諸国のすべてが賛同しているわけではありません。

その「賛同しているとは限らない国」の典型例が、韓国でしょう。

これに関連し、韓国の「左派メディア」として知られる『ハンギョレ新聞』(日本語版)に昨日、こんな記事が掲載されていたのに、さきほど気づきました。

[コラム] 尹政権の自由・連帯論と日本の朝鮮半島先制攻撃

―――2022-12-20 08:56付 ハンギョレ新聞日本語版より

リード文には、こうあります。

中堅国が列強の対決を『チャンス』と捉えているのに、韓国は特定の列強を選ばざるを得ない『危機』としかみなしていないのではないか。尹政権が米国式語法で自由と連帯を語っている間に日本が朝鮮半島を先制攻撃の対象に設定している現実を、いかに受け止めるべきか」。

なにやら気になる記事です。

記事を執筆したのはハンギョレ新聞社・国際部の先任記者の方だそうですが、リード文からもわかるとおり、この記事は現在の国際秩序について、米国の指摘する「民主主義対専制主義の対決」とは言い切れない、などと指摘するものです。

そのうえでハンギョレ新聞は、たとえば米国にとって「公式同盟以上の(重要な)存在」だったサウジアラビアが、これまで米国の利益に背くような決定を繰り返してきたと指摘。

さらにはNATO加盟国であるトルコがウクライナ戦争でロシアの立場を仲裁したことがあるという事実、イスラエルや「伝統的な親西側諸国」であるメキシコやブラジルなどが対露制裁に参加していない事実などを引用するなどして、次のように主張するのです。

最近のミドルパワー国家(中堅国)の対外政策は、冷戦時代の1955年にバンドン会議で結成された非同盟路線とは異なる。<中略>中堅国は非同盟よりは『多連帯』路線を追求する。米中ロいずれにも足をかけようとしている」。

また出た!「北朝鮮にも韓国の主権が及ぶ」

ここまで読むともうなんとなくおわかりかと思いますが、この記事を読むと、暗に「韓国も『中堅国』だから、ほかの『中堅国』と同様、米国一辺倒ではなく、『米中露いずれにも足をかける』戦略を採用すべきだ」、と主張しているかのように見えます。

その考えが凝縮されているのが、おそらくはこんな記述ではないでしょうか。

ウクライナ戦争は『民主主義対専制主義』対決という側面もあるが、既存の覇権国や大国秩序の弱体化という面も示している。中東と西南アジア諸国、そして中堅国が米国の磁場に縛られず、米国がこれらの国に合わせた連帯戦略を図るのが、その二つの潮流を示している」。

この「大国秩序」、あるいは「米国の磁場」とやらが何を意味するかについてはよくわかりませんが、たしかに21世紀に入り、ロシアや中国といった「非西側諸国」が国際社会においてそれなりに力をつけてきたという点を踏まえれば、国際法秩序に挑戦する勢力が強くなっているという意味であれば、たしかにそのとおりでしょう。

この記者の方が(あるいは韓国という国が)、そのような認識を持つこと自体は自由です。

ただ、この記事にひとつツッコミを入れておくならば、もしも韓国が「中堅国として米国の磁場に縛られず、みずから『交渉のテーブル』につく」ことを決断し、米国の重力圏から脱したとしても、すぐに中国の重力圏にとらわれてしまうであろう、という点です。

しかも、記事の末尾には、こんな記述もあります。

日本は予防的先制攻撃である『敵基地攻撃』という『反撃能力』を朝鮮半島に適用するのは、自分たちが判断する問題だと公式化した。大韓民国の憲法上、主権地域である朝鮮半島を日本が先制攻撃地域に設定している現実を、韓国はどう受け止めるべきなのか」。

くどいようですが、もしも「北朝鮮を含めた朝鮮半島全域に大韓民国の主権が及ぶ」とする考え方を取るのならば、北朝鮮による国際犯罪のすべてについても、同様に韓国が責任を負わなければならなくなります。

北朝鮮が核実験をし、ミサイルを発射したことに対する国際社会の制裁が、北朝鮮に対してだけではなく、「韓国に対して」適用されたとしても、文句は言えないはずです。また、日本人拉致事件に対する制裁も、北朝鮮に対してだけではなく、「韓国に対して」適用すべきだ、とする議論にもつながります。

ルトワック氏の指摘そのまんま

もっとも、この記事を読んで真っ先に思い出すのは、こんな文章でもあります。

2011年12月14日には『従軍慰安婦』を表現する上品ぶった韓国人少女の像が日本大使館の向かい側で除幕された。<中略>これは韓国に全く脅威をもたらさない国を最も苛立たせるような行為であった。<中略>戦略面で現実逃避に走るのは<中略>、国際政治に携わる実務家たちの力や、同盟国としての影響力を損なうものだ。さらにいえば、これによって実際に脅威をもたらしている国に威嚇されやすくなってしまうのだ」。

これは、これまでに何度も引用してきた(そしてこれからも何度も引用する予定の)、米国の政治学者で米戦略国際問題研究所(CSIS)のシニアアドバイザーでもあるエドワード・ルトワック氏が10年前に出版した『自滅する中国』の一節です。

この「韓国にとってまったく害をもたらさない相手国である日本を最大限苛立たせ、挑発するような行動を取っていながら、自国にとって大きな害をもたらしている相手国である中国や北朝鮮に立ち向かおうとしていない」とする指摘は、慧眼というほかありません。

ルトワック氏はこうした韓国の行動を巡り、極めて無責任であるだけでなく、同盟国にとっても脅威を高めることにつながる行動だと喝破しているのですが、問題のハンギョレ新聞の記事など、このルトワック氏の10年前の指摘から逸脱していないという点については、注目に値します。

いずれにせよ、韓国が「中堅国として交渉のテーブルに着く」という選択をするのか、それとも「西側諸国の一員として国際法秩序を守る」という選択をするのかについては、韓国の自由であり、私たち外国人がとやかくいうべき点ではありません。

しかし、もしも韓国が「西側諸国の一員として国際法秩序を守る」という道から外れるのであれば、そのときに生じる不利益についても同様に、韓国は甘受しなければならないことになるのですが、果たして韓国にその覚悟はできているのでしょうか?

もちろん、このハンギョレ新聞の記事自体、現在の韓国の「保守(?)」政権の立場とは相いれない部分もあるとは思われますが、それでも自称元徴用工問題を含め、国際法秩序をあまりにも軽視する姿勢は、韓国の「保守」、「左派」に大きな違いはないのかもしれません。

それはともかくとして、隣国である韓国がどういう選択を取るにせよ、日本に「国際法秩序に背く」という選択肢はありません。

とりあえず日韓関係において、日本がいま真っ先にやらなければならないことがあるとしたら、それは日韓諸懸案を巡り、韓国に対し「国際法を守れ、国際合意を守れ、国際条約を守れ」と要求し続けることであり、さらにはどこかで「見切り」をつけることではないかと思うのですが、いかがでしょうか?

新宿会計士:

View Comments (23)

  • サムライアベンジャー(「匿名」というHNを使っている方には返信しません) says:

    >列強同士の対決はチャンスだ
    理屈がよくわかりませんな。
    歴史的に列強同士の対立のはざまでうまく立ち回れたことがないのに、「チャンスがある」と考える思考パターンが理解できませんね。

    • 半島住民の方々の”妄想と現実認識の区別が曖昧だという性癖”と、”都合の悪い事実は歪曲するか無い事にするという思考回路”、さらに”現実にそぐわない異常に高い自国に対しての評価”を合わせると現実世界での因果関係が把握出来なくなってしまっているのだと思います。
      半島内の抗争では「上位の者同士が争って、一方が壊滅する事は我にとって損では無い」という思考回路で生き延びられるかも知れませんが、半島外からの脅威では「半島の一切合切が強制的に潰される」という”都合の悪い成り行き”には考えが及ばないのです。

  • 強いものにすり寄ることこそ我が民族の国是と考えれば理解できるのではないですか。傍証は多い。主体思想しかり、被害妄想しかり。

  • 「実質G8」と自称するくらいですから、大国になれていない前提で書いた場合の、酸っぱいブドウ的な何かでしょうかね。
    「バカな大国は争ってろ、漁夫の利を得る方が得だ(上だ)」
    みたいな。

  • 「西側諸国の一員として国際法秩序を守る」という道から外れる・・・。うーん、もう外れているよーな気が。

  • 韓国は10年前から変わってないというよりは、150年前から変わってないと考えるべきだと思います。思考様式が李朝の両班と何も変わってませんから。

  • 素朴な疑問ですけど、現実逃避に関しては、憲法9条信者の日本は、韓国を笑うことが出来ないのではないでしょうか。(となれば、日本も危ういのでしょうか)

    • この間の防衛白書を出した日本だから、そんなレベルにはない
      韓国は?何もしてな〜い、つかできな〜いww

  • 右顧左眄、阿諛追従と裏切りの繰り返しで、変転常ならぬ己の姿を、本音では恥ずかしいと分かってるんでしょうね、それを無理矢理正当化しようとすれば、このハンギョレ記事みたいな、強弁に逃げざるを得ない(笑)。

    まあ、半万年これでやってきたんだから、今後もこれ以外の途は無いんでしょう。

  • 韓国の肩書き一覧
    先進国(自称)
    新興国(自称)
    中堅国(自称)
    西側諸国(自称)
    G10(自称)
    アジアの虎(自称)

    • そういえば韓国は農業分野の関税で優遇を受けようと、つい最近までWTO内で「途上国」の地位に甘んじていましたね。

      いろんな顔をとったりつけたり、せわしないですな。

      • >いろんな顔をとったりつけたり、せわしないですな。

        そう、それはまさに宗主国の伝統芸能"変面"のごとく…

  • >韓国の「保守」、「左派」に大きな違いはないのかもしれません。

    個人的には、韓国における「保守・左派」は相対的な区別にすぎず、絶対的な立ち位置は「左派・極左」でしかないと思っています。

    >米国の重力圏から脱したとしても、すぐに中国の重力圏にとらわれてしまうであろう

    ある意味、先進国でも途上国でもない ”中進国(C国へまっしぐら)?” のあるべき姿なのかもですね。

  • >「中堅国は列強同士の対決をチャンスと捉えている」

    その通りで、米と中露の対立を最大限に活用しているのは、実は北朝鮮です。北朝鮮のミサイル発射に対して国連の制裁を更に強化する提案は中・露の拒否権発動により成立しませんでした。まー、血は争えないと言うか、韓国も交渉のテーブルに着きたいなら、やったらいいしょ。

1 2