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岸田首相の唐突な「増税発表」に自民党内で反発拡大か

岸田首相の増税方針に対し、高市早苗氏を含めた複数の自民党議員が公然と批判を始めている、といった報道が出始めました。といっても、メディア報道をベースとしたものであるため、それらの情報をうのみに信じるのはいささか早計ですが、気になる動きです。こうした動きが出てくること自体、岸田首相が「やらかした」という証拠といえるのかもしれません。

高市氏が「公然と反旗」=時事通信

高市早苗氏が「公然と反旗を翻し始めた」。

そんな報道が出てきました。時事通信に今朝掲載されたこんな記事が、それです。

高市氏、増税方針に反旗 岸田首相の求心力低下も

―――2022年12月14日07時05分付 時事通信より

時事通信の記事のリード文は、こんな具合です。

防衛力の抜本的強化に向け、岸田文雄首相が打ち出した1兆円規模の増税方針に、高市早苗経済安全保障担当相が公然と反旗を翻し始めた。ツイッターで批判したのに続き、13日には自身の進退を懸けて反対を貫く考えを表明。『ポスト岸田』をにらんだ存在感発揮が狙いとの見方が自民党内にあり、首相に更迭を促す声も出ている」。

このあたり、今朝の『無責任な岸田首相「防衛費は国民が責任もって負担を」』などでも取り上げたとおり、高市氏が岸田文雄首相に対し、増税方針を巡って公然と異を唱え始めていることは間違いありません。

やることをやらずに増税というのもおかしな話ですが、岸田首相はあくまでも増税を押し切るつもりなのでしょうか。岸田首相は昨日、「責任ある財源が必要」として、増税に理解を求めたそうです。安易な増税に逃げている時点で、ご自身が「責任ある態度」を取っているとは言い難いなかで、なかなかに戸惑う発言です。その一方で、高市早苗氏は昨日、「総理の真意がわからない」などとする自身の発言を巡って「罷免されるなら仕方がない」との見解を示したそうです。財務省のロジックの誤り:税収弾性値は1.1ではない!防衛費増額のための...
無責任な岸田首相「防衛費は国民が責任もって負担を」 - 新宿会計士の政治経済評論

実際、高市氏はツイッターで、「総理の真意が理解できない」、「政府与党連絡会議には私も西村氏も呼ばれなかった」などと情報発信しているほか、複数のメディアの報道によれば、「(これらの発言は)一定の覚悟を持って申し上げている」、「罷免されるなら仕方がない」などとも述べているからです。

首相は本件を「問題視しない構え」

ただ、時事通信が「公然と反旗」、などと報じたことについては、個人的には違和感を禁じ得ません。

高市氏はあくまでも、岸田首相の唐突な「増税」発言を批判しているのであって、どちらかといえば「当然に行われているべき党内・閣内の意思疎通の不在」に対する苦言、という側面が強いからです(※この点については著者の私見です)。

時事通信のこの記事も、執筆者の方の主観が多分に出ているきらいがあります。たとえば、こんな具合です。

関係者は『増税に慎重な安倍路線の継承をアピールし、次期総裁選に向けて存在感を示すのが狙いだ』との見立てを示す。高市氏は党内の増税反対派の後押しも期待しているとみられ、『今は勝負をかける時期ではない』と自重を促す周辺の警告に耳を貸さなかった」。

果たしてそんな「関係者」が存在するのか、という疑問は脇に置くとして、高市氏の発言が「勝負をかけている」ものだという見方は、少し拡大解釈が過ぎるのではないでしょうか。

もっとも、時事通信の記事には、こんな続きもあります。

首相は今のところ、事を穏便に収めたい考えのようだ。首相周辺は『最後に足並みがそろえば閣内不一致ではない』と、高市氏の今の言動は問題視しない構え」。

ただ、高市氏の思惑含みの動きに、自民党内は冷ややかだ。党幹部の一人は『不問に付せば増税慎重派を抑えられなくなる』と懸念。閣僚経験者は『首相はここまで言われた以上、辞めさせなければ駄目だ』と言い切った」。

この部分が事実なのだとすれば、やはり「やらかした」のは岸田首相の側ではないか、と思えてなりません。

少なくとも「増税」という、政権公約にも謳われていない方針を唐突に出してきたのは岸田首相の方であり、当時の政調会長として政権公約を取りまとめる立場にあった高市氏にとっては、「そんな話、聞いていない」となるのが当然でもあるからです。

高市氏以外にも複数の議員が増税方針を批判

ちなみに時事通信は「高市氏が反旗を翻した」、などと指摘していますが、現実には足元の税収増に言及した西村康稔経産相、国債償還60年ルールの見直しに言及した萩生田光一政調会長らを含め、多数の自民党国会議員が首相の増税方針を批判しています。

自民・萩生田氏「現状変更容認できず」台湾で講演

―――2022/12/11 11:23付 産経ニュースより

こうした事実関係を踏まえると、時事通信の記事に含まれる、まるで増税容認派が多数派であるかのような記載に対しても、やはり強い違和感を覚える次第です。

自民党議員「内閣不信任案に値する」=朝日新聞

こうしたなか、朝日新聞デジタル日本語版には昨日、こんな記事が配信されていました。

防衛増税に反対する自民議員が会合 「内閣不信任案に値する」との声

―――2022年12月13日 17時58分付 朝日新聞デジタル日本語版より

記事タイトルの「内閣不信任案に値する」という表現の激しさにも驚きますが、内容はもっと強烈です。

朝日新聞によると、増税に反対する20人程度の自民党議員が13日午前、城内実・衆議院議員の呼びかけに応じて会合を開催。「財務省の陰謀だ」、「内閣不信任案に値する」などの批判が飛び出したのだそうです。

これについて、朝日新聞は次のように報じています。

複数の出席者によると、参加議員からは『増税方針を決めるまでの岸田首相の決定プロセスはあまりに乱暴だ』などの批判や、『増税する税目などを税調幹部だけで一方的に決めるようなことになれば政局になる』と首相を牽制する発言があった」。

報じたメディアが今のところ朝日新聞以外に見当たりませんが、これが事実なら、自民党内で燎原の火のように岸田首相に対する批判が広がっていく可能性がありそうです。

細川内閣以来の「やらかし」

冷静に考えてみれば、税収が3兆円も上振れしているなかで、たかだか1兆円の増税が今すぐ必要という話でもありません。それに、くどいようですが、現在の日本は増税をそもそも必要としておらず、むしろ減税をする必要性すらあるほどです。

このあたり、「増税」で過去にいくつもの内閣が倒れてきたという日本の政治史を振り返るならば、岸田首相がその「例外」ではないという保証もどこにもありません。

「日本新党」を結党し、1993年8月に発足した「非自民連立内閣」の首班となった細川護熙首相(当時)が翌・94年2月3日の深夜、突如として「税率3%の消費税」を廃止し、「税率7%の国民福祉税」を創設すると表明した騒動などは、その典型例です。

この「国民福祉税」構想に対し、連立与党内からも批判が噴出し、結局はそれがきっかけのひとつとなったのか、同年4月28日に細川内閣は総辞職しています。

もちろん、細川内閣は「烏合の衆」でもあった8会派による連立政権であり、消費税の税率を巡るスタンスひとつとっても閣内で一致していませんでしたし、その意味では「倒れるべくして倒れた政権」である、という言い方もできなくはないでしょう。

ただ、自民党もさまざまな派閥の寄り合いのような政党でもあり、自民党政権も(良いか悪いかは別として)これらの派閥の微妙なバランスのうえに成り立っているものでもあります。

財務省・外務省にべったりの宏池会と比べ、安倍派(清和政策研究会)には萩生田光一氏や西村康稔氏など、どちらかといえば増税からやや距離を置いているような政治家も所属しています。

こうした状況を踏まえるならば、やはり今回の岸田首相の「増税騒動」については、増税という機微な問題を、党内や閣内の然るべき根回しもなしに打ち出してしまったという意味では、細川元首相と同じような「政治的なミス」、という側面が強いのではないかと思ってしまいます。

新宿会計士:

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  • 以下、本日付日経新聞1面記事からの引用です。

    >財務省は自衛隊施設は有事に損壊する恐れがある「消耗品」とみて、公共事業などに使う建設国債の適用を認めてこなかった。

    …消耗品ですか、びっくりしました。諸外国の財務省もそんな見解なんですかね。

    • 昔観た映画ランボーで、スタローンが「俺はexpendableだ」、と自嘲気味に言っていたのを思い出しました。

    • 有事には 橋や鉄道や発電所も攻撃目標になると思うが 財務省って頭悪い

  • 毎度、ばかばかしいお話しを。
    自民党:「増税というものは、どうしても評判が悪い。その増税を唐突に言い出すとは、岸田総理は鳩山由紀夫病に感染しているのではないか」
    これって、笑い話ですよね。

    • 日本の総理が、唐突に増税を言い出したのは病気のせいだ、と思いたい。

        • ザイム真理教による
          マインドコントロールは
          旧統一教会とどこがどう
          違うのでしょう。

          • 本質は同じだが 影響範囲が信者以外にも及び影響度が違うため より悪質と思う。

  • 財務省と密室協議→増税
    外務省と密室協議→対韓譲歩
    そりゃやらかすよね

  • 岸田首相は、財務省に説得されて増税を了解したものの、党内を増税でまとめる自信がなかったので、独断で発表したのでしょうね。
    ポリシー無き調整型の政治家が、リーダーシップの欠如を露呈したということでしょう。
    この調子では、外交も危ぶまれます。

  • 本日のBSプライムニュースで産経読売朝日の各新聞が参加するようなので、各々の主観については披露すると思います。とは書いたものの見ないだろうなぁ。
    それより、重要閣僚の呟きを直接見たほうが良さそう。

  • 防衛費は国民が責任もって負担を
    と言いながら各省庁へは負担を押し付けないの?

  • さてさて、これで岸田首相の退陣となるのかどうか?
    「増税」を囮に「防衛費増額」を通すと言う作戦かも知れませんが……

  • 防衛費増額方法に関する岸田総理の考えは、控えめに言って「増税ありき」ですよね。

    党内からも批判が出ているのに、岸田総理は頑なに増税の旗を降ろさないどころか、「いまを生きる国民が自らの責任としてしっかり重みを背負って対応すべきもの」とか言って、むしろ増税以外の手法を却下するぐらいの勢いで対応しています。

    人の話を聞いて検討して物事を決めるのが持ち味だということになっている岸田総理が、なぜ自分の(自称)持ち味と真逆のスタンスで強硬策に走るのか。

    ここからは自分の憶測になりますが、おそらく岸田総理は、自分自身に防衛費の捻出手法に関する確たるポリシーはなく、そもそもどうすればいいのかについてのアイディアもないので、財務省に対応を一任して良きに計らってもらうしか方法がなく、財務省からは、増税による方法でしか協力を得られる余地がないので、ひたすら増税と言い募るしかやることがなくなっているのだろうと思います。

    財務省にしても、事務的に対応するなら、増税でやるのが一番楽なのだろうと思います。歳出の見直しで防衛費捻出とかになったら、省庁に配分する予算を削るなどの調整に手を染めなければならず、難度は格段に上がるでしょうし、そもそも役所間でそんな調整がつけられるわけもないので、結局は(総理大臣などが動いて)政治的に決着させるしかなくなるんだと思いますが、岸田総理にそんな政治的調整力を期待するのは無理なような気がします。

    つまり、予算の捻出方法立案を役所(財務省)に頼る時点で、増税という答えが出てくるのはもう既定路線であり、自分の力で何とか解決しようという意志も能力もない岸田総理としては、財務省が描いた絵のとおりに動くしかないんだと思います。

    なんか非常に暗澹たる状況に思えます(個人の感想です)。

  • 岸田首相には国家観が無いというのが一番の問題点ですね。本来であれば、憲法改正、安保や外交問題、成長戦略等等について議論しているべき。それなのに、宗教問題に終始して、挙句に増税で自ら政局を作り出している。喜んでいるのは中国。この間に着々と経済侵略、領土侵略、政治侵略を進めていますよ。
    高市氏について必ず言われるのが党内基盤がない事ですが、国家観はしっかりしたものがあります。国家観の無い人がリーダーになって困るのは、国民は勿論ですが、自民党自身ではないでしょうか。ジョンソン首相に反旗を翻したスナク氏のように、高市氏の動きが広がる事を期待してます。

  • ここでケネディ米大統領の大統領就任演説の一説を紹介したくなりました。
    「我が同胞アメリカ国民よ、国が諸君のために何が出来るかを問うのではなく、諸君が国のために何が出来るかを問うてほしい。・・・世界の友人たちよ。アメリカが諸君のために何を為すかを問うのではなく、人類の自由のためにともに何が出来るかを問うてほしい。・・・最後に、アメリカ国民、そして世界の市民よ、私達が諸君に求めることと同じだけの高い水準の強さと犠牲を私達に求めて欲しい。」

    残念ながら、岸田首相の資質はケネディ大統領の資質の足許にも及ぶのかどうか…
    そのことをどう感じるのかは、日本の人々の各個人個人の自由な思量であり、同時に世界の人々の各個人個人の自由な思量でありましょう…

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