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また「押し紙」疑惑:もし広告主も新聞社を訴えたら?

『弁護士ドットコムニュース』というウェブサイトによると、福岡県の新聞販売店の元店主が株式会社西日本新聞社を「押し紙」で訴えたのだそうです。この「押し紙」とは新聞社が実際に販売されていない新聞紙を販売店に押し付ける行為などを指していると考えられますが、もしも新聞業界全体がこの「押し紙」を行っていたならば、新聞販売店の問題にとどまらず、広告業界全体にも影響が及ぶかもしれません。

新聞部数の推移

先日の『過去17年分の朝日新聞部数推移とその落ち込みの分析』では、一般社団法人日本新聞協会のデータ、およびさる読者の方からいただいた株式会社朝日新聞社の過年度有価証券報告書のデータを使い、新聞業界の状況を概観しました。

先日、朝日新聞の部数が400万部を割り込んだとする報道を話題に取り上げたのですが、その後、とある読者の方から株式会社朝日新聞社の2006年度(=2007年3月期)以降の有報データをメールで送っていただきました。有難く使わせていただき、朝日新聞の部数の推移についてもう少し詳細なデータを紹介するとともに、ちょっとした「シミュレーション」も実施してみたいと思います。朝日新聞の部数データ先日の『朝日新聞400万部割れも経営は安泰か:その一方で…』では、株式会社朝日新聞社の有価証券報告書をもとに、朝日新聞の部数の推移...
過去17年分の朝日新聞部数推移とその落ち込みの分析 - 新宿会計士の政治経済評論

データをあらためておさらいしておきますが、新聞発行部数は朝刊、夕刊ともにここ数年で落ち込みが大きいものの、とくに落ち込みが激しいのは夕刊です(図表1図表3)。

図表1 朝刊部数

図表2 夕刊部数

図表3 合計部数

(【出所】一般社団法人日本新聞協会『新聞の発行部数と世帯数の推移』および株式会社朝日新聞社・過年度有価証券報告書データをもとに著者作成。ただし、全体の「朝刊」「夕刊」はそれぞれセット部数と単独部数を合算して算出。また、年度は日本新聞協会データについては同年10月1日時点のものであり、株式会社朝日新聞社データについては翌年3月31日時点のものである)

なぜ朝刊の「減り」が緩やかなのか

朝刊の落ち込みが夕刊のそれと比べてマイルドな理由として、当ウェブサイトではこれまで、「チラシ需要」、「訃報欄需要」、「夕刊の廃刊」という3つの要因に加え、「押し紙」と呼ばれる、実際には消費者に販売されていない虚偽の部数による水増し、という仮説を提示してきました。

【仮説】朝刊部数の落ち込みが夕刊部数と比べ緩やかである理由
  • ①折込チラシ…朝刊に折り込まれるチラシを目当てに朝刊を取り続けている世帯がいる
  • ②訃報欄需要…地元紙に掲載される訃報欄などには根強い需要がある
  • ③夕刊の廃刊…夕刊を廃刊する新聞が増えており、その分、夕刊が朝刊と比べ大きく落ち込んでいる
  • ④「押し紙」…消費者に販売されていない虚偽の部数が水増しされている

(【出所】著者作成)

実際、図表1~3を眺めていて気付くのは、「朝刊より夕刊の方が落ち込みが激しい」という点だけではありません。全国紙である朝日新聞の部数が、地元紙も含めた新聞の部数全体と比べてより大きく落ち込んでいる、という点です。

業界全体と比べ、朝日新聞の部数の落ち込みが大きい理由としては、いわゆる慰安婦関連報道や吉田調書関連報道の取消といった個別要因だけでなく、とくに地方ではその地元紙に対する需要が根強い、といった事情があるのかもしれません。

このように考えていくと、仮説の①、②は「地方紙が強く、全国紙が弱い」という要因を部分的に説明するものではあります(※ただし株式会社朝日新聞社以外の大手全国紙は有報などを公表していないため、こうした分析に限界があることは事実ですが…)。

押し紙疑惑でまたしても訴訟

その一方で、④の部分については、以前から根強く指摘されている問題点のひとつです。実際、『新聞崩壊?「押し紙」認めた判決契機に訴訟ラッシュも』などで取り上げたとおり、佐賀新聞の「押し紙」が一審で認定されたという「事件」がありました。

昨日、地味ながらも非常に重要な判決が、佐賀地裁で下されました。『弁護士ドットコムニュース』によると、佐賀新聞の販売店の元店主が佐賀新聞社を相手取った訴訟で、裁判所は「押し紙」の存在を認定したからです。これがいったい何を意味するのか。「アリの一穴」ではありませんが、新聞業界が足元からガラガラ音を立てて崩れるきっかけになるのかどうかが注目されます。新聞部数水増し疑惑日本新聞協会の朝刊単独部数以前の『「新聞業界の部数水増し」を最新データで検証してみた』で、「一般社団法人日本新聞協会」が公表する『新...
新聞崩壊?「押し紙」認めた判決契機に訴訟ラッシュも - 新宿会計士の政治経済評論

この佐賀新聞の一件については、控訴審で和解が成立しています。

佐賀新聞「押し紙」で元販売店主と和解 福岡高裁 一審は仕入れ強制認める

―――2020年12月16日 11時23分付 弁護士ドットコムニュースより

ただ、押し紙訴訟は散発的に発生しており、これに関連し、またひとつ、非常に興味深い話題が出てきました。

西日本新聞を「押し紙」で提訴、約5700万円求める 佐賀県の元販売店主

―――2022年11月15日 17時13分付 弁護士ドットコムニュースより

『弁護士ドットコムニュース』に昨日掲載された記事によれば、佐賀県の元新聞販売店店主が株式会社西日本新聞社を相手取り、約10年分の押し紙の仕入代など計5700万円を求め、11月11日付で福岡地裁に提訴したのだそうです。

訴状によると、原告が販売店を経営していた2005年から2021年までの期間、新聞社からの仕入に占める押し紙の比率は少なくとも10%を超え、2013年7月~2015年5月の期間には20%超で推移したこともあったのだとか。

広告主は新聞社を訴えることができるかも?

ちなみに同記事によると、原告は「不要な新聞の仕入を強制された結果、経営が困難になり廃業を余儀なくされた」と主張しているとのことですが、冷静に考えていけば、かりに「押し紙」が事実なのだとしたら、問題はそこにとどまらない可能性が出てきます。

先ほども引用した日本新聞協会の部数について、もしも「押し紙」による部数の水増しが行われているのだとしたら、それは新聞社や新聞販売店の広告主に対する何らかの不法行為ないし不当利得という可能性が出てくるのです。

もし「不当利得」が適用される場合、一般に「悪意の受益者」は過去の不当利得に利息をつけて返還しなければならず(民法第704条)、しかも不当利得の返還請求権の時効は10年とされています(民法第166条第1項第2号)。

民法第166条第1項

債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。

一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。

二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。

民法第704条

悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。

このため、もしも過去の部数が実態と比べて1割水増しされていたと仮定すれば、過去10年分の広告売上の9%(=10%÷110%)に法定利息をつけて返還しなければなりません(法定利率は過去は民事5%、商事6%でしたが、現在は原則として3%です)。

このあたり、過去には新聞社の社会的影響力が大変に大きかったことを踏まえると、広告主が新聞社を訴えるというのはあまり現実的ではなかったのかもしれません。しかし、新聞、テレビといったオールドメディアの社会的影響力は、現在、急速に損なわれていることは事実でしょう。

このように考えていくと、もうすぐ新聞社を訴える広告主が出てきても不思議ではない気がするのですが、いかがでしょうか。

新宿会計士:

View Comments (14)

  • いつも思うのですが、この「押し紙」というのは、粉飾決算に準じた取扱いにはできないのですかね。

    • 粉飾決算:一株当たり利益がxxx円というからxx円の株価でも買ったんだ。利益が水増しされていたなら買わなかった。

      押し紙: 公称400万部というから高い広告費を払っているんだ。300万部だったら広告は出さなかった。

      同じだね

      • 広告主に対する詐欺にはならないのでしょうか。
        詐欺の構成要件で立証が最も難しい「故意に騙す」の故意性も、販売店への押し紙の強要という行為を伴っていること・偶然やミスで本当の部数より多く盛ってしまったわけではないことで、明らかなように思います。

  • 多分今も業界全体で押し紙は行っていますよ。
    少なくとも5年ほど前の朝日読売日経の販売店では見たことがあります。
    販売店の中にうず高く積まれていました。
    紙面に環境問題を訴える記事を見かけるたびに疑問に思ったものです、押し紙こそ環境問題では?と。

  • 素人の質問ですけど、もし新聞社が押し紙を、(包装紙としてか)各家庭に無料で勝手に配っていれば、少なくても広告主からは、訴えられないのではないでしょうか。(「毎日は包装紙はいらない」というのでしたら、一軒ずつ曜日をずらして週1回でもよいです)

  • 新聞社はコロナを煽りに煽る。
    地域の小売店が折り込み広告(チラシ)を控える。
    それにより販売店は押し紙を抱える余裕がなくなった。
    チラシは紙からアプリに移行している。

    もう販売店は押し紙を抱える余裕はない。
    押し紙とは広告費の詐取そのもの。

    かつて雑誌の発行部数は出版社が自己申告する公称が用いられていた。
    だがその公称が印刷証明付発行部数を超えて問題となる。

    いわゆる雑誌広告を詐取していたのであり、その後雑誌広告は激減。

    現在の雑誌の部数は印刷証明付発行部数から見るのが基本。
    ただ返本率が公表されていないため正確な実売数を探るのは難しい。

    かようなまでに新聞、雑誌は胡散臭い業界だ。

  • 広告主が不当利得返還請求をするのは難しいと思います。
    新聞の広告契約での料金は、どれだけのスペース(〇段など)の広告を1回掲載したら〇〇円という決め方をしているので、その媒体がどれだけ販売されたかは契約要素になっていません。1回広告を掲載して代金いくらという料金体系では、媒体の販売数量は無関係です。
    媒体の販売数量は、広告主が出稿する/しないを決定する判断要素になっているでしょうが、契約で媒体の販売数量が明示されていない場合は、動機の錯誤があったとまでは言えないでしょう。
    ネット広告などのようにページビュー当たりの料金体系であれば、ページビュー数を過大に請求すれば不当利得になりますが、新聞広告の料金体系はそのようになっていません。

    • 広告を出す側からすると、
      「公称○部」で広告スペースを販売している新聞社等は、
      広告を打った日の実売数について広告主に対する開示が無く、
      また公称部数と実売数の按分で返金することも無いのですから、
      公称部数と実売数の乖離は、広告主にとっては「粉飾」でしかないです。
      新聞社等の広告は、「ページビューでない」からこその問題です。

      • 公称部数と実売部数の乖離が「粉飾」と同様に問題であることは否定しません。
        ただ、「不当利得返還請求」という切り口では、それが困難であるという指摘です。過払金返還請求訴訟が下火になっているのでいろいろ考えてみたのですが、これは無理筋です。

    • Google Analytics サービスが経営層と経費管理者に向けた「広告効果の見える化」CMを近頃強化したように当方には感じられます。広告主に見限られるというかたちで新聞雑誌そしてTVにはいよいよ引導が渡されているのではないしょうか。気が付かないのは本人たちばかり、と。

  • 販売店にしても、押し紙が10%程度の頃は、折込チラシの水増し効果と販売奨励金で十分にペイできていたのかもですね。

    押し紙の存在を明かした以上、折込チラシの出稿主への賠償責任が生じるのも覚悟のうえの訴えなんですよね。きっと・・。

  •  パチンコ業界も、店舗では新台入れ替えが不要と考えていても、今回の新機種を買わないと次回は売ってやらんぞ、という慣習があるのだとか。存在そのものが黒に近いグレーのパチンコ業界ならまだわからんでもないですが。

     社会の木鐸……ですっけ?(プ

  • 押し紙で一番気に食わないのは、選挙公報の広告費。
    1000部分しか読者がいないのに1500部と申告し選挙公報の広告費を受け取れば、詐欺ではないか? しかも詐欺でかすめ取った費用は税金。 納税者全員が被害者。
    朝日新聞が押し紙をし、選挙公報の費用を上乗せして受け取れば、新聞販売店は詐欺。朝日新聞はその詐欺行為を助けている。これはコロナ給付金詐欺と何が違うのかと言いたい。