X

1ドル=150円突破:電力不安解消で日本経済復活へ

円安が進行し、ついに1ドル=150円台を突破しました。BISデータによると、これは32年ぶりの水準です。10月に入って以来、日本円はBISデータ上、ルーブル、豪ドルに続き3番目に大きく下げていることもわかります。こうしたなか、日本は電力の安定供給という課題を何とかこなしていく必要がありますが、この点をクリアすれば、日本経済は大きく復活する可能性を秘めています。

32年ぶりの円安

外為市場では32年ぶりに1ドル=150円台を突破するなど、円安が進んでいます。

国際決済銀行(BIS)のデータに基づけば、過去に1ドル=150円台を記録したのは1990年8月13日時点の1ドル=150.42円以来、およそ32年2ヵ月ぶりのことです(図表1)。

図表1 USDJPY(1982年10月以降)

(【出所】BISウェブサイト “Download BIS statistics in a single file”, US dollar exchange rates データより著者作成。なお、該当する営業日における為替相場のデータがない場合は、その直近営業日のものを使用している)

日本円はプラザ合意(1985年9月22日)以前には1ドル=240円を超える水準で取引されていましたが、9月23日時点で一気に1ドル=230.50円へと円高が進行。翌・86年1月には1ドル=200円の大台を割り込んでしまい、さらに87年3月には150円の大台も割り込んでいます。

もしも1ドル=150円の大台を超え、さらに1ドル=160円台、170円台と円安が進むようであれば、それこそ「為替レートだけで見れば」バブル期以前の状況に逆戻り、といった状態です。

今月の下落率では3位=BISデータ

また、10月に入ってから17日までの対米ドルでの騰落率だけで見れば、日本円はロシア・ルーブル、豪ドルに次いで世界で3番目に大きく下落している通貨でもあります(図表2)。

図表2 対米ドルでの下落率(9月30日→10月17日)
通貨 1ドルあたり 騰落率
1位:ロシアルーブル 55.2987→63.4917 14.82%
2位:豪ドル 1.5466→1.6017 3.56%
3位:日本円 144.6553→148.8859 2.92%
4位:アルゼンチンペソ 147.3150→151.3217 2.72%
5位:スイスフラン 0.9808→1.0024 2.20%
6位:マレーシアリンギット 4.6370→4.7165 1.72%
7位:インドネシアルピア 15247.4969→15465.4482 1.43%
8位:ニュージーランドドル 1.7621→1.7870 1.42%
9位:人民元 7.1161→7.2009 1.19%
10位:タイバーツ 37.7749→38.1651 1.03%

(【出所】BISウェブサイト “Download BIS statistics in a single file”, US dollar exchange rates データより著者作成。なお、該当する営業日における為替相場のデータがない場合は、その直近営業日のものを使用している)

事実上の資本統制が行われているルーブルは脇に置くとして、2位に豪ドル、3位に日本円、5位にスイスフランが入っているというのも意外に感じる人が多いかもしれません。また、人民元も日本円ほどではないにせよ、米ドルに対して下落を続けています。

電力の安定供給不安解消を!

こうしたなかで、日本の場合、円安になったからといって通貨危機になるというものではありません。なぜなら円自体が国際的に通用するハード・カレンシーだからであり、また、日本が国全体として巨額の対外債権を抱えているからです。

ただ、その反面、貿易赤字の拡大が加速する、という悩みどころがあることは間違いありません。民主党政権以降、主要な原発が稼働を停止し、日本全体として鉱物性燃料の輸入量・輸入額が増えているからです。また、ウクライナ戦争以降、資源価格が高騰していることも悩みどころでしょう。

ちなみに日本の貿易赤字要因の半分は、だいたいこの原発稼働停止で説明がつきます(残り半分は、PCやスマートフォンなどのデバイスの中国からの輸入額で説明がつくと思います)。

逆にいえば、日本の場合だと原発の再稼働・新増設を進め、再生可能エネルギー固定価格買取制度を改めるなどして電力の安定供給・電力価格の引き下げれば、この円安という好機を最大限に生かすことができる、ということでもあります。

1990年代以降、日本企業は国内の製造拠点をどんどんと海外(とくに中国)に移転させ、技術と資本の流出を発生させました。

しかし、中国では近年、人件費が高騰することでコスト優位も薄れていますし、これに加えて「中国リスク」――、たとえば「中国政府が資源などを政治利用する」などのリスク――が高まっていることもありますので、正直、この円安を契機に日本企業の中国脱出が加速する可能性はあるでしょう。

いずれにせよ、「電力の安定供給に不安がある」という民主党政権の負の遺産を完全に払拭することができれば、日本経済は大きく復活するポテンシャルを秘めているのです。

新宿会計士:

View Comments (25)

  • テレビでもラジオでも「32年ぶりの円安!大変だ!」って感じで煽りが続いていますね。
    でも、よく考えると30年以上成長らしい成長をしてこなかった日本は、逆に150~180円に戻るのは必然なんじゃないかと思います。
    幸い先人たちのおかげで、世界1位の債権国である今のうちに、初心に戻り、空洞化した国内産業を立て直して競争力を身に着けて欲しい気がします。
    会計士様の仰る通り、電力の安価で安定供給に加え、少子化対策をして20年後を見据えた労働力の確保、自動化やロボットの研究など、今こそ政治の力で何とかしてほしいです。

    • その通りだと思います。
      今まで有事の円買い等で安全資産として円が買われすぎていたの思います。
      日本円の実質の価値に揺り戻している感じですね。

    • ご指摘どおりです。これを岸田内閣の意味不明な「新しい資本主義」の代わりに使用すれば内閣支持率ももう少し増しになるでしょうに。本当にスタッフが人材不足なのか 官僚機構が天下りしか考えていないためか。

  • 日本円が150円を超した事に南国では
    大変喜んでいる状況なそうです。
    (シンシアリー氏のブログによる)
    150円になったら日本が金融危機を起こすそうで
    紫大先生が南国に居るかのようです。
    私自身は180円もありかな~と、貿易赤字
    エネルギー危機問題は原発を稼働させれば問題が
    無い事は解っております。

    南国では前回の金融危機の時、ウォンが暴落したせいで
    金融危機になったと勘違いしているようで、面白いです。
    リーマンショックの時、日本が助けた事を忘れて
    ハシャグ事も大切ですが、今回来る金融危機は
    リーマンショックではなく、1929年米国の
    ブラックマンデーの再来から来ると思っているのですが?
    南国はその時、日本領化していたので、その時の
    金融危機から始まる大きなうねりを感じないで
    すみましたが、今回来る金融危機にどう備えるのでしょう?
    「歴史は繰り返すが、来る順番が変わる」

    露がチェコの夢よもう一度をウクライナで起こした後
    領土問題を引き起こした事は、独ヒットラーのやった
    ラインラント進駐からチェコのズデーデン地方の領有権を
    宣言した事に似てきています。 チェンバレンの代わりを
    するのは誰なのだろうか? トルコのエルドアン大統領?
    中共の習主席?

  • > 「電力の安定供給に不安がある」という民主党政権の負の遺産

    日韓トンネル経由で韓国から電力供給を目論んでいた連中ですからねぇ。
    現在も、日本の原子力技術者枯渇を待って、廃炉作業の韓国に丸投げを狙って、廃炉ではなく休止に止めてます。

    廃炉しないのなら、休止なんかしてないで、有効活用すべきでしょう。
    残っている燃料を焚いて、将来処分しなければならない燃料を減らすべき。
    残っている燃料の有効活用は、当面の化石燃料輸入抑制にも効果がある。
    高価な化石燃料を焚いて、二酸化炭素をバンバン排出するという、逆行政策も止められる。
    日独が化石燃料価格を吊り上げているという、世界中の批判もかわせる。

  • 現在の円安は、大雑把には円の独歩安でなくドルの独歩高です。米国以外の国々との貿易は以前とあまり違いはなく、米国に対しては輸入は厳しくても輸出はしやすくなった、と思います。
    いづれにせよ、物事には両面があります。
    その両面をできるだけ広い視野で俯瞰することで考えるべきであり、貿易赤字だけで騒ぐのでなく、海外資産の円換算での残高拡大とセットでとらえるとか、農家にとっては日本の高品質作物の海外販路拡大到来とか、諸々を冷静に論じていただきたいものです。
    他にも、強権国依存サプライチェーンを再構築するチャンス到来とか、色々あると思います。

  • 立憲民主党(旧民主党の落ち武者連中)は本当に悪夢と言うか悪魔ですね。最近国会でも大臣に向かって『お前は信者か』って質問した弁護士崩れの議員がいるそうで、弁護士でありながら、憲法の思想信条の自由を否定し、且つ党名が立憲という憲法を病的に守る?名称を用いながら、この党の執行部からは、どう考えても真っ当ではないこの議員に対して何ら処罰もしないどころか、擁護する始末。悪夢のような民主党政権時に数々の蛮行を行った結果、現在に至っても尚、エネルギー問題の解決もできず。自然に任せたエネルギー政策のために余計な電気料金を支払わされ続けている我々一般消費者の負担も軽減されず。まあ本当に早く無くなれ立憲民主党。ですわ。

  •  論座(笑)への千葉商科大准教授の奇行じゃなかった寄稿がまた面白いですよ。
     電気水道燃料が値上がりするのはなんかしらんけどアベノミクスのせいで、先日のドル売り円買いは大失敗でマリアナ沖海戦のようで、安倍総理はパンデミックもロシアの突然の侵攻(2022)も予測していないといけなかったそうです。
     コメント欄でも「やっぱり民主党が正しかったんだ」だそうです。朝日がもうどうにも方向転換できない理由が垣間見えます。

     スゴイですね論座。

  • 電気料金が数割値上がりして一般にもエネルギー不足の影響が顕著に現れているのに、まだ原発は再稼働しないんですか。遅すぎる。
    原発は一度止めると再稼働に技術的に時間が掛かるのは知っていますが、それでも半年も掛かることはありません。これだけ国民が困っているときに「稼働させないっ!」て頑張っているのは誰? 地元の方々ではないような気がしますが。

  • 清零宗太祖の玉座に黄色の熊が鎮座しているとの寓画を見ました。よく描けています。
    「中国リスク」とは、駅が封鎖されて移動ができなくなったり、飛行機に乗れなくなったり、物流麻痺が起きることです。それはある日突然に発生します。動的清零政策の誤りを認めそれを取り下げない限り中国リスクは今のまま続きます。

  • 私はとあるメーカーでエネルギー管理企画推進者をやっています。
    省エネルギー法というのがあって、省エネルギーを毎年1%以上やるよう義務付けられています。
    現実はエネルギーがとんでもなく上昇しているので、会社としては10%単位での省エネをしないと生き残れないところまで来ています。
    私の会社はエネルギー源として電気ではなくガスをメインで使用しているので、原発を稼働させれば日本の経済安定につながるという議論には全面的に賛成ではありません。
    あくまでも電力の安定供給は経済安定の施策の一部だと思います。
    ガソリンの補助金や原発の再稼働など単発的な政策の積み上げでどうにかなるような状況ではないのではないでしょうか。

    • もうひとつ付け加えておきます。
      東日本大震災の前は原発が50基以上稼働していたのが現在は10基。
      岸田首相はそれに加えて7基の稼働をすると先日発表しました。
      これで電力の供給が増えて日本経済が安定するに足りる量ではないでしょう。
      やることが中途半端で先行きが心配でなりません。
      もう岸田首相にはやめてもらうしかないですね。

    • 各方面に色々と事情があるのですね。とにかく原発というと、何もかも雁字搦めで遅々として事が進みません。
      岸田首相は笛を吹けども誰も踊らずという状態なら英国のトラス首相のように辞任すべきでしょうが、あれはあれで いさぎよすぎるという気もしないではないですが。

  • 先日、広島に遊びに行った際に、岸田さんの話をしたついでに、ズバリ「広島の方たちは原爆のこともあり、原発稼働反対なんですか?」とお好み焼き屋の主人に尋ねました。「そんなことありません。」と先方もキッパリお答え頂きました。
    一体全体、誰が原発に反対して、誰が停めているのでしょうか?謎です。

1 2