米国はいままで韓国に対し、「通貨スワップを提供する」と約束したことはありません。少なくとも今年5月に訪韓したバイデン米大統領もそのような約束をしていませんし、韓銀総裁自身も今月、米韓為替スワップなどが締結される可能性を否定しています。ただ、韓国の財界からは、大変奇妙な要望も出ているようです。
目次
今年5月の米韓共同声明
今年5月、ジョー・バイデン米大統領が韓国を訪問して尹錫悦(いん・しゃくえつ)韓国大統領と会談した際に発せられた米韓共同声明のなかに、こんな一節があります。
“President Yoon and President Biden agree that the Korea-U.S. Free Trade Agreement (KORUS), which celebrated its 10th anniversary this year, remains the foundation of our economic relationship. To promote sustainable growth and financial stability, including orderly and well-functioning foreign exchange markets, the two Presidents recognize the need to consult closely on foreign exchange market developments. The two Presidents share common values and an essential interest in fair, market-based competition and commit to work together to address market distorting practices.”
意訳すれば、今年が米韓自由貿易協定から10周年の節目にあたるなか、「市場に基づく公正な競争が重要だ」とする認識を共有するとともに、「市場を歪める慣行」に「ともに対処する」、といったものです。
この「市場を歪める慣行」が何を意味するかについてはさだかではありませんが、その直前の文章で「秩序正しく、よく機能する外為市場」という表現があることから、この「市場を歪める慣行」という表現自体、米国が韓国の通貨当局による為替市場への介入を問題視していると見るのが正解でしょう。
「韓米通貨スワップにコミットした!」
ところが、非常に不思議なことに、韓国メディアのその後の報道ぶりを見ていると、この米韓共同声明の一節を取り出して、「米国が外為市場の安定に協力すると約束した」、という意味だとする解釈が出てきているようです。
その一例が、『完全な勘違いに立脚した米韓通貨スワップ待望論=韓国』でも取り上げた、5月23日付の中央日報(日本語版)の『韓米共同宣言文に初めての登場した為替市場協力…「常設通貨スワップ」構築の土台か』なる記事でしょう。
米韓首脳共同宣言を受け、一部の韓国メディアが再び「通貨スワップ待望論」に火を付けました。ただ、韓国政府はこの「通貨スワップ待望論」を巡って、何とか水面下に押しやろうとしているフシがあります。米国が韓国と通貨スワップ(あるいは為替スワップ)を締結する可能性は、極めて低いからです。したがって、そろそろ「韓米通貨スワップ待望論」が「韓日通貨スワップ待望論」に化ける可能性への備えをしておいても良いのかもしれません。「韓米通貨スワップ待望論」の実際中央日報「韓米共同宣言は常設通貨スワップ構築の土台か」... 完全な勘違いに立脚した米韓通貨スワップ待望論=韓国 - 新宿会計士の政治経済評論 |
問題の中央日報の記事では、こんな記述があります。
「韓米両国が21日、首脳会談後に発表した共同宣言文で異例にも『為替市場安定のために緊密に協議する』という内容を明示し、両国政府間の『常設通貨スワップ』協力チャンネル構築の土台を用意したという評価が出ている」。
そもそも論ですが、共同宣言文に「為替市場安定」という表現は出ていません。「秩序ある、そしてよく機能する外為市場を含め、持続的な成長と金融市場の安定のために」、とうたっていますが、「為替市場安定のために」、だと、原文の意味を歪曲しています。
「イエレン氏もスワップに含みを持たせた!」
この手の「原文に含まれていない内容」、あるいは原文を「トリミング」した表現などが頻繁に出てくるというのも困りものです。
ただ、その後も韓国メディアからは、「米国がウォン市場の安定にコミットした」、といった報道が出てくるのにはおどろきますし、韓国政府関係者もそうした情報をむしろ積極的に垂れ流しているフシがあります。
たとえば、ジャネット・イエレン米財務長官が7月に訪韓した際には、韓国政府がこんな内容の文章を発表しています(※原文は韓国語、一部英語)。
「秋慶鎬副首相とイエレン長官は、韓・米両国が必要流動性供給装置など多様な協力方案を実行する余力がある(have ability to implement various cooperative actions such as liquidity facilities if necessary)という認識を共有した」。
この発言自体、イエレン氏が米韓「通貨」スワップを韓国に提供すると約束したようなものだ、といった報道も韓国ではなされていたのですが、これについては『イエレン氏は本当にスワップに「含み」持たせたのか?』でも指摘したとおり、米国政府側からはそんな発表はありませんでした。
韓国といえば、「言った」「言わない」の議論になりがちな相手国です。こうしたなか、いくつかの韓国メディアは昨晩から今朝にかけ、「米国が通貨スワップ締結に含みを持たせた」、などと大いに報じているようですが、不思議なことに、米財務省のウェブサイトを見たところ、現時点でそれに相当する報道発表は見当たらないのです。そもそも本当にイエレン氏は通貨スワップないし為替スワップに「含み」を持たせたのでしょうか?通貨スワップに関しては「ほぼゼロ回答」だが…今朝の『韓国待望の米韓通貨スワップはほぼゼロ回答=財相会談... イエレン氏は本当にスワップに「含み」持たせたのか? - 新宿会計士の政治経済評論 |
また、今年9月には、尹錫悦氏がニューヨークで開かれる国連総会に出席するために訪米するというタイミングで、やはり韓国政府からは「米韓首脳会談でスワップが議論される」といった情報が流れました(『韓国高官「韓米首脳会談で通貨スワップが議論される」』等参照)。
韓国メディアの報道によると、韓国政府高官が米国との間で「韓米通貨スワップが議論される」と明らかにしたそうです。それが為替スワップを意味しているのだとしたら、バイデン大統領にとっては管轄外のことを相談されても困ってしまうのではないかという気もします。ただ、足元で韓国のドル資金市場はジワリと逼迫しつつあるようです。「韓国が米国と通貨スワップを議論」=ロイターロイターによると、韓国『聯合ニュース』は「政府高官の発言」として、来週の国連総会に合わせて米国を訪問する尹錫悦(いん・しゃくえつ)韓国大統領... 韓国高官「韓米首脳会談で通貨スワップが議論される」 - 新宿会計士の政治経済評論 |
しかし、これもふたを開けてみれば、結局、尹錫悦氏はバイデン大統領と「会談」を実施することができず、ごく短時間の立ち話に終わりました(中央日報『ニューヨークでバイデン大統領に会った尹大統領…48秒間「立ち話」』によると、会話時間は48秒間だったのだそうです)。
この「48秒間」で「通貨スワップを結んでくれ」、「わかった」、といった会話が交わされたとも思えません。実際、韓国銀行総裁も今月、米韓スワップが近日中に締結される可能性については否定しています(『為替スワップめぐる韓銀総裁の「酸っぱいブドウ」理論』等参照)。
韓国銀行の李昌鏞(り・しょうよう)総裁はウォン安を巡り、「韓米通貨スワップは万能薬ではない」と発言したのだそうです。米国があまりにもスワップ締結に応じてくれないものだから、ついに「酸っぱいブドウ」理論に走ったのでしょうか。むしろ韓国が国を挙げて取り組まねばならない課題は、ウォンの国際化だったはず。それを怠ってきた以上、韓国が外貨で苦労するのも当然といえるかもしれません。「酸っぱいブドウ」理論お腹を空かせたキツネはある日、たわわに実った美味しそうなブドウを見つけました。キツネはそのブドウを食べ... 為替スワップめぐる韓銀総裁の「酸っぱいブドウ」理論 - 新宿会計士の政治経済評論 |
米国が韓国と現時点でスワップを締結する可能性は…
ただ、こうした「スワップ騒動」を通じて見えてくるのは、やはり韓国という国の通貨面での脆弱性もさることながら、米韓スワップのハードルの高さでもあります。
くどいようですが、米国が現時点で韓国と「通貨」スワップや為替スワップを結ぶ可能性は非常に低いです。
そもそも米国はメキシコ、カナダ両国と通貨スワップを結んでいますが、米国が外国と結んでいる通貨スワップはこの両国とのものに限定されており、それ以外の国とは通貨スワップを結んでいません。
また、米国は日本、英国、カナダ、スイスの4ヵ国の中央銀行、および欧州中央銀行(ECB)との間で常設型為替スワップを結んでいますが、これらの各中銀はそれぞれ世界的なハード・カレンシーの発行主体でもあることから、これらの為替スワップは米国にも恩恵をもたらすものです。
韓国と為替スワップを結んだとしても、べつに米FRBにとってはほとんどメリットがありません。そもそも米銀が韓国ウォンという資金を必要とする局面自体、ほとんどないからです。
韓国財界「米は共同宣言に従い常設通貨スワップを締結せよ!」
ただ、韓国の側ではいまだに、この5月の米韓共同宣言に対する誤解に基づき、ときどき、米韓「通貨」スワップ待望論が出てきます。
3年ぶりに集まった韓米財界、「韓米通貨スワップ締結など経済協力の強化必要」
―――2022.10.20 11:59付 中央日報日本語版より
中央日報によると、韓国の「全国経済人連合会」は20日、米商工会議所と共同で第34回米韓財界会議総会を開催したと発表。「韓国製品差別規制改善」や「韓米通貨スワップ締結」など、「韓米同盟の経済安保協力強化が必要だ」ということに「同意を集めた」のだそうです。
特に記事の末尾には、こんな記述があります。
「両国の出席者は米国の最友邦である韓国の外国為替市場の安全性を高めるため5月の韓米首脳共同声明に盛り込まれた『外国為替市場関連協議』の後続措置として韓米通貨スワップの常設締結あるいはこれに相当する措置を促した」。
…。
米国の同盟国でありながら「米中等距離外交」を行い、今年8月に訪韓したナンシー・ペロシ米下院議長を冷遇したほどの韓国が、米国にとっての「最友邦」とする認識も、なかなかにぶっ飛んでいますが、話はそれだけではありません。
そもそも「5月の米韓共同声明」では「外為市場の安全性を高める措置」など合意されていませんし、米韓「通貨」スワップを「常設で」締結するという要求も、あまりにもムシが良すぎます。くどいようですが、米国にとっての「常設型為替スワップ」は、米国に対してもメリットをもたらすものでなければならないからです。
いずれにせよ、「米国は共同宣言に従い通貨スワップを締結せよ」、などと要求されても、米国としても困惑してしまうのではないでしょうか。
あるいは、米国の政策当局者としては、昨今のドル高と新興市場諸国の通貨流出リスクも、むしろ「いうことを聞かない国を締め上げる」という意味では、ひとつのチャンスと見るのが当然ではないかと思う次第です。
View Comments (11)
唯我独尊
俺のまわりを地球が回る。
このような記事が頻繁に出るという事は、相当苦しくなってきたと考えられる。
"最友邦"なのにアメリカが「スワップ無理っす」って言ってしまったら、いつでもいくらでもスワップを結んでくれる真の友人はどこに……
最近はアメリカもこういう「やりくち」に苛ついているように見えます。日本のキモチわかった?
米国の2大政党両方が共に、嫌韓、離韓になったのは良いことですね。これで米国政権が今後交代しても韓国の大きく扱いが変わるリスクは相当減ったでしょう。
韓国政権が左派から右派に変わっても韓国の外交姿勢の大勢に変化無し、というのを米国が体験出来たのも収穫でしょう。
まあ、韓国人が願望と事実とを混同するのは平壌運転ですから。
1. 「そうだったらいいのになぁ」
2. 「そうであるに違いない」
3. 「そうであることは疑うべくもない真実である」
1がいつのまにか3に転化し、韓国人の中では確固たる"事実"になります。その挙句、以下のようになるところまでが様式美ですね。
4. 「アテが外れ、後頭部を殴られたと泣き喚く」
めでたしめでたし(?)
日頃から感じている事だけど韓国メディアの質は日本メディア以上に悪いよな。
不都合な状況を”解釈”で乗り切ろうとする人たち。
理不尽な状況は”介錯”で乗り切るしかないのかも。
たぶん。
ある意味最後の砦である日本が相手しなく
なったので、なりふり構っていられなくなった
でしょうか。
今後の対応はアメリカにまかせて、今まで
「米韓同盟維持のためのコストを日本に押し
つけてきた」という事実を、身をもって体感
いただけたらと。
https://money1.jp/archives/91621
ん~、この保有米国債の動きが説明できない。
謎の証券を売って米国債を買ったのか?
とにかく不思議な国だw
現状、アメリカの実質属国である韓国は、宗主国が属国の面倒を見るのは当然だと思っていると思います。
宗主国が属国の面倒を見るのは、臣従を誓った者に対する当然の義務であり、属国が宗主国から恩恵を受けるのは、隷属する者の当然の権利だという事です。
今回、アメリカがスワップに応じること無く韓国が通貨危機に陥った場合は、宗主国替えは決定的なものになると思います。
既に流れは明らかだと思いますが。
だから韓国人には 物事をはっきり言わないと ダメなんですよ。
クラブケーキでお断りされていても 理解できないんですもの。
「近所に来たらお寄りくださいね」、「こんど一緒に飲みましょう」というと ずかずか来ちゃうんだよね。社交辞令の通じないやつらには サルでもわかる言葉で話さないといけません。