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米中等距離外交の「ツケ」を3大危機で支払うか=韓国

米中等距離外交のツケを、韓国が支払う局面が到来しつつあるのかもしれません。通貨危機、金融危機に加えて半導体危機が韓国経済を襲うならば、それは韓国に対する実質的な経済焦土化のようなものだからです。それなのに、韓国では依然として、「米中間で賢明な綱渡りを」、などと主張する人もいるというのですから驚きます。

米韓隙間風

米韓同盟に近年、「隙間風」が目立っています。

「米韓同盟」という視点で思い出すのは、やはり、先月韓国を訪問したナンシー・ペロシ米下院議長を韓国が徹底的に「冷遇」したという事件でしょう。

これについては名著『米韓同盟消滅』を執筆した本人である韓国観察者・鈴置高史氏も指摘するとおり、今年5月に発足したばかりの尹錫悦(いん・しゃくえつ)政権が、さっそくに「米中等距離外交」に舵を切ったようなものでしょう(『鈴置論考「尹錫悦政権は米中等距離外交に舵を切った」』等参照)。

ナンシー・ペロシ米下院議長の訪韓を巡り、鈴置高史氏の待望の論考が出てきました。尹錫悦(いん・しゃくえつ)大統領はペロシ氏との面談を「謝絶」したのですが、これが米国側の怒りを買う一方、中国からは「よくやった」と褒めそやされているのです。こうした議論を読んで改めて思い出すのは、鈴置氏の6月の新刊著『韓国民主政治の自壊』でも見られた、「自由・民主主義の価値を韓国は日本と共有していない」とする指摘です。「中韓連帯意識」を理解できない日本韓国観察者の鈴置高史氏といえば、今年6月に『韓国民主政治の自壊』...
鈴置論考「尹錫悦政権は米中等距離外交に舵を切った」 - 新宿会計士の政治経済評論

米国の同盟国でありながら中国に配慮することの意味

では、どうして「米中等距離外交」が「マズイ」のでしょうか。

当たり前の話ですが、韓国は米国の同盟国であるとともに「自由・民主主義国家」を名乗る国であり、こうした体制でGDP世界10位圏内をうかがうほどの経済大国に発展したという国です。

もちろん、韓国がここまでの経済大国に発展した要因としては、自由・民主主義体制に所属していることだけでなく、米国に加え、地理的に近い日本からの有形・無形の莫大な支援という要因が大きかったのですが、ここで重要な点は、韓国が自身の努力以上の恩恵を米韓同盟から受けてきたという事実でしょう。

そして、北朝鮮という韓国にとっての最大の脅威から韓国を守ってくれているのは米韓同盟ですし、その米韓同盟が消滅でもしようものなら、韓国は北朝鮮に対し、戦わずに降伏してしまうというシナリオもあり得ないものではないでしょう。

したがって、韓国が日米を苛立たせるような行動を取ることは、韓国自身のためになりませんし、もしも韓国が現状をまともに把握し、判断する能力を持っているのであれば、韓国はもっと米国や日本との関係を大切にしなければなりません。

ところが、その韓国は米国の同盟国という立場にありながら、中国との関係を維持・強化する方向にあります。先日も示した通り、訪韓したペロシ議長と尹錫悦氏が会談に応じなかった理由は、中国に対する忖度(そんたく)であるというのが鈴置氏の説明ですが、米国も韓国に対しては相当に失望したことでしょう。

このあたり、「日韓関係の『改善』が必要だ」、などと主張する人は多いのですが、肝心の日韓関係の前提である米韓同盟自体がガタガタになっているという事実から目を背けるのは、個人的にはいかがなものかとは思う次第です。

「米中二股外交を継続せよ」=韓国識者

こうしたなか、韓国メディア『中央日報』(日本語版)に本日、こんな記事が掲載されていました。

【時論】「韓国式韜光養晦」戦略が切実だ

―――2022.09.08 10:11付 中央日報日本語版より

執筆したのは「国際貿易通商研究院」の元院長の方だそうで、ご丁寧に記事末尾には「外部者執筆のコラムは中央日報の編集方針と異なる場合があります」、という注意書きがあります。

ちなみに韜光養晦(とうこうようかい)とは聞きなれない表現ですが、これは中国の最高指導者だった鄧小平(とう・しょうへい)が提唱した概念であると言われているようですが、要するに「才能を隠して実力をつける」、といった意味合いだそうです。

記事タイトルでも何となく想像がつくのですが、このコラムの主張は「米中の間で一つを選択する外交は避けなければならない」、というものです。実際、このコラムの中にはなかなか驚く表現がたくさん出てきます。たとえば、冒頭の方にあるこんな記述も、そのひとつでしょう。

米中覇権争いの渦中に大韓民国の対外戦略として安米経中(安保は米国、経済は中国)がしばしば膾炙する。(中略)北核問題解決の仲裁者として中国の役割が浮上して米中の間の曖昧な綱渡りが妙手であり賢明な折衷案として注目された」(下線は引用者による加工)。

「曖昧な綱渡り」が「妙手であり賢明な折衷案」とは、これも強烈な発想です。

韓国自身はこれを「賢明に」やっているつもりなのかもしれませんが、米中からは「丸わかり」だからです。

しかも、通常で考えるならば、自由・民主主義陣営に所属していることを明らかにするのが韓国の国益なのですが、このコラム執筆者の方は、そうは思っていないようなのです。

勢いよく安米経中をかなぐり捨て、民主主義と自由な市場経済を叫びたいが、現実はそう簡単ではない。中国が2030年ごろに米国を抜いて最大のグローバル市場になるだろうという意見に異論はない。未来産業サプライチェーン(供給網)を安定的に構築するべきだが、中国に代わる他のパートナーがいないという現実も認めなければならない」。

そもそも「中国が米国を抜いて世界最大の経済大国に浮上する」から「これからは米国ではなく中国の時代だ」、というのは、韓国でまことしやかに唱えられる説でもあるのですが、米中対立時代において米国がみすみす技術優位を中国に明け渡すとも考えられません。

むしろ、中国に対して基幹技術を渡そうとする国に対し、米国が何らかの「制裁」を加えるであろうことは想像に難くありません。

半導体産業を韓国から引き剥がす動きが加速?

実際、韓国側で「米中間で曖昧さを維持して良いところどりをしよう」といった発想はしばしばみられるのですが、米国の側はどうも半導体産業を徐々に韓国から引き剝がそうとしているようにも見受けられます。

ちょうど良いタイミングで、同じく韓国メディア中央日報は本日、こんな記事を報じています。

韓国の対中投資に脅しをかけ…米、台湾の50億ドル規模の半導体工場横取り

―――2022.09.08 11:15付 中央日報日本語版より

中央日報によると、ジーナ・レモンド米商務長官が6日、米WSJとのインタビューを通じ、韓国に新規工場を検討していた台湾の半導体メーカーのグローバルウェーハズを説得し、米国に投資を誘致したと明らかにしたのだそうです。

これに加えてレモンド氏は6日、ホワイトハウスでも会見に応じ、いわゆる「CHIPS法」について説明しつつ、「韓国など海外の半導体企業を狙って『中国に投資すれば支援金を回収する』という脅しもかけた」のだそうです。

台湾メーカーが「建設費が3分の1」で済むはずの韓国ではなく、わざわざ韓国の3倍のコストを払ってでも米国に工場を新設する理由は、まさに米国が台湾メーカーに補助金を支払うからです。

中央日報は「米国は同盟国にも容赦なく『半導体国産化』を掲げている」としたうえで、元統一研究院長の「インフレ抑制法発効に対し韓国は『米国に背中から刺された』と感じるほど衝撃を受けた」などとするコメントを紹介。

「EUや日本などと連合して米リスクに対処しなければならない」、などとする大学教授のコメントを引用しています。

まったく筋違いも良いところであり、むしろ米国の動きは、韓国の「米中等距離外交」の賜物と見るべきでしょう。韓国が米国の同盟国でありながら、中国にも過剰に配慮してきたことが、どれだけ米国を怒らせてきたかという証拠です。

通貨危機+金融危機+半導体危機で焦土化へ?

おりしも急速に進むウォン安の影響もあり、韓国は貿易赤字・経常赤字に突入する可能性が出てきました。

通貨危機・金融危機に陥った際に、米国が韓国を助けないだけでなく、半導体産業をも韓国から撤収させるという、事実上の「焦土化作戦」を取るという可能性は、決して非現実的なものではありません。

米中等距離外交のツケを通貨危機、金融危機、半導体危機の「3つの危機」と経済焦土化で支払うのだとしたら、じつにコストが高い結果となるかもしれません。

日韓関係の前提条件である米韓同盟自体がどうなるかについて読めないという状況を踏まえるならば、日韓関係「改善」を日本の方から急ぐ必要ない、という結論が出て来そうに思えるのですが、いかがでしょうか。

新宿会計士:

View Comments (24)

  • 独断と偏見かもしれないと、お断りしてコメントさせていただきます。
    (そう自分に言い聞かせないと、素人が舞い上がってしまうので)
    この前のプライムニュースからですが、「インドのように(次の)世界一の人口大国であり、米中ともにマーケットとしても無視できない自力があれば、コウモリ外交も可能である」とありました。ということは、韓国はこれから、世界一の人口大国を目指すのでしょうか。
    駄文にて失礼しました。

    • すみません。追加です。
      根拠なき予感なのですが、アメリカが「ロシアに兵器製造のための半導体が渡らないように、同盟国と一緒に、世界の半導体(または原材料)の流れを監視する」と公に言い出すことはないでしょうか。(もちろん、対ロだけでなく、裏では対中も含みます)

  • >>インフレ抑制法発効に対し韓国は『米国に背中から刺された』と感じるほど衝撃を受けた」などとするコメントを紹介

    日本の背中見てみろ、刺し傷だらけですよ。

  • アメリカが、韓国を見捨ててくれれば、日本に対して「韓国に配慮しろ」という圧力を裏でかけてくる事がなくなります。

    そうすれば、過去のように韓国に対してしなくて良い援助や協力、譲歩をする必要はなくなると思います。

    さらに、日本が半導体の工場建設や研究設備などで、内外のメーカーに対して補助金や税制面での優遇をしても大丈夫な基盤ができます。

    さらにさらに、「軍事研究だ!即刻辞めろ!」と大声をあげて最先端技術の研究をさせない、おかしな学術団体の力も弱まりますね。

  • 前ROK大統領時代の政府要人だった(と記憶)方が、「米国の核の傘がさせないなら、支那に傘をさしてもらうのはどうか?」と公の場で申しておられたような国ですからねぇ・・。

  • 韓国側が「対中宥和の進言」を掲げ、意気揚々と参加表明をした”CHIP4発足予備会議”の存在が台湾側の会見で否定されてしまいました。

    根回しだけならリモート会談でも十分可能なのだし、会わなかったせいで尹大統領はペロシ議長から招待(アクセスワード?)を貰い損ねてたり・・とかね。
    *****
    韓国の理想:CHIP4 のルールメーカー
    韓国の実体:CHIP4 の ”トラブルールメーカー”
    ・・。

    それにしても何のためのCHIPS法なのかってこと・・理解できないのだろうか?

  • Android スマートフォンで広く使われるQualcomm社のチップでハイエンドのSnapdragon 8は、歩留まりの悪さなどの問題からサムスン社製のSnapdragon 8 Gen 1から台湾TSMC社製のSnapdragon 8+ Gen 1にファンドリ交代となりました。台湾勢と韓国勢の立ち位置を示すような出来事で、サムスン自身は新たに半導体の研究開発拠点を韓国国内に設ける等、技術向上の対応をするようですが、政府が足を引っ張るようなことをし続けると、財閥系とはいえ民間企業ですから、早晩、韓国に拠点を事業をすることを諦めることになるのかも。

  • ポスコの社員が高性能鋼板技術を中国の宝鋼集団に売渡し、韓国で裁判になった。
    裁判で技術を売り渡したとされるポスコ社員の証言で、実はその技術は日本製鉄から盗んだものという事が判明。結局ポスコが日本製鉄に300億円支払うことで和解した。
    こういう事件を見ていると油断も隙もないという感じ。

    • sqsq さま

      産業スパイの罪を問われた浦項社員が、自分は悪いことはしていない、中国に渡したのは新日鉄の技術でポスコのものではないと「言い訳をした」事件ですね。韓国らしいではありませんか。

      • 昔フィリップスと任天堂の裁判であったなぁ。
        任天堂「ウチがパクったのはフィリップスの技術じゃなくてソニーの技術だ!」
        みたいなのがw

  • 米を騙して 米は愛想尽かし
    無視されて すきま風 知るだろう
    いいさそれでも 正恩さえいれば
    いつか近平に めぐりあえる
    その朝 おまえは 文在寅のように
    永遠(とわ)に震えて 眠ればいい

  • 南朝鮮の国家的基本概念として「天動説」があるようです。
    万物の中心は朝鮮半島南部であり、大国と言えども衛星にすぎない、と考えてるようです。
    世界は自分たちを中心に回っているのであり、
    梃子のように他国を操縦することが出来ると思ってるのでしょう。
    確かのむひょん大統領は、外交は「ゲーム理論」とか言ってた記憶があります。
    「丸で成長していない・・・」南朝鮮は永遠の堂々巡りの国家でしょうね。

    価値観が違うと言う観点についても、「卑怯なコウモリ」を読んだ時に
    一般人類→コウモリは愚かだ→「裏切りは高く付く、誠実な対応が必要である」
    南朝鮮→コウモリは愚かだ→「もっと上手に両者を操縦しないといけない」
    と考えるのでしょう。
    本記事も南朝鮮の思考回路が透けて見えるようです。

    • 死生観がキリスト教国や我が国と違いますよね、日本人は子どもの頃から寺院、墓参りにより先祖を敬うことが自然に身についていて、個人差はあるものの、あらかた先人の努力の上に自分達の国が成り立っているという感謝の気持ちを持って、人生を過ごしている。
      これは神に生かされている、という感覚を持つキリスト教国と同様に謙虚さ、他者との協調につながってると思うんですよね。
      韓国人に関して、同じような感覚を持ち合わせていると感じることは皆無ですから、それは付き合いきれませんよね。

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