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これぞ円安の恩恵?全産業の経常利益が過去最大を記録

円安のおかげでしょうか、日本企業の2022年第2四半期(4-6月期)における経常利益が過去最大を記録したようです。金融・保険業を含めた全産業だと32兆円にも達しています。電力供給が不安定であるという状況については早急な改善が必要ですが、それと同時に円安は間違いなく日本経済を強くするでしょう。

財務省は先週、『四半期別法人企業統計調査』(※PDFファイル)なる資料を公表し、あわせて総務省のウェブサイトの関連統計を掲載ました。これらによると、「全産業(金融業、保険業を含む)」における四半期ベースの経常利益が過去最高の32兆円に達したのだそうです。

これをグラフ化したものが、次の図表1です。

図表1 全産業(金融業・保険業を含む)の経常利益(四半期)

(【出所】『四半期別法人企業統計調査』をもとに著者作成)

また、金融・保険業を除外したベースでも、24.6兆円と、やはり過去最高を更新していることがわかります(図表2)。

図表2 全産業(金融業・保険業を除く)の経常利益(四半期)

(【出所】『四半期別法人企業統計調査』をもとに著者作成)

どちらのグラフで見ても、コロナ禍のあった2020年において利益が減少している様子が確認できますが、これが力強く回復し、過去最高益を更新しているのです。

これは、なかなかに興味深いデータです。日本のメディアは昨今の円安を巡って、「悪い円安だ」、「企業業績が下向く」、などと大騒ぎしていますが、現実にはどう見ても、過去最高益に見えてしまうからです。

当ウェブサイトで何度となく繰り返し指摘してきたとおり、そもそも日本は外国から大々的にカネを借りている国ではありません。というよりも『邦銀対外与信「5兆ドル」大台に』などでも取り上げたとおり、日本の金融機関は世界最大の対外与信を積み上げているという状況にあります。

円安で膨らむ日本の国富日本の対外与信(最終リスクベース)が、ついに5兆ドルの大台に乗りました。このすべてが米ドル建てであるとは申し上げませんが、円安のために日本の金融機関には巨額の「含み益」が生じていることが期待できることは間違いありません。こうしたなか、国際与信の内訳で見ると、やはりシンガポール、台湾向け与信が伸びる一方、香港、韓国向けの与信が伸び悩んでいる様子がくっきりと浮かび上がってきます。ついに5兆ドル超え!ついに、日本の金融機関による「最終リスクベース」の国際与信総額が5兆ドルを超...
邦銀対外与信「5兆ドル」大台に - 新宿会計士の政治経済評論

むしろ円安になれば、日本企業にとっては外貨建てで評価される巨額の対外資産の円換算ベースでの価値が大きく伸びているという状況を意味しています。

また、円安になれば、日本の製造業にとっては産業競争力が飛躍的に上昇しますし、輸入品物価の上昇を通じて「輸入代替効果」、すなわち輸入品ではなく国産品を使おうとする動きが生じてきます。これらはみな、国内産業を力強く回復させる要素です。

現在の日本経済における唯一のネックは電力供給などが安定していないことですが、これについては安全基準を満たした原発の再稼働、次世代型原発の新設などが急務であり、また、それを通じて電力供給を安定化させることができれば、国内産業を強靭化することにつながります。

いずれにせよ、当ウェブサイトにおける「円安は日本経済にとって良いこと」という議論が、まさかここまでリアルな形で出てくるとは、個人的には意外でもあります。物事を見る際には、かのうな限り「数字」を伴わなければならない、ということがよくわかる事例ではないかと思う次第です。

新宿会計士:

View Comments (18)

  • 今回の円安が始まったころ元日銀理事がプライムニュースで「試算してみると経済には若干プラスだがコロナ禍でインバウンドの消費が伸びなければプラスが消えるかもしれない」と実にまっとうなことを言っていた。こういうまっとうな分析はメディアにとって面白くないのだろう。メディアにとっては「悪い円安」がおいしいのだ。円安の影響で企業利益が上がってくれば当然「悪い円安」論は出番がなくなる。次に出てくると予想されるのは賃上げガァー、格差ガァー といったところか。

  • いやー朝からオールドマスゴミは「円安がーー」ですね。
    それはそうと物価高対策として「税金払えてない人に5万円給付」ですって。ばらまきじゃなくて税金を下げてくれ。電気代に含まれる再生可能何とか税とか、ぼったくりガソリン税とかをすぐ撤廃してくれ。税金減らすと死ぬ病にかかってるんだね、きしだくんは。

  •  よし、国産野菜をよろしくお願いします(宣伝)。
     生産資材(原料)に輸入品が多いが販売額が上がらない(コントロール権が無い)産業なので皺寄せ担当には感じますが、経済全体の回復と補填政策を待ちながら粘っていきたいところです。肥料費前年比150%とかですよ。
     マスコミはこういう所から声を拾えば済むのに、都市部の貧困家庭の演出(和牛肉が半額セールじゃないと買えない!とかのアレ)はしても農村には来ませんねぇ。

    • ••• 輸入品物価の上昇を通じて「輸入代替効果」、すなわち輸入品ではなく国産品を使おうとする動きが生じてきます。

      最近、吉野家がカルフォルニア米から国産米に切り替えるというニュースを見ました。
      これこそ「輸入代替効果」ですね。
      個人的には日本の家電会社をほぼ壊滅させた「サムソン」をこの円安で倍返しして欲しいと思っております。

  • 円安は確かに、日本経済にプラスです。
    ただし、それで日本に投資が戻ってきたらですが。

    今は安い輸入品を仕入れて、、、というデフレに対応した経済構造です。
    しかし、昔は舶来品は高いのが当たり前。
    安い日本製品の品質を高めて高くして儲けるインフレに対応した経済構造でした。

    この経済構造の変化には痛みが伴います。
    インフレからデフレの時には沢山の製造業が潰れました。

    これからは輸入品より、高品質の日本製品をと流れがかわればこの円安はプラスになります。

    しかし、デフレ経済構造にしがみつけば 更なる地獄が待ってると思います。

    • 自分は不勉強なため抽象的な事しか言えませんが、経済構造の変化へ対応とはいわゆる『好転する未来を信じて投資したり、変革しようとする流れ』が日本社会に起きれば、という事でしょうか。
      この数十年の増税と緊縮の流れを見ていると、要となる『変化』こそ日本が抱える難題かと思います。
      それをするための精神的『若さ』が社会の中枢にないのでは、と。

  • 以前の140円~時代とは社会の構造が異なっていますよね
    製造拠点を海外に移している現在の円安は
    スタグフレーションを加速させて
    ますます社会を締め上げるように思えます

    果たして製造業の国内回帰が叶うのか 心配です

    • この円安を維持するとコミットメントして、日本企業の国内回帰に多大な補助金を出して、経済を内需でまわせたら、この円安も関係なくなります。
      日本は問題の答えがわかってるので、後は動くだけです。
      韓国は解けない問題なんで、どう足掻いても無理です。

  • 願わくは、かつて超円高の時代に国内事業所を閉鎖して海外に拠点を移した企業経営者達が、国内事業所回帰へ意思決定出来る流れが出るまで円安が続くようなコミットメントがあると良いと思うのです。国内事業所回帰は、生産人口減少著しい地方自治体にもメリットがあると思うのです。

  • 円安が国益なのはわかりますが輸入業者は大変です。110円から思っても1.3倍の値上げプラスアパレル系などは原材料の値上げがありますのでそれ以上の値上げで、なのに実質賃金は4か月マイナスではどんどん潰れていきます。
    日本は内需が強いはずですし消費税減税をして消費を刺激してほしいです
    来年は税収も伸びるのですから
    出ないと今までデフレで慣れていた人々がインフレに変わっていくときに消費がとことん落ちてしまいます。
    岸田さんではダメなんでしょう、早く辞任するところまで支持率落ちないかなぁ
    でも野党は野党で全然だめだから

  • 円安の功罪とは趣旨がずれますが,今日の急激な円安の個人的原因分析です。
    日本国債の空売りがどうも急増したようで,それが円を急落させた可能性があります。巷では,前回の国債急騰でヘッジファンドが大損した,という説が流布していますが,私の分析では以前書いた通り,利率での損よい為替差益のほうが多くて,利益が出ているはずだ,と考えています。それに味をしめて,またヘッジファンドが動いているのではないかと思います。数日前にはイタリアを攻撃していた気がしたのですが,また日本を標的にしているのでしょうか。
    個人的には為替からは手を引いて,空売りで株安に賭けています。

  •  コメント失礼します。

     円安で国内企業が輸出で儲かるのは良い事です。輸入企業は御愁傷様です。
     ただ政府が大規模な減税とバラマキをやらず、外国人技能実習生=外人奴隷増加による日本人の賃金上昇を阻んでいるのが残念です。
     そういえば小泉政権の頃が世界の好景気につられて日本国も景気が上向き、アメポチしっかりやって北に拉致を認めさせ、数人とはいえ奪還という偉業(安倍総理を育てたのも小泉総理だったか)を果たしましたが、岸田総理は何か偉業を成し得るのかな?

  • 米国にて「チップスプラス法」と「インフレ抑制法」が成立。
    この本質はグローバル化の終焉、サプライチェーン再構築、ブロック経済化。

    現在は半導体とEVについて補助金や税額控除が中心となっている。
    だがそのうちこれがあらゆる産業と領域に拡大していく。
    この帰結は米・カ・メの北米地域での地産地消経済圏の確立となる。

    バイデンは一見するとハトに見えるが、実はトランプをはるかにしのぐタカ。
    コロナ、ロ-ウ戦争を奇貨としてこの流れを強引に推し進める。

    この流れは不可逆的でもはや変えようがない。
    WW2以来の秩序が大転換し、それがニューノーマル(新常態)となる。

    https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2022/be3fc02f2aac0911.html

    実はあまり知られていないが対米直接投資は3年連続で日本がトップ。
    輸送機器、化学、卸売、金融・保険と幅広いセクターが満遍なく投資を拡大している。

    これは先の流れに沿うもので大変に好ましい。
    米国での事業を拡大して、そこから事業所得を得ていくのがこれからのトレンドとなる。

    少し前ならこの円安と業績でトヨタは米国から袋叩きにされていた。
    それがないのは「洪水のような」輸出ではなく現地で雇用、納税を生み出しているから。
    時代は変わったとつくづく実感する。

    7&Iは米国のコンビニ事業を買収。
    米国ではコンビニにガソリンスタンドが併設されるのが当たり前。
    7&Iの業績は原油価格に連動する「資源銘柄」となったことも感慨深い。

    このように時代は大きく変わっている。
    国内からの輸出にこだわる時代ではない。

    日・米・欧・中と適切な事業ポートフォリオを組み、そこから所得や配当を得るのが正解となる。

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