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    Categories: 外交

中国に逆らえない韓国との関係を「改善」しても無意味

火器管制レーダー照射事件の「真相究明」をあやふやにするな!

日韓関係を巡り、多くの韓国国民は「日本の謝罪が必要」と考える一方、多くの日本国民は「もう謝罪は不要だ」と考えており、両者の認識差は埋めがたいところに来ています。日韓関係「改善」は非現実的なのです。ただ、問題は、それだけではありません。日韓関係を「改善」したところで、韓国が日本に高圧的である一方、中国に逆らえない国であるという事実については、動かしがたいからです。

「日韓関係が健全である」とは何を意味するのか

日韓関係は健全なのか、そうではないのか。

こんな質問をすると、おそらく100人のうち90人くらいは、「現在の日韓関係は健全ではない」、と答えるのではないでしょうか(※もちろん、ちゃんと世論調査をしたわけではありませんが…)。もしかすると残り10人のうち8人くらいは、「むしろ今くらいの方が関係は健全だ」、などと述べるのかもしれません。

ただし、「関係が健全である」という状態を、「政府間できちんと対話ができており、お互いの国民がお互いに信頼しあい、尊重し合っていること」、などと定義したならば、現在の日韓関係については間違いなく、「健全ではない」と評価できるでしょう。

そして、両国関係を「健全ではない状態」から「健全な状態」に持っていくことを「関係改善」と呼ぶならば、「日韓関係改善」とは、日韓が政府間でもお互いの国民の間でも、お互いに信頼し、尊重し合えるような関係に持っていくことを意味するはずです(※異論は認めます)。

日韓関係改善を巡る認識ギャップ

日本政府はどう考えているのか~岸田首相の場合~

冒頭でこうした杓子定規な定義をしたことには、ちゃんと意味があります。議論の軸足をしっかりと定めるためです。

そのうえで、現在の日本政府が日韓関係の「改善」についてどう考えているかについては、尹錫悦(いん・しゃくえつ)氏が韓国大統領に選ばれた翌日の3月11日に岸田文雄首相が電話をした際に示した、こんな認識が参考になるかもしれません。

  • 日韓はお互いにとって重要な隣国である
  • 国際社会が時代を画する変化に直面するなか、健全な日韓関係は、ルールに基づく国際秩序を実現し、地域及び世界の平和、安定及び繁栄を確保する上でも不可欠である
  • 日韓米3か国の連携も重要である
  • 日韓関係は1965年の国交正常化以来築いてきた友好協力関係の基盤に基づいて発展させていく必要がある
  • 日韓関係改善のため、尹次期大統領と緊密に協力していきたい

(【出所】外務省ウェブサイト・3月11日付『岸田総理大臣と尹錫悦(ユン・ソンニョル)韓国次期大統領との電話会談』より抜粋)

岸田首相のこの認識自体が日韓関係に関する現状を適切に表現しているのかどうかについては若干微妙ですが、ただ、少なくとも岸田首相自身が現在の日韓関係については「健全ではなく」、「改善が必要だ」、と認識していることは間違いありません。

(※くどいようですが、この岸田首相の発言については、あくまでも「現在の岸田内閣が日韓関係をどう考えているか」の一例として紹介するものであり、当ウェブサイトとしては、「100%、日本政府がとるべき方針として正しいものだ」、と賛同するものではありません。)

日本国民はどう考えているのか~韓国側と比較すると?

こうしたなか、もうひとつ気になるのは、「一般の日本国民はどう認識しているのか」、という視点です。

日本国民の韓国に対する認識を知るうえでは、内閣府がほぼ毎年実施している『外交に関する世論調査』という調査結果がもっとも手っ取り早いといえるかもしれません(その最新版については今年1月の『令和3年版「外交世論調査」で米中露韓への意識を読む』などもご参照ください)。

親近感がないのはロシア、関係が良好ではないのは中国、重要性が最も低いのは韓国――。こんな実態が浮かび上がってきました。内閣府が毎年実施している『外交に関する世論調査』からは、なかなか興味深い結果が見えてきます。そのうえで、やはり際立った特徴があるとすれば、米国に対する圧倒的な信頼感ではないでしょうか。外交に関する世論調査当ウェブサイトで以前から「定点観測」しているデータのひとつが、内閣府が実施し、発表している『外交に関する世論調査』というデータです。これは、ほぼ毎年のように実施されている調査で...
令和3年版「外交世論調査」で米中露韓への意識を読む - 新宿会計士の政治経済評論

ただ、世論調査を実施しているのは、日本の内閣府に限られません。有名どころだと「言論NPO」という組織もさまざまな世論調査を実施していますし(『言論NPO調査から見えるのは「日本の対韓無関心」?』等参照)、そのほかの主体が実施する調査もあります。

俗に、「好きの反対は無関心」、といわれます。特定非営利活動法人言論NPOが昨日公表した、韓国のシンクタンク「東アジア研究院」と共同で実施した世論調査を眺めてみると、日韓世論の「すれちがい」もさることながら、日本側の韓国に対する「無関心」という実情が透けて見えるのです。言論NPOの世論調査「特定非営利活動法人言論NPO」(以下、本稿では「言論NPO」)は韓国のシンクタンク「東アジア研究院」と共同で、日韓両国民を対象とした世論調査を毎年実施しているそうで、当ウェブサイトでも2年前の『好きの反対は...
言論NPO調査から見えるのは「日本の対韓無関心」? - 新宿会計士の政治経済評論

これに関し、韓国メディア『聯合ニュース』(日本語版)に11日、こんな記事が出ていました。

韓日の国民 共に両国関係改善望む=歴史問題では隔たり

―――2022.08.11 06:00付 聯合ニュース日本語版より

これによると、韓国の経済団体「全国経済人連合会(全経連)」が11日に公表した日韓の国民の認識に関する調査結果によれば、「両国の国民の多くは韓日関係の改善が必要と考え、政府が関係改善に向け積極的に取り組むことを願っている」ものの、歴史問題については「依然として隔たりが大きい」のだそうです。

この調査自体が興味深い点は、日韓同時に調査が実施されている、という点でしょう(調査対象や人数などについては聯合ニュースの元記事をご参照ください)。

一覧表にしてみた

聯合ニュースは記事タイトルで「韓日の国民がともに両国関係の改善を望んでいる」、などと謳っていますが、もう少し詳細を読んでいくと、必ずしもそうとは言い切れません。というよりも、聯合ニュースの記事をもとに、調査項目を一覧にして日韓比較をすると、むしろ両国の認識差が浮き彫りになるのです(図表)。

図表 聯合ニュースが報じた日韓の認識差
調査項目 日本側 韓国側
①韓日関係改善のために両国政府が努力しなければならない 67.6% 85.8%
②韓国新政権で韓日関係は改善される 33.4% 51.0%
③韓日関係が改善されれば、両国の経済発展に役立つ 63% 81%
④韓日首脳会談の早期開催は両国関係に肯定的な影響を与える 43.8% 50.4%
⑤民間交流の拡大は両国関係の改善を促す 58.8% 80.6%
⑥韓日関係改善のためには過去より未来を重視すべきだ 88.3% 53.3%

(【出所】聯合ニュース記事。ただし参照のために①~⑥の番号を付しているほか、設問項目の日本語表現については整えている場合がある)

…。

いかがでしょうか。

そもそも論として世論調査は質問の尋ね方、順序、あるいは調査に応じる母集団などによって大きく変動するものでもありますし、また、日韓関係の「改善」という質問自体にも、バイアスがかかっているのではないか、という疑問は生じ得ます。

むしろ浮き彫りになるのは日韓の埋められない認識差

ただ、こうした点についてはとりあえず脇に置くとして、上記①~⑥から判明するのは、日韓関係「改善」に対し、韓国の方が乗り気である一方、日本の方には「過去志向」への拒絶感が露骨に出ている、という点ではないでしょうか。

というのも、日韓関係「改善」を巡る設問①~⑤について肯定的回答をした割合は、日本側が韓国側よりも常に低いからであり、これに加えて「未来志向の関係構築の重要性」を尋ねた⑥に関しては、日本の方が韓国よりも35.0%ポイント高いからです。

この①~⑥だけで見るならば、日本側は「未来志向の関係構築」を願っているのに対し、韓国側は「過去志向」であり、「韓日関係『悪化』の原因は韓日双方にある」、「関係『改善』のためには双方が努力しなければならない」などと考えている傾向が浮かび上がってきます。

実際、聯合ニュースの記事の続きを読んでいくと、韓国側の世論に関してはこんな記述も出てきます。

韓国の場合、『韓日関係において未来が重要ではあるものの、歴史問題の解決が伴わなければならない』との回答が51.1%で最も多かった。『歴史問題が解決されてこそ未来を考えることができる』は27.6%、『未来指向の関係のために過去より未来を重視しなければならない』は21.3%だった」。

これなど、韓国側の「過去志向」の証拠そのものでしょう。これに対し日本側の世論に関しては、次の記述が参考になるでしょう。

日本の場合、『すでに謝罪したため、さらなる謝罪は必要ない』とする回答が60.8%で最も多かった。『歴史問題解決のために謝罪は必要だが、韓国は政権が変わるたびに謝罪を要求することを自制しなければならない』が32.4%だった」。

じつにわかりやすい調査結果です。この2つの選択肢だけで全体の9割を超過しているからです。

これに対し、「未来志向の関係のためにさらに謝罪しなければならない」とする、おそらくは韓国側が最も望んでいるであろう選択肢を挙げた日本国民は、全体の6.8%に過ぎなかったのだそうです(というよりも、当ウェブサイトに言わせれば、6.8%もの人がこの選択肢を挙げたこと自体が驚きですが…)。

すなわち、この記事を読む限り、韓国側は「日本の韓国に対する(半永久的な)謝罪」を日本の側に期待している一方で、日本の側では「何度も何度も謝罪を求めてくる韓国」にウンザリしているという世論が浮かび上がってくるのです。日韓の埋められない認識差、というわけですね。

それなのに、聯合ニュースによると、「全経連の担当者」はこれについて、次のように述べたそうです。

  • 韓日両国の国民に認識の差はあるものの、両国関係改善の必要性とそのための政府の努力の重要性に対する共感がある」。
  • このような国民意識をもとに両国関係改善のために相手国訪問時の無査証(ノービザ)入国の拡大など民間交流を増やすためにさらに努力しなければならない」。

…???

どうしてこの調査結果から「民間交流の拡大のために努力しなければならない」、という結論が導き出せるのか、理解に苦しむ点です。調査結果とこれに対する分析がまったくリンクしていないのは、「ご愛敬」、といったところでしょうか。

日韓関係「改善」はゴールではない

韓国側に全責任がある:日韓関係改善も答えは明らか

いずれにせよ、韓国側がどんな世論調査を実施するのも自由ですが、本稿冒頭で定義した日韓関係の「改善」を図るうえでは、やはり踏み外してはならない原則が存在します。

現在の日韓関係においては、自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、竹島不法占拠問題など、韓国が一方的に作り出した日韓諸懸案の数々(図表2)が積みあがっている状況にあり、当然、日韓関係を健全化するためには、これらの問題は避けて通ることができないからです。

図表2 韓国の対日不法行為の一覧表(※引用・転載自由)

(【出所】著者作成)

これらの諸問題、ハッキリ申し上げるなら、日本側にはまったくといって良いほど責任がなく、すべては韓国側が作り出した「二重の不法行為」、――、すなわち「①ウソ、捏造、歪曲などに基づく②日本に対し法的権利のない要求」である、という特徴があります。

日韓諸懸案巡る韓国の「二重の不法行為」
  • ①韓国側が主張する「被害」の多くは、(おそらくは)韓国側によるウソ、捏造のたぐいのものであり、最終的には「ウソの罪をでっち上げて日本を貶めている」のと同じである
  • ②韓国側が日本に対して要求している「謝罪」「賠償」などには、多くの場合、法的根拠がなく、何らかの国際法違反・条約違反・約束違反を伴っている

(【出所】著者作成)

したがって、日韓関係の「改善」が必要だ、という結論が世論調査で導き出されたと仮定して、それを「誰が」「どうやって」改善しなければならないか関しては、答えは明白でしょう。「韓国が」、「ウソ、捏造を止め」、「国際法・条約・国際合意を守る」、というものです。

日韓関係の改善とは?

日韓関係の改善とは、日韓両国が政府、国民などのレベルにおいて、お互いを信頼し、尊重し合えるような関係に持っていくことである。そのためには少なくとも次の事項が必要である:

  • ①韓国側がありもしない日本の歴史犯罪などをでっち上げることを直ちにやめること
  • ②韓国が国際法、条約、国際合意を誠実に履行し、法的根拠のない要求を直ちにやめること
  • ③上記①、②を通じて日本に与えた損害を適切に回復し、謝罪すること

(【出所】著者作成)

これこそが、本稿冒頭で定義した「日韓関係改善」を図るうえで、最も重要な論点のひとつです。

韓国側が日本に対し、こうした誠意ある対応を取ることができるならば、そのときに初めて、日韓両国は心から打ち解け、お互いに信頼し、尊重し合えるような存在になるためのスタートラインに立つのです(もちろん、「スタートラインに立つ」だけの話であり、韓国が破壊した信頼関係の再構築が必要です)。

果たしてそのスタートラインに立てるのか、そしてスタートラインに立ったとしても、再び韓国側がその動きをぶち壊すのではないか…。そう考えると、議論自体、そもそも実現可能性がほとんどないことが明らかでしょう。

そもそも日韓関係「改善」は必要なのか?

ただ、話はそれだけでは終わりません。日韓関係「改善」が必要かどうか、日韓関係「改善」がなされればそれで万事うまくいくのか、といった命題については、日韓関係「だけ」を見ていても、その答えは見えて来ないからです。

もっといえば、そもそも日韓関係の「改善」というものが必要なのかどうか、という点を突き詰めて考えておく必要があります。

鈴置論考「尹錫悦政権は米中等距離外交に舵を切った」』などでも説明しましたが、当ウェブサイトで頻繁に引用する韓国観察者・鈴置高史氏の一連の論考を読んでいると、韓国について議論する際には、「日韓関係」だけでなく、そこに「中国」「米国」という視点を入れる必要があることに気付きます。

ナンシー・ペロシ米下院議長の訪韓を巡り、鈴置高史氏の待望の論考が出てきました。尹錫悦(いん・しゃくえつ)大統領はペロシ氏との面談を「謝絶」したのですが、これが米国側の怒りを買う一方、中国からは「よくやった」と褒めそやされているのです。こうした議論を読んで改めて思い出すのは、鈴置氏の6月の新刊著『韓国民主政治の自壊』でも見られた、「自由・民主主義の価値を韓国は日本と共有していない」とする指摘です。「中韓連帯意識」を理解できない日本韓国観察者の鈴置高史氏といえば、今年6月に『韓国民主政治の自壊』...
鈴置論考「尹錫悦政権は米中等距離外交に舵を切った」 - 新宿会計士の政治経済評論

とくに「日韓関係『改善』論」を巡っては、こんな主張が提起されることもあります。

ロシアのウクライナ侵略、北朝鮮の核開発、さらには米中対立の深化という局面において、日韓・日米韓連携は非常に大切であり、韓国との関係改善は待ったなしである」。

この主張自体、「韓国が日米両国の側に立って、中露朝などの危険な軍事独裁国家と対決してくれる」ということを前提としているフシがありますが、その認識が果たして本当に正しいといえるのかどうか。

従来の「三不」に「一限」を加えて韓国を牽制した中国

これについて考えさせられる記事が、韓国メディア『中央日報』(日本語版)に昨日掲載されていました。

THAAD葛藤、さらに深まる? 中国、既存の「三不」に「一限」まで追加

―――2022.08.11 06:42付 中央日報日本語版より

これは、韓国の朴振(ぼく・しん)外交部長官が中国・青島を訪れ、王毅(おう・き)中国外相と会談を行ったことに関連し、中国外交部の汪文斌(おう・ぶんひん)報道官が10日の定例会見で、高高度ミサイル防衛システム(THAAD)の質問にこう答えたというのです(日本語表現については整えています)。

  • 韓国政府は対外的に、『三不一限』という政策を正式に表明した
  • 米国が韓国にTHAADを配備したことは明らかに中国の戦略的安保利益を害し、中国は韓国側に何度も懸念を表明したという点を指摘したい

…。

この「三不一限」、いったい何を意味するのでしょうか?

「三不」とは、2017年10月31日に、韓国の南官杓(なん・かんひょう)国家安保室第2次官(当時)が中国の孔鉉佑(こう・げんゆう)外交部部長補佐(当時)との間で合意したとされる、次の3つの内容からなる宣言です。

  • 韓国はTHAADを追加配備をしない
  • 米国のミサイル防衛システムに参加しない
  • 日米韓連携を軍事同盟に発展させない

この「三不」については鈴置論考などでもしばしば出てくる論点でもありますし、当ウェブサイトでもかねてより何度となく取り上げてきた論点なので、読者の皆さまであれば、ご存じの方も多いでしょう。

ただ、「一限」については、最近になって出てきた論点でもあります。

中央日報によれば、これは今年4月に「政権引継委員会」が明らかにしたもので、「すでに配備されたTHAADをまともに運用しない」という約束なのだそうです。これが事実だとしたら、この「一限」は、韓国の「軍事主権に対する侵害」(中央日報)とも受け止められかねません。

韓国は中国にはほとんど逆らえない

中央日報によると、中国政府が韓国政府に対し、この「三不」プラス「一限」を「韓国との対外的な約束だ」、などとする主張を公式に表明したのはこれが初めてだそうであり、「新たな葛藤の火種になる見通し」、などと評しているのですが、これもなかなかに驚く発想でもあります。

日本に対しては、ときとして事実関係を無視し、自分の不法行為を完全に棚に上げてまで舌鋒鋭く糾弾するくせに、中国に対してはなぜか異常に卑屈になるように見受けられるからです。少なくとも昨日までの報道を読む限り、朴振氏が王毅氏との会談の席を蹴って帰ってきた、といった報道は見受けられません。

そこで思い出すのが、こんな文章です。

2011年12月14日には『従軍慰安婦』を表現する上品ぶった韓国人少女の像が日本大使館の向かい側で除幕された。<中略>これは韓国に全く脅威をもたらさない国を最も苛立たせるような行為であった。<中略>戦略面で現実逃避に走るのは<中略>、国際政治に携わる実務家たちの力や、同盟国としての影響力を損なうものだ。さらにいえば、これによって実際に脅威をもたらしている国に威嚇されやすくなってしまうのだ」。

記事冒頭に「2011年」とあるとおり、ずいぶんと古い文章ですが、これは米国の政治学者で米戦略国際問題研究所(CSIS)のシニアアドバイザーでもあるエドワード・ルトワック氏が10年前に執筆した『自滅する中国』の一節です(※)。

※引用箇所は同著の日本語版(芙蓉書房出版、2013年7月24日第1刷発行、翻訳者は奥山真司氏)の234ページ目。

この発言、本当に何度読み返しても、「参考になる」と言わざるを得ません。

今から10年も前の時点で、韓国の反日行為の数々を「韓国にまったく脅威をもたらさない国を最も苛立たせる戦略面での現実逃避」と断じたたうえで、「実際に脅威をもたらしている国(≒北朝鮮、中国、ロシアなどでしょうか?)に威嚇されやすくなってしまう行為だ」と指摘していたからです。

日本に対し、わざと竹島近海で挑発行為を繰り返し、日本を侮辱する慰安婦像を日本の公館敷地前の行動上に設置し、日本企業に対し国際法違反の判決を下し、自衛隊機に火器管制レーダーを照射するのは、韓国にとっての最も重要な国をないがしろにしているのと同じです。

そして、わざわざナンシー・ペロシ米下院議長が訪韓した直後に外相自身が中国に赴き、「三不一限」でクギを刺されてしまったという時点で、韓国外交は10年前のルトワック氏の予言通りに動いているといわざるを得ないのです。

ちなみにこうした韓国の危険な外交を、遅くとも朴槿恵(ぼく・きんけい)政権のころには「米中二股外交」と名付けていたのは鈴置氏ですが、その鈴置氏はペロシ氏が8月4日から5日にかけて訪韓した際の韓国側の対応を、「尹錫悦政権は」米中等距離外交に舵を切った」ものだと断じています。

ナンシー・ペロシ米下院議長の訪韓を巡り、鈴置高史氏の待望の論考が出てきました。尹錫悦(いん・しゃくえつ)大統領はペロシ氏との面談を「謝絶」したのですが、これが米国側の怒りを買う一方、中国からは「よくやった」と褒めそやされているのです。こうした議論を読んで改めて思い出すのは、鈴置氏の6月の新刊著『韓国民主政治の自壊』でも見られた、「自由・民主主義の価値を韓国は日本と共有していない」とする指摘です。「中韓連帯意識」を理解できない日本韓国観察者の鈴置高史氏といえば、今年6月に『韓国民主政治の自壊』...
鈴置論考「尹錫悦政権は米中等距離外交に舵を切った」 - 新宿会計士の政治経済評論

実際の朴振氏の訪中では、まさに米中等距離外交、あるいはもっと厳しい言い方をすれば、中国に対する「朝貢外交」が復活したかに見えてなりません。こうした視点からは、日韓関係改善は「期待できる・できない」という次元ではなく、むしろ「同盟の絆を弱めかねない、大変に危険な考え方」でもあるのです。

火器管制レーダー照射をうやむやにするな!

こうしたなか、韓国メディア『聯合ニュース』(日本語版)には昨日、大変気になる記事もありました。

韓日防衛当局 18年哨戒機事件巡る対立解消へ局長級協議

―――2022.08.11 14:27付 聯合ニュース日本語版より

記事タイトルにある「哨戒機事件」とは、2018年12月20日に石川県能登半島沖の日本の排他的経済水域内で発生した火器管制レーダー照射事件のことを歪曲した表現です。このレーダー照射事件のことを、聯合ニュースは頑なに事実と認めていないのでしょう。

それはともかくとして、聯合ニュースはこの事件の「解決策を探るため」、日韓防衛当局が「局長級協議を行っている」と韓国政府関係者が11日に明らかにした、などと報じています。

しかも、聯合ニュースによると、「韓日の外交消息筋」は同事件について、「実務的な協議が行われている」としたうえで、次のように述べたのだそうです。

双方に認識の差があるため、是非を問うことは難しい。一段落させるための方法を講じなければならない」。

つまり、「約4年が過ぎた事件の真相を究明するよりは、対立を解消させ、交流を再開させる方向で議論が行われるとみられる」、というのです。

もしこれが事実ならば、とんでもない話と言わざるを得ません。

火器管制レーダー照射事件そのものが韓国軍による準戦闘行為そのものであり、これを「真相究明が難しい」などと逃げることを、絶対に許してはなりません。この事件の落としどころは、韓国側の日本に対する謝罪と関係者の処罰、そして再発防止策の策定以外にあり得ないからです。

なにより、火器管制レーダー照射事件では、私たち日本国民にとって大切な海上自衛隊員の命が危険に晒された、という事実を、軽く見てはなりません。防衛省が本件について、毅然とした対応を取ることを期待したいところです。

ただ、言い換えれば、この火器管制レーダー照射事件を巡って、日韓間の認識が埋まらなければ、そのことは(日韓関係だけでなく)米韓関係をも間違いなく毀損することにつながります。いや、もともと崩れかけている米韓の信頼関係にとどめを刺す、と表現した方が正確でしょうか。

その意味では、火器管制レーダー照射事件の真相究明に、韓国側が誠意をもって応じるかどうかは、日韓関係のみならず、今後、韓国が自由・民主主義諸国の一員でいられるかどうかを占う試金石であることは間違いないでしょう。

新宿会計士:

View Comments (33)

  • 「韓国と日本に居住する満18歳以上の男女計1632人を対象に実施した調査」で
    「両国政府が「努力しなければならない」という回答は日本が67.6%」……

    どんな団体がどんな手段で調査したのかがいまいち分かりませんね。
    朝日新聞の読者にでもリサーチしたのでしょうか?

    そこまで「望ましい答えを言ってくれそうな相手」を選んだフシがあっても、
    「日本がもっと謝らなきゃ」と答えたのはわずか6.8%……

    いやあ、韓国側、絶望していそうですねえ?

    そして「韓国を味方につけても役に立つの?」と言う疑問もごもっとも。
    裏切らせない為の工夫でギチギチに縛り付けておけば、一応いないよりはマシなのかも
    知れませんが……そこまでのコストに見合うのかなあ?

    • >「両国政府が「努力しなければならない」という回答は日本が67.6%」…

      これは建前にすぎない。
      朴政権時代に二階幹事長が訪韓して大統領から「両国関係をよくしましょうね」と言われて
      二階氏「はいそうですね」以外にどんな答えがあるんだと言っていた。

  • あからさまに、中国と日本を差別する韓国。

    その状態で仲良くなっても、失うものしかないと私はおもいました。

  • 私は謝罪は不要もあるけど、韓国に謝罪しても永久に1ミリも受け入れない国と思っています。
    また、韓国が日本に謝罪した事なんて聞いたこともないです。

  • 自称慰安婦問題では物的な証拠を示さない韓国。
    自称徴用工問題でも立証責任を果たさない韓国。
    フッ酸目的外使用の説明責任から逃げ回る韓国。
    レーダー照射してもどっちも論で逆切れる韓国。

    根拠なき”怒力”だけは惜しまずに発揮する韓国。
    「選択と集”中”」の意味を履き違えている韓国。
    だめですね。コリャ・・。

  • 中国に怒鳴られ、アメリカに相手にされず、仕方なく日本にすり寄ってくる。
    中国との関係がよくなればすぐに元にもどるよ。

  • これに関しては(異論覚悟ですが)韓国が一方的に悪いです。中国は悪くないと敢えて言います。

    3不1限は明らかに内政干渉ですが、それでも韓国の前政権はどうもこれを合意してしまったようです。合意であれば不利であろうとなんらかの国際原則に背いていようと守らなければいけません。公序良俗に反している契約は無効と言った趣旨の法律は日本にもありますし、韓国にもあるでしょう。ただそれは国内法であり、国際的な合意には関係ありません。もし公序良俗に反していても、それを正す司法が国際間には存在しません。

    前政権の合意を守らない韓国の実例を挙げるのは極めて容易なのですが、その最たるものは、1910年の合邦への合意を無効と主張していることでしょう。日本や国際社会が認識するレベルで正式、真正な手続きでもって日本に併合される道を選んだのですから、それは政府が変わろうと引き継がねばなりません。要するに韓国は合意破りの常習犯な訳ですね。

    これに対する学びは、「合意をしてはいけない」に尽きると思います。韓国は合意によるメリットだけを短期的に貪って、政権が変われば負荷となる部分を合意破りで切り捨てる。これをさせないためには合意しないしかありません。

    今回の例では、中国は韓国に制裁できます(なんらかの国際的権利があるわけじゃないですが)。どういうふうに中国が対処するか見守りましょう。見守りついでに、日本と韓国の全ての交渉も保留で。

    • G様

      全ての論議に関して同意します。
      約束破りである彼らに「主権国家」の権利を与えているのがそもそも問題と思いますね(笑)。

      以上です。駄文失礼しました。

      • >これに対する学びは、「合意をしてはいけない」に尽きると思います。韓国は合意によるメリットだけを短期的に貪って、政権が変われば負荷となる部分を合意破りで切り捨てる。これをさせないためには合意しないしかありません。

         嘗てスターリンは「条約ナンテものは自国に都合がよいときだけ守ればよいのだ」と言いました。南朝鮮もこの思想を崇拝しているようですな。プーチンンもこの思想を受け継いでいる節があるようですが。

        • >スターリンは嘗て「条約ナンテものは自国に都合がよいときだけ守ればよいのだ」と言いました。

          実際上地球の半分の支配者と観念的三千世界の頂点と妄想する凡庸を同じ扱いは如何かと(笑)。
          後者には身の程を教えて「犬の躾」で序列の最下層に置ける存在の支配下が妥当かと。

          上に立つのはジョンウンかプーチンかは知りませんが(笑)。

          日本はお断りですね(笑)。
          愚か者たちを養うのは一度で十分です(笑)。

  • サムライアベンジャー(「匿名」というHNを使っている方には返信しません) says:

    我々自由陣営がどんなに韓国を助けても恩を感じず、かならず中華に流れます。信用する価値がない、欧米はその理解がいまいち、

  • いつも知的好奇心を刺激する記事の配信ありがとうございます。

    >火器管制レーダー照射事件そのものが韓国軍による準戦闘行為そのものであり、これを「真相究明が難しい」などと逃げることを、絶対に許してはなりません。この事件の落としどころは、韓国側の日本に対する謝罪と関係者の処罰、そして再発防止策の策定以外にあり得ないからです。

    准戦闘行為である「アウトプット」が出てきた事はそれを「必然化させるインプット」が有ったという事であり、その「インプット」内容が何であったかを究明するには「軍艦を含む」当該海域のあらゆる艦船,物資、人間を拿捕で「確保」する以外に方法はありません。

    それに「失敗」した以上本件で重要なのは
    「日本の主権影響が及ぶ領域で韓国の主権が優位であることを前例として残された」という事実であり、
    「謝罪も処罰も不要であるがEEZでこういった行為を今後実施されたら軍艦といえどあらゆる犠牲を払って拿捕して徹底的に真相を究明する」事を日韓相互が是認する以外にありません。

    当時の哨戒機のパイロットには悪いと思いますが、「准戦闘行為に至るインプット」が何かを情報収集に徹して撃墜される事は「日本の主権を守る」為の必要なコストであったと思います。
    あのとき主権を守る為の最善策を出来なかった自衛隊にはつくづく残念だったとしか思えないのです。

    以上です。駄文失礼しました。

    •  EEZでそこまではできないでしょう。あくまで領海ではなく経済活動に関する領域であり、軍事権に関するものではありませんから、韓国側の優位を証明したことにもなりません。これについては、どの国で聞いても韓国海軍アタマおかしくねで済むレベルです。またあくまで他国のインプットを究明することは、基本的には不可能です。
       撃墜などに至ってしまっては、搭乗隊員は本当に意味不明な犬死になってしまいますし、韓国海軍は取り返しのつかない大失態となったでしょう。相手が全く信用できないだけに隊員の恐怖感は本当でしょうし、韓国海軍側もそんな無駄な胆力のある者は居ないでしょうが。
       自衛隊側の行動や後処理に瑕疵は全く無いと考えます。

      • 農民様

        当方の駄文にコメントを賜りありがとうございました。

        農民様>あくまで領海ではなく経済活動に関する領域であり、軍事権に関するものではありません

        当方も上記に関しては100も承知ですが、こういった行為で突っ張りが無いと「相手が韓国より弱いから韓国が実施した不法行為に目を瞑って逃げた」という誤ったメッセージを伝えます。

        というかおそらく韓国国民はそう受け取ってます。

        当方が要求を対応する組織は韓国海軍と同等の海上自衛隊です。
        航行中の商船でも無ければ海上保安庁でもありません。

        将来EEZでガス田を韓国海軍に接収される場合、今回の「日本の弱腰」が前例としてモノを言って来るかと思います。

        EEZの大陸棚延長説に則り韓国が日本海上のEEZの不当利権を排除しました。
        ICJ提訴は受け入れません。
        南沙諸島の中国同様、国際機関の判断も受けません。

        これだけで第二の竹島出来上がりです。

        >撃墜などに至ってしまっては、搭乗隊員は本当に意味不明な犬死になってしまいます

        「海上自衛隊の哨戒機」ですから「犬死にはありえません。」海自哨戒機のP1の得た情報は自衛隊だけでなく米軍も共有出来る最新の情報共有システムを通じて運用されています。
        万一撃墜事案が発生する場合、日米で原因追求は徹底的になされますので犬死はあり得ません。

        韓国が西側諸国をどう裏切っていたかの情報収集が不十分だった方がよほど国益にマイナスだったと思うのですよ。

        以上です。駄文失礼しました。

  •  火器管制レーダー照射事件を、韓国側が本当に「日本哨戒機による威嚇事件」だと判断し意思統一されているとしたら、絶対に譲らないはずです。これはどの国家であってもで、こんなものを譲ってはならないはずであり、韓国の対日本観であれば尚更です。むしろこれの一点突破で追求し続けるはずです。レーダー照射にせよ威嚇飛行(これ毎回笑っちゃうんですが……)にせよ、本来どちらもあってはならない事件です。開戦理由を探しているような関係であれば、戦争突入事案ですから。
     しかし、哨戒機事件などと表現しつつも、うやむやに棚上げして実利を取ろうなどと向こうから言ってくるのは、韓国側が自責を認識していて逃げようとしている証拠でしかありません。本当なら強気に有利に交渉できるはずで、韓国がそうしないわけがない。

     韓国はどうもこの事件では日本への対応しか考えていないように思えますが。中国から見たら敵陣営の綻び、アメリカから見たら味方陣営の綻びであり、日韓どちらの責任であろうと、両陣営が韓国をこの先どう扱うか。自らつけ入る隙を晒して大国の間でいやおうなしに流される歴史が繰り返されようとしている認識くらいは持ってほしいものです。過去志向なのに。

  • 1.レーダー照射事件について
     事実を認めようとしない国との、話し合いは無駄。慰安婦合意の実質破棄とともに、「韓国とはそういう国だ」との国際関係でのコンセンサス形成に努めよう(ロシアと同様)。
    2.3不1限について
     一方の国は”合意”と説明し、もう一方の国は”単なる立場の表明”と説明する。争いがあり、より拘束力の高い合意というなら、中国がそれを証明しなければならない。証明できない以上、韓国に軍配。ただ中国は力づくで合意に近いものに持っていこうとするだろう。韓国の苦闘は続く。

    • いいえ、合意ではなかったことを証明できない以上、中国に分があります。
      むしろ文在寅政権の行動によって合意があったことを間接的に証明しています。THAADが配備された星州基地は、「市民団体」によって封鎖され、物資の搬入すらままなりませんでした。食料品などもヘリで空輸したという話が伝わっています。文在寅政権はそんな状況を放置し、在韓米軍司令官の再々の苦情にも取り合おうとはしませんでした。
      尹錫悦政権になって星州基地の封鎖が解除された、あるいは「市民団体」が排除されたという報は聞いたことがありませんので、依然として三不一限の誓いは遵守されていると見做すのが妥当だと思われます。

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