X
    Categories: 外交

環球時報「韓国は独自外交貫けば尊敬される国になる」

中国共産党が韓国に対し、「(米国に対する)独自外交を貫け」、と公然と要求しているようです。同党の広報紙である環球時報英語版(グローバルタイムズ)には昨日、台湾、半導体、THAADの「3点セット」を巡り、「外交の独自性を貫けば尊敬される国になる」、などとする社説が掲載されました。それにしても韓国観察者である鈴置高史氏の見立ては、本当に正しいと言わざるを得ません。

中国との関係に苦慮する韓国

鈴置論考の価値は「中韓関係」にあり

今朝の『鈴置論考「尹錫悦政権は米中等距離外交に舵を切った」』でも取り上げたとおり、韓国観察者・鈴置高史氏の大きな功績のひとつは、韓国観察に「米中」という視点を入れた点にあります。

この視点、じつは大変に重要です。

日本では、「韓国」といえば自動的に「日韓関係論」にフォーカスを当てる人が多く、「韓国は日本にとって重要な国だから、日本は韓国に譲歩し、なんとしても良好な関係を築き上げるべきだ」、などとする主張につながっていきます。

(※ただし、2021年に出版した拙著『韓国がなくても日本経済はまったく心配ない』などでも議論したとおり、この「韓国が日本にとって重要な国だ」という主張について、著者自身としては異論も多々あるのですが、とりあえず本稿では割愛します。)

しかし、百歩譲って「現在の韓国が日本にとって重要だった」としても、その関係性が未来永劫続くというものでもありません。

とりわけ、日本にとって基本的価値を共有しない危険な軍事独裁国家である中国との関係性において、「自由・民主主義国家陣営」に属する国として、韓国が日本とともに対中牽制に参加してくれるならば、日韓関係「改善」という議論にもいくばくかの説得力は出てくるかもしれません。

しかしながら、現実の韓国は、どうもそうではないようです。「日本とともに中国に立ち向かってくれる」というよりはむしろ、「中国とともに日本に圧力を加えてくる」という可能性の方が、現状では非常に高いのではないでしょうか。

「説得外交」という中央日報のパワーワード

こうした現実に目を向けるうえで、大変に良い手掛かりがいくつか出てきています。

ひとつめが、韓国メディア『中央日報』(日本語版)に今朝掲載された、「説得外交」というパワーワードです。

「チップ4」を持って訪中した韓国外交長官、米中葛藤の中で「説得外交」の準備

―――2022.08.09 06:39付 中央日報日本語版より

朴振(ぼく・しん)韓国外交部長官は8日から10日の日程で、現在、中国を訪問中です。

中央日報によると、中国・青島で9日に開かれる王毅(おう・き)中国外相との外相会談に先立ち、尹錫悦(いん・しゃくえつ)政権は7日、「チップ4」(日米台韓4ヵ国の半導体サプライチェーン協議体)の予備会合に出席する方針を明らかにしたそうです。

そのうえで朴振氏は「朴長官は今回の会談でチップ4が中国を半導体サプライチェーンから排除したり孤立させたりする目的ではないといった点を説明する予定」だ、としています。米国が主導する自由・民主主義陣営の強化に関する協議体を巡って、米国の了承なく、勝手に「チップ4」について中国にコミットするつもりでしょうか。

中央日報はまた、朴振氏が「中国は韓国の最大貿易相手国で、サプライチェーン分野でも重要な相手国」、「中国とサプライチェーンを安定的に管理できる疎通と対話が必要で、そうした点について中国と協議する予定」とも明らかにした、と報じています。

これなど、「米国の同盟国でありながら、その協力枠組みを内部から崩壊させる」という意味においては、日米両国としては看過して良い問題とも思えません。

THAAD「3NO」を改めて表明?

さらには、例の「高高度ミサイル防衛システム」(THAAD)の問題に関しても、中央日報はこう指摘します。

中国は今回の会談で、『THAAD(高高度ミサイル防衛)3不』に対する尹政府の立場を求める可能性もある」。

「THAAD3不」(3つのNO)とは、2017年に文在寅(ぶん・ざいいん)政権が中国に対して表明した、▼THAADを追加配備しない、▼米国のミサイル防衛(MD)に参加しない、▼日米韓3ヵ国連携を軍事同盟に発展させない、という誓いのことです。

これについて中央日報は、こう指摘します。

中国はこれを韓中合意事項として見なすが、尹政府は国家間合意ではないとの立場で一貫している」。

はたして中国は、こんな言い分が通用する相手国なのでしょうか。

環球時報の対韓牽制

まずは半導体とTHAADで牽制球

これに対する中国の反応が出てきました。これまた非常にわかりやすいものです。

中国共産党の事実上の機関紙である『環球時報英語版(グローバルタイムズ)』は昨日深夜、こんな記事を配信しました。

South Korea strives to secure China ties amid US pressure on chips, missile system

―――2022/08/08 23:32付 環球時報英語版より

環球時報はまず、「チップ4」を巡っては、「中国本土に対する半導体障壁を目的にしたものである」と指摘したうえで、韓国がその予備会議に参加すること自体、「米国政府からの圧力が高まるなか、米中間でバランスを取るという韓国の政治的ジレンマ」だと指摘。

そのうえで、「アナリスト」が「中国に対抗するために完全にアメリカの側に立ってしまうと、韓国はより大きな損失に直面する可能性があると警告している」、などと述べています。この「誰それはこう述べている」、などとする記述、主語は「アナリスト」となっていますが、現実の主語は「中国共産党」でしょう。

そのうえで環球時報は、中国社会科学研究院東アジア研究所の研究員が環球時報に対して述べたとされる、次のような発言を引用しています。

中韓両国は国交樹立30周年を迎えようとしているなかでの朴振氏の訪中は、中韓双方の多くの注目を集めている。しかし同時に、中韓環には緊急に議論しなければならない新旧の問題が多い。しかも、韓国の新政権は米日欧各国との交流が多いのと比べ、中国との交流が少ない」。

はて?

尹錫悦政権の「日本との交流が多い」、本当でしょうか?なんだか意味がよくわかりませんが、中露朝韓のメディアを読んでいて事実関係を無視した記述が出てくるのをいちいち気にしていられませんので、ここではとりあえず先に進みましょう。

訪台後のペロシ議長を無視した対応をほめる中国

この研究員は、今回の会談では「日米台+韓のチップ4、THAAD配備」の2点が、今回の二者会談で論点として取り上げられるとの見方を示したのだそうです。

さらには、ほかの研究所の研究員も、環球時報に対し、尹錫悦氏が訪韓したナンシー・ペロシ米下院議長と対面せず、電話会談で済ませた点を、「ペロシ氏の台湾訪問による外交的な影響を回避しようとしたもの」だと指摘。

ただし尹錫悦政権が「価値観を重視した外交アプローチをとっており」、「中韓は政治体制やイデオロギーが異なるため、二国間関係には多くの課題が残されている」、などと述べたうえで、「THAADの配備・増設は中韓関係を阻害する不確定要素である」と述べた、などとしています。

これらも要するに、「ペロシ氏を冷遇したのは良かったが、チップ4で中国を排除するな、THAADについても追加配備するな」という、中国共産党の強いメッセージでしょう。歴史教科書で見た、「中華帝国がかつて属国を手なずける際の常套手段」を間近で見ることができるというのも、興味深いところです。

韓国外交の「独自性」で「尊敬を勝ち取れ」

こうした中国共産党の「命令」がもっとダイレクトに伝わってくるのが、こんな記事でしょう。

South Korea naturally wins respect when it adheres to independent diplomacy: Global Times editorial

―――2022/08/08 23:49付 緩急時報英語版より

記事タイトルでもあるとおり、「韓国(※)が独立した外交政策を貫くことができるなら、自然と尊敬を勝ち得るだろう」とした社説です(※なお、英字メディアでは韓国のことを “South Korea” と称するのが一般的ですが、当ウェブサイトではこれを「南朝鮮」ではなく「韓国」と意訳しています)。

環球時報社説は、今回の朴振氏の訪中が「東アジア情勢に深刻な影響を及ぼし、国際社会から大きな注目と複雑な解釈を集めたペロシ氏の訪台の直後」に行われるものであり、「中韓両国は、今回の訪中を非常に重視しており、双方が深く対話する価値のあるテーマが数多く存在する」と指摘。

そのうえで、韓国政府関係者が台湾問題でペロシ氏と議論することを「意図的に避けた」ことを「韓国の自主的な外交と中国に対する合理性」と評したうえで、日本と比較させるかたちで絶賛しています。

そのうえでTHAADについては「米国が北東アジアに打ち込もうとしているくさび」であると位置づけ、「紛争から利益を得るためにこの地域を混乱させるものである」として米国の姿勢を批判。韓国政府に対しても次のように要求するのです。

中国の戦略的利益を尊重することを『中国に屈する』と解釈しないでほしい」。

このあたり、北朝鮮の核開発問題を放置している時点で中国にTHAADを批判する資格はありませんが、韓国に対しても強烈な揺さぶりをかけていることは間違いありません。

さらに、チップ4を巡っても、最近韓国メディアが報じた韓国政府関係者の「一帯一路の政策を尊重し、中国への輸出障壁に言及せず、中国を刺激しないようにする」とする考えを巡っても、次のように注文を付けます。

もし米国が作り上げた小さな徒党に韓国が参加しなければならないのなら、国際社会は韓国が本当にバランスを取り、修正する役割を果たすことを期待するだろう。これは韓国政府の独自の価値観を体現するものだ」。

要するに、環球時報が求める「韓国外交の独自性」とは、「米国の言いなりになるな」、です(「韓国が環球時報の言うとおりに外交をしたら、それは『中国の言いなりになっている』のと同じではないか」、と突っ込みたいところですが、これについてはとりあえず我慢しましょう)。

いずれにせよ、環球時報は韓国について、「敏感で特殊な地政学的位置」に位置する「重要な国」などとしたうえで、台湾問題、半導体サプライチェーン問題、「アジア太平洋地域で中国を封じ込める動き」などを巡り、韓国の利益や政策が米国や日本とは「明確に異なっている」などと断言。

「現実を見据え、長期的な利益の観点から中韓協力が必要」などと結論付けている、というわけです。

台湾・半導体・THAAD3点セット

こうした一連の流れを確認していくと、やはり、「台湾」「半導体」「THAAD」の3点セットは、中国共産党がいう「韓国の独自性」を巡る主要な論点に浮上したという言い方をしても良いでしょう。

逆にいえば、軸足が定まらず、あっちにフラフラ、こっちにフラフラしているような国との間で、産業の重要なサプライチェーンや外交・国防を依存するような関係を構築することのリスクについては、私たち日本人としてもっと強く意識しても良い部分であることは間違いありません。

この点、現在の日韓間では自称元徴用工問題を筆頭に、韓国が作り出したさまざまな問題が横たわっているのですが、ここに「米中対立」という視点を加えてみるならば、これらの諸懸案は日韓連携が必要以上に進まないようにするうえでの自然障壁として機能しているのかもしれませんね。

新宿会計士:

View Comments (14)

  • そもそも論ですけど、完全な独自外交を貫けるほど国力のある国は、ごくわずかしかありません。だから大体の国は、他国におだてられて、自国の国力を考えずに完全な独自外交をしようとして失敗するのです。

  • 北朝鮮は独自外交を貫いていますね。
    尊敬されているのでしょうか?

  • 現韓国大統領、元検事で政治、外交は素人。
    そこをつかれたね。おそらくブレーンの中に中国の手先が入っているのだろう。

  • 環球時報「韓国は独自外交貫けば尊敬される国になる」 >

    中国は伊達に千年に亘る宗主国ではないなと思いましたね。

    これまで尊敬されることなど全くなかった韓国が、どれだけ「尊敬」されることに渇望しているのか、その悲しいまでの国民性をこれほどくすぐる甘美な罠など、日本人には思いもよらないことです。

    多分この陥穽は、韓国の政治家だけにとどまらず、メディア、学界、そして一般国民をも巻き込んでいいくことでしょう。

    我々としては何もできませんし、何事もやるべきではありません。

    ただただ、生ぬるく見守るだけですね。

  • >韓国は独自外交貫けば尊敬される国になる

    これは、豚も煽てりゃ木に登る、という伝ですね。
    韓国と言う国を、煽てれば木に登るぜ、と嗤いながら観ている。
    で、またその煽てに乗って、俺って期待されてんだな、と悦に入るという。
    煽てる方も煽てる方なら、木に登る方も登る方です。
    これが4000年だか半万年だかの歴史を誇る国ですか、なんだかなあ。

  •  リン外務大臣も、様々な場面で中国からお𠮟りを受けているようですが、今度は「尊敬される国になれ」と中国から命令されているような気がします。

  • >外交の独自性を貫けば尊敬される国になる

    韓国の外交に独自性はあっても独立性はないですね。

    で、一体何処の国が韓国の独自性あふれる外交を尊敬してるんでしょう?

    そんなコメントを出した外国政府って居ましたかね?

    習近平のケツの穴を舐め回して喜んでいる馬鹿、くらいの評価しか貰えないんじゃないですかね?

  • うちのリン大臣が朴大臣を羨ましがるかも。
    同じ木偏仲間なのに、あっちは中国と会談でき、こっちはドタキャン。
    首相に、議長と会うからこっちが会われへんと文句言うのかな。

  • 韓国は加工貿易を中心とした国家です。従って、輸出入を円滑に行う上でも、安全なシーレーンの確保は、同国にとって生命線であるはずです。東シナ海/黄海と日本海に囲まれた韓国は直接外洋には面していませんので、外洋との出入口は極めて重要です。そして、地図を見れば明らかなように、外洋との出入口に存在するのは日本と台湾です(宗谷海峡や間宮海峡を抜けてオホーツク海に回るのは現実的ではないでしょう)。
    これで台湾が中国に飲み込まれたらどうなるか。韓国としては、中国に全面的に屈服するか、あるいは少なくとも日本との関係を弄ぶような余裕はなくなります。日本の場合、まだしもロンボク海峡からフィリピン海回りというルートがありますので、代替航路がないわけではないのですが、韓国の場合は、台湾失陥の上で日本との関係を悪化させると、太平洋への出口を全く失いかねません。ゆえに、台湾有事は日本にとっての有事であると同時に、韓国にとってはより致命度の高い有事であるということになります。

    でも、韓国からそのような声が聞こえてきたことはありません。韓国人にとっての「世界」は半島の外側では「中国と日本とアメリカとその他」なのでそこまで考えてないのかもしれませんし、あるいはすでに半属国であるので、全属国になっても大した違いはないと考えているのかもしれません。
    この際、韓国の進路は放っておくとして、問題は日米とその協力国にとって、このような国をパートナー候補として扱うことがはたして妥当性を持ちうるのか、どの程度適切であるのか、関係国、特にアメリカは真剣に考えるべきであると思います。
    確かに米韓同盟は現存し、朝鮮半島問題が最終的決着を見ていない以上、韓国を切り離すことについての議論はありえるでしょうが、対中国ということに関して米韓同盟が全く機能しないのは、上記の状況から見ても明らかです。再び人民義勇軍が38度線を越えて南下してくるなどということが起こらない限り、韓国は直接中国と対峙しようなどとは夢にも思わないでしょう。困難な状況に陥れば、あっさりと中国に屈服する可能性が極めて高いと思います。

1 2