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    Categories: 外交

プーチン露大統領、「海洋大国目指す」大統領令に署名

ロシアのプーチン大統領が「海洋大国を目指す」とする大統領令に署名したそうです。なんでも「全世界に広がる海洋大国」としての野望を打ち立て、米国を主要なライバルと位置付けているのだとか。旗艦・モスクワが沈没したとされる黒海艦隊を含め、ロシアの海軍力がいかほどなのかという点もさることながら、ロシアの地形的な特徴を調べると、基本的には外洋から隔絶されているという特徴があることに改めて気付きます。

ロシアの代表的港湾から外洋(大西洋、インド洋、太平洋)に出るには…?
  • サンクトペテルブルク(バルト海)から大西洋に出るためには:エーレスンド海峡を通行しなければならない
  • セバストポリ(黒海)から大西洋やインド洋に出るためには:ダーダネルス・ボスポラス両海峡を通り地中海に出て、ジブラルタル海峡かスエズ運河を通行しなければならない
  • ウラジオストク(日本海)から太平洋に出るためには:津軽海峡などを通行しなければならない

ロイターに1日、興味深い動画が掲載されていました。

ロシア、世界に広がる「海洋大国」目指す プーチン氏が新戦略に署名(字幕・1日)

ロシアのプーチン大統領は31日、新たな海洋戦略に関する大統領令に署名した。全世界に広がる「海洋大国」としての野望を打ち立て、中でも北極海や黒海を重視する姿勢を打ち出した。
―――2022年8月1日付 ロイターより

該当する動画は、ツイッターのサイトでも視聴することができます。

これによると、ロシアのウラジミル・プーチン大統領は31日、「新たな海洋戦略に関する大統領令」に署名し、米国をロシアの主要なライバルと位置付けるとともに、北極圏や黒海など「重要な領域」における軍事的な野心を示したのだとか。

なかなかに笑える話だ、などとする反応もあるようです。

この点、メルカトル図法の影響でしょうか、私たち日本人にとってロシアは「超巨大国家である」というイメージを抱きがちですが(国土面積も日本の40倍あるそうです)、ただ、実際には国土の大部分がシベリアの凍土などで構成されており、しかも外洋に面している部分は極端に限られています。

たとえば、ロシアを代表する港湾都市としては、サンクトペテルブルクがありますが、これにしても大西洋に直面しているわけではありません。外洋(大西洋など)に出るためには、バルト海からスカンジナビア半島とデンマークの間の狭い海峡(エーレスンド海峡)を通行する必要があります。

また、ロシアが2014年にウクライナから不当に奪い取ったクリミア半島のセバストポリ市にしたって、地中海に出るためにはボスポラス、ダーダネルスの両海峡を通行する必要がありますし、地中海からインド洋に出るためにはスエズ運河を、大西洋に出るためにはジブラルタル海峡を、それぞれ通行する必要があります。

一方、カムチャツカ半島や千島列島に関しては太平洋に面しているのですが、これらの地域には目立った港湾都市はなく、日本海に面するウラジオストクから太平洋に出るためには、やはり津軽海峡などを通るしかありません。

結局のところ、ロシアは海洋から隔絶された国であり、また、ロシアが自慢する黒海艦隊に関していえば、今年4月には旗艦「モスクワ」が沈没しています。ウクライナ側の発表によると、これは同国が開発した対艦ミサイル「ネプチューン」が命中したためだそうです(※ロシア側は「撃沈」説を否定していますが…)。

もちろん、ロシアの「海洋国家」構想については、あまり油断をしてはなりません。

しかし、日露戦争でバルチック艦隊が日本軍に撃破されたという事実、あるいは第二次世界大戦終了のどさくさで敗色濃厚な日本から千島列島や南樺太を奪うのにもかなりてこずったという事実などを見ると、ロシアは伝統的に「海洋国家」とは言い難いのではないでしょうか。

そのロシアが「海洋国家」を目指すというのならば、「まぁ、頑張ってください」としか言いようがない、というのが正直な感想という次第です。

新宿会計士:

View Comments (15)

  • 地球温暖化のおかげで,ウラル山脈より東は使える航路が増えています。自衛隊はよく認識しているでしょうが。

  •  バルチック艦隊は確かに強力な艦隊だったのですが、撃破の要因は、地球半周する間ずーっと英国の妨害、天候の運、帝国海軍の練度や下瀬火薬、現場が日本近海であったため漁船通報……とバクチに出た日本側に徹底的に上手く転がった結果ではあります。とはいえ、陸軍大国が海軍力に色気を出して上手く行った事例は古今例がなく。
     そもそも宣言の意味が全く不明なので、「アメリカは北極海から来ないでね」「他の海洋国もちょっとかんべんしてね」くらいの牽制でしょうか。実際に海軍費を激増させることはなさそうです。できんだろし。

    • 農民 様

      日露戦争に於ける日本海海戦当時、日本には軍艦築造及び修理可能なドック(船渠)が横須賀港に4基ありましたが、ロシアには2つしかなかったと聞いたことがあります。

      つまり兵站の他、こうした施設の規模や数等も軍事力には大きな影響力を与える事があるのだと思います。

      因みに横須賀港の1号ドックは、幕末に徳川幕府が築造したものです。幕臣小栗上野介の大英断によるものでした。慶応4年に斬首された小栗は、無論明治4年の竣工時にはもうこの世の人ではありませんでしたが、日露戦争が終結したとき、東郷平八郎が小栗の遺族を横須賀の第1号ドックに招待し、その先見性を讃え死を惜しんだという逸話をどこかで聞いたことがあります。

      当時バルチック艦隊を始めとする、数の上では世界最級の海軍力を誇ったロシアでしたが、その内実はかようにお寒い状態だったようです。

      こんな所にも大陸国家と海洋国家の、本質的な違いが現れていると言えるのではないでしょうか。

      •  そうですね、ロシア艦隊は戦艦は新品だったものの、長旅で船体はボロボロ、兵員のモラル(一般的な意味と士気と両方)の低さはひどいものだったと聞きます。指揮官も言われたから来たけどもやってられっか状態。英国の妨害も入港・補給・整備の拒否ですから、本当に海軍に力を入れていれば、仰るようにドックや外地の補給港の確保などをしていたはず。
         なんでしょうね、陸では要塞に籠もって生き抜いてきた(つまり兵站は絶対)のに、フネを持っても港を作るという発想があまり無いのでしょうか……黒海はセヴァストポリ奪取、ロシア帝国時代は租借の旅順港でいいやとなったり、現代中国も借金のカタに港をぶんどりまくってますし。大陸国の悪習なのか。

  • ロシア海軍の記念日的なハレ演説のオマケですんで…
    ただ、記事内容からの逆説的になるやもですが、ロシアにおける千島列島の軍事的重要性は我が方として再認識しといたほうがよかですよ
    連中そうそう手離しまへんで

  • ロシアは帝政の時代から不凍港を手に入れるのが悲願でした。それがロシアの南下政策となり幾多の戦争を起こして、現在ロシアに手中にある不凍港は東はウラジオストクであり、ウラジオストクから直接外洋に出るには狭い海峡を通らねばならないことはご指摘の通りです。
    中国も港は多くありますが、いずれも日本ー西南諸島ー台湾と連なる列島線の隙間を通らないと外洋に出ることができません(中国が台湾を統一したい理由のひとつがこれ)
    つまりはロシア・中国とも日本が目の上の瘤となっているのが21世紀の現状であり、レーダーやミサイルが未発達だったために朝鮮半島が地政学的に重要だった20世紀とはまったく異なります。即ち、現代では列島線内に突き出た朝鮮半島を手に入れたところでメリットがないのは中国・ロシアが朝鮮半島にあまり関心を示さないのを見れば分かります(韓国はいまだに地政学的に自分が重要だと思い被害妄想に取り憑かれていますが)
    現代は中国・ロシアに相対する米国チームに属する日本こそ彼らの侵攻ターゲットとなっているのであり、前世紀の頭から切り替えられない高齢のケンポーキュウジョー教信者は早く退場願い、準備せねばならない状況なんですが、事実を事実として受け止められない定常性バイアスかかりまくりの平和ボケですかね。

  • いいお話です。どんどん海軍軍備を拡張して欲しい。財政破たんを気にせずお金を使ってください。潜水艦の標的が増えるのは大歓迎です。

  • 海軍増強、やれるもんならやってみれば、でしょうかね。
    陸軍のように大量の旧兵器と人員をすり潰せばなんとかなる、ような世界じゃないと思いますけど・・・海軍はムリなんじゃないかなぁ。

    韓国は空母計画やF-35Bの調達は見直してしまいそうです。(ツマンネー)

  • にわか覚えの地政学では、
     ランドパワー国家(ロシア 中国 ドイツなど)は、
     周辺の海洋に出たがるんだそうです。

    その実現のために、
     造船費用は、敗戦国から、賠償の名目で徴収すれば良く
     初期の艦船は、敗戦国は、属国=国内問題なので徴用すれば良い

    軍事力で、相手国を属国にできれば・・・
     と、皮算用をしているのではないでしょうか?

  • 太平洋・大西洋等既存大海への接続問題からくる
    大海軍建艦モードを考えるのも一つですが
    これからの気温温暖化による北極海という
    米・露・カ間の北極海航路問題を強化する為のものと思っております。
    900~1000年当時ノルウェーのバイキングがアイスランド
    グリーンランドに入植し、カナダのニューファンドランド島に
    容易に到達できたという事は、その当時北極海の氷が非常に
    少なかった事を意味しているのではないかと思います。
    米国の西海岸から欧州に向かう場合、現在パナマ運河迄南下しなければ
    なりませんが、北極海航路が開くとかなり燃費・航海日数が減少します。
    当然、日本も同様に欧州に向かうのに非常に危険な南シナ海を経由せず
    欧州に行けます(中共の妨害前提)。 原油輸入問題はその時になっても
    付き纏います。 英国の北海原油を一部輸入するかどうか?
    もし、私がプーチンなら第二次大戦前の時の建艦競争を行うより
    これから開くと予想される北極海向けの艦船を用意します。
    露は空母を建造できなかったので、ドローン母艦を建造するという手は
    ありますが、周辺技術は日米が主で、中共が従です。
    (注:中共もカタパルトを生産できておりません)
    となると、結局巡洋艦しか建造できない事になりますが
    それを支える経済力が現在の露にあるのでしょうか?

    • >(注:中共もカタパルトを生産できておりません)

      中国3隻目の空母「福建」は電磁カタパルトを搭載しているという噂です。写真を見るとそのためか、飛行甲板が平らですね。

  • ヨーロッパ方面に陸軍を張り付ける必要があり、中国だって完全に信用できる訳では無いため、ロシアはとてもとても海洋国家を目指せる環境には無いですよね。
    不凍港が少なく太平洋へのアクセスは日本に制限される位置ですし。
    同じく、中国もインドとの緊張関係にあり、台湾、日本に海洋アクセスを制限されている以上、陸軍国家ですし。
    それに比較して、カナダやメキシコと軍事諸突の恐れが無く、ヨーロッパやアジアと交易できるアメリカはチートな海洋国家ですな。

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