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韓国紙「スワップ負け惜しみ」論

ちょうど1週間前、ジャネット・イエレン米財務長官が訪韓した際、韓国では「米韓通貨スワップ」への待望論がやたらと高まっていました。しかし、ふたを開けてみれば米国側はスワップの「ス」の字も言わず、結果的にスワップは「ゼロ回答」に終わりました。こうしたなか、韓国メディア『中央日報』(日本語版)には今朝、スワップをめぐる一種の「負け惜しみ」のような議論が掲載されていたようです。

誤読に基づくスワップ期待

韓国では先週、ジャネット・イエレン米財務長官の訪韓にあわせ、米国が韓国との間で通貨スワップの締結に合意するとの見方(あるいは勝手な期待)が蔓延していました。

ただ、韓国メディアなどに掲載されたその論拠を眺めていても、どうも「論拠」としてはいずれも弱いものばかりでした。

たとえば「ジョー・バイデン米大統領が5月に訪韓した際に、為替市場の安定措置で合意したではないか」、といった理屈があるのですが、改めて共同声明の原文を読むと、むしろ「公正な為替市場を歪める慣行を除去すること」に力点が置かれていることがわかります。

“To promote sustainable growth and financial stability, including orderly and well-functioning foreign exchange markets, the two Presidents recognize the need to consult closely on foreign exchange market developments. The two Presidents share common values and an essential interest in fair, market-based competition and commit to work together to address market distorting practices”.

非常に残念ながら、これを「米韓両国が為替相場の安定化措置で合意した」と読むことはできません。むしろ韓国が「為替相場のボラティリティ抑制」と称して為替介入を日常的に行っていることに対し、米国側から「そのようなことをするな」と牽制されたものと読むのが正解でしょう。

米韓通貨スワップが「あり得ない」理由

ちなみに米韓通貨スワップがあり得ない理由は、いくつもあります。

為替スワップはイエレン財務長官にとっては「管轄外」』でも指摘しましたが、百歩譲って米国が韓国とスワップを締結する可能性があるとしても、それは韓国が望むような「通貨」スワップではなく、あくまでも「外為流動性供給ファシリティ」、すなわち為替スワップであり、為替スワップの管轄は財務省ではなくFRBです。

下手に米韓スワップ待望論煽ればウォン市場に悪影響も「韓米通貨スワップで共感を得ている」。「日本など他の国との通貨スワップも積極的に検討および推進している」。なんとも面妖な発言です。韓国メディア『中央日報』(日本語版)によると、これらは韓国政府や韓国の与党関係者の発言だそうですが、ジャネット・イエレン米財務長官の訪韓を前に、米韓通貨スワップへの期待感を一方的に煽りすぎるのは、韓国自身のためにもなりません。結果としてウォンの失望売りを招きかねないからです。米国が韓国と「通貨」スワップを結ぶ可能性...
為替スワップはイエレン財務長官にとっては「管轄外」 - 新宿会計士の政治経済評論

それに、米国が外国とスワップを締結する際には、基本的には①NAFAなどの特殊な枠組みが存在している場合の通貨スワップ、②日英欧瑞加5ヵ国・地域のような「ハード・カレンシー国」との常設型為替スワップ、③FRBの緊急流動性供与としての為替スワップ、の3つのパターンしか存在しません。

①のパターン、つまり韓国のために特別に通貨スワップを締結するという可能性は極めて低く、韓国ウォン自体が国際的なハード・カレンシーではないことから②のパターンについても基本的にはあり得ません。

あるとしたら③の緊急流動性供与ですが、これに関しては『NY連銀「困ったらスワップよりFIMAレポ使って」』でも取り上げたとおり、FRBとしては「為替スワップなど復活させなくても、すでにFIMAレポファシリティが存在する(から問題ない)」、という立場です。

米FRBは「FIMAレポ・ファシリティ」が米ドルの国際通貨としての役割を支えるうえで大切な手段だと考えているようです。言い換えれば、コロナ禍直後に締結していた9ヵ国の中銀・通貨当局との為替スワップについては復活させる可能性は低い、ということなのかもしれません。「米国は永久通貨スワップに応じるべきだ」最近の通貨安の影響でしょうか、とある国では最近、「我が国の為替相場を安定させるためには、米国は我が国と無条件で永久通貨スワップの締結に応じるべきだ」、といった主張が頻繁に出てきているそうです。なん...
NY連銀「困ったらスワップよりFIMAレポ使って」 - 新宿会計士の政治経済評論

よって、現時点の金融環境に照らして米韓為替スワップが「あり得ない」話であることに加え、百歩譲ってイエレン氏が自身の管轄外でもある為替スワップについて言及することは基本的にあり得ないことから、イエレン長官訪韓時に米韓通貨スワップ締結がなされるというのは「考えられない」、というのが当ウェブサイトの結論でした。

スワップはゼロ回答、米側発表にも記載なし

結果的には『韓国待望の米韓通貨スワップはほぼゼロ回答=財相会談』でも述べたとおり、韓国政府の発表に基づけば、イエレン氏は「流動性供給装置」に言及し、通貨スワップに含みを持たせたものの、実際にはほぼゼロ回答でした。

秋慶鎬副首相とイエレン長官は、韓・米両国が必要流動性供給装置など多様な協力方案を実行する余力がある(have ability to implement various cooperative actions such as liquidity facilities if necessary)という認識を共有した」。

自然に考えて、イエレン氏が本当に韓国政府が発表したような趣旨の発言をしたのだとしたら、それは「またしても流動性クランチが生じたときには米国として何らかの流動性ツールを準備する(かもしれない)」、という一般論でしょう。

これに加えて『イエレン氏は本当にスワップに「含み」持たせたのか?』でも指摘したとおり、果たして本当にイエレン氏がこんな発言をしたのかどうか、という疑問も残ります。

米国財務省が7月19日付で発表した、次の4つの記事のどこを読んでも、「スワップ(swap)」、「流動性(liquidity)」、「外為市場(foreign exchange market)」などに関する言及は皆無だからです(『イエレン氏は本当にスワップに「含み」持たせたのか?』参照)。

いずれにせよ、いつもの「言った」、「言わない」という、韓国にありがちな「様式美」の一種とみるのが正解かもしれません。

スワップ「負け惜しみ」論?

ただ、イエレン氏の訪韓から1週間が経過するなかで、米国側の冷ややかな反応に気づいたからでしょうか、韓国メディア『中央日報』(日本語版)には今朝、こんな記事も掲載されていました。

【噴水台】韓米通貨スワップ

―――2022.07.26 07:10付 中央日報日本語版より

中央日報は2008年10月に米国が韓国との間で「韓米通貨スワップ」(※原文ママ)を締結した際、外為市場で1ドル=1500ウォンだった韓国ウォンの価値が、スワップ締結のわずか2日後には200ウォン以上上昇するほど威力が大きかった経験で、「通貨スワップが韓国人の頭に刻みつけられた」と指摘します。

ただ、それと同時にこんなことも指摘します。

通貨スワップに対する全権は米国の中央銀行に当たる連邦準備制度理事会(FRB)が握っている。財務省が締結しろとかするなとかいう立場ではない」。

正論です。

ですが、これを理解しているならば、どうして1週間前に指摘しなかったのでしょうか?

しかも、中央日報の記事では、こうも主張します。

通貨スワップが締結されれば市場に良いが万病に効く薬ではない。2008年にも瞬間的な効果だけ得られ韓国は金融危機の嵐から抜け出すことはできなかった。韓米会談があるたびに通貨スワップをめぐり遠回し話すことがこれ以上なければ良いだろう」。

米国が為替スワップを締結してくれなかったからといって、負け惜しみのようなものでしょうか。

ちなみに「為替スワップに効果がない」というのは、非常に一面的な見方です。実際、2020年3月のコロナ禍の折、米国が韓国と為替スワップを締結した際は、少なくともウォン安はストップしましたし、むしろその後、韓国銀行は外為市場におけるウォン高を抑制するのに苦慮したほどです。

そして、昨年末に米韓為替スワップが失効して以降、韓国の通貨・ウォンは下落傾向をたどり、今月にはついに約13年ぶりの安値水準を突破したほどです。

「危機のときに日本の支援が最も遅かった」

なお、米国が支援してくれなければ日本を見るというのが韓国の王道パターンですが、中央日報には今から約13年前、こんな記事も掲載されていました。

「韓国が厳しい時、日本が最も遅く外貨融通」

―――2009.07.07 08:07付 中央日報日本語版より

これは、尹増鉉(いん・ぞうげん)企画財政部長官(当時)が2009年7月6日、日経とのインタビューで「韓国が最も厳しい時に外貨を融通してくれたのは、米中日の中で日本が最後だ」、「世界第2位の経済大国なのに、日本は出し惜しみをしている気がする」と語ったのだそうです。

助けても、助けなくても、恨まれる。

このあたりは非常に参考になる記事だと思う次第です。

もっとも、幸いなことに、現在、中国が韓国との間で4000億元(約593億ドル)のスワップを保有しているはずですので(『【資料】中国が外国と締結しているスワップ協定の一覧』)、日米に頼らなくても中国が助けてくれるのではないか、などと思う次第です。

本稿は、「資料編」です。中国人民銀行が公表している中国語のレポートをベースに、中国の通貨当局である中国人民銀行が外国通貨当局と取り交わした通貨スワップ・為替スワップ等の一覧を作成してみました。本稿で収録するのは、2018年10月以降に中国人民銀行が外国通貨当局と取り交わしたスワップです。中国人民銀行が昨年秋に公表した『人民幣国際化報告』【※中国語、PDF】という報告書をもとに、「币互换」ないし「货币互换」などと記載されている部分を抜き出しておくと、2018年10月以降、中国人民銀行が外国と結んだスワップは...
【資料】中国が外国と締結しているスワップ協定の一覧 - 新宿会計士の政治経済評論
新宿会計士:

View Comments (16)

  • 貸した金を返して欲しければ土下座しろという国に誰かが貸すか!

  • 「助けない、教えない、関わらない」
    誰が最初に言い出したかは知りませんが、良いフレーズです。

    今後の日韓関係は韓国がギリギリ国として機能する程度に、
    つめた~い商売上の関係だけがある位になって欲しい物です。
    日本側が韓国の物はロクに買わず、韓国は全額先払いかつノークレームでしか
    日本の物を買えない……そんな形が望ましいでしょう。

  •  勝手に期待して、期待通りにならないと恨まれる、いつもの韓国人です。
    まぁ、助けた所で恨まれるんですけどね。
    とにかく関わらないのが吉。

  • スワップだけでなく、マスコミは韓国が日本のきゅうよを抜いたなどという嘘をいうのもやめるべき。
    そんなに韓国の方が進んで来たのなら若者が就職で日本を目指す必要もない。

  • 素朴な感想ですが、「韓国メディアが、愛読者の聞きたいことを書いて、その後、それを(小さく)訂正する」ことに関しては、日本は韓国を笑えないのではないでしょうか。(もっとも、「日本のオールドメディアは、訂正したか、しなかったのか分からない。だから韓国メディアの方がましだ」と言われれば、それまでですが)

    • 日本のメディア業界には韓国社会での落伍者で日本に来て定住、そして本国である韓国・朝鮮にご奉公する事によって自身の存在価値を見出しているような方達が相当数いるのでは?

  • 金の卵を産むガチョウを飼っていた農夫。
    手に入れられるのが、一日一個では物足りない。
    いっそのこと、腹の中の金塊をそっくり取り出そうと、
    締めて、腹を割いてみたら、中は空っぽ。
    明日の糧まで失った。

    というのは、イソップの昔話。

    時遷り、所変わって、とあるクニ。

    やっぱり金の卵を恵んでくれるガチョウに依存して生きている。
    ありがたいと感謝すべきところを、
    「くれるのが遅い」の、「もっと寄こすニダ」の、言いたい放題。
    それでも、ガチョウを絞め殺してしまうほどの、度胸も腕力もない。

    そのうち、ガチョウさんへそを曲げて、
    卵に手を伸ばそうとしたら、突かれて、追っ払われるハメになってしまった。

    というのが、現代版「金の卵を産むガチョウ」の、どうにもしまらオチオチ。

    どうやら、隣国の意味不明の行動も、その源流を辿れば、
    イソップの寓話の中に見いだされることが、結構あるような。
    『スワップ「負け惜しみ」論』なんてのは、「酸っぱいブドウ」そのものかな(笑)。

  • 韓国にはイソップ物語が翻訳されていないのでしょうか?
    まるで狐が、酸っぱい葡萄と言ってるみたいに思えました。

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