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円安局面は元高局面:「中国の輸出競争力」はどうなる

円安・ドル高局面とは、言い換えれば、円安・元高局面でもあります。国際決済銀行のデータをもとに「人民元・日本円」の為替相場を合成してみると、円は対人民元でも7年ぶりの安値水準にあります。日本は中国からスマートフォン、PC、衣類、雑貨などを大量に輸入している国でもありますが、元高傾向が続けば、早ければ今年後半から日中貿易高、ひいては中国の輸出競争力に影響が生じるかもしれません。

中国は日本の最大の貿易相手国

普段から議論しているとおり、日本の貿易構造は、貿易相手国別に見れば中国がトップです。

図表1は、財務省が公表する今年5月までの貿易高(輸出・輸入)を相手国別に見たものですが、輸出、輸入の両面において、中国が圧倒的な存在感を占めていることがわかります。

図表1 相手国別貿易額(2022年1-5月累計)
相手国 輸出額 輸入額 貿易額
1位:中国 7兆2046億円 9兆2035億円 16兆4081億円
2位:米国 6兆6736億円 4兆3724億円 11兆0460億円
3位:豪州 7983億円 3兆7892億円 4兆5875億円
4位:韓国 2兆8416億円 1兆7173億円 4兆5589億円
5位:台湾 2兆6950億円 1兆8636億円 4兆5585億円
その他 17兆0963億円 22兆9038億円 40兆0000億円
合計 37兆3094億円 43兆8497億円 81兆1591億円

(【出所】財務省税関『財務省貿易統計』より著者作成)

この点、資源価格の世界的な急騰などの事情もあり、豪州が日本にとって3番目の貿易相手国に浮上しているほか、図表には示していませんが、たとえば7位にUAE(7位、輸入額1兆9784億円)、サウジ(8位、輸入額1兆9716億円)などの産油国が食い込んでいます。

しかし、日本にとっての中国は、貿易相手国として、基本的には長年「不動の1位」の座を守っている格好です。

日本は中国の「お得意様」

これをもって、多くの人は、「日中貿易は日本にとって非常に重要だ」、「日本にとって中国は切っても切れない関係にある」、などと勘違いしているのですが、そのような人にこそ、ここでもう少し詳細に、日中貿易の中身を見ていただきたいと思います。

ここで最も重要なのは、日本が中国に対し、ほぼ一貫して「貿易赤字国であり続けている」という事実です。

たとえば、今年1月から5月までの累計額だけで見ても、中国に対しては2兆円近い貿易赤字を計上しているのですが、このことは「中国が日本にとってのお得意様である」というよりはむしろ、「日本が中国にとってのお得意様である」、ということを意味します。

ちなみに日本の中国に対する輸出品の多くは、「モノを作るためのモノ」(生産装置、中間素材など)が多く、自動車を除けば最終消費財の比率は高くありません(図表2)。

図表2 中国への輸出

(【出所】財務省『普通貿易統計』を参考に著者作成)

これに対し、中国からの輸入については、同じく「機械類及び輸送用機器」のカテゴリーに集計される品目が多額であるものの、その内訳はスマートフォンやPCなどのIT機器が圧倒的に多く、続いて衣類などの雑製品・雑貨類などがその多くを占めています(図表3)。

図表3 中国からの輸入

(【出所】財務省『普通貿易統計』を参考に著者作成。なお、2020年2月については急激に落ち込んでいるようにみえるが、おそらくはデータの不備に基づくものと思われる)

かつて日経新聞を含めた日本の一部メディアは、「中国は14億人の巨大市場だ」、「日本企業も中国市場を無視できない」などとして中国進出をさんざん煽りましたが、現実の日中貿易は、日本が中国に対し巨額の貿易赤字を計上しているという状況にあるのです。

しかも、実際、日本から中国への輸出品のうち、日本企業が製造する「最終製品」は自動車を除けばあまり多くなく、その多くが、おそらくは中国に進出している日本企業などに対する中間素材や部材、生産装置などで占められているのです。

何のことはありません。日本にとって中国とは、「有望な14億人の市場」ではなく、単純に「製造拠点」を外出しした相手国に過ぎず、それどころか日本が巨額の貿易赤字を垂れ流している相手国でもある、というわけです。

24年ぶりの円安水準

こうしたなか、個人的に少し気になっている論点があるとしたら、昨今の円安(というよりもドル高)の影響です。

国際決済銀行(BIS)が毎週公表する米ドルに対する為替相場のデータに基づけば、日本円は最近、米ドルに対し、まさに24年ぶりの円安水準にあります(図表4)。

図表4 USDJPY

(【出所】the Bank for International Settlements, US dollar exchange rates より著者作成)

ただ、対人民元で見ると、為替相場はさほど大きく動いていません(図表5)。

図表5 USDCNY

(【出所】the Bank for International Settlements, US dollar exchange rates より著者作成)

じつは元高局面でもあった!

そして、図表4と図表5のデータから、便宜上、「人民元あたりの日本円の為替相場」(CNYJPY)を合成すると、こんなグラフが出来上がります(図表6)。

図表6 CNYJPY

(【出所】the Bank for International Settlements, US dollar exchange rates より著者作成)

なんと、日本円が人民元に対し、約7年ぶりの安値水準にある、ということがわかるのです。

現在のところ、貿易統計上、日本の中国からの輸入額が大きく増減したというデータはまだ確認できませんが、中国から見れば、日本に対する輸出品の価格競争力が低下しているということを意味していることは間違いありません。

普段から当ウェブサイトで報告しているとおり、円安は輸入品価格を押し上げることを通じて物価上昇の原因となりますが、それと同時に、日本製品の輸出競争力が増えることで日本の輸出企業の業績に好影響を与え、さらには輸入品の代わりに国内製品の需要が高まるという「輸入代替効果」が期待できます。

このような視点で見るならば、昨今の円安局面とは元高局面でもありますので、早ければ今年後半の中国の対日輸出高、ひいては中国企業の輸出競争力にも深刻な打撃を与え始める可能性があります。これについては今後の注目点のひとつであることは間違いないでしょう。

新宿会計士:

View Comments (9)

  • 元々海外を想定した企業としては、超円安路線で部材逼迫を除けばかなり恩恵を受けていると感じる所はあります。ただ、それ以外の部分では人材不足であるとか技術継承であるとか外国籍の技術者が増えているとか、知財面で不安、また欧米主体のROHS規制の強化等で思わぬブレーキを踏む懸念が有り、決して順調とは言い難いです。また、中国企業や大学等へ納入出来たが良いが、中国特有の売買契約の都合による売掛金状態で資金回収が出来ていないケースが増えてきているようにも感じますね。
    この元高状態は確かに注視に値する重大事かもしれません。ただ、2015年頃の元高状態が世界にどんな影響を及ぼしていたかよく覚えていないので、自分なりに調べてみたいと思います。

  • 「日本が中国にとってお得意様である」という事実はあまり理解されていないのと同じように「韓国は経済は中国、安全保障は米国」というが近年の貿易実績は米国>中国となっているのは理解されていないのでは?

  • 情報ありがとうございます。
     元高/円安は、全く気付かなかった。
     今回は円の独歩安が続いたと思っていたらいつの間にか
     ドルの独歩高になったと思い込んでいました。
     まあ、ドル高/元安に違いはないが、[円安/ウォン高]と同じで
    『元高/円安』になっていたのか
     高値1元20.57円
     安値1元20.44円
    この元高/円安は、もしかして30年ぶり?

  • 2年前の2020年7月は大体,1人民元=15.3円くらいだったのが現在20.5円くらいで,30%以上値上がりしています。何故,日本のインフレ率が2%台なのか,かなり理解に苦しみます。普通なら,iPhoneの値上がり率くらいのインフレ(20%くらい)になるはずなのですが。企業努力で吸収しているのでしょう。その分,日本人の人件費を削減している気がします。

      • そのWEBのグラフの様子だと,コロナの2年間のボーナスの減少分が元に戻っただけのように見えます。コロナの頃のほうが景気が悪かったのでしょう。

    •  実際はインフレですよ、日本は。
      日本中が日本がデフレと洗脳されている。
       もし、デフレなら物価が下がっているはず。二十年も三十年もデフレなら車もパソコンも家賃も土地もマンションもアイスクリームもガソリンも激安になってますよね!
       これ全て値上がりしてるのは今に始まったわけではない。
       この二十年三十年どころかこの十年で安くなったと実感するものがありますか?
       車はモデルチェンジ・マイナーチェンジするたびに値上げしてますよね!
       家賃が下がりましたか?
       アイスクリームは3分の1に小さくなりその上何度も値上げしている。
       ロシアのウクライナ侵略以前の何十年間でなにか値下がりしたものがありますか?

    • 中国人(準)富裕層による日本の不動産購入は一層活発になっているので,企業買収もそうでしょう,なお,不動産購入の仲介会社が沢山あって,日本まで来なくても,スマホだけで日本の不動産は買える,という話もあります。
      「良い円安」という意味は,外国人にとって良い円安,という意味なのでしょう。輸出企業のメリットはそれほどでも。