人間、良い意味で「豹変」することはあるものですが、果たして岸田文雄首相も「豹変」したのでしょうか?岸田首相は昨日の会見で、先週暗殺された安倍晋三総理の国葬を実施する考えを示すとともに、原発を最大9基再稼働すること、医療従事者など800万人を対象にしたコロナワクチンの4回目接種を進めることなどを発表しました。どれも非常に歯切れがよく、わかりやすい説明であり、「検討します」、「注視します」などと述べていたころとは印象がずいぶんと異なります。
2022/07/15 08:40追記
「再稼働」を「稼働」に修正するなど、当初公表版と比べて文章を修正している箇所があります。また、修正箇所については、追加した文字を赤字、削除した文字を赤字取り消し線にて示しています。
「そんな首相で大丈夫か?」
選挙前からときどき当ウェブサイトにて取り上げてきたとおり、岸田文雄首相が打ち出す政策には、どうもどこか「ズレ」たものが多く、見ていて不安な気持ちになる、というものが多々あることは事実でしょう。
たとえば『岸田首相「夏は無理な節電せずクーラーで乗り越えて」』などでも取り上げたとおり、岸田首相は参院選の少し前に、今夏や今冬の電力不足が見込まれるなか、「月額数十円分の節電ポイント」制度を導入することで各家庭などに節電を促す考えを示しています。
岸田首相がドイツで原発再稼働に向けた審査の迅速化にコミットしました。昨今の電力不足という状況に照らすなら、安全性が確認され、地元の理解が得られた原発を迅速に再稼働するというのは、当たり前の話です。ただ、それ以上に政府が取り組まねばならないのは、民主党政権の負の遺産である再生可能エネルギー買取制度などの見直しに加え、電力の安定供給に向けたロードマップの策定ではないでしょうか。岸田首相の「月額数十円の節電ポイント」最近の岸田文雄首相といえば、「節電ポイント」で知られるようになった人物でもあります... 岸田首相「夏は無理な節電せずクーラーで乗り越えて」 - 新宿会計士の政治経済評論 |
しかし、本来、政府がやらなければならないことは、電力を安定的に生み出すことです(『ポイントで電力は生まれない:いまこそ電力安定供給を』等参照)。
今度は月額640~1,280円、でしょうか。例の「節電ポイント」をめぐり、共同通信は週末、政府が「毎月の電気代の1~2割の減額を検討している」と報じました。この記事をどこまで信じるかはさておき、冷静に計算してみると、例の「月額数十円」と比べればいくぶんかマシですが、それでも我々日本国民が決して少なくない再生エネ賦課金を負担してきたことに照らせば、「1,280円をあげるから節電に協力せよ」とは、ずいぶん無理がある依頼です。「節電ポイントで毎月数十円を稼ごう」当ウェブサイトでも連日のように取り上げている話題の... ポイントで電力は生まれない:いまこそ電力安定供給を - 新宿会計士の政治経済評論 |
これに加えて、日本における電気代の高止まりを招いている要因として、太陽光発電などの「再生可能エネルギー」に対し、私たち日本国民が1kWhあたり3.45円という、決して安くない「再生エネ賦課金」を強制徴収されている、という要因があります。
すなわち、再生可能エネルギー賦課金制度自体、電力価格の高止まりをもたらしているだけでなく、電力の安定供給にまったく寄与していないわけであり、民主党政権時代に菅(かん・)直人元首相の肝煎りで導入されたこの制度自体が現代の日本経済に深刻な悪影響を及ぼしている格好です。
したがって、貿易赤字削減、製造業の国内移転、電力の安定供給、エネルギーのロシア依存脱却といったさまざまな目標を一気に達成するためには、石炭発電に加え、安全性が確認できた原子力発電を再稼働する以外に選択肢はない、というのが当ウェブサイトなりの結論でもあります。
電力需要ひとつとっても決断力のなさを示した岸田首相に対し、「こんな首相で大丈夫か」という苦言のひとつも言いたくなるのは、人間として自然な心理ではないでしょうか。
煮え切らない態度は「ステルス安倍政権」のため?
ただ、それと同時に『じつは岸田政権下でひそかに進み始めている原発再稼働』でも指摘しましたが、安倍、菅政権ではなかなか進まなかった原発再稼働が、岸田政権下で(ほんの少しずつではありますが)着実に前倒しで進み始めているという事実にも注目しておく必要があります。
岸田政権下で、少しずつではありますが、原発再稼働が進み始めているようです。というよりも、もしかすると、安倍政権や菅政権と比べて、岸田政権下のほうが、原発再稼働が進む可能性すらあります。オールドメディアや特定野党の追及の矛先が鈍っているフシもあるからです。あるいは、自民党の「派閥政治」という特徴に照らすならば、やはり岸田政権は結果的に「ステルス型安倍政権」のような状態になるのかもしれません。原発再稼働の必要性少しずつ、良い兆候が出てきたのでしょうか?『「20年ぶり円安」の好機生かすには原発再稼働... じつは岸田政権下でひそかに進み始めている原発再稼働 - 新宿会計士の政治経済評論 |
このあたり、(なぜか)岸田首相に対してはマスメディアの追及がやたらと甘く、また、安倍晋三・菅義偉両政権のころと異なり、特定野党も岸田政権とはさほど「対決姿勢」を取ろうとはしないこととも影響しているのかもしれない、というのが、現時点における当ウェブサイトなりの仮説のひとつでもあります。
つまり、野党、メディアがあまり舌鋒鋭く追及しないことを奇貨として、岸田首相を「隠れ蓑」にして、安倍晋三総理が「最大派閥」(清和政策研究会、あるいは「安倍派」)の領袖という立場から、さまざまな政策をねじ込んでいるのではないか、という仮説です。
これが、「ステルス安倍政権」説です。
このように考えていくならば、メディア受けは良いものの弱小派閥である宏池会(岸田派)出身の岸田首相を、「スポンサー」である安倍総理や麻生太郎総理らがうまくコントロールしながら、安倍・菅政権下では難しかったさまざまな政策を遂行していくというのは、決して悪い話ではなかったのかもしれません。
ただ、この「ステルス安倍政権」仮説が正しかったとしても、その構図はすでに崩れてしまいました。
安倍総理が暗殺されたことで、安倍派が派閥の領袖を失った格好だからです。
では、これがいったいどういう影響をもたらすのか。
岸田首相、豹変す!?
一部では「検討使」などと揶揄され、とにかく問題を先送りする癖が強い岸田首相の優柔不断さに拍車がかかるのか、そして原発再稼働などの課題についても「先送り」「先送り」で取り返しがつかないことになってしまうのか。
これに関しては、岸田文雄首相の昨日の記者会見の内容が、非常に興味深いものでした。岸田首相が、次のような趣旨の内容を発表したからです。
- 安倍晋三総理の国葬を執り行うこととした。安倍総理を追悼するとともに、わが国は暴力に屈せず、民主主義を断固として守り抜くという決意を示していく
- 政権運営、拉致問題、憲法改正については引き続き取り組んでいく
- コロナ対応として医療体制を維持・強化しながら社会経済活動の回復に向けた取り組みを進めていく。まずは医療従事者など800万人を対象にワクチン4回目接種を進める
- 火力発電所の再開が進んでいるが、再度の需給逼迫が懸念されるため、できる限り多くの原発・最大9基の
再稼働を目指し、日本全体の電力供給能力を電力消費量の1割を増強確保することを目指す- ロシアのウクライナ侵略がもたらした物価高騰のなかで、物価上昇の中心を占めるエネルギーや食糧に対する対策を進め、国民生活を守る
(【出所】首相官邸『岸田内閣総理大臣記者会見』をもとに著者作成。なお、修正については2022/07/15 08:40付。)
どれも、大変に歯切れがよく、すっきりとわかりやすい発言です。
当ウェブサイトのポリシーとして、あまり「印象」で物事を語らないように気を付けているつもりですが、それでもあえて申し上げるならば、安倍総理の暗殺以降、岸田首相の顔つきが変わり、喋り方も力強くなった気がします。
【参考】安倍総理襲撃事件発生直後に会見に応じる岸田首相
(【出所】首相官邸ウェブサイト『元総理襲撃事案についての会見』)
こんなことを申し上げると失礼かもしれませんが、「~を検討します」だの、「~に注目します」だのといった発言が目立った参院選前の岸田首相と同じ人物の発言とは思えません。
もちろん、岸田首相の政策が正しいかどうかは別問題であり、これらの政策評価については今後、私たち日本国民としてもしっかりと注目していく必要があります。ただ、少なくとも安倍総理の国葬の件、原発最大9基の再稼働の件などは、岸田首相はよくぞ決断したものだと言わざるを得ません。
政府がやることをやったうえでの「節電ポイント」
なお、報道等によれば、「節電ポイント」制度自体はいちおうは実際に開始されるのだそうです。日経電子版の次の記事によれば、まずはプログラムに参加した家庭に2000円を、月5%節電した家庭には追加で2000円分のポイントを付与する案が検討されているのだとか。
月5%節電で2000円案、ポイント付与 今年秋以降に追加
―――2022年7月14日 22:38付 日本経済新聞電子版より
この点、「毎月数十円分のポイント」という案と比べれば、ずいぶんとマシになったものです。
しかも再生エネ賦課金制度や原発操業停止状態などを放置しつつ、家庭にだけ「節電しろ」と要求するのでは国民の理解は得られませんが、少なくとも原発再稼働の加速に向けた岸田首相の決意を踏まえるならば、「政府がやることをやっているのなら、我々も協力しよう」と考える国民も一定数は存在するはずです。
いずれにせよ、現実に岸田政権がどのように原発再稼働を進めていくのかについては、我々国民もしっかりと注視していく価値はあるかもしれません。
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原発については、東日本の原発・火力が稼働しないと関東圏の電力不足対策にはならないという話が出ていますね。みんなで12時~2時は屋外の日陰でシエスタでしょうか。
日本の年間消費電力量は急減、電力需給ひっ迫は「タイムシフト」で解決か
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00138/071201084/
まあ、原発再稼働にはそれ以外にも化石燃料使用の削減とか、資源高、円安対策とか、環境対策とか色々他のメリットもありますけど。
内閣改造を見てから判断したいと思います。
これまでがこれまででしたから、しばらく様子を見たい。来日すると言われている隣国の外相への対応が一つのヒントになるかも。なお、私は岸田にはあまり期待していません。
全く同意です。
安倍氏が亡くなったのに延期もせず、韓国外相の訪日にGOサインを出したんでしょうかね。韓国外相が、参院選直後&安倍氏死亡でゴタゴタしてる日本に、3日間も居座る神経もどうかと思うし。
岸田首相とも面会するとか、林外相と食事会をするとかの報道も出てます。おかしな裏合意をすることのないようにお願いしたい。
→YouTube
長谷川幸洋と高橋洋一のNEWSチャンネル
【安倍元総理なき政界】『日本政治の行方』
いろいろ情報は錯綜していて、何が正しいのか判別つきませんが、これを見ていても岸田政権にはあまり期待できそうにありません。
匿名 様へ
韓国の朴振外相はギター弾きとして知られ、外相候補だった4月に記者会見で「日本の林外相のピアノ演奏と共演したい。『釜山港へ帰れ』はどうか。」と提案しています。
林外相はこれに応えるように、5月の韓国大統領就任式出席のため訪韓した際に、朴振外相候補(当時)と会談し、「『釜山港へ帰れ』は練習してきた。」と伝えたそうです。
いよいよ、念願の『釜山港へ帰れ』の日韓外相共演が実現するのでしょうね。
韓国マスコミは「朴振外相は林外相の心を鷲掴みにした」と報道するのでしょうね。
>参院選前の岸田首相と同じ人物の発言とは思えません。
新たに. ”組織の中枢としての使命感に目覚めた働きアリ” のようですね。
その導きが原理原則を超越した愚者の選択ではないことを切に願います。
働き出したアリが出ると、サボり出すアリが出始めるんですよね…。
岸田首相の本質は、
①防衛費予算の増額には慎重(いあわゆるハト派)②財政規律重視といった性向は多少ある(多分③憲法改正にもさほど熱心ではない)ものの、
総理になったらこれをやりたいという熱い思いで日ごろから研鑽し、自分の信じるところをやりぬく率先垂範タイプ(中曽根康弘、小泉純一郎、安倍晋三がこれに属する)ではなく、
その時々の国民世論、党内意見を集約しながら、多少自分の色を加えて、政策遂行する調整タイプ(佐藤栄作、鈴木善幸、森喜朗がこれに属する)と、見ています。
加えて、世論の動向をつかむのに、ひょっとしたら天才的な勘があるのかも、と考えています。
安倍氏の全面的支援により総裁選を勝ち抜いたことから、「アベ影政権」と後ろ指さされぬよう同氏との微妙な”距離感”を演出(島田前防衛次官の更迭は、その典型)、安倍氏が亡くなられるや否や、国民の弔問ムードに乗り、同氏の政策をそのまま、取り入れたような政策の発表です。
私は、長期低迷する日本を復活させるには、調整型のリーダーではだめで、率先垂範型のリーダーが必要との、考えで、もともとは岸田氏を支持しておりませんでした。
ただこういうタイプは、野党やマスコミからすると攻めにくく、意外と長続きする可能性は高いようにも、思います。
ぬるま湯・お花畑感覚の日本人には、合っているかもしれません。
原発についての発言は今冬「最大9基稼働」で、「再稼働」とは違い既に再稼働済の原発を9基稼働かと思っていました。あれは再稼働でしたか、それなら供給改善しそうですね。
再稼働済の原発を9基稼働で何にも変わってないと認識しています。確か国民民主党さんもそのように言ってましたね。所詮はZマークの省の手先。真水の純増なんてしませんよ。言葉遊びだけです。全くもって宏池会には期待してません。
https://www.sponichi.co.jp/society/news/2022/07/14/kiji/20220714s00042000540000c.html
9基の原子力発電所の稼働、火力発電所の追加稼働 と言っていますね。
伝言ゲームで途中が抜けたんでしょう。
安倍元総理の生前は,岸総理が独自路線を打ちだそうとすると,安倍氏から電話がかかってきて牽制された,という話もあります。現在,安倍派は次期体制をめぐる動きで,まとまった動きは難しくなっているはずですし,二階氏の発言力も低下したので,岸総理はかなりのフリーハンドを得られたと思います。
ただ,株・債券などの市場関係者からの岸氏の路線への評価は,現在は低いです。海外ファンドもそのあたりを見込んで,日本への攻勢を強めている気がします。さしあたって,外為相場と国債相場に注目しましょう。この後のインフレ進行が年度末あたりに,どうなっているかが,将来の内閣支持率に影響する気がします。
古いほうの愛読者 様へ
誰も言わないので、私が申し上げます。「岸総理」は「岸田総理」のことですね?
>岸田首相の顔つきが変わり、喋り方も力強くなった気がします。
↑
ナチュラルに見下しているところが笑える。
なんか親目線感ありますね(笑
岸田首相が「のらりくらり」路線をやめ、問答無用で動き出す様になったとしたら、
今まで妙に大人しかったマスコミも安倍元首相時代の様に叩きまくるでしょうね。
ただ、マスコミがいくら叩いても世論はもうほとんど動かない
(ワクチンの接種率など、政府でも出来る事に限界がある事象に対して国民が”失望”して
評価を下げる事はあり得るが、それはマスコミは煽っているのではなく”便乗”しているだけ?)
ので、この時代は思い切って動いて良いのかも知れません。
岸田首相の”覚醒”が三日坊主で終わらない事を願いたい物です。
君子豹変す >
ネットで検索したら、「徳の高い立派な人は、間違いに気がついたらすぐに態度をきっぱりと改める」という意味のポジティブな言葉、とありました。
大変失礼ながら言わせてもらいます。
岸田氏という人物は私から見れば「徳の高い人物」とは到底思えません。むしろ定見なき政治家ゆえのいきあたりばったりの発言であったろうな程度に受け止めています。
原発再開もに関しても、「間違いに気がついてすぐに態度をきっぱりと改め」たとは到底思えません。あまり真剣に考えていなかったけど、考えたら考えたらそれしか選択がなかったことに、ようやく気がついた、じゃね?としか見えないのです。
今回の国葬云々についても、安倍氏ご逝去後6日たってからのものでした。おそらく、世界中から寄せられた1700を超える弔電やらツイート,そして国民の反応を受けてからの判断だったのではないでしょうか。
そこに岸田氏の政治家として自己保身の計算が働いたのではないか、という疑念を個人的には払拭することができないのです。
その私の感じ方が正しかったのか,間違っていたのかは、今後の防衛政策、そして防衛予算を巡って、財務省といかに対峙できるかで判定していきたいと考えています。