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「竹島映像に外務省が抗議」、なぜこのタイミングで?

日韓関係「改善」を潰しているのは韓国メディアだった

日本国内で「日韓関係『改善』論」を積極的に潰しているのは、じつは韓国自身の行動であり、韓国メディアの報道です。いまや新聞、テレビといったオールドメディアの社会的影響力がすっかり低下したなかで、代わって影響力を飛躍的に増しているのがインターネットです。韓国政府の行動、あるいはそれを報じる中央日報などの韓国メディアの記事が、日本国民の考え方を最終的かつ不可逆的に変えてしまったのです。

鈴置高史氏の論考を読むべし!

当ウェブサイトではこのところ毎日のように報告しているとおり、韓国観察者の鈴置高史氏が先月刊行した『韓国民主政治の自壊』という書籍が優れています。

鈴置氏自身は「韓国観察者」を名乗っていますが、当ウェブサイトに言わせれば、鈴置氏が観察しているのは韓国ではなく、韓国という鏡に映った日本です。韓国の姿を観察することを通じて、じつは私たち日本人の行動様式を浮き彫りにしているからです。

こうしたなか、同著が刊行された直後、鈴置氏が先月23日付でウェブ評論サイト『デイリー新潮』に寄稿した『尹錫悦はなぜ「キシダ・フミオ」を舐めるのか 「宏池会なら騙せる」と小躍りする中韓』という論考も、あわせて読んでおく価値があります。ここに、こんな記述が含まれているからです。

韓国は『少々強引なことをしてもキシダは後戻りできない。何せ、日韓関係改善を公約したのだから』と考えた。そして、尹錫悦政権は韓国の海洋調査船を5月9―12日と5月28―30日の2回に亘り竹島周辺の日本のEEZ(排他的経済水域)に送り、活動させたのです」。

この記述、同著には時間的に間に合いませんでしたが、大変に重要な指摘です。

いわば、日韓関係「改善」に前のめりになった岸田政権が、韓国側から「嵌められた」のだ、というのが鈴置氏の指摘であり、そして、これは大変に重要な記述です。韓国メディアの報道によれば、ほかにも「外務省の水面下交渉」が失敗した事例があった可能性が出てきたからです。

時間経過は最大のリスク

日韓諸懸案の本質は「韓国の日本に対する二重の不法行為」

その論点については本稿の後半で議論するとしましょう。その前に改めて指摘しておきますが、日韓諸懸案をめぐって、世の中ではまだまだ誤解があるようです。

韓国メディアがこれら諸懸案のことを「歴史問題」だ、などとさかんに言い立てているためでしょうか、「日韓関係悪化の原因は日本にもある」、「歴史問題をめぐってはいずれ日本も妥協・譲歩をしなければならない時が来る」、などと認識している人が、いまだにいるのです。

この点、日韓諸懸案の本質をめぐって、忘れてはならない点があるとしたら、それは「韓国の日本に対する二重の不法行為」である、ということです。

5月末に掲載した『【総論】韓国の日本に対する「二重の不法行為」と責任』で取りまとめたとおり、韓国が日本に対して仕掛けている不法行為として、大きく分けて、「①ウソ、捏造に基づく難癖」と、「②法的に根拠のない要求」という2つの特徴があります。

世間では少し勘違いしている人が多いようですが、日韓諸懸案とは韓国の日本に対する「二重の不法行為」の問題です。解決する全責任は、韓国側にあります。そして、日本が議論しなければならないことは、「どうやって韓国に譲歩して折り合いをつけるか」、ではありません。「約束を守らない韓国を、どうやって罰するか」、です。本稿では「総論」として、これまでに当ウェブサイトで触れてきた「韓国の対日不法行為」の数々を、大ざっぱに振り返っておきます。韓国の対日不法行為、尹錫悦政権発足後に「風化」していないか?2022年5月1...
【総論】韓国の日本に対する「二重の不法行為」と責任 - 新宿会計士の政治経済評論

このうち①については、韓国が主張する「歴史問題」などの多くが、明らかなウソ、捏造のこともあれば、事実関係を意図的に歪曲したり、誇張したりしているというケースなどもありますが、重要な共通点があるとしたら、「物証がない」ということに尽きます。

また、②については、韓国の日本に対する要求が、たいていの場合、国際法や条約などの法的根拠を欠く、極めて不当なものである、という特徴があります。これをまとめたものが、次の『日韓諸懸案を巡る韓国の「二重の不法行為」』です。

日韓諸懸案を巡る韓国の「二重の不法行為」
  • 韓国側が主張する「被害」の多くは、(おそらくは)韓国側によるウソ、捏造のたぐいのものであり、最終的には「ウソの罪をでっち上げて日本を貶めている」のと同じである
  • 韓国側が日本に対して要求している「謝罪」「賠償」などには、多くの場合、法的根拠がなく、何らかの国際法違反・条約違反・約束違反を伴っている

(【出所】著者作成)

「おじいちゃんの代の恨みを晴らしてやる」

この点、「いつまでも日韓諸懸案を放置するのは良くない」、といった発言は、韓国側からだけでなく、日本側からも聞こえてきます。というのも、日韓関係は政治、経済などの面において、(いちおうは)日本にとっても重要ですし、現在の不安定な状況が続けば、日韓関係が突如として破綻するという可能性もあるからです。

ただ、だからといって、「日本もそろそろ妥協すべき」、とする意見については、まったく受け入れられるものではありません。その理由はとても簡単で、これらの諸懸案の原因を作っているのが一方的に韓国の側だからです。

このことは、「J家の隣の家に住むK一家がJ一家に押し入り、勝手にJ家から宝物を盗んで持ち帰った」というケースで考えてみれば、よくわかります。

J家としては「K家が奪っていった資産をJ家にちゃんと返すこと」、「勝手に押し入ったことを謝罪すること」が両家の関係正常化の条件だと考えているのですが、K家にとっては「おじいちゃんの代に奪われた資産を取り返しただけのこと」、「おじいちゃんの代の恨みを晴らしただけのこと」、などと言って聞きません。

ただ、その資産がもともとK家のものだったという証拠もなく、ましてやJ家のおじいちゃんがK家から奪ったという証拠もありません。法的に見れば明らかにJ家の持ち物をK家が奪っていったのであれば、それはJ家にとって「譲歩しろ」と言われても困ります。

しかも、J家が「白黒つけるために裁判所に行こう」とK家に求めているのに、K家は裁判には頑なに応じず、それどころか「むしろJ家の方がおじいちゃんの代に酷いことをした」、「J家こそ謝れ」と要求している、という状況にあります。

これでいったいどこをどう「妥協」しろ、というのでしょうか。

諸懸案はこんなにある!

この点、『日韓諸懸案を「一度に包括的解決」することはできない』でも取りまとめたとおり、日韓諸懸案の中核を占めているのは竹島不法占拠問題や自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題などですが、それだけではありません。

尹錫悦(いん・しゃくえつ)韓国大統領が「韓日歴史問題は未来の問題とおなじテーブルで解決すべき」と述べたそうです。端的に申し上げて、日韓諸懸案はひとつひとつ丁寧に韓国が自らの判断と責任において解決しなければならないものであり、それらを「包括的に解決」することなどできません。また、「共通の価値観を実現する規範を我々が守らなければならない」とも述べたと伝えられていますが、国際法規範を踏みにじっているのは、ほかならぬ韓国自身です。韓国の特殊性法曹人みずからが法的手段による解決を否定韓国メディアを眺め...
日韓諸懸案を「一度に包括的解決」することはできない - 新宿会計士の政治経済評論

2018年12月に発生した火器管制レーダー照射事件についても、韓国側はいまだに謝罪しておらず、それどころか事実関係を認めずに「むしろ日本が低空威嚇飛行を仕掛けてきた」と開き直っていますし、韓国国会議長による上皇陛下侮辱事件についても、いまだに韓国は国家として謝罪していません。

また、仏像の窃盗問題、日本の農作物の種苗窃盗問題、不当な対日輸入規制、輸出管理をめぐる不適切な事案、GSOMIA破棄騒動、旭日旗への侮辱、対日WTO提訴など、韓国の不法行為を挙げていけばキリがないのです(図表)。

図表 韓国の日本に対する不法行為(※クリックで拡大)

(【出所】著者作成。図表のテキスト化データについては『日韓諸懸案を「一度に包括的解決」することはできない』参照)

ひとつのリスクは「時間の経過」

ただし、ここで当ウェブサイトなりに、ひとつ懸念すべき点があるとすれば、それは「時間の経過」です。社会を揺るがす事件は、発生した直後は非常に大きな熱量を持っていますが、時間が経過すれば次第に記憶が忘却され、あまり大した事件ではなかったかのように勘違いする人も出てきてしまうのです。

その典型例が、日本人拉致事件でしょう。

北朝鮮の独裁者である金正日(きん・しょうじつ)は2002年の日朝首脳会談で、ときの小泉純一郎首相に対し、北朝鮮が日本人拉致を実行したという事実を認めました。

このとき、日本社会は北朝鮮に対して激怒し、普段は北朝鮮を擁護するような一部メディアでさえ、北朝鮮のことをかばいきれず、仕方なしに北朝鮮批判をしていたほどです(※著者自身も、当時の職場で日本人拉致事件が大きな話題になっていたことを、昨日のことのように覚えています)。

ただ、それから20年の歳月が流れるなかで、日本人拉致事件についての当時の日本列島における熱気を知らない若者も増えてきました。「そろそろ北朝鮮との国交正常化を」、「日本人拉致事件など過去のことは水に流そう」、などと寝言を言い出す者も、もしかしたらそろそろ出てくるかもしれません。

だからこそ、日本人拉致事件に関しては、内閣府が定期的に啓蒙活動をしていますし、また、安倍晋三総理を筆頭に、多くの政治家がブルーリボンバッジを着用しているのです。

個人的には、日本人拉致事件をめぐっては、「どうやって北朝鮮とコネクションを作るか」を議論すべきではないと思いますし、そんなことを主張している政治家(『福島瑞穂氏「社民党は崖っぷち」』等参照)には落選していただきたいと思っています。

(※余談ですが、「北朝鮮に軍隊を派遣し、金正恩(きん・しょうおん)を筆頭とする北朝鮮政府幹部を拘束して日本に連行して取り調べを行い、拉致されたすべての日本人を強制的に取り返すための立法」こそ、国会では議論すべきでしょうし、我々有権者もそのような政治家を国会に送るべきではないでしょうか。)

火器管制レーダー照射事件はたった3年で「低空威嚇飛行」事件に!

こうしたなか、日韓諸懸案の数々についても、非常にシャレにならないレベルのものも含め、さまざまなものがありますが、これらも時間が経過すれば、次第に社会全体で忘れられていくのではないか、といった点を、個人的には大変に懸念しています。

とくに日韓関係に照らすならば、日韓諸懸案の数々が解決しないまま時間が過ぎていけば、やがて事実関係が記憶のかなたに埋もれ、下手をすれば韓国が唱えるウソがあたかも事実であるかのごとく定着してしまうかもしれません。

そういえば、火器管制レーダー照射事件をめぐっても、発生してからたった3年で、韓国社会ではすでに「日本側の低空威嚇飛行事件」が事実になってしまっていた、という事件がありました(『「低空威嚇飛行」の捏造が3年で事実になってしまう?』等参照)。

今から3年前の「日本が低空威嚇飛行を仕掛けてきた」とする捏造が、いつのまにか完全に事実として定着しているのかもしれません。2018年12月に発生した火器管制レーダー照射事件、もちろん、事実関係は「韓国が加害者、日本が被害者」ですが、どうもこれが完全に逆転しているのではないかと思しき記事を発見してしまったのです。たった3年で捏造が事実になってしまうとは、おそろしい話です。火器管制レーダー照射事件何かと不自然な「火器管制レーダー照射」少し、古い話をします。今から3年前少々の2018年12月20日、石川県能登半...
「低空威嚇飛行」の捏造が3年で事実になってしまう? - 新宿会計士の政治経済評論

このように考えていくと、日韓諸懸案の数々に関しては、人々の記憶の彼方に行ってしまわないよう、誰かが定期的に掘り起こしていくことが必要なのかもしれません。

韓国側から飛び込んでくる「新ネタ」

EEZ調査事件

ただ、こうしたなか、日韓関係をめぐって最近気づいた事実がひとつあるとしたら、それは「日本側の記憶の風化を防ぐ」という意味では、韓国側から定期的に「新たなネタ」が飛び込んでくる、という点でもあります。

たとえば、尹錫悦(いん・しゃくえつ)政権をめぐっては、政権発足前から「5年ぶりの保守政権だ」、「文在寅(ぶん・ざいいん)政権下で悪化した日韓関係が修復されるに違いない」、といった主張が、(驚いたことに)日本の一部メディアの間からも提起されていました。

しかし、こうした「5年ぶりの保守派政権で日韓関係が改善される」とするストーリーが打ち砕かれたのが、例の「竹島近海での無許可調査事件」です。

これは、当ウェブサイトでは『竹島不法調査受け、日本政府は韓国外相来日を拒否せよ』あたりでも取り上げていますが、韓国が不法占拠している島根県竹島近海で、韓国側の船舶が日本側に許可なく海洋調査を実施したという「事件」です。

抗議では済まされません。韓国が日本の排他的経済水域(EEZ)で日本の許可なく勝手に調査を行っていたとして、日本政府が韓国政府に抗議したそうです。しかし、韓国が新政権になってもこの手の不法行為を日本に仕掛けてきたという事実は、日本が求める「国と国との約束を守る」かたちでの日韓関係正常化があり得ないことを意味します。とりあえず、日本政府は韓国国民に対するビザ免除措置再開を見送るとともに、韓国外相の訪日受入を拒否すべきです。韓国の二重の不法行為とゼロ対100理論日韓諸懸案といえば、基本的には韓国の日本...
竹島不法調査受け、日本政府は韓国外相来日を拒否せよ - 新宿会計士の政治経済評論

これについては冒頭で取り上げた鈴置論考にも詳しく論じられているとおり、当初、日本政府としては「大事にせず水面下でもみ消す」という態度を取ろうとしていたのですが、産経新聞がすっぱ抜き、結果として自民党外交部会などでも問題となりました。

(おそらくは)NATO首脳会合の場での日韓首脳会談が見送られる遠因となった可能性があります。

また、余談ですが、岸田文雄首相の親書を携え、ノコノコと訪韓して大統領就任式に出席した林芳正外相自身が、どうやらこれに抗議しなかったようであるという事実が判明したこともあってか、林氏が岸田首相の後継者として日本の首相に就任する可能性が少し低下した、というのが実情ではないかと思います。

日本が「竹島映像」に「外交ルート通じて抗議」

こうしたなか、昨日は韓国メディアにもうひとつ、ちょっと気になる話題も出ていました。

これについてはいくつかのメディアが報じているのですが、ここではまず、『聯合ニュース』(日本語版)のものを取り上げておきましょう。

尹大統領就任式の「独島映像」に日本が抗議 韓国政府「不当な主張」

―――2022.07.07 16:16付 聯合ニュース日本語版より

聯合ニュースは韓国外交部の当局者の話として、尹錫悦氏の大統領就任式で流された映像のなかに竹島上空を韓国の戦闘機が飛行する場面が含まれていたことに関し、日本政府が外交ルートを通じて韓国政府に抗議していたことが7日にわかった、などと報じました。

聯合ニュースはまた、外交部当局者が「独島は歴史的、地理的、国際法的に明白なわが国固有の領土であり、わが国の領土主権に対する日本側のいかなる不当な主張も受け入れられない」などと述べた、と伝えています(※「独島(どくとう)」とは韓国が勝手に捏造した呼称)。

韓国側が「韓日関係『改善』」とうそぶいているこのタイミングで、わざわざこんな報道が出てくるのも不思議です。

このあたりについては、何らかの「狙い」があるのではないか、との疑いも浮上しますが、この点についてはとりあえず脇に置き、韓国メディア『中央日報』(日本語版)に昨日掲載されたこんな記事についても確認しておきましょう。

独島の空を飛ぶ韓国の戦闘機…尹大統領就任式の映像に難癖付ける日本

―――2022.07.07 08:47付 中央日報日本語版より

こちらの中央日報の記事は、聯合ニュースのものと同じ話題を取り上げているものですが、内容はさらに強烈です。中央日報の記事では、日本に対して次のとおり、いきなり「逆切れ」しているからです。

韓国政府が10日の日本の参議院選挙後の両国間対話再開など関係改善にスピードを出そうとする中で、日本の絶えることのない『独島難癖』が足を引っ張りかねないという懸念が出ている」。

なかなかに、驚く話です。

そもそも「日本の参院選後に両国対話を再開する」というのも韓国側が(おそらくは日本側の了解なく)勝手にそう述べているだけの話でしょうし、「関係『改善』」もなにも、日韓諸懸案の原因はすべて韓国側が一方的に作っているに過ぎないからです。

日韓外交当局者の「暗闘」?

ただ、本稿でこの中央日報の記事を引用したのは、それ以外に理由がちゃんとあります。

先ほどの聯合ニュースの記事と比べてもう少し詳しく周辺情報が掲載されているのに加え、「なぜこのタイミングでこんな話題が出てきたのか」について考察するヒントが含まれているからです。

それはずばり、日韓外交当局者の「暗闘」ではないでしょうか。

中央日報によると、日本政府がまず問題にした場面は、尹錫悦氏の就任の辞に先立って上映された空軍の「国土東端独島上空です」、「大韓民国の空と宇宙を守る強い空軍として任務完遂に最善を尽くすことを約束します」というナレーションとともに、戦闘機が竹島上空を飛行するシーンなのだそうです。

これに関し、「日本側は在韓日本大使館などの外交ルートを通じ、韓国政府にすぐに抗議した」、などと記載されているのですが、これについて中央日報は「元外交部高位当局者」のこんな発言を紹介しています。

日本は以前から韓国の独島関連行為に対し例外なく公式に記録に残る『オン・ザ・レコード』方式の抗議をするという方針。しきりに日本が民族主義感情を刺激する領土問題を持ち出せば過去史問題でそうでなくても厳しい韓日関係がさらに悪循環に陥りかねない」。

この「外交部の元高官」の発言が事実ならば、先ほども述べたとおり、「なぜこのタイミングでこんな話が出てきたのか」、という疑問にもつながっていきます。なぜなら、少なくとも尹錫悦氏の就任式当日、林外相がこの「竹島映像」について韓国側に抗議した、という事実は、外務省のウェブサイト等には掲載されていないからです。

日本側は「非公開で話を終わらせようとしていた」?

実際、中央日報によると、今回の「竹島飛行映像」をめぐっては、日本側の対応が従来のものと異なっていたというのです。

当時日本側は非公開で抗議する線でひとまずとどめることにしたという。就任式の祝賀使節団として訪韓した林芳正外相が岸田文雄首相の親書を持って同日午後に尹大統領と直接会うなど雰囲気を考慮したとみられる」。

もしこの報道が事実ならば、外務省にとっては大チョンボ、という可能性が出てきます。すなわち、林外相自身が岸田首相の親書を携えて就任式に出ようとしたばかりに、韓国側からここまで舐められたからです。

それに、韓国に対して「非公開で抗議する」というのは、絶対にやってはならないことです。この数年間の対韓外交から得られた教訓は、基本的にはすべてオープンベースで行わねばならない、というものだったはずだからです。

いわば、外務省が日本外交の「大チョンボ」を隠しつつ、韓国側と何らかの交渉を行っていたものの、それが韓国側からリークされたという事実からは、こうした「何らかの水面下の暗闘」の存在がうかがえるのかもしれません(あくまでも仮説ですが…)。

このことで、もしも今回の参院選で青山繁晴氏ら「うるさがた」の議員が再当選を果たしたならば、本件をめぐってはおそらくは自民党の外交部会あたりから、再び外務省が突き上げられるかもしれません(あるいは、今回のリーク記事は韓国政府内の暗闘、という可能性もあるかもしれませんが…)。

日韓諸懸案が定期的に発生する構図は変わらない

ただ、今回の事件の「意味」はさておくとして、「コリア・ウォッチャー」として個人的に指摘しておきたいのは、この手の日韓諸懸案が「定期的に」発生することの意味です。

このインターネット時代、もはや新聞、テレビといった一握りのオールドメディアが情報をすべて独占するという構造は、ほぼ完全に崩れたと断言して良いでしょう。ということは、インターネット上で「バズ」を起こすような話題は、オールドメディアの意向とは無関係に発生するようになった、ということです。

当然、先ほども紹介した中央日報の記事などは、『Yahoo!ニュース』を含めた影響力のあるメディアに転載されるほか、ツイッターなどを通じて多くのユーザーに共有され、「読者コメントの嵐」がつきます。

当然のことながら、この手の話題が生じるたびに、ネット上では一般の日本人ユーザーが積極的にコメントを寄せ、韓国に対する非難の嵐が生じます。そして、この手の一般国民の生の声は、もはや政治家がもみ消そうとしてもみ消せるようなものではなくなりました。

当然、外務省の「対韓密室外交」についても同じことが言えます。

関係改善の可能性を潰しているのは韓国メディア?

そして、下手に水面下でもみ消そうとしたら、後日、却って「炎上」するという事例が出てきている、というわけです。いわば、韓国メディア自身の報道が、韓国が望む形での「韓日関係『改善』」の可能性を潰している、という言い方もできるでしょう。

こうしたなか、先ほどの中央日報の記事では、日韓関係について、こう述べます。

専門家の間では強制徴用や慰安婦など過去史、福島汚染水、佐渡金山ユネスコ登録など韓日間で解決すべき時限爆弾のような課題が山積する中で、どうしても平行線にならざるをえない領土問題まで日本が持ち出すのは非合理的という批判が出ている」。

こうした歪んだ記述も、おそらくは圧倒的多数の日本人読者を苛立たせ、そのことを通じて日韓諸懸案をめぐり日本が韓国に譲歩する可能性を極限にまで削り取っている要因のひとつです。これに関連し、中央日報には国民大学日本学科の李元徳(り・げんとく)教授のこんな発言が掲載されています。

日本が独島関連の韓国の正当で定例的な活動まで問題視する場合、果たして韓国と関係改善をしようとする意志があるのかその真正性まで疑われるほかない」。

こうした記述を読んで、「よし、日本は韓国に譲歩すべきだ」、などと考える日本国民が多数を占めるとも思えません。その意味では、少し奇妙な言い方かもしれませんが、日本人としては中央日報を含めた韓国メディアに対しては感謝しなければならないのかもしれません。

なぜなら、日本が韓国に譲歩しなくなる理由を作っているのが韓国メディア自身だからです。

ちなみに李元徳氏は、こうも述べているのだそうです。

ウクライナ情勢をはじめとする最近の国際情勢により自民党内の強硬派議員を中心に領土と安全保障問題に対する強硬対応論が力を増しており、外務省さえこれを制御できないほどだ」。

この分析も、ある意味では正しいものでしょう。

ただ、「自民党内の強硬派議員」のその背後には、「強硬な日本国民」が大量に存在するという事実も、決して忘れてはなりません。そして、この流れは不可逆的なものです。韓国の行動、韓国メディアの報道自体が、日本国民の考えを最終的かつ不可逆的に変えてしまったからです。

その意味では、日本もじつにおもしろい時代を迎えたものだと思う次第です。

新宿会計士:

View Comments (11)

  • なぜガイム省は日本の「国益」を最大化する努力を放棄しているのでしょうか。
    ガイム省の「コリアスクール」に韓国関連から得られる利権を手放せず
    「国益」追求しなければ、結果的に外患誘致罪であり、韓国と通謀して日本を陥れる行為です。

    • 恐らく彼等は自分達の閉鎖的なムラの中での利害関係と力関係を何よりも優先する文化の中でのうのうとのさばって来たからでしょうね。

      • といっても、それは日本人の伝統的な組織文化そのものでしょう。
        国益は勿論大事だけど、自分達のムラの中の利害損得はもっと大事。
        外務省のみならず、他の省庁でも、何なら財界でも政党でも。
        国という単位は、ムラとして認識するには少し規模が大き過ぎて
        抽象的過ぎるのではないかな?

    • 役人の世界は昔から、「省益あって国益無し」です。
      これを正せるのは政治家とマスコミですが、どちらも日本の国益を優先しているようには思えません。
      現状、政治家とマスコミは役人に操られれているのでは無いでしょうか?
      岸田、林コンビには大きな不安しかありません。
      内心安倍さんの再登板を期待していましたが・・・。
      今は命が助かることを願うしかありません。

  • 韓国やユンソンニョル政権をどう見るかですよね。徴用工の”官民協議体”にしても、「国内の反対意見もあるなか、一生懸命にとりまとめに注力しているが、力及ばずできないであろう」と捉えるか、鈴置氏のように「最初からやる気もなくて、米国に”努力しているポーズを見せるだけで、うまく日本を騙せればラッキーというもの。評価するに値しない」と考えるか、ですよね。私も当初は前者の意見に近かったのですが、現在は後者かな、と思っています。だんだん韓国人”根っからの性悪説”に傾きそうで、嫌だな。でもやる気あるなら、もう少し工夫するよね。愚直は政治家の無能の証ですもんね。

  • >日韓関係「改善」を潰しているのは韓国メディアだった
    >ネット上では一般の日本人ユーザーが積極的にコメントを寄せ

    生き残りをかけたアクセス稼ぎ。国益は、そっちのけの刹那主義!

    もはや、”炎上商法”は彼らのメインストリーム。
    家計も企業も”火の車”なんですものね。たしか。

  • > 「非公開で抗議する」
    日本の外務省なら「あるな」と思ったのが率直な感想です。
    この記事で2つ腹立たしいことがあって、1つは外務省の態度ですけど、もう一つは親書を持たせたくらいで、ここまで舐めた態度に出られる日本政府の姿勢です。ってあれ?両方日本の問題だ。。。orz
    1ついいことがあるとすれば、会計士様の仰る通り、こういう情報が公になって国民の知るところになったことですかね。ありがたいことです。

    • 韓国は文政権に代わって
      誤った情報を先に発信され、既成事実にしてしまう事態が頻発しました。
      朴槿恵の時は そんな事はなかったので
      前代未聞の韓国政権だったと思います
      今回の失態は
      韓国の政権が変わったので
      その心配は無くなったと思って
      従来のプロトコルに戻した途端の事件だったと思います

  • 保守政権誕生を受けて、「すぐにでも日韓関係は改善される」っぽい論調の記事に溢れたアチラのメディア。ここに来てようやく熱が引き、そう甘くない現実に気が付いてきたということでしょうか。

    社会不安が募る中、結局「お約束の反日ネタ」で憂さ晴らし。

    どちらにしても、自己省察の気配を全く欠く文章のオンパレードという点は一緒ですが(笑)。

  • >「日本が独島関連の韓国の正当で定例的な活動まで問題視する場合、果たして韓国と関係改善をしようとする意志があるのかその真正性まで疑われるほかない」。
    彼らの言う「関係改善」とやらは、「韓国の言い分を、日本が全て受け入れること」でしかないんでしょうね♪
    ╮(︶﹏︶")╭ヤレヤレ

    個々の課題毎に協調も対立もあってそれが併存するのが普通の関係だと、あたしは思うのです♪
    だから、韓国との「関係改善」なんて、有害無益だと思うのです♪

    • それはそうでしょう。
      韓国は日韓の歴史の書き換えを目的としているのですから。