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サハリン2「権益没収」大統領令への対処は政府の責任

電力不足のおり、今度は「サハリン2の権益収奪」という話が出てきました。ロイターの報道によると、ロシアのウラジミル・プーチン大統領は30日、サハリン2の現在の国際的な事業コンソーシアムとは別に新会社を設立し、現在のサハリン2への出資者に対しては1ヵ月以内に新会社に出資するかどうかを要求する、とする大統領令に署名したのだとか。

電力の安定供給

現在の日本が原発再稼働を筆頭に、電力の安定供給に向けた取り組みを加速させなければならないという理由は、いくつかあるのですが、その最たるもののひとつは、現在の日本で電力不足が常態化しているという点にあります。

電気事業連合会のウェブサイトに掲載されている『電源別発受電電力量の推移』というグラフによると、東日本大震災が発生する前年の2010年に1兆1495億kWhだった年間発電電力量は、2019年には1兆247kWhへと約1割減少。

とくに原子力発電のシェアは、2010年時点で25%を占めていたものが、2014年にはいったんゼロ%にまで落ち込み、その後原発再稼働が徐々に進んでいるとはいえ、2019年時点で依然として6%にとどまっているという状況です。

小林鷹之氏のツイート

こうしたなか、経済安全保障担当大臣で内閣府特命担当大臣(科学技術・宇宙政策)を兼務している小林鷹之氏(※財務省出身)が昨日、こんな趣旨のツイートを発信しています。

  • 再生可能エネルギーは天候にも左右され、稼働時でも火力による調整が必要
  • 太陽光パネルも風力発電設備もほとんど外国頼み
  • 残念ながら再生可能ねるぎーは安定的な動力源とはいえない
  • 重要なのは原子力、火力、再生エネルギー等の電力源の太陽化とバランス
  • 電力の安価で安定的な供給は暮らしを守り、産業競争力を高めるために必須

個人的に、この小林氏のツイートには、ほぼ丸ごと同意したいと思います。せっかくの円安を生かすためには、日本国内で電力が安定供給されていなければならないからです。

そして、岸田文雄内閣の閣内にいる小林氏がこのようなツイートを発信したということは、当然、小林氏が今後、岸田首相を含め、岸田内閣の閣僚らに対してこれを強く主張する責任がある、という意味でもあります。ツイートしてガス抜きしておしまい、というわけにはいきません。小林大臣の「ご活躍」に期待したいところです。

ロシアへのエネルギー依存の危険性

ただ、電力の安定供給を目的とした原発再稼働などが必要であるという理由は、それだけではありません。

ロシアによるウクライナに対する違法で不当な侵略戦争が続いているなか、ロシアの戦争遂行能力を低下させるために、可能な限り、ロシアからのエネルギー輸入を減らさなければならない、という点もあります。

これに加えてロシアにエネルギーを依存しているという状況が続けば、ロシアがそれを逆手に取り、私たち西側諸国をエネルギー安保の側面から脅してくる可能性があります。

こうしたなか、予想通りというべきでしょうか、「サハリンⅡ」プロジェクトをめぐる「国営化」という話題が出てきています。

Russia will replace Sakhalin-2 project operator with new firm

―――2022/07/01 6:03付 ロイターより

ロイターは昨日、ロシアのウラジミル・プーチン大統領がガスプロジェクトの国際的な開発コンソーシアムであるサハリン・エネルギー・インベストメント社のすべての権利・義務を包括的に継承する会社を設立することなどを柱とした大統領令に署名した、と報じました。

ロイターによると、現在のサハリン・エネルギー・インベストメント社は全株式の50%相当額プラス1株をロシアのガスプロムが出資しているほか、シェル(27.5%マイナス1株)、三井物産が12.5%、三菱商事が10%を出資しています。

また、問題の大統領令自体は5ページで、ガスプロムについては同社の株式を継続保有することができるとしつつも、外国株主については「株主としての権利を残すかどうかはロシア政府の今後の決定に委ねられ」、「今後1ヵ月以内に新会社への出資をロシア政府に申請することができる」、などと記載されているのだそうです。

もはやなりふり構わぬ無法国家

ただ、その申請をしたとしても、新会社への出資がすんなり認められるとは限りません。

ロイターの記事によれば、出資を認めるかどうかの決定権はロシア政府にあるとしつつ、新会社への出資が認められなかった場合、ロシア政府は旧会社の外国人株主の株式持分を(勝手に)売却し、売却代金は別段預金口座に振り込む、などと記載されているのです。

なんだか順調に無法国家の様相を呈してきました。

いや、違法にウクライナへの侵略戦争を開始した時点で、すでにロシアは立派な無法国家なのですが、ここにきて、なりふり構わなくなってきた感があります。

もちろん、三井物産や三菱商事にとっても、出資を決めた時点で自分たちの企業がこのような「無法国家」とお付き合いしているという点を理解しているのだとは思いますが、問題はこのような相手国にエネルギーを依存することのリスクでしょう。

もはや「政府の責任」

ではなぜ、両社がこの事業から撤退しなかったのでしょうか。

これに関しては、なかば政府の責任ではないかとも思えてなりません。

実際、萩生田光一経産相は5月に、「どけと言われてもどかない」と述べたとされています。5月31日付・ロイター『「サハリン2」、どけと言われてもどかない=萩生田経産相』によれば、参院予算委員会で鈴木宗男参議院議員(日本維新の会)の質問に対し、萩生田氏は次のように答えたのだとか。

サハリン2は、先人が苦労して獲得した権益。地主はロシアかもしれないが、借地権や(液化、輸送)プラントは日本政府や日本企業が保有している」。

しかし、相手はれっきとした無法国家ですし、国際法を守らないことで有名です。権益を「先人が苦労して獲得した」ことは事実ですが、それと同時に民間企業の経営判断に政府が口出しをするというのもおかしな話でしょう。

いずれにせよ、萩生田経産相自身が黒海の場で「サハリン2の権益を守る」と述べたのであれば、これは民間企業の話ではなく、やはり政府次元の話であり、エネルギー安全保障の観点から総合的に取り組むべき「政府の課題」です。

新宿会計士:

View Comments (17)

  • まずは「このような大統領令に署名されたこと」に遺憾砲
    次に"新会社"に権益が移管された旨判明時点で遺憾砲追撃ち
    然る後実害(係るヒトモノカネの動きに変動)出た時点で邦人他引き揚げ可能な設備関連含め撤収、完了後ロシア対外資産から損金遺失利益諸経費差押回収
    …ロシア敗戦、戦後処理として千島列島及び南樺太を返還させ、ロシア対外資産差押分より一部分返還と引き換えに北樺太を接収

  • あの時はしょうがなかったかもしれませんが、アメリカなど西側諸国の不信を買ってまで権益を手放さずにいたのに、結果的に接収されることになるなら、それは判断ミスであり、政府の失敗と呼んでもいいのではないかと思う。
    結果論で批判するのはいかがなものか、と言う考えもあると思いますが、その辺の判断も先送り岸田リスクなのではないかと思います。

  • 別にいいんじゃないですか。
    ならば、こちらはロシアの円資産から企業に弁済してあげたら。

  • 夕刊スポーツ紙見出しを予想してみました
     「首相おひざ元選挙区でガス欠発生。票が逃げた」
     「決断と実行のスローガンは本当に火を噴くのか」

  • 広島は大パニックになるかもしれません。広島ガスは半分をサハリン2からの天然ガスに頼ってますから。
    オール電化の家でない限り、広島ではお風呂も料理もできませんから生活が成り立たなくなります。広島風お好み焼きも焼けませんから、外食産業は壊滅です。

    次の衆院選ではガチで落選するかもしれません。
    岸田氏が。

    • そりゃ たいへんだあ (o_ _)o彡
      広島だけでなく国の借金多い日本は
      対外債権債務世界一でもなぜか崩壊ダア~(笑)
      これは急いで、実質G8とかの
      韓国の大統領代って誰だっけ?
      BTSさんだっけ?に
      助けてもらわなきゃ!
      鳩ポッポさんにもお願いしましょう!

      ・・・・・・・となること
      狙っての韓流夕刊紙の
      「首相おひざ元選挙区でガス欠発生・・」?
      とかの記事だったんですね (^^):

  •  ツイ趣旨箇条書き4番目の[太陽化]→多様化でしょうか?全文読めば問題ないわけですが、太陽光発電化、と取り違えると主張が真逆になってしまいますので、修正した方が宜しいのでは。

  • こんな事をしたら凍結しているロシアのお金没収しますよとマスゴミにポロッともらす。
    もしくはもしかしたら本当にNATOに入るかもーとマスゴミにポロッともらす。
    このくらいの事は即日やってほしい。

  • うーん、難しいところですね。
    ロシアとしては、対ロシア包囲網のなかでは、まだしも日本が弱い環と見て、揺さぶりをかけてきているのでしょう。対中包囲網における韓国のようなどっちつかずの対応を、ここでする訳にはいかない。
    かといって、徴用工問題での対韓外交のように、それならこちらもやり返すぞ、と拳を振り上げるのも、エスカレートするばかりのような気がする。
    とりあえず遺憾砲くらいしか、思いあたりません。
    政府が「サハリン2の権益維持」を公表した時に、なにも言わなかった人たちが、今頃になって「それならあの時放棄すべきだった」とか批判するのは、ちょっと違うな、という気がします。(政治は結果責任であるとの指摘には同意しますが)

    • 遺憾砲だけでは外交能力ゼロとなってしまいます。
      ヤクザが服を着ているような力だけを信奉するプーチンですが、先ずは法律戦としてWTOに提訴することでしょう。
      次はサハリン油田からの原油・ガス購入者にセカンダリーサンクションをかける方法をG7と協議して実施。(船舶保険を引き受けないとか)

      最期は、外為法を使った輸出入管理強化。

      間違っても、抜け駆けしそうな韓国、中国と協議はすべきではない。
      インドとは協議を進めて”上手く行けば”対ロ制裁の輪に加えるくらいの外交力を見せて欲しいものです。

  • まあWW2での姑息な戦勝国
    紛れ込みだけで大国ヅラをシてきた
    ロシアさんですが、
    ご自慢の兵器はポンコツやられメカ状態で
    そもそもソ連崩壊後の今
    GDPで米国の20分の1日本の5分の1の
    本来発展途上国レベルにおちた小国です。

    なんか、ピヨピヨ大帝がなんかとか
    プーchンが言っているのはお笑いなのですが
    その思い上がりで蛮行に及んでしまった以上、
    アザラシの皮剥いで口銭稼いでいた
    小国モスクワ公国状態に戻ってもらいましょう。

    そのためには、こ
    れまで大国ヅラして横柄に
    日本などとの外交を
    ロシア自ら放棄してもらうほうが
    今後の敗戦国ロシアとの交渉において
    むしろやりやすいものと歓迎します。

    駐日ロシア大使ガルージン閣下とかも
    ロシアの窮状に日本国民に憐れみを乞うなら
    まだ救いがありますが、
    ナチスレッテル貼りをして
    日本の国民感情を逆なでするようなら
    容赦は入りません

    国際社会と民主主義と人権を
    敵に回して立ち回ってしまった
    敗戦国ロシアには、厳しく相応の対応で
    これまでの無駄におかしなロシアに有利な
    交渉は通用しないことをしっかりご認識
    いただきましょう。

  • 元々は悪い話じゃなかったのに
    プーちゃんが全部ぶっ壊しちゃいました
    しかし中国もロシアも順調に朝鮮化してますね

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