韓国大統領室の発表によると、スペインを訪問中の岸田文雄首相は現地時間の28日、フェリペ6世が主催する晩餐会で韓国の尹錫悦(いん・しゃくえつ)大統領と「初めて対面」し、「3~4分ほど言葉を交わした」のだそうです。これに関連し、磯崎仁彦官房副長官は岸田首相が「非常に厳しい日韓関係を健全な関係に戻すために尽力してほしい」と述べた、と明らかにしたのだそうですが、そのメッセージが相手に伝わっているかどうかはまた別問題でしょう。
すでに10回の首脳会談を開催
岸田文雄首相は現在、G7とNATO関連会合に参加するために欧州を訪問しています。
外務省『岸田総理大臣のG7エルマウ・サミット及びNATO首脳会合出席(令和4年6月26日~6月30日)』のページで確認すると、現時点で岸田首相はイタリアを除くすべてのG7諸国の首脳との二国間会談を含め、すでに10回の首脳会談を開催しています。
ことに、オーラフ・ショルツ独首相との会談では、「『自由で開かれたインド太平洋(FOIP)』の実現に向けて協力していくことを確認」するなどの大きな成果を上げています。このあたり、FOIPと距離を置いていたアンゲラ・メルケル前首相とのスタンスの違いもあるのかもしれません。
いずれにせよ、多国の首脳が集まる場では、二国間の首脳会談を効率的に行うには大変良い機会です。
しかも、これら10ヵ国・地域の首脳との会談では、FOIPや基本的価値などの用語も飛び出すなど、まさに安倍晋三総理が敷いた「価値外交」が全面的に開花している格好となりました。
とくにロシアによる違法なウクライナ侵略のさなかに行われた今回のG7・NATO首脳会合では、日本はインド太平洋地域における自由・民主主義国として、豪州と並んでかなりの存在感を示していることは間違いないでしょう。
日韓首脳の「遭遇」
その一方で、まさか、日韓首脳が「ちょっと会って対話しただけ」なのに、こんなに大きく報じることなのか、などと思ってしまいます。
韓国メディア『聯合ニュース』(日本語版)によると、スペイン・マドリードで現地時間28日に開かれた、同国の国王・フェリペ6世が主催する晩餐会で、岸田文雄首相と尹錫悦(いん・しゃくえつ)韓国大統領が「初めて対面」したのだそうです。
尹大統領がマドリードで岸田首相と初対面 「韓日関係を未来志向に」
―――2022.06.29 10:34付 聯合ニュース日本語版より
そのうえで聯合ニュースは「韓国大統領室」の話として、両首脳が「3~4分ほど言葉を交わした」として、次のような趣旨のことを報じています。
- 岸田首相が尹錫悦氏に大統領就任と今月1日の統一地方選の勝利を祝った
- 尹錫悦氏は岸田首相に7月10日の参院選で「良い結果」を得らえるよう願っていると応じた
- 尹錫悦氏は「参院選後に、韓日間の懸案を速やかに解決して未来志向に進める考えを持っている」と述べた
- 岸田首相は謝意を示し、より健全な両国関係に発展させるため努力しようと呼び掛けた。
…。
そのうえで聯合ニュースは、今回のNATO首脳会合に合わせたマドリードでの日韓首脳会談は「開かれない見通し」、「予想されていたりょう首脳の略式会談も行われないことになった」としたうえで、「会談の白紙化」は「選挙を控え、政治的に敏感な問題を負担に感じた日本側の雰囲気も一因」、などとしています。
この手の「日本が参院選前だから日韓首脳会談を開催しづらい状況にある」、といった分析は、とくに韓国メディアからは頻繁に出てくるものではありますが、正直、日本が選挙であろうがなかろうが、日韓諸懸案をめぐる具体的解決策が韓国側から何も出てきていない状況で、日韓首脳会談を行う環境ではありません。
参考:フェリペ6世主催の晩餐会
(【出所】外務省)
その一方で、韓国メディア『中央日報』(日本語版)には、「今回の出会いは韓日首脳会談や略式会合が事実上実現しなかった中でなされたもので、両首脳が『遭遇』の形式で対話をしたとみられる」と述べています。
尹大統領と岸田首相、マドリードで会合の代わりに「遭遇」…「韓日未来志向的に」
―――2022.06.29 11:31付 中央日報日本語版より
こちらの記事では、「岸田首相が尹大統領に近づいて声をかけ」、などと記載されていますが、ただ、その情報源はあくまでも「韓国大統領室によると」、です。
「日本の側から歩み寄ってきた」という情報をわざわざ韓国大統領室が流すというのも、なんだかよくわかりません。いずれにせよ、「日韓首脳会談が行われない」という事実に照らせば、「どちらから近づいた」のかについては大して重要な情報ではないのですが…。
磯崎副長官「非常に厳しい日韓関係を健全に戻すため尽力を」
こうしたなか、日本の時事通信もこれについて、(スペイン発ではなく)「ソウル発」のこんな記事を配信しています。
参院選後に懸案早期解決 韓国の尹大統領、岸田首相と対話
―――2022年06月29日12時18分付 時事通信より
時事通信も先ほどの聯合ニュースの記事と同様、「韓国大統領府が明らかにした」として、尹錫悦氏が「参院選後、韓日間の懸案を早期に解決し、未来志向に進んでいく考えを持っている」と伝えた、などと報じています。
また、時事通信によれば磯崎仁彦官房副長官が29日の記者会見で、日韓首脳が「自然な形で出会い、短時間の簡単なあいさつを交わした」としたうえで、岸田首相が「非常に厳しい日韓関係を健全な関係に戻すために尽力してほしい」と述べたと明らかにしたのだそうです。
岸田首相のこの発言自体は、菅義偉総理の「日韓関係を健全な姿に戻すためには韓国がきっかけを作らなければならない」とするものと比べ、表現自体は弱いものの、内容としては整合しています。
つまり、「未来志向」云々という日本側の一貫したメッセージなのですが、これが韓国側に伝わっているかどうかはまったく別問題、といったところでしょう。
もっとも、今回のG7・NATO首脳会合のサイドラインとしての二国間会談を眺めていると、これらの会談では「基本的価値の共有」「自由で開かれたインド太平洋の推進」といった発言が目立ちます。
今回、日韓首脳会談が見送りとなった大きな要因も、もしかすると岸田首相が現在の韓国とはこうした「前向きな協力関係」が期待できないと考えているからなのかもしれません(どうでもよいのですが、尹錫悦氏がNATOの場にいること自体、場違いではないかとの気もします)。
また、時間をかけてわざわざスペインまで出かける以上、すぐ隣国の韓国との首脳会談を見送り、その分の時間をさまざまな国の首脳との会談に費やすというのは、考えようによっては賢明な判断といえるかもしれない、などと思う次第です。
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日韓首脳が挨拶を交わしたとか、岸田首相が「非常に厳しい日韓関係を健全な関係に戻すために尽力してほしい」と述べたということですが、岸田首相は、日本語を使ったのでしょうか?それとも英語?
日本と韓国の正常な状態とはなんでしょう。
韓国は日本に、単に自称慰安婦や自称徴用工のことだけでなく、いろいろな嫌がらせをしてきたし、し続けているのが現実の状態です。
また韓国の軍備は日本に向けたものであることは公然の秘密です。
これが日本と韓国の「正常」な状態ということですから、一般的な正常化は、たまたまそうなれば良いですが、努力してするものでないでしょう。
アメリカにも韓国にもはっきりそういうべきだと思います。
韓国政府によると、「岸田首相が尹大統領に(ともに)改善に向けて努力しよう=岸田がヤリマス」、日本政府によると、「岸田首相が尹大統領に改善に尽力してほしい=尹がヤリマス」と言ったということです。ねじれの位置のままですね(笑)。
岸田さんのごく短い挨拶のポイントは次の2つです。短くてもよく練られています。
(1)健全な関係に戻す
「関係を改善する」と言わないところがミソです。日本は韓国との関係を改善する意思は喪失しています。「健全な関係」とは韓国が国際合意を守ることを指します。健全な関係にない国と関係を改善することなどできません。
(2)尽力いただきたい
宿題をしろ、と言っています。「共に努力」と言わないところがミソです。韓国が何とかしろ、と言うことです。日本は譲歩してまで問題を解決する意思はないと言っています。譲歩したら問題はさらに大きくなって、未来永劫、キリがなくなります。
韓国とは日本は他の国に対するような健全な関係をただの一度も持ったことが無いので戻しようがないですよね。
韓国にとっての健全な日韓関係は道徳的優位にある韓国が好きな時に謝罪を受け贖罪として経済支援を受ける常態でしょうから国交樹立後第二次安倍政権前まであり続けた常態でしょうけど。
何の目的で付きまとうのかね。気が知れないよ。
3,4分の立ち話で記事のような、そんなに沢山の内容の話が出来るものでしょうか。初対面ならそれなりの外交的挨拶もせねばならないし、残り1分で機関銃トーク且つ通訳を介さないで まくし立てないと無理すよ。
そこでバースト通信ですよww
フェリペ6世主催の晩餐会に関する外務省発表から抜粋。
岸田総理大臣は、NATO首脳会合に出席した多くの首脳等と親睦を深めました。
ズサナ・チャプトヴァー・スロバキア大統領とも短時間挨拶を交わしました。(内容略)
アルバニージー豪州首相との間でも短時間挨拶を交わしました。(内容略)
尹錫悦(ユン・ソンニョル)韓国大統領との間では、
ご く 短 時 間、簡 単 な 挨 拶 を
交わしました。岸田総理からは、非常に厳しい日韓関係を健全な関係に戻すために尽力いただきたい旨述べました。
この通り述べたのだとすれば、それなりに評価したいと思います。
私はこの通りに尹氏に述べたのか、額面通りには信じることは出来ません。
先日の外相コメントもそうですが、上記にはまだ英語版はありませんので。
僅か数分の立ち話に日本のマスコミは大騒ぎです。
アホでは無いでしょうか?
何がそんなに嬉しいのでしょうか?
新聞社や放送局など多くの資源を使ってどうでも良いことに大騒ぎしている日経やNHKなどを始めとするこの国のマスコミには軽蔑しかありません。
ウクライナでは絶望的な抵抗が続いています。
アメリカやイギリスなどはこの責任をとれるのでしょうか?
日本のマスコミを見ていると余りの底の浅さに呆然としてしまいます。
反社勢力なK国を全力で応援するのが「マスゴミ」たる所以です。
台湾侵攻や日本侵攻をサイレントのみならず、恐ロシア同様実際の「武力」行使を企むC国を応援するのも「マスゴミ」です。
ネット社会においては、時代遅れになりつつある「マスゴミ」です。
もはや、反社勢力なK国同様「丁寧な無視」が適切ではないかと・・・
スペインってまだ王様いたんだ
第二次世界大戦の責任を取って王制廃止したのだと思っていた
日本も本来ならば天皇制廃止する流れだったわけだし
一旦は廃止したんでしょう。
で、フランコ総統が死んだときの遺言で、後継に王子を指名したとか、しなかったとか・・・