岸田首相がドイツで原発再稼働に向けた審査の迅速化にコミットしました。昨今の電力不足という状況に照らすなら、安全性が確認され、地元の理解が得られた原発を迅速に再稼働するというのは、当たり前の話です。ただ、それ以上に政府が取り組まねばならないのは、民主党政権の負の遺産である再生可能エネルギー買取制度などの見直しに加え、電力の安定供給に向けたロードマップの策定ではないでしょうか。
目次
岸田首相の「月額数十円の節電ポイント」
最近の岸田文雄首相といえば、「節電ポイント」で知られるようになった人物でもあります。
今夏に電力不足が見込まれるなか、節電に協力した家庭にポイントを付与するなどを通じて節電を促し、もって電力不足を乗り切ろうとする構想ですが、その「節電ポイント」が260kWhのモデル世帯で「月額数十円相当」に過ぎないとの報道もあり、SNSを中心に強い反発が生じました。
その後も「ポイント制度に参加したら2000円相当のポイントを付与する」、「節電に協力した家庭については月額電気代の1~2割を負担する」、といった観測報道なども出ているのですが、やはりその決定打といえば、「ポイント制度自体が7月の電力不足に間に合わない見込み」、とするものでしょう。
『「節電ポイント7月開始できず」、見直すのが筋では?』でも紹介したとおり、萩生田光一経産相はこの節電ポイント制度については「7月中には開始できず、8月にズレ込む」との見方を示したのだそうです。
肝心のポイント制度自体が7月の電力不足に間に合わないのだそうです。産経ニュースによると萩生田光一経産相は本日、節電ポイント制度の開始が8月にずれ込むとの認識を示したのだそうですが、もしもそれが夏場の電力不足に間に合わないのなら、そんな制度などやめて、電力供給能力の抜本的な改善に舵を切るのが筋ではないでしょうか。節電ポイントで電力を生み出すことはできない『ポイントで電力は生まれない:いまこそ電力安定供給を』あたりで議論したとおり、基本的に「ポイント還元」、「節電要請」では現在の日本の電力不足と... 「節電ポイント7月開始できず」、見直すのが筋では? - 新宿会計士の政治経済評論 |
政府がなすべきは電力安定供給に向けたロードマップ策定
まったく呆れてしまう話です。
正直、政府が今すぐに取り組まねばならないのは、節電ポイントという「その場しのぎ」の対策ではなく、まずは電力の安定供給に向けたロードマップの策定であり、そのロードマップから逆算して電力不足が見込まれる時期を特定したうえで、初めて「節電協力要請」というものが出てくるのが筋でしょう。
また、モデル世帯に年1万円を超える負担を押し付けている、民主党政権の「負の遺産」である再生可能エネルギー固定買取制度に加え、電気自動車(EV)への補助金の在り方など、見直すべき制度はいくらでもありますし、これに加えて社会全体における「環境」の考え方を整理していかねばなりません。
こうした努力もなしに、ただ漠然と、「夏場(7月)と冬場に電力不足が見込まれる」、「月額数十円のポイントを付与するから節電に協力してくれ」、などと述べているにすぎず、これだと国民が素直に節電に協力するというのは、なかなか考え辛いところです。
さらにいえば、下手に節電要請に応じようとして夏の暑い時期に空調を切るというのは、非常に危険な行為でもあります。
もちろん、節電が必要だという政府の言い分も理解できなくはないのですが、わが国の屋台骨を支えている重要な産業、あるいは一般家庭に節電要請をするのであれば、街のパチンコ屋、NHKや民放テレビ局などが電力をガンガン使用しているという状況を放置するというのも、何かと理解に苦しむ点でしょう。
岸田首相「この夏は無理に節電せずクーラー使い上手に乗り越えて」
こうしたなか、ドイツを訪問中の岸田文雄首相は現地時間の28日、興味深いことを発現しました。
G7エルマウ・サミット出席についての内外記者会見
―――2022/06/28付 首相官邸HPより
岸田首相の発言部分は文字起こしして5000文字近くにも達するわりに、「いまひとつ心に響かない」、という個人的な感想についてはとりあえず脇に置くとしましょう。岸田首相は現在の電力不足について、次のように述べました。
「電力については、まずは供給力の確保が重要です。ここ数日、東京電力エリアにおいて、需給ひっ迫注意報が出ましたが、政府として、今後、2つの火力発電所の再稼働を確保するなど、この夏の供給力の確保に万全を期してまいります。熱中症も懸念されるこの夏は、無理な節電をせず、クーラーを上手に使って乗り越えていただきたいと思います」。
6月21日に開かれた『物価・賃金・生活総合対策本部』で「節電の重要性」に言及した張本人が「無理な節電をせず、クーラーを使って上手に乗り切れ」とは、なかなかに興味深い発言です。この部分だけを読むと、岸田首相は「前言撤回」したようにも見受けられるからです。
そのうえで、岸田首相は次のようにも述べました。
「こうした供給力確保に向けた努力を継続しつつ、電力需給逼迫と電気料金高騰の両方に効果のある新たな枠組みを構築し、電気代負担を軽減していきます」。
くどいようですが、電気代負担を軽減するなら再生エネ賦課金の徴収中止がもっとも手っ取り早いです。また、食品などを含めた物価高に対応するなら、生活必需品全般に対し、消費税に「ゼロ%の軽減税率」の区分を設けるのが良いのではないでしょうか。
原発再稼働に向けた審査の迅速化
その一方で、記者との質疑応答のセッションでは、ブルームバーグのイザベル・レイノルズ記者から、石炭火力発電所の再稼働の可能性と、その場合の日本や世界が掲げる「社会の脱炭素化」という目標への影響についての質問があったのですが、これに岸田首相はこう答えました。
「まず電力については、供給力の確保がまずは重要であり、政府としては、既に2つの火力発電所の再稼働を確保するなど、供給力の確保に万全を期しているところですが、その御指摘の既存の石炭火力発電の活用も含め、引き続き、安定供給の確保に万全を尽くしていきたいと考えています<攻略>」。
現時点では残念ながら、「2030年度の46%削減/2050年のカーボンニュートラル達成」という目標については降ろすことができないという事情はありますが、まずは火力発電所の再稼働が電力不足への対応としては最も現実的です。
また、この質疑に続き、産経新聞の田村記者から「電力需給の逼迫を受け、原発の早期の再稼働に向けて審査の迅速化などの対応を考えているのか」について尋ねられ、これについては次のように回答しました。
「原子力発電所については、政府の方針として新規制基準に基づいて安全が確保されること、これが大前提であり、そしてその上で地元の理解を得られた原子力発電所の再稼働を進めていく。こうした形で供給力の確保に向けて最大限原子力を活用していく、これが基本的な方針です。その際に、原子力規制委員会において、過去の審査における主要論点の公表などによる事業者の予見性の向上、あるいは審査官の機動的配置など、審査の迅速化の取組、これは着実に実施していく方針です。原子力については今言った方針に基づいて最大限の活用を行い、供給力の確保に資する取組を進めていく、こうした方針で臨んでいきたいと思っています」。
ダラダラと長ったらしい答えですが、要するに「原子力規制委員会の審査を迅速化する」、という意味でしょう(※そうならそうと、「安全性を確認するための審査を迅速化する」「そのうえで地元の理解が得られれば速やかに再稼働する」、などと答えれば済む話だとは思いますが…)。
いずれにせよ、政府の原発再稼働に向けた取り組みについてはさらに加速していただきたいところです。
ただ、それ以上に政府が取り組まねばならないのは、民主党政権の負の遺産である再生可能エネルギー買取制度などの見直しに加え、電力の安定供給に向けたロードマップの策定ではないでしょうか。
View Comments (20)
>「原子力発電所については、政府の方針として・・・
4月に言ったことを繰り返しているだけですね。
「非効率なところは改善します。それ以外は変えません。」
経産省の方針は厳しい需給の中「ギリギリを攻める」です。
構造的な問題に手をつけないんでしょうかね。
野村総研の「TV消せばエアコンの1.7倍節電」報告
https://www.news-postseven.com/archives/20110810_28053.html?DETAIL
立憲が、「それはいい考えだ」と言ってくれないかな。
直観的に「それは嘘やろ?」
と感じて調べたら10年前のレポートで、しかもバカでかいTVが基準
TV憎しのミスリードに見えてしまう。
ちなみにウチにはTV無いので節電の一手にはなりません。
私も気になって家のテレビとエアコンの消費電力調べてみました。
テレビは50インチ液晶で144W。
エアコンは20畳用。冷房は175W~3050W。
ミスリードですね。
液晶テレビ、最近は42-65インチなので150-200Wh。2.2kWで木造6畳向け(断熱性次第でリビングも可)のエアコンでも最大600Wh。実消費電力は冷暖房W数の3−5分の1。部屋が冷えて温度保つならテレビと同レベルでしょう。
冷蔵庫、エアコン、照明は生活や健康に必須。テレビ消すのが最優先でしょ。
テレビ本体を消すのももちろんですが、テレビ局が輪番停波するのがいいと思いますよ。誰も困らないし。
輪番停波ではなく、昼下がりと夜間の一斉停波が良いのでは?
一部の放送局が停波していないと。結局テレビをつける人が出る。
夜間の一斉停波は、節電以外に、若干の少子化対策にもなるカモ。
電力供給に余裕のある夜間に節電しても意味がない様に思うカモ知れないが、そんな事はない。
揚水発電所が動かせるし、昼下がりに火力発電所が増排出した炭酸ガスを、夜間の減排出で相殺できる。
1974年のオイルショック時は停波していたそうですね。
詳しい人がいれば、教えてください。
今回の参議院選挙で、野党は、この夏のクーラー使用問題と、電力確保問題で何と言ってますか。
(または、有権者に、どう言っていると思われていますか)
ハッキリ、「電力自由化は失敗であった。見直す」と言えばいいんです。
エネルギーを輸入に頼る日本国のエネルギー政策を今一度見直すべきと思います。
太陽光も風力も自給できるエネルギーですが、その実態も見えてきたと思うので今が見直しのチャンス。
仰る様に、電力安定供給に向けたあるべき電力供給全体の仕組みを構築すべきと思います。
そこでエネルギーシフトの為に炭素税が必要ならそれも良し。
上辺だけの再生エネルギー政策はもうやめるべきと思います。
他人が考えた施策だろうがお構いなしに「キシダなんちゃら」と命名するのがお好きなようだし、この節電ポイントのことを「キシダポイント」と命名すればいいんじゃないかな?
節電ポイントの実施に反対している人でも、キシダポイントと命名すること自体には反対しないと思いますよw
2012年の古い記事です。首相は野田佳彦氏。
大飯原発再稼働、「最終的には私の責任で判断」=首相
https://www.reuters.com/article/t9e8go03e-kanden-noda-idJPTJE84T00820120530
>野田政権が大飯3、4号の再稼働は妥当と判断した翌日、枝野幸男経済産業相が福井県の西川一誠知事を訪ね、再稼働を了解するよう要請。
規制庁ができる前だし、関西の自治体から申し入れがあったりと、今とは状況の違うところはありますが、これをやったんですよね。思い出しました。政治ショー化もしてましたが。
自民党政権がやったら、蜂の巣つついたような騒ぎになったんだろうか。
安全確認済みで稼働していない原発立地の自治体には、ステルスでこういう働きかけをしているんでしょうかねぇ。
岸田のちぐはぐな発言はいつもの事なので置いといて、問題は会計士様の仰る通り「電力の安定供給に向けたロードマップの策定」でしょう。
仮に今年を乗り切ったとしても、来年、再来年と、また同じように「節電お願いします」って要請するの?って話です。まったく冗談じゃないですよ。
要請するなら、きちんと「いつまで」と期限を区切る事は当たり前だと思います。
すぐにでも政策の過ちを認めて、ロードマップの策定に取り組むべきでしょう。
「ポイント還元で節電を訴えるのだ」
「それはいいアイデアだ、実行しよう」
というやり取りが政権内部で本当になされたらしいと知って、国民誰もが脱力感を覚えていると思います。発想の幼稚さ、実現可能性・見通しへの甘い判断、くるくる変わる抗弁を見て、これが実力とそう判断することでしょう。投票日も近いし酷暑はダメージになりそうですね。
何が何でも中華のソーラー入れたいのは2Fか?
とりあえず言ってみただけなので、まだ評価は出来ません。実際のエネルギー政策がどうなるかを見てからですね。
経産省が節電に協力しない企業に罰金などと言う噂もありますし。これ実行したら日本の産業界や国民に対する制裁でしょう。