全国の「岸田文雄ファン」の皆様には大変申し訳ないのですが、少なくとも外交・安全保障の分野に関しては、どうも「派閥の力学」と「岸田首相の政治力の限界」が見えてきてしまいました。最新版の自民党の政策パンフレットなどを読む限りにおいては、外交・安全保障が「安倍路線」に回帰しつつあるように見受けられるからです。
岸田首相の外相人事に安倍総理が「激怒」?
岸田文雄内閣における外相といえば、当初は安倍晋三・菅義偉内閣時代から外相を務めていた茂木敏充氏が留任・横滑りしていました。ただ、昨年10月の衆院選で甘利明・自民党幹事長が小選挙区で落選したため、幹事長を辞任。代わって茂木氏が外相を外れ、幹事長に就任したのです。
茂木氏の後任外相に岸田首相が選んだのは、山口3区で河村建夫・前衆議院議員を事実上の引退に追い込み、衆院に「鞍替え当選」したばかりの林芳正氏。その林氏といえば日中友好議連の会長でもあるため(※のちに辞任)、報道等によれば、安倍晋三総理あたりはこの人事にかなり怒った、などともされています。
ただ、岸田首相が「独自色」を出そうとしたのは、結局はこの人事だけだったのかもしれません。
自民党が公表した『政治は国民のもの 自民党令和4年政策パンフレット』【※PDFファイル】と題する資料を読んでいて気づいたのですが、とくに外交・安全保障の分野に関しては、明らかに「安倍路線」に回帰しているフシがあるからです。
「決断と実行」って…
全国の「岸田文雄ファン」(?)の皆様には大変申し訳ないのですが、やはり岸田首相自身が自民党内の「少数派閥」の出身であり、どうしても最大派閥である安倍派に加え、茂木派や麻生派などの顔色を窺わなければならないという実態が、少しずつ見えてきます。
全部で12ページから構成されるこのパンフレット、2枚目には、岸田首相のこんな力強いメッセージが掲載されています。
「決断と実行。私たち自民党は、皆さんの暮らしを必ず守り抜きます。自由民主党総裁 岸田文雄」
このあたり、「決断」も「実行」も、岸田首相が述べると「何かの冗談ではないか」と疑念を抱く方も多いかもしれませんが、とりあえず先に進みましょう。
パンフレットの3枚目の『日本を守る。』『1.毅然とした外交・安全保障で“日本”を守る』と題したページを読むと、なかなかに驚きます。『国際社会の平和と安定を実現する』、『国防力を抜本的に強化する』、『海上保安体制を強化し、海洋秩序を保つ』、などとあるからです。
あれ?安倍路線そのものでは?
たとえば項目のうちの『国際社会の平和と安定を実現する』については、こんな具合です
- ロシアに対し厳しい制裁措置を講じるとともに、ウクライナおよび周辺国への人道 復興支援を強化します。
- 来年のG7議長国として、普遍的価値に基づく国際秩序の維持・発展に主導的役割を果たします。また、時代に即した国際協力を推進します。
- 自由で公正な経済秩序の構築、人権尊重を後押しする国際協調・指針策定・輸出管理の検討等を進めます。
- ODAを拡充し、国際保健や経済安全保障等を戦略的・機動的に推進します。
- 「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向け、米、豪、印、欧州、ASEAN、太平洋島嶼国、台湾等との連携を強化します。
- 実効性ある新たな国際秩序構築と国連改革に取り組みます。
- 北朝鮮に対し、全ての拉致被害者の即時一括帰国を求め、核・ミサイルの完全な放棄を 迫ります。
「連携すべき相手」にさりげなく「台湾」が含まれていて、「韓国」が抜けているのにも驚きますが、それだけではありません。「自由で開かれたインド太平洋」は、まさに麻生太郎、安倍晋三、菅義偉の各総理が推進してきた路線そのものでもあります。
また、『国防力を抜本的に強化する』のコーナーでは、こんな記述もあります。
- NATO諸国の国防予算の対GDP比目標(2%以上)も念頭に、真に必要な防衛関係費を積み上げ、来年度から5年以内に、防衛力の抜本的強化に必要な予算水準の達成を目指します。
このあたり、『骨太方針に見る安倍総理「院政」』でも「明らかに安倍総理の意向が強く働いている」と指摘しました。岸田首相は外相人事で安倍総理の意向を無視するなど、「独自色」を出すのかと思っていたのですが、少なくともこのパンフレットの3枚目を見る限りは、強い「安倍路線」がうかがえます。
岸田首相が掲げる「新しい資本主義」とやらはどこに行ったのか。政府が昨日閣議決定した「骨太の方針2022」を読むと、「アベノミクスの3本矢」の記述がみられるなど、安倍政権が復活したかにも見えます。とりあえず岸田首相としても、安倍派、茂木派、麻生派などに配慮せざるを得ないようであることだけは間違いありません。細かい文字がびっしり!骨太方針2022いかにも「自民党らしい」と思える事例がありました。昨日、政府は「骨太の方針2022」を閣議決定しました。経済財政運営と改革の基本方針2022―――2022/06/07付 内閣府HPよ... 骨太方針に見る安倍総理「院政」 - 新宿会計士の政治経済評論 |
まさに、派閥の力学、といったところでしょうか。
「新しい資本主義」もグダグダ…
次に注目したいのは、パンフレットの7枚目以降の『未来を創る。』の箇所です。
いちおう、岸田首相にとっての「肝煎り政策」である『新しい資本主義』は項目のタイトルにもなっているほか、パンフレットの7枚目でコラム的にも掲載されているのですが、「新しい資本主義」と銘打っているわりには、「トーンダウン」が目立ちます。「四半期開示廃止」も「株主資本主義からの脱却」も出てこないからです。
また、例の「脱炭素」「太陽光発電の推進」などについては、パンフレットの8枚目でこんな記述が出てきます。
“脱炭素”を成長の起爆剤にする
- エネルギー・物資の安定供給のため、内外の資源開発や調達・設備投資支援等と、再生可能エネルギーの最大限の導入、安全が確認された原子力の最大限の活用を図ります。
いちおう、「再生可能エネルギーの推進」という目標については維持されているものの、しれっと「原子力の活用」がここに顔を出しています。このあたり、あと一歩踏み込んで「脱・再生可能エネルギー」、「原子力の全面的な復活と増強」を織り込んでほしいところですが、残念ながら現状ではこれが限界なのでしょう。
また、同じく8ページ目には、『財政と金融で成長を支える』とあり、こんなことが記載されています。
- 経済成長を実現し、財政の健全化を進め、将来の安心を築きます。
この「財政の健全化」は、前回の衆院選のパンフレットには記載されていなかったものですが、ただ、それと同時に「プライマリ・バランスの均衡」といった具体的な健全化目標には触れられていません。「財政健全化」は麻生派あたりがねじ込んだのかもしれません。
さらには、パンフレットの12枚目では、引き続き、「憲法改正」が明確に謳われました。
改憲は自民党の結党の理念だったはずですし、これに言及しないならば、自民党は存在意義のひとつを自ら否定するようなものとなってしまいますので、引き続き、改憲については強く推進していただきたいものです。
もっとも、個人的には現在の日本にとって、最優先すべき政策課題は「改憲」だけではないと考えています。
電波行政を通じてNHKの肥大化をいかに抑制していくか、「F欄大学」などの粗悪な私大を乱造する文部科学省をいかに改革していくか、あるいは「増税原理主義」の官庁・財務省をどう解体に追い込んでいくか、といった「官僚利権との闘い」も、大変に重要だと思う次第です。
いずれにせよ、自民党の政策パンフレットというものは、得てして基本的には総花的であり、具体論に乏しいものではあるのですが、そのなかでも行間を読み解いていくと、何となく岸田首相の党内における立ち位置が見えてくると思うのですが、いかがでしょうか。
View Comments (45)
>「決断と実行」って…
サムネイルを見て思ったのですが、スローガンありきで急遽画像の方を差し替えた(菅→岸田)感がアリアリですね。
岸田氏「私は決断力と実行力があります!」
・・・それがなきゃ困ります。
○○細胞は・・。みたいにならないことを願います。
聞く力はどこに行ったと思わず笑ってしまいました(笑)本来、実行と決断は聞く力とは対極に思えるのですが…
とりあえず、岸田さんという人間は聞く力もあり、決断と実行もできる最強の男、兼総理ということで理解しました(笑)
新しい資本主義を作る男ですからそれくらいかんたんなのかもしれません。
「”あった”らしい資本主義」なんてオチはご勘弁願いたいですね。
いつもながらセンス抜群です。w
そりゃ、外交・安全分野で安倍元首相を超えられません。
岸田首相の仕事というか、やり方は「みんなまとめて仲良くにね。」
ですから。
最も欧州の状況は不可解だといって、内郭解散した人よりマシですが。
現在の第一次大戦後の米国発の暗黒の木曜日に近づいている状況で
呑気にみんな仲良くなんてできません。
いかに経済の混乱を防ぎ、国家の安全(食料・軍事)を守る為に
何をすればよいかを考えないといけない状況ですから。
特に食料問題は緊急です。 第二次大戦前の人口を遥かに超えた
人口を抱えている以上、農林省が出している食料危機時の食品を
本当に食べれる人達は極く少数になります。(あの貧弱な献立さえ
過大表現です)
P.14 女性がより輝ける社会を実現する
ネット上どこかで見かけたのですが、ある人が女性社員に「女性が輝ける社会って何?」と聞いたら、「女性が出世できる社会ですよ」と即答して妙に納得したという話がありました。詰まるところ、それ。
新しい資本主義については、総裁選から9ヶ月も経過するのに、「詰まるところ、何なの?」が相変わらずわからんですね。
歴史上2回あった資本主義の転換(福祉国家と新自由主義)の3回目は、「官or民」ではなく「官and民」で、新市場開拓に官が率先して動く。で、スタートアップ支援しますと。何も新しいものが見えません。
政府のベンチャー支援などは、支援をうけると報告に忙殺されて仕事ができなくなるのでモデル企業以外誰も使わない、と聞きました。
「成果を政府が調達する」とありますが、まさか、支援した企業は必ず成果が出る前提だったりして。
「新しい資本主義なんてもう古い。早く落し所見つけて忘れたい」、なんて思ってないですよねー。
まさか、ですけど。
岸田首相の目的は、変な表現ですが「できるだけ長く首相でいたい、ひたすら首相でいたい」ということではないのかと思っています。そこには理念も悪意もありません。手段が目的に変化してしまっている典型例のような気がします。
例えば田中角栄という人物は首相になって金儲けがしたい、菅直人という人物は首相になって中韓とともに日本を壊したい・毀損したいという明確な目標があったと考えています。
そのような悪意の塊に比べればマシといえばマシなのでしょうが・・・。
「いつまでも首相でいたい」との深意を見抜いたからこそ、読売新聞や日本経済新聞社は「長期政権も夢でない」とおだてに弱い中間管理職根性をくすぐるセリフを繰り出して岸田文雄首相を支持する立場をいち早く取った。それに国民が気が付いていないとでも。
>岸田首相が「独自色」を出そうとしたのは、結局はこの人事だけだったのかもしれません。
岸田は島田防衛事務次官を退任に追い込んだ(この島田は安倍の秘書官だった)
「2年の交代は慣例」とし安倍の直接の再考説得にも応じなかったようだ。
一説には岸防衛相の後任に宏池会寺田を就任させるための布石ともされる。
岸の後任が小野寺ならともかく寺田になったら岸田と安倍は決裂することになろう。
参院選後の内閣改造に要注目だ。
今朝のフジ日曜討論。
原子力潜水艦を抑止力のためにも性能が高いものを持つべし、と維新松井が主張。
N党立花が同意し国民玉木も新技術の導入もすべし、と応じる。
岸田はこれに慎重になり公明は反対。
これが岸田が右から攻撃され左派から攻撃されない理由だ。
ちなみに核シェアについても「広島出身だから議論しない」という立場。
中北ロから国を守るには核保有しかないことすら理解できないらしい。
このように岸田単体ではお話にならない。
裏から無事に動かせるうちは必要とされるが、そうでなければ用済みとなる。
いやーねーこーゆうネトウヨサイトは。岸田首相が阿部元首相から外相として重用されていたのを知らないの?ここのブログは矢鱈岸田には厳しい癖にアベのことは絶対に批判しようとしないのね。ネトウヨのダブスタwww
“重用” それは違う! ほかに適当な置き場所
が無いので取り敢えず処遇していた、
···· が 正解。 それより
君は、岸田の 何処を持って 日本国にとって頼もしい or 素晴しい総理大臣 だと··· ! !? w。
匿名様
人物そのものの批判は意味をなさない。具体的な言動・行動・仕事の批判は大いに結構。そう思う。
サイトの批判ではなく、サイト主や投稿主のどの文言がどうダメなのか、具体的な批判すると知的好奇心を刺激され、大いにウケる人々が多いサイトだと思う。
レッテルを貼る行為は、自身の具体的論証力の欠如を示す、もしくは単なる逃げと捉えられる。
安倍元総理の批判も探せば見つけられますよ。面倒だから私は探さないけど。
このサイトでは安倍政権下で行われた増税を批判してますよ。
安倍元総理です。
やはり、日本人の名前の区別がつかない国の人なのかな。
安倍元総理を戦前の阿部信行朝鮮総督の子孫と間違えたくらいですから。
事実陳列罪で責めてるのでしょうか?
パヨチン涙目で草
ネトウヨ連呼してる時点で既に正気を疑われている事に気付かないお花畑パヨク。
こんな事してるうちは説得力無しと見做されて誰も耳を貸さない事にも気付かないの。
酷使様が降臨!都合が悪くなるとパヨクって、涙ふけよネトウヨ酷使様!
あんたには世相マンボウさんのコメントも「馬耳東風」でしょうね。
どっち道ネトウヨ連呼した時点で詰んでます。
アベガーって例外なくこんなもの。
『馬事東風』とは言っても
まともな馬さんではなくて、
『うマじみーるP』金将軍とか
韓流の人たちでしょうから、
東方はバクッたり集ったりする
対象でしかないのでしょうなあ。
いずれにしても
『ネトウヨ』レッテル貼りは
乱発されすぎて、
今や少なくともイカレ左翼や
韓流なんかではないという
むしろポジティブな意味しか
持たなくなってしまっている
というのに憐れです。
はっは。
この匿名さんのような
日本を支える多数派国民良識層に
安易な『ネトウヨレッテル貼り』
をして
ご自分たち少数そんなこんなを
誤魔化すこうしたしょもない
テンプレを書き込まれたことを
歓迎します (^^)
無理筋で
『ダブスタ?』だとか意味なく
強がっては見えますが、
小数の匿名さんのような人たちは
他国の捏造加担して日本の道を
左に西に踏み外した、
『どぶサヨ』立ち位置の
お方さんたちでその滑稽な主張は
ダブスタならぬ
『ドブすた』(=DOBU Standered)
と笑われてしまっていることを
ご認識あれ(笑)
とアドバイスして差し上げます。
何せ「ネトウヨ」はパヨクが内ゲバする時に敵対者に対する蔑称としても使われるので、もう彼ら自体定義が疎かになってるのは間違いありません。
そんな捏造語を今になっても嬉々として使う連中の脳味噌って一体・・・
阿部だのアベだの素にしても故意にしても痛々しいな。
君、外国人?
私は安倍元総理が岸田文雄を外相として「重用」していたとは全く思っていないが。
×決断と実行
〇検討と先送り
検討と先送りがこれ程しっくりくる総理も久しぶりですね。
「期限ぎりぎりまで考えた」という意味の国会発言を耳にした記憶があります。
前のめり姿勢を批判されての答弁と当方は判断しました。ぎりぎりまで決定を先延ばしにすることは、「熟慮」でなく「果断な決定」でもありません。まるで違っています。
取締役会で吊るし上げを喰らう新米ヒラトリのような国政さばきは、日本国にふさわしくないと考えます。
自民党の政策パンフレットがどうでも良いとは申しませんが、岸田首相にとっての優先順位はそう高いものではないかもしれません。
仰る通り、安倍政権時代の”政高党低”から見ると、岸田首相はかなり党内状況にも目配りしないといけない状況かと思います。そんななかで①財政再建推進本部での提言とりまとめ②島田防衛事務次官の留任阻止など、安倍元首相の逆鱗に触れそうなことも、さらっとやってのけているようにも見えます。
それもこれも、世論調査の支持率が高水準をキープできているからでしょう。安倍・菅のこわもてから、ソフトな印象に変わったためと、言われますが、さてどうでしょうか。
私は、対韓外交に比較的関心が高く(このサイトをご覧の方の多くもそうだと思います)、それについては現政権の方針を支持しております。とりわけ、先の日米会談で米国の介入懸念を巧みなセリフでシャットアウトした手腕には、感心しております(報じたのは産経だけですが)。
参院選挙が終わると、3年間国政選挙のない、政権にとっていわば”ゴールデンタイム”を迎えます。そこで何を成し遂げるか、が岸田首相の評価を、決めるのではないでしょうか。
岸田さんは総理総裁というよりは党の幹事長が適職だと思っています。
それでも……それでも……法案全部通したんじゃいw
独自性を出そうとして、空回り。んで、安倍・麻生へ泣きつき党主導の政権運営。
まぁ、これなら岸田さんでもいいんじゃない?w