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市民団体「新ニュルンベルク裁判」構想にロシアが反発

第二次世界大戦後のドイツを裁くために設置された「ニュルンベルク法廷」を、今度はロシアを裁くために設置しようとする動きが出ているようです。カナダの市民団体が国際刑事裁判所(ICC)ローマ規程やこれに関連するカナダの国内法を使い、ロシア連邦や戦争を支持したすべての市民らを犯罪者として訴えようとしている、という話題です。これに対し、ロシアの在米大使館がかみついたようです。

ニュルンベルク2.0

少し前にウクライナのメディア『インターファックス・ウクライナ』が、こんな「プレス・リリース」を出しました。

Nuremberg trials 2.0 and the collective lawsuit of the Canadians to recognize the Russian Federation as a war criminal /terroristic organization

―――2022/06/13 13:29付 interfax UKRAINE英語版より

これは、インターファックス・ウクライナがキーウで主催した、「カナダの最高裁におけるロシア連邦に対する『テロリスト/戦争犯罪者』としての集団訴訟、あるいは「ニュルンベルグ裁判2.0の開始」というトピックに関するセミナーに関するものだそうです。

セミナーではウクライナやポーランド、フィンランドなどにルーツを持ち、アルバータ州エドモントンに居住するカナダ市民のスベトラーナ・コシュカレワさんという女性が、カナダにおける「人道に対する罪と戦争犯罪に関する法律」の適用が必要だと主張した、というものです。

ちなみにこの法律は、 “the Crimes Against Humanity and War Crimes Act” を略して「CAHWCA」などとも呼ばれるのだそうです。

そして、このCAHWCAは、「国際刑事裁判所(ICC)に関するローマ規程」(ROME STATUTE OF THE INTERNATIONAL CRIMINAL COURT)に基づき、1987年の「反ナチ戦争犯罪法」に代わり、2000年に制定されたものだ、としています。

【参考】国際刑事裁判所

(【出所】the International Criminal Court)

コシュカレワさんはモントリオールの非営利法人「ラウル・ウォーレンバーグ人権センター」と共同し、ロシア系・ウクライナ系・ベラルーシ系のカナダ市民とともに、この動きを主導していると説明。

「攻撃的な戦争を開始するために」「ウクライナにおけるジェノサイドを公的に支持した市民」については、ウクライナやロシア連邦の刑法に従い、「攻撃的な戦争をおおやけに要求したこと」の罪に抵触するとして、「犯罪者として裁判にかけられるべき」と主張したのだそうです。

市民団体による動きが無意味とは言わないが…

ちなみに「ニュルンベルク裁判」は、第二次世界大戦終結後に連合国によってドイツの戦争犯罪者を裁くために設けられた法廷のことですが、これらの市民団体側は、今回の戦争を支持したロシアやウクライナの者たちをリスト化し、「ニュルンベルク2.0」として裁くべきだ、などとしているのだそうです。

また、「ニュルンベルク2.0」というウェブサイトも立ち上がっています。

現在のところはロシア語版のものしか存在していませんが、近日中に英語版も公開されるのだそうです。

この点、著者自身も個人的にロシアの現在の戦争は明らかな国際法違反だと考えていますし、また、民間人のレベルでウラジミル・プーチンらを犯罪者として刑事告発しようとする動きが出てくること自体は、心情としては十分に理解できるところではあります。

しかし、それと同時に、この「ニュルンベルク2.0」などの動きが広まったとして、ロシアに対してウクライナ戦争を終了させようとするインセンティブを生じさせるものなのかどうかに関しては疑問ですし、通常で考えるならば、ロシア政府に無視されるか、せいぜい鼻で笑われておしまいではないか、という気がしていました。

なんと、ロシアの在米大使館が反応した!

ところが、昨日、ロシアのメディア『タス通信』(英語版)を眺めていると、こんな記事を発見しました。

Ideas of ‘new Nuremberg Trial’ against Russia inadmissible — Russian embassy in US

―――2022/06/16 12:52付 タス通信英語版より

タス通信によると、ロシアの在米大使館が水曜日、「ロシアの兵士たちに対する『新・ニュルンベルク裁判』については、いかなる憶測であっても容認できるものではなく、絶対的に誤っているものだ」とする声明を、SNS『テレグラム』に投稿したのだそうです。

このロシア大使館のいう「新ニュルンベルク」は、おそらくは上記の「ニュルンベルク2.0」の動きのことだと思われます。

タス通信によると、ロシア大使館側は今回の「特殊軍事作戦」については「ドンバス地方における市民をナチから守るための行動だ」と強調したうえで、むしろ米国や欧州連合(EU)がこうした「ナチ」を支援している側だと主張。「西側は集合体として、人間不信の考え方を公然と広めている」と批判したそうです。

正直、この期に及んでいまだに「ゼレンスキー=ナチス」と述べ続けている神経には呆れるばかりですが、それと同時にこんな記述を読むと、ロシアがこの市民団体の動きをかなり警戒していることがうかがえます。

“In the current Russophobic atmosphere, the so-called human rights activists are only serving the interests of the local ruling class. That is why they are disseminating fakes about the use of cluster bombs against civilians in Kharkov by Russian soldiers and at the same time are ignoring bombardments of dwelling quarters in Donetsk by Ukrainian nationalists who are using Western weapons.”

当ウェブサイトなりに抄訳を示しておくと、こんな具合でしょうか。

最近の反ロシア的な空気のなか、いわゆる『人権活動家』らは、地元の支配階級の利益のみのために動いている。彼らは『ロシアの兵士がハリコフでクラスター爆弾を使用している』、とするウソを広めながら、むしろウクライナの国家主義者の側が西側諸国の兵器を使いながらドネツクを砲撃しているという事実を無視している」。

このあたり、「自分がやったこと」を、あたかも「相手がやったこと」であるかのごとく喧伝するのは、行動パターンとしては、中国や北朝鮮、あるいはその他約1ヵ国とソックリです。

ただ、それと同時に、ロシア側も市民団体の動きを「放っておく」ということができないのでしょうか、いちいちこうやって大使館が反応をしているのを見ると、最近のロシアはずいぶんと余裕を失っているようにも見受けられるのです。

その意味では、市民団体が「ロシア連邦やウラジミル・プーチンを軍事法廷で裁くべき」などと動くこと自体、じつはロシアに対する圧力として機能しているのかもしれません。

いずれにせよ、ウクライナの人々の無事とともに、このいわれのない違法な戦争がロシアの敗北で終わることを祈らざるを得ないのです。

新宿会計士:

View Comments (6)

  • 戦勝国による裁判もどきだから、ロシアが警戒するのは当たり前
    まあ前回はナチと連んでポーランド分割占領した戦犯国だった訳ですが
    うまく立ち回って数々の戦争犯罪誤魔化せたけど今度はねぇ

    • 戦争犯罪誤魔化したのはアメリカもだろ
      とロシアは言っているけどね

  • 訴追対象が"市民"の様ですし、ロシア的には兵士もさることながら発信力のある著名人などが標的にされることを警戒しているのではないですかね?

  • ロシアは戦術で勝っても戦略で負けたのは確実。

    この侵略戦争後に国際社会の枠組みが大きく変わる。

    WW2が記憶から歴史となる。
    日本とドイツの再軍備、軍備強化が正当化される。
    戦犯国が日本、ドイツからロシアに代わる。

    西欧ではNATO、EUを中心に新たな安全保障体制が整備される。
    アジアでもその機運が高まる。

    世界は西側、中北ロ、その他中立に大きく分かれる。
    その状況も流動的でさらなる変化が発生するだろう。

    「戦後レジームからの脱却」
    これは安倍が議員生命をかけて追及した重要テーマ。

    それがロシアのウクライナ侵攻により実現することになる。

    日本が果たす役割は大きい。

    • 必ずしもそうだとは断言できない
      ロシアとしては、アメリカ一極によるグローバル支配よりも、日本やドイツがアメリカから独立した大国として個別にロシアと交渉する方が、まだマシだとする皮算用があるかも

  •  「女性戦犯法廷」なる、自国を貶める為ならでっち上げの便所法廷を立ち上げた「自称市民団体」の皆さんはロシアの「リアル戦争犯罪」には「戦争反対」とほざくだけで全くと言っていいほど糾弾しませんね。「新ニュルンベルク裁判」には賛同するのでしょうか?