「外交関係者の間では『日本が国内の政治的な理由でせっかくの韓日関係改善の機会を失う愚を犯している』との指摘が相次いでいる」。これは、日韓首脳会談見送りに関する報道を受け、韓国メディアに本日掲載された記事に掲載されていた一文です。なぜ首脳会談をしたら日韓関係が「改善」されると考えているのか、不思議でなりません。

日韓首脳会談見送り報道

やっぱり、今月は日韓外相会談も、日韓首脳会談も開かれないのでしょうか。

昨日の『政府、日韓首脳会談見送り＝産経』や『日韓首脳会談開催「見送り」方針を韓国メディアが裏付』などで取り上げたとおり、断片的に伝わる報道などから判断すると、韓国政府が熱望（？）していたフシがある日韓首脳会談について、日本政府が断ったという可能性が濃厚です。

このあたり、韓国で「５年ぶりの保守政権（？）」として、尹錫悦（いん・しゃくえつ）政権が発足したにも関わらず、現在のところ、日韓関係が急に動き出す兆候は見当たりません。

ただ、当ウェブサイトでは何度となく申し上げてきましたが、こうした傾向が日本にとって「まずい」のかといわれれば、そうとは限りません。

もちろん、日韓関係が滞れば、短期的には日本にも決して無視できない影響が生じることは間違いありません。すでに「韓国に観光に行きたい」と思っている人たちを中心に、韓国への入国ビザ待ちの列が大変に混雑している、といった報道もあるからです。

こうしたなか、『政治家は鈴置氏「韓国の謝罪利権復活」警告を熟読せよ』でも紹介したとおり、韓国観察者である鈴置高史氏は、「韓国が再び日本をだまそうとしている」と警告します。日韓外相会談、日韓首脳会談も、「謝罪利権の復活」につなげる狙いが見えかくれする、との指摘です。

このように考えていくならば、岸田文雄首相が下手に日韓首脳会談に応じないという態度自体は、とりあえず現時点では評価してよい行動ではないかと思うのです。

韓国側からの「苦情」

ただし、こうしたなかで、韓国側からはこんな「苦情」が出てきました。

韓国が手を差し伸べたのに…日本は国内政治に埋没し高姿勢

―――2022/06/16 10:28付　朝鮮日報日本語版より

韓国メディア『朝鮮日報』（日本語版）は本日、「せっかく韓国が日本に対し手を差し伸べたのに、日本はこれに応じようとしない」として、日本の「内向きな態度」を批判する記事を掲載しています。

「韓国政府は首脳会談に積極的で、また米国政府もこれを支持しているが、日本側は韓日首脳会談が来月の参議院選挙の悪材料として作用する可能性を懸念し、あいまいな態度を示していることが15日までに分かった」。

少なくとも「米国が日韓首脳会談の開催を支持している」というのは、あまり重視すべきファクターではありません。

個人的に米国が日韓首脳会談を「支持する」と述べた、という事実は存じ上げませんが、一般論として言えば、米国にとっては同盟国同士が仲良くしてくれるに越したことはありませんから、日韓首脳会談については「歓迎する」と述べたとしてもとくに不自然な点はありません。

ただ、もし首脳会談をやるならやるで、「同盟国同士が仲良くすることは良いことですね」という総論的な反応を出すに決まっていますが、べつに米国が「日韓首脳会談をやれ」と日本に対し圧力をかけているという事実はありません。この点については勘違いしないほうが良いでしょう。

また、この手の「参議院議員選挙を気にするあまり、日本が首脳会談に応じない」とする記述は、韓国メディアにはよくみられるのですが、これもあまり適切な見方ではありません。

情報源は政府公式発表ではなく、産経報道ですが、日本側が「日韓首脳会談を行ううえでの環境が整っていない」と判断する原因となったのは、次の２点だそうです。

• いわゆる徴用工訴訟や慰安婦問題などで韓国側が具体的な解決策を示していないこと
• 韓国が不法占拠する竹島近海の日本のＥＥＺ内で無許可の海洋調査が行われていたこと

朝鮮日報のこの記事には、いちおうこの２点について言及はなされているものの、「参院選前だから（首脳会談に応じなかった）」、という側面にかなりの比重を置いているようです。

しかも、この朝鮮日報の記事では、次のように日本の対応を強く批判します。

「外交関係者の間では『日本が国内の政治的な理由でせっかくの韓日関係改善の機会を失う愚を犯している』との指摘が相次いでいる」。

首脳会談を実施して「日韓関係が『改善』される」というのも面黒い考え方ですが、日韓諸懸案の解決策はいずれも韓国が準備すべき筋合いのものなのですから、そうした具体的解決策がない状態で首脳会談をやっても意味がないのは当然のことでしょう。

なぜ勝手に「日本の譲歩」を前提としているのか？

ちなみに、噴飯ものなのは、「東京のある外交消息筋」が述べたという、こんな記述です。

 「この消息筋は『日本も7月の選挙を前に歴史問題で柔軟な態度を示すのは難しいため、高官同士の会談は大きな負担だ』＜中略＞と説明した」。

ここでいう「柔軟な態度を示す」とは、もちろん、「日本が原理原則を捻じ曲げて韓国に譲歩すること」を意味しています。なぜ勝手に日韓諸懸案で日本が譲歩することを前提にしているのでしょうか。

ちなみに朝鮮日報の記事には、こんな記述もあります。

「韓日関係改善は韓米日三角協力復元に力を入れる米国のバイデン政権の意向でもある」。

バイデン政権が日米韓３ヵ国連携に前向きなのは、そのとおりでしょう。

ただ、先月のジョー・バイデン米大統領の訪韓・訪日でも明らかになったとおり、米国はかつてと比べ、日韓関係「改善」にそこまで前向きではありません。少なくとも日米共同声明では、「日米韓３ヵ国連携」に言及はありましたが、「日韓関係の改善」には言及はなかったからです。

その理由としては、日本が主導する「自由で開かれたインド太平洋（ＦＯＩＰ）」の理念や、これに基づく日米豪印「クアッド」の枠組みが発足したこと、ＡＵＫＵＳ（英米豪）の協力の仕組みが発足したことや、日本が将来的なＡＵＫＵＳ参加をめどに日米協力を強めつつあること、などがあげられます。

米国にとってもかつてとくらべ韓国の必要性は少ないのです。

このように考えていくと、朝鮮日報の記事に見られるような「韓日は互いを必要としている」とする前提自体が正しいのかどうか、考えてみる価値はあるでしょう。

少なくとも韓国から見て日本の重要性は落ちていませんが（だからこそ、やたらと「韓日通貨スワップが欲しい」などとする寝言が聞こえてくるのでしょうが）、逆に、日本から見て韓国の重要性は徐々に低下しつつあります。日本はかつての自称元慰安婦問題のような対韓譲歩をする必要などありませんし、すべきでもありません。

いずれにせよ、日韓関係は大きく変わったと言わざるを得ないのでしょう。

譲歩を前提とした関係は清算されるべき

今になって思えば、1965年の日韓国交正常化も含め、戦後の日韓関係は日本が韓国に対し大幅な譲歩を続けることの連続で成り立ってきたフシがあります。その典型例が、自称元慰安婦問題でしょう。

そもそも論として、自称元慰安婦問題とは、「戦時中、日本軍が組織として朝鮮半島で少女のみ20万人を強制的に拉致し、戦場に強制連行して性的奴隷として働かせた問題」である、などとされていますが、これもムチャクチャな言い分です。そんな証拠など、まったく存在しないからです。

しかも、この自称元慰安婦問題をめぐっては、日本側は理不尽な譲歩の連続でした。

たとえば日本側は一種の政治判断として、宏池会出身の宮澤喜一が首相を務めていたころに、ときの官房長官だった河野洋平が、事実上この問題が事実であると認めて韓国に謝罪したのです（これがいわゆる『河野談話』です）。

そしてこの『河野談話』、自称元慰安婦問題をめぐって「日本政府が公式に事実と認めた動かぬ証拠」として、韓国側に現在でも利用され続けています。これが「ウソや捏造」という、「二重の不法行為」の特徴そのものではないでしょうか（『【総論】韓国の日本に対する「二重の不法行為」と責任』等参照）。

あえて批判を恐れずに申し上げるならば、日本が韓国に対し、理不尽な譲歩をしなければならないくらいならば、そんな関係はどこかで清算されるべきではないかと思うのです。

「日本が非協力的で運航便が再開されない」

なお、ちょっとした余談です。

韓国メディア『聯合ニュース』（日本語版）は本日、「羽田－金浦便の運航再開が遅れている」などとしたうえで、「日本が非協力的である可能性がある」、と報じています。

金浦―羽田線の再開遅れる　今月中には困難か＝日本が非協力的？

―――2022.06.16 15:05付　聯合ニュース日本語版より

正直、コロナ禍から人流が徐々に戻りつつあることは事実でしょうが、日韓定期運航便については、いま慌てて復活させる必要性があるのかどうかについては、日本政府としても慎重に判断しているだけではないかと思う次第です。