吉川赳・衆議院議員の醜聞が、岸田派を弱体化させる可能性が出てきました。FNNの報道によると吉川議員本人は周囲に対し、議員辞職しないと述べているそうであり、自民党内からも岸田派に対し、本件を巡って「説明責任を果たすべきだ」との批判が高まっているからです。あるいは、岸田首相自身の「派閥の領袖」としての事態収拾能力のなさが露呈した、という言い方もできるでしょうか。
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「女子大生飲酒」報道の吉川赳議員、選挙にめっぽう弱かった
昨日の『吉川議員の離党にともない衆院第5派に転落した岸田派』でも取り上げた話題のひとつが、18歳の女子大生との飲酒などが週刊誌に報じられた吉川赳・衆議院議員が自民党を離党した、というものです。
自民党は派閥政治だといわれています。吉川赳・衆議院議員が先日、自民党を離党したことに伴い、岸田派は衆議院では第5派閥に転落してしまいました。ただ、吉川議員は過去に4回も細野豪志氏に選挙区で敗北したといういわくつきの人物でもあります。吉川氏の離党は岸田派にとって悲喜こもごも、といったところですが、少なくとも首相の足元の地盤は心もとない状況が続きそうです。数字で読む自民党の派閥・続き先日の『【数字で読む自民党の派閥】衆院比例議員の派閥別割合』などでも報告したとおり、著者自身は現在、参院選に向け、... 吉川議員の離党にともない衆院第5派に転落した岸田派 - 新宿会計士の政治経済評論 |
ちなみにこの吉川議員、衆院選では過去3回当選(うち2回は比例復活、1回は繰り上げ当選)しているものの、選挙にはめっぽう弱いという人物でもあります。
第二次安倍晋三内閣が発足するきっかけとなった2012年12月の衆議院議員総選挙では、自民党は480議席中294議席を獲得するなど圧勝しましたが、吉川氏は静岡5区で立候補したものの、当時の民主党の細野豪志議員に小選挙区で敗北し、比例復活しています。
次に、2014年12月の総選挙では、自民党は475議席中291議席を獲得し、やはり圧勝したのですが、それにも関わらず吉川氏は静岡5区で再び細野議員に敗れたうえ、比例復活もならずに落選。
さらに2017年10月の総選挙では、定数が465議席に減ったこともあり、自民党の獲得議席も284議席に減りましたが、やはり圧勝に終わったにも関わらず吉川氏は細野議員に敗退して比例復活も出来ずに落選します。
ただし、このときは運よく(?)比例東海ブロックで議席が2つ空いたので、吉川氏は「繰り上げ当選」により2019年に衆議院議員の地位にありついていますが…。
細野氏と公認争いのすえ小選挙区落選&比例復活
いかがでしょうか。
こうやって事実関係を振り返っていくと、自民党が安倍晋三総理の下で過去に何度も圧勝しているにも関わらず、その「上げ潮」ムードのなかでさえ、吉川氏は3回連続して小選挙区で落選し、うち2回は比例復活すらできなかったほとです。
そして、こうした選挙の弱さが是正されることはありませんでした。
2021年10月の衆院選では、細野氏自身が自民党に入党できなかったにも関わらず小選挙区で当選し、吉川氏は「4度目の落選」となったものの、このときは自民党が比例東海ブロックで躍進したこともあり、吉川氏は2012年以来2度目の比例復活を遂げます。
すなわち、吉川氏自身、選挙区ではまったく勝てていないわけであり、「地盤作り」という点では、むしろ民主党出身の細野氏の方が、圧倒的に強いのです。
「自民党の議席の底上げに貢献しないだけでなく、むしろ自民党にぶら下がって議員に当選している」――。
これだと吉川氏が自民党内でどう受け止められているのか、だいたい想像がつきます。吉川氏が離党する前の状態で、自民党の主要派閥の勢力を確認しておくと、頭一つ抜けている安倍派、「派閥」とはまだいえない状態の「菅派」を除けば、4つの派閥がだいたい「ドングリの背比べ」状態にあることがわかります。
- 安倍派…94名(衆60名、参34名)
- 茂木派…54名(衆33名、参21名)
- 麻生派…50名(衆38名、参12名)
- 岸田派…45名(衆33名、参12名)
- 二階派…43名(衆35名、参8名)
- 「菅」派…26名(衆15名、参11名)
その一方、各派の「比例ゾンビ」は、最大手の安倍派が15名で最も多いのですが、それ以外の派閥に関していえば、岸田派と二階派が8名ずつであり、これに茂木派と「菅派」の7名、麻生派の5名が続きます。岸田派の「比例ゾンビ」の割合は、安倍派に次いで高かったのです。
吉川氏が抜けたことで、岸田派の所属衆議院議員は32名に減り、衆院第5派閥に転落した格好ですが、「比例ゾンビ率」は若干改善したので、これを良いことと見るか、悪いことと見るかについては微妙、といったところでしょうか。
岸田首相は派閥の領袖…決断力、事態収拾能力のなさ
ただ、本件を巡る派閥の領袖・岸田文雄首相自身の対応も、なんだかよくわかりません。本件を巡って決断力もあまりなく、また、事態収拾能力もほとんど発揮されていないからです。
そもそも論として、今回のスキャンダルが面的に出てきたのは、参院選前の非常に重要なタイミングでもあります。「4回連続小選挙区落選」、「比例復活」といういわくつきの人物が盛大なスキャンダルを発生させた以上、常識的に考えて、すぐに「損切り」し、事態収拾を図っておくべきでした。
具体的には、吉川氏の「離党」届を受理するのではなく、「除名」処分などにしておくべきでしたし、合わせて早期に本人の議員辞職を迫るのが筋でしょう。
それに、岸田首相自身が首相に就任しながらも宏池会の会長の地位に留まっているという点も、なんだかよくわかりません。この手の「派閥の不祥事」があったときに、派閥内のゴタゴタが首相自身の責任問題に発展しないよう、首相は派閥のトップの地位を離れた方が安全だからです。
いずれにせよ、こうした「決断力のなさ」「事態収拾能力のなさ」は、ある意味では岸田首相らしいところでもあります。この点、岸田首相自身、オールドメディアの内閣支持率調査では支持率が高止まりしていますが、政権運営が盤石なのかといわれれば、そこも微妙でしょう。
単なる「1議席減少」ではない、岸田派への打撃
しかし、岸田派自体、今回の醜聞により党内基盤が1議席分弱体化したことは間違いありませんが、それだけではありません。少なくとも岸田派にとっては「良くないニューズ」は、ほかにもあります。
それは、自民党内からの岸田派への風当たりです。
時事通信は昨日、世耕弘成・参院幹事長が吉川氏に関し、参院選前の時期に「こういう気の緩んだことをしている議員がいるのは本当に残念」としたうえで、「比例復活議員なので自民党の議席だ」、「議員辞職すべき」と声を荒げたのだそうです。
自民幹部、吉川衆院議員の辞職要求 18歳と飲酒疑惑
―――2022年06月13日13時16分付 時事通信より
この世耕氏の発言、おそらくは自民党内の大多数の意見をそのまま代弁しているものでしょう。
それに、先ほども指摘したとおり、吉川氏は小選挙区で勝ち上がるだけの実力もないのに、自民党にぶら下がって議員になったような人物なので、世耕氏が指摘するとおり、議席は自民党に返すのが筋です。
ところでその吉川氏、議員を辞職するつもりはあるのでしょうか。
これに関しては『FNNプライムオンライン』が本日、「独自」と銘打ち、こんな記事を配信しています。
【独自】吉川議員「議員辞職するつもりはない」 “18歳パパ活”疑惑で自民離党も
―――2022/6/14 11:31付 Yahoo!ニュースより【FNNプライムオンライン配信】
FNNによると吉川氏自身は昨夜までに周囲に対し、「いまのところ議員辞職の圧力は受けていない」、「議員辞職するつもりはない」、などと話していたことがわかったそうです。
これに関しFNNはまた、岸田派の幹部は吉川氏自身が「個人で説明責任を果たすしかない」との考えを示す一方で、自民党幹部からは、「派閥としてどう責任をとるのか」と「岸田派に対応を求める声があがっている」、ともしています。
岸田派の先が思いやられる
このように考えていくと、岸田派も先が思いやられます。
『骨太方針に見る安倍総理「院政」』などでも触れたとおり、ただでさえ岸田首相は少なくとも現時点において、なかなか「岸田カラー」が出せないでいます。
岸田首相が掲げる「新しい資本主義」とやらはどこに行ったのか。政府が昨日閣議決定した「骨太の方針2022」を読むと、「アベノミクスの3本矢」の記述がみられるなど、安倍政権が復活したかにも見えます。とりあえず岸田首相としても、安倍派、茂木派、麻生派などに配慮せざるを得ないようであることだけは間違いありません。細かい文字がびっしり!骨太方針2022いかにも「自民党らしい」と思える事例がありました。昨日、政府は「骨太の方針2022」を閣議決定しました。経済財政運営と改革の基本方針2022―――2022/06/07付 内閣府HPよ... 骨太方針に見る安倍総理「院政」 - 新宿会計士の政治経済評論 |
いちおう岸田氏自身は独自カラーを出そうとして、外交では「岸田ビジョン」なるものを打ち出しましたが、これは安倍晋三総理、菅義偉総理らが作り上げた「自由で開かれたインド太平洋」構想に、勝手に岸田首相が「核廃絶」を付け加えたという代物です(『シャングリラ会合基調講演で岸田首相が「無視した国」』等参照)。
先週金曜日、岸田文雄首相がシンガポールを訪問し、シャングリラ・ダイアローグで5つの「岸田ビジョン」を提示しました。「岸田ビジョン」と言いながらも内容は安倍総理、菅総理が提唱したものをそのまま丸パクリしているだけであるというのは苦笑せざるを得ませんが、内容自体は至極真っ当です。さらに、岸田首相の講演では、「完全に無視された国」が約1ヵ国存在したようです。岸田首相の冗長な講演岸田文雄首相が金曜日、訪問先のシンガポールでの「シャングリラ・ダイアローグ」で基調講演を行いましたが、その内容が首相官邸ウ... シャングリラ会合基調講演で岸田首相が「無視した国」 - 新宿会計士の政治経済評論 |
いずれにせよ、吉川氏自身は次の衆院選に出馬したとしても、比例復活できずに消えていくことが確定しましたが、今回の一件でわかるのは、岸田首相自身の政治家としての事態収拾能力のなさであり、「吉川事件」は岸田派にとって、「議員1人分の勢力減」以上の打撃を残して行ったのかもしれません。
View Comments (15)
>なかなか「岸田カラー」が出せないでいます
出しまくってますよ。
検討する=何もしない という持ち味(カラー)を
まったくその通りだと思います。
この有事に何もしない、何も出来ない(余計なことだけはする)首相は我が国に取り百害あって一利なしでしょう。
一刻も早い退陣をと思っています。
宏池会=御公家様集団 をより印象づけるココまでの展開…
そりゃ麻生派谷垣派の"元宏池会"派閥もワザワザ集いて今更"大宏池会"なんてしまへんわな、グダりっぷりがイヤになって別れ出たのに
本件、メディアで取り上げられるときに、枕詞のように、岸田派のホープと言われていますが、地元民からすれば?しかありません。選挙区では、当日野党系だった細野氏に勝つことはなく、普通に見れば惨敗です。
いくら、細野氏が名の知れた政治家だとしても、あれだけスキャンダルや離党による無所属議員であってもまるで歯が立たないのです。
誓って言います。
ホープじゃねーよ!
なぜ安倍首相が長期政権を築けたのかというと
・保守岩盤層による「親衛隊」と称されるほどの熱い支持
・麻生との盟友関係により細田派(当時)、麻生派を抑える
・幹事長や官房長官に二階や菅を据え老獪に扱い最長期間を更新
こうして「安部1強」と呼ばれる首相最長期間を更新した。
一方、岸田はというと…
・政権支持率は高いが右も左も投資家も批判一色
・閣僚ポストも各派閥への配慮が優先で宏池会の独自色がない
・党運営の実務は麻生ー茂木ラインで行われ宏池会は蚊帳の外
このように宏池会・岸田カラーを出せる状況にない。
だいたい次期首相候補が林でホープが吉川では宏池会に未来はない。
だが左派からの批判がない岸田は各方面に都合がいいようだ。
・麻生「岸田にやらせてみると案外うまくやる」と上機嫌
・安部は首相時代とは打って変わって奔放な言動で存在感を放つ
・茂木は次期首相を目指し幹事長として岸田を気にせず辣腕を振るう
次の参院選は自民の圧勝に終わる。
その後の内閣改造で改めて各派閥に配慮した人選が行われる。
こうなると岸田政権は案外長く続くと思われる。
神輿は軽ければ軽いほど担ぎやすくなる。
「何もしない」「何もない」岸田は都合がいいのだ。
大変に逆説的ではあるが、岸田政権が長期化する可能性は高い。
泣いて馬謖を斬る、ができない男。
比例復活だし、離党させるなら議席は比例政党に戻すのが秩序。
このあたりが、決断力のなさ、信を得られない理由なんだろなと。
繰り上げ当選の議員に、張り付いてスキャンダル狙っている週刊誌。
失礼ながら小者政治家(すいません)なのに何故にパパ活がバレた?(現時点では事実が分かりませんが)18歳の女性が、週刊誌の取材にパパ活していましたと言ったのでしょうか?
週刊誌読んでないので読んだ方教えてください。
お前が調べろと怒らないでください。
記事の概略は以下。
https://www.news-postseven.com/archives/20220609_1762267.html?DETAIL
取材は垂れ込みによるものでしょう。
現場を押さえられてますから、女性は正直に話した。
一方で、議員はシラを切って、ベラベラと口述を取られた後で、証拠写真が掲載されて今に至ると。
自民党という小さなムラ社会での馬鹿げた政治ごっこが、現実の日本の
国政と外交の行く末を左右するというのは、本当に気が滅入りますね。
自民党という小さなムラ社会もまた、日本の縮図です。
言論の自由が高度に担保され普通選挙が行われる民主主義政治体制のクニにおいて、政治ムラのレベルが国民のソレを超えるコトはナイでせう。
トドノツマリ現状は(もしアナタモ日本国民なのであれば)貴公含め我々日本国民のもたらしたモノであり、
シラケたフリでタメ息ついてみせるのは責任を放棄し現状を追認する姿勢の表明にホカナリマセンですナ、ハイ
なに第三者ヅラしてイキってんねん
マスコミみたいなクズやないことを証明するためには当事者意識持たんかい
マスコミじゃあるまいし
派閥の領袖であろうが、行政府の内閣総理大臣が立法府の国会議員の出処進退についてあれこれ言えるはずもない。
茂木幹事長が早々に離党届を受理し党紀委員会で離党を承認したとおり党務は幹事長の権限。
岸田総理の慎重な発言はそういうこと。
ソーユーメンドーな議論やら対応をオミットすべく総理は派閥領袖から外れるモンだという半ば慣例?をブッチするワシ、を体現していたのでツッコミ喰らったのではないかと…
自分は、岸田総理がこの件に関して何か動く必要性って、何も感じません。
派閥の中にいる子分が何か問題を起こしたところで、それはあくまでも子分の責任でしょう。
例えば、酒に酔って暴れて警察のお世話になった従業員がいたら、その会社の社長は経営から離れにゃならんのかと?
「辞めない」と言っているのならともかく、責任取って自ら会社辞めますと言っている人間に、わざわざ懲罰解雇にしないといけないのかと。
他に、これまでにも「大臣に疑惑が出た」「大臣は辞任しろ」からの、今度は「大臣が辞任した」「任命責任だ総理は辞任しろ」という、一つ要求を飲んだら次々と要求がエスカレートししていく様を見ていてうんざりしたことがあります。
今回の、岸田総理は派閥の長を~というのも、同じように見えて仕方ありません。
どうせ、ここで岸田総理が派閥の長から離れても、今度は「責任逃れだ」「無責任だ」「卑怯者だ」とかいう人が出てくるのでしょう。
難癖を付けたいだけの人間って、そんなものだと思います。
なので、ここから総理の責任に持っていくのも無理筋に感じますし、そんな無理筋に右往左往するのも落ち着きが無く頼りなく思えます。
安倍元総理が、もりかけ問題でそんな右往左往していたイメージが無いというのもありますが。
岸田総理も、それに倣って落ち着いて構えていればいいと思います。
問題を起こした本人が、潔く離党した以上は、この問題が長続きするとも思えませんし。
この件で立憲民主党は辞職勧告案を提出した位で他は何もしませんでしたね。
やはりブーメランが返ってくることにビビってるのでしょうか。