「首脳会談で韓日の信頼関係を醸成しよう」。そんな発言が、韓国政府から聞こえてきました。今月下旬にスペイン・マドリードで開かれるNATOサミットに日韓首脳がゲスト国として参加する可能性が高まり、その際に日韓首脳会談が開かれることへの期待感が韓国政府側から出てきた格好ですが、そもそも首脳会談をすれば「わかりました、あなたのことを信頼しましょう」、となるほど現在の日韓関係は甘いものではないのです。
おじいさんの不法行為
日韓関係がギクシャクしていること、その原因を韓国側が作ったことについては、『【総論】韓国の日本に対する「二重の不法行為」と責任』などでも詳しく取り上げたとおりですので、いまさら改めて議論すべき話ではないかもしれません。
世間では少し勘違いしている人が多いようですが、日韓諸懸案とは韓国の日本に対する「二重の不法行為」の問題です。解決する全責任は、韓国側にあります。そして、日本が議論しなければならないことは、「どうやって韓国に譲歩して折り合いをつけるか」、ではありません。「約束を守らない韓国を、どうやって罰するか」、です。本稿では「総論」として、これまでに当ウェブサイトで触れてきた「韓国の対日不法行為」の数々を、大ざっぱに振り返っておきます。韓国の対日不法行為、尹錫悦政権発足後に「風化」していないか?2022年5月1... 【総論】韓国の日本に対する「二重の不法行為」と責任 - 新宿会計士の政治経済評論 |
ただ、それでも常に強調し続けなければならないのは、日韓関係を健全化するためには「韓国による二重の不法行為」が解消されなければならない、という点であり、この点を外して日韓関係健全化(あるいは「韓日関係『改善』」)を議論しても意味がない、という点でしょう。
KがJに対して、いきなり殴りかかってきた状況を思い浮かべていただければよくわかります。
Kの言い分は「むかし、Jのおじいちゃんが俺のおじいちゃんに酷いことをした」、「それなのにJはそのことをいまだに謝罪も賠償もしていない」、「だから俺はJを殴りつける権利を持っているんだ」、というものです。
百歩譲って「過去にJのおじいちゃんがKのおじいちゃんに酷いことをした」からといって、「現在、KがJに対して殴りかかって良い」という話にはなりませんし、ましてやKがJの持ち物を勝手に盗んで換金する、といったことをやって良いはずがありません。
しかも、この「Jのおじいちゃんが過去に俺のおじいちゃんに酷いことをした」というKの言い分自体、ウソであったり、捏造であったり、あるいは法的に見て完全にKの勘違いだったりしたとしたら、いったいどうなるでしょうか。
この場合、KはJに対して「現在進行形で違法行為をしている」だけでなく、「過去のことを巡ってウソをつき、J家の名誉を棄損している」という不法行為を犯していることになります。これが「二重の不法行為」の正体でしょう。
日本の世論にも大きな変化が!
ただ、少しだけ余談を述べておくと、日本側が韓国の求める謝罪・賠償要求に一切応じなくなったことについても、じつは大きな変化でしょう。
かつての日本であれば、某新聞、あるいは某テレビ局あたりが「日本は過去に韓国に酷いことをした」、「日本は韓国に謝罪せよ」などとする論陣を張り、むしろ率先して日本政府に対し韓国への謝罪を勧告していたフシがあります。
ことに、新聞、テレビは、かつては絶大な社会的影響力を持っていましたから、「新聞、テレビがそう言うなら仕方がない」、とばかりに、日本政府内でも韓国に対して「とりあえず謝罪する」、といったその場しのぎの対応が横行していたのです。
ただ、とくに2010年代以降、社会全体でスマートフォンなどのデジタルデバイスが急速に普及し、新聞、テレビは急激に社会的影響力を失うとともに、私たち一般国民でも直接、韓国メディアの日本語版などの報道を読めるようになったことは、非常に大きな変化でしょう。
つまり、私たち一般の日本国民の間で韓国を「深く理解する」人が増えた結果、「とりあえず韓国に謝っておけばよい」とする、今までのような「外交事なかれ主義」が通用しなくなったのです。
すなわち、現在の日韓間には、「日本に対し道徳的優位性がある」などと勘違いして「二重の不法行為」を続ける韓国に対し、そのような韓国の行動に怒りを感じ、「韓国には絶対に譲歩してはならない」と考える日本の国民世論、という構造的な問題が横たわっているのです。
日本が独裁国家にでもなり、日本国民からインターネットを取り上げ、国民が望まない政策を政府が強行できる体制を整えれば話は別ですが、そうでない限りは日本が韓国に対し「譲歩」することはあり得ません。国民世論が許さないからです。
(ついでに申し上げるなら、こうした「外交事なかれ主義」を大々的に提唱してきた既存の新聞社、テレビ局なども、その多くは遅かれ早かれ「倒産」「廃業」という形で日本社会から排除されるのではないかと個人的には予想している次第です。)
「首脳会談通じ信頼醸成し韓日関係改善を」
こうした構造的な要因をいまだに理解していないのが韓国メディアではないでしょうか。
というのも、韓国メディア『中央日報』(日本語版)に今朝、こんな記事が掲載されているのを発見したからです。
尹大統領・岸田首相、マドリードで韓日関係改善に道筋作れるか
―――2022.06.10 06:52付 中央日報日本語版より
中央日報によると、尹錫悦氏は9日、出勤途中の「ぶら下がり会見」で、記者から「韓日首脳下院だが開かれた場合は慰安婦問題が議題になると思うが、解決法を準備しているのか」と尋ねられ、これに次のように答えたのだそうです。
「歴史問題に関しては未来に対する協力次元で韓日間の問題が円満にうまく解決すると予想している」。
正直、まったく答えになっていません。具体的な解決策がなにもないからです。そもそも論として韓国の「二重の不法行為」という構造を残したままで「未来志向の関係」を構築できるはずがありません。
もちろん、日韓両国は対北朝鮮問題などで(表向きは)協力関係にありますし、産業のサプライチェーンにおいては日韓の相互依存が年々深まっている状況ですが、こうした局所的なつながりを別とすれば、おそらく現在の日本の国民世論は、韓国とこれ以上関係を深めることには消極的ではないでしょうか。
ただ、それ以上に驚くのが、「首脳会談をやれば信頼関係が醸成できる」とする韓国政府の認識です。
この中央日報の記事によると、マドリードで日韓首脳会談が開催されるかどうかを巡って、日本の朝日新聞が「複数の韓国政府関係者を引用し」、尹錫悦氏がNATO首脳会合に出席する方針を固めるとともに、「韓日首脳会談を開いて対日関係の改善に弾みを付けようと構想していると報じた」、としています。
中央日報からの孫引きで恐縮ですが、その際、朝日新聞は「韓国政府高位関係者」の「立ち話ではなく、正式な会談で首脳間の信頼醸成を図りたい」という発言をあわせて紹介したのだそうです。
この「正式な首脳会談をすれば首脳間の信頼醸成が図られる」とする考え方、大変に奇妙です。
そもそも論として、国と国との信頼関係は「ウソをつかないこと」、「約束をきちんと守ること」といった基本的な日常動作の積み重ねによって醸成されるものであり、首脳同士が会談したくらいで「はいわかりました、あなたの国を信頼しましょう」、とはなりません。
ましてや岸田文雄首相自身、安倍晋三総理の下で外相を務めていた2015年には、韓国に2回も騙された人物です(『佐藤正久氏、韓国に「2度も3度も騙されてたまるか」』等参照)。
今こそ国会議員の皆さんに読んでほしい優れた鈴置論考「岸田首相が韓国に2度も3度も騙されてたまるか」。これは、佐藤正久外交部会長が昨日発信したツイートに含まれていた表現です。「岸田首相が韓国に2度騙された」という表現、韓国観察者・鈴置高史氏が昨年10月18日付で公表した論考を思い出します。もしかして佐藤氏は鈴置論考をお読みになっているのでしょうか?そして岸田首相は今度こそ本当に騙されないのでしょうか?2022/05/12 14:30追記本文中の誤植等について修正したところ、読者コメントが消えてしまいました。現在、... 佐藤正久氏、韓国に「2度も3度も騙されてたまるか」 - 新宿会計士の政治経済評論 |
その相手国が日本に対し、「信頼醸成のために首脳会談を」、などと要求してきているということ自体、韓国側が「2度あることは3度ある」を狙っている証拠ではないかとの疑念を我々日本人が抱くのも当然のことでしょう。
(※余談ですが、岸田文雄氏の人物評は、本稿では割愛します。「韓国に2度も騙されたから、『3度目の正直』で今度こそ騙されないだろう」と期待するのも、「そもそも2度も騙された人物であり、首相の適性はない」と判断するのも、読者の皆様のご自由です。)
日韓首脳会談どころか外相会談は?
もっとも、ここでもうひとつ疑問があるとすれば、日本の側からはほとんどと言って良いほど、日韓首脳会談についての話題が出て来ない、という点でしょう。
いや、もちろん、日本のメディアも報じているには報じているのですが、その情報源は「韓国政府関係者」だったりします。先ほど紹介した、中央日報が引用した朝日新聞の記事が、その典型例でしょう。
もっといえば、「韓国外相の訪日」に関する話題に関しても、続報がほとんど見られません。
この「韓国外相の訪日」とは、『竹島不法調査受け、日本政府は韓国外相来日を拒否せよ』などでも取り上げたとおり、複数の韓国メディアが先月報じた、「韓国の朴振(ぼく・しん)外交部長官が6月中旬に日本を訪問する方向で調整している」などとする話題です。
抗議では済まされません。韓国が日本の排他的経済水域(EEZ)で日本の許可なく勝手に調査を行っていたとして、日本政府が韓国政府に抗議したそうです。しかし、韓国が新政権になってもこの手の不法行為を日本に仕掛けてきたという事実は、日本が求める「国と国との約束を守る」かたちでの日韓関係正常化があり得ないことを意味します。とりあえず、日本政府は韓国国民に対するビザ免除措置再開を見送るとともに、韓国外相の訪日受入を拒否すべきです。韓国の二重の不法行為とゼロ対100理論日韓諸懸案といえば、基本的には韓国の日本... 竹島不法調査受け、日本政府は韓国外相来日を拒否せよ - 新宿会計士の政治経済評論 |
しかし、これについては林芳正外相自身が5月27日の記者会見で、朴振氏の訪日を巡っては「なんら決まっていない状況」にある、と説明しています(5月27日付・外務省『林外務大臣会見記録(令和4年5月27日(金曜日)17時59分 於:本省会見室)』参照)。
この点については韓国メディア『聯合ニュース』(日本語版)に昨日、こんな「続報」(?)っぽいものが出ていました。
韓国外相が12~15日に訪米予定 訪日も調整中
―――2022.06.09 15:52付 聯合ニュース日本語版より
聯合ニュースによると、韓国政府・外交部の崔泳杉(さい・えいさん)報道官は9日、朴振氏がアントニー・ブリンケン米国務長官の招きで、12日から15日にかけ、ワシントンを訪問する予定だと発表したそうです。
これに関連し、聯合ニュースは次のように伝えています。
「朴氏は訪米に続き、外交部長官として初の訪日の日程も調整中のようだ。崔氏は日本の林芳正外相が朴氏に早期の訪日を促したとしながら、『現在双方で可能な日程を見ているところだ』と説明した」。
このあたり、日本の外務省の側からほとんど発表が出てきていないという事実は、やはり、日韓関係の「改善」に韓国が一方的に前向きになっているという状況証拠であるように思えてなりません。
いずれにせよ、朴振氏が訪米の帰路に日本に立ち寄るという可能性はもちろんあると思いますが、その際に日韓関係を巡る何らかの具体的な解決策で合意するとも考えられません。ましてや、もしも朴振氏の訪日がなかったとすれば、マドリードで日韓首脳会談が実現するかどうかは微妙、といったところでしょう。
いずれにせよ、個人的には日韓の外相や首脳が「立ち話」するくらいのことは止むを得ないと考えているものの、「首脳同士が会って話した」くらいで日本の韓国に対する信頼が戻るわけもなく、ましてや「首脳会談で信頼が醸成される」と見るにはかなりの無理があります。
本気で「信頼を醸成」するつもりがあるのなら、首脳会談の前にやることはいくらでもあるでしょう。
View Comments (13)
会計士様、更新ありがとうございます。
会えば何とかなるというのは、これまでの成功体験がそうさせるんでしょうね。よく今度は騙されるなという言葉を耳にしますが、騙されるというより、余程おいしい利権があるか、逆に弱みを握られているだけではないかと思います(さすがに、そこまでバカではないと信じたいです)。だから、マスゴミ含め大統領の交代を機に関係改善と言っているのではないかと思います。会えば何とかなるという言葉くらい違和感があるのが、自民党のPTやワーキングチーム。選挙に向けてとりあえずやってますアピールにしか思えません。あまり結果につながったという話も聞きませんし、もし結果が出ているなら、壮大にアピールしていると思います。
「会いさえすれば!」って、なんだか詐欺師の考えそうな事ですね。 いやね、韓国大統領が詐欺師と言っている訳ではないです。 文化としての考え方の傾向です。
「首脳会談だけではどうにもならないと言われても、韓国が国際法や条約を守るのは
無理なのだから首脳会談でどうにかしてもらうしかない」
「日本が永久かつ無限に韓国を甘やかすのが韓国と言う国家のシステムの大前提であり、
それを変えろと言われても無理なのでずっと同じやり方を繰り返すしかない」
「もう日本の世論が韓国に対して極めて不信的であり、マスコミが弱りすぎていて
それを変えられないと言われても、韓国の世論を変えるのはもっと無理」
過去には餌が出てきたボタンを、もう餌は永遠に出てこないのだと理解できず、
執拗に押し続けるラットにも似ていますね。このまま彼らは餓死するまで
”日本が譲歩し続けるはずの魔法のボタン”を押し続けるのでしょうか?
>尹錫悦氏がNATO首脳会合に出席する方針を固める
"厚顔無恥”とはこのことですね。
”条約・合意を守らない、嘘つき”国の大統領としてどの面下げて出席するのでしょう。
岸田さんには「NATOは条約を守ることで成り立っている。近代で条約を守らなかった国は私の知る限り四つある。ナチスドイツ、ソ連、韓国、ロシアだ。」ぐらいのことを言ってほしいものです。
現実、個人としての信頼と、国としての信頼は、別物なのですが、
韓国って、こういうときは、都合のいいふうに考えたがるのよね。
ときに、国として粗相をするのなら、国として実力で窘めないと。
韓国への不信感の元は、韓国理解が進んだからです。
そして、理解が進んだ原因はネットと もう一つ 日韓ワールドカップがあると思います。
あの時地上波では韓国応援の為韓国の試合をガンガン放映しました。
そこで目の当たりにした、あまりにも韓国カンコクした平壌運転のありのままの韓国。
そして、その韓国の行動に目をつぶって見ない様にした解説。
ありのままの韓国を見た一般ピーポーは、異常な韓国とそれに触れない異常なメディアをみて、一気に韓国理解とマスコミ不信が広がったとみています。
そして、ネットで広がる韓国の日常。
そら、信用が奈落の底に落ちるってもんですよ。
sey g さま
日本単独開催も可能だったワードカップを韓国との共催にしたのは、当時宏池会会長だった宮澤喜一元総理です。
宮澤元総理が「日韓共催は政治にとって悪くない選択だ」と発言しなければ、現在に到る嫌韓は生まれなかったでしょうし、韓国の内情を知る人は少ないままだったでしょう。
皮肉にも媚韓派の宮澤元総理が嫌韓の生みの親となったのです。
nanashi様
自分は、あの時共催などせずに韓国単独開催で良かったと思ってます。
共催にしたせいで、しなくてもいい韓国への協力。
日本の協力なしにどこまで出来るか?
日本なしの韓国単独で、韓国優勝などなったら、ある意味伝説のワールドカップになったのでしょう。
首脳が会いさえすれば何とかなるって、我が朝鮮王の威を持ってすれば、倭奴如き屈服させることは雑作もない、とでも思っているのかもしれません。
一年前のG7首脳会合で日韓首脳会談が行われると韓国側の期待ばかり膨らみましたが菅首相に袖にされ韓国マスコミがキレまくっていたことを思い出しました。東京五輪でも同様でまるでストーカー。
保守?の尹大統領になって「日韓諸問題をグランドバーゲンで解決」とかめんどくせー奴と思ってましたが具体的な解決策は未だにノーアイデア。偉そうに言ってた割にやってることは前任と変わらず、全身複雑骨折状態の日韓関係を「会えばなんとかなる」は大甘認識。
募集工判決がゲームチェンジャーだったことが韓国では全く理解されてないし、今後も虚心坦懐に自分達が変わらなければ関係の前進が無いことは1ミリも理解されないままでしょうね。
よって韓国が変わらない限り、変わった証拠を示さない限り、今後の日本は韓国を相手にしない「日韓関係テーパリング」が正解。
ただあからさまに無視し続けると韓国の姑息で厄介な告げ口外交が発動するので、川の向こうから「日韓関係を健全な関係に戻すべきだ」と大声で言いつづけるような対応で韓国につけいる隙を与えない戦術が必要だと思います。
[韓国との「対話」が困難な理由]
https://oogchib.hateblo.jp/entry/2022/05/12/014021
>「序列の上位者がそう決めればそのルールには皆が従う」という発想です。
>韓国側がひたすら「首脳会談によるトップダウン式解決」を望んでいるのはそのためで、
>とりあえず「日本の総理大臣さえ説得してしまえば問題は解決する」と考えているのです。
>韓国ではそれが常識なのです。
韓国が首脳会談を希望する理由
その 分析がこちらにあります。
つまり常識が違うのです
面白かった。
明快なので読んでいて気持ちいい。
結局これは韓国固有の思考行動様式には「信頼」と言う概念が無いから、「信頼」と言う言葉の意味が基本的なところで理解できていないのでは?
韓国には「上下関係」しかありませんから、「下の者に無理やり言う事を聞かせる」か「上の者に無理やり言う事を聞かせられる」の二択です。よって、「同格の関係で物事を円滑に運ぶのに関して必須な、他者に強制されずに、自主的に相手に対する尊重を堅持し、相手にはウソを吐かず約束は必ず守るという行動の積み重ねの実績」と言う《文明的自主管理制度》が発達する土台も必要性も無かったのだと思います。
韓国の言うところの「日韓の信頼関係」は「韓国の言う事を日本に無理やり聞かせる」、或いは「韓国が日本に対してペナルティ無しに詐欺行為を働く事を許される」でしょう。