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    Categories: 金融

米国はロシアをテクニカル・デフォルトに追い込むのか

いよいよロシアがテクニカル・デフォルトに陥るのでしょうか。ジャネット・イエレン米財務長官は現地時間18日、ドイツのボンで記者会見に応じ、ロシア国債の受領を容認した特例措置が5月25日で予定通り終了になる「可能性が高い」との見方を示したそうです。

ロシアがデフォルト回避(4月30日)

先日の『ロシアがデフォルト回避?中銀も利下げに踏み切るが…』では、ロシア政府が発行したドル建てのユーロ債を巡り、すんでのところで債務不履行(デフォルト)を回避した、とする話題を取り上げました。

ヘタレ国家・ロシアがドル建てユーロ債の元利払いをやっぱりドルでも実行したようです。また、昨日はルーブルが米ドルに対し昨年11月以来の高値を付け、ロシア中銀が金利を17%から14%に引き下げるなど、「見た目」はルーブル危機が去ったかのような状況が生じつつあります。しかし、政策金利自体がウクライナ侵攻前には9.5%だったこと、現在のロシアでは企業に外貨収入の80%をルーブルと強制換金することが義務付けられていることなどを忘れてはなりません。ロシア中銀が再利下げ:17%から14%にロシアの中央銀行が再び利下げに踏...
ロシアがデフォルト回避?中銀も利下げに踏み切るが… - 新宿会計士の政治経済評論

これについての解釈はさまざまでしょう。

西側諸国の金融制裁に伴い、ロシアは保有していた約6400億ドルの外貨準備のうち少なくとも3000億ドル前後が凍結されていると見られますが、それでも人民元建ての資産などが1000億ドル前後残っていると見られます(『開戦準備の証拠?ロシア外貨準備でドルが急減していた』等参照)。

中露は金融の世界で「一蓮托生」の関係になってしまったロシア中央銀行がつい先日公表したレポートを読んでいくと、中露両国が金融面で一蓮托生になってしまった可能性が浮かび上がりました。つまり、中国はロシアに対し、最大で1250億ドルを支援しなければならない可能性があるのです。また、ロシアはとくにこの1年間で米ドルの資産を571億ドル分減らしていたことも判明しましたが、これはロシアがウクライナ侵攻の事前準備をしていたという間接的証拠でもあります。外貨準備で増える人民元外貨準備で米ドルの割合は徐々に低下以前の...
開戦準備の証拠?ロシア外貨準備でドルが急減していた - 新宿会計士の政治経済評論

それに、ろくに資源がない北朝鮮などと異なり、ロシアは石油、天然ガスなどを産出する資源国であり、何もしなくてもそれなりの外貨収入が得られることが期待できる国ですし、西側の制裁にもかかわらず、現在でもおそらく、一定の外貨収入は得られている可能性があります。

したがって、4月の「ロシア国債デフォルト騒動」は、ロシアが本当にユーロ債の元利金を支払う能力がないというよりも、どちらかといえば「非友好国」に対し、「ユーロ債の元利金をルーブルで支払うぞ」と「脅すため」にロシアが起こした、という側面が強かったのではないでしょうか。

イエレン氏の会見で記者が「特例」について質問

こうしたなか、ジャネット・イエレン米財務長官がドイツ・ボンで記者会見に応じたのですが、そこで少し気になる発言がありました。

Transcript of Press Conference from Secretary of the Treasury Janet L. Yellen in Bonn, Germany

―――2022/05/18付 米財務省ウェブサイトより

そのやりとりは、こうです。

“Hi, Secretary Yellen, I wanted to ask about the exemption for the U.S. receiving payments on Russian sovereign debt that’s due to expire next week, I’m curious how you’re thinking about the decision of whether that exemption should be renewed and what you see as the possible economic impacts of pushing Russia into default and what, what spill overs there could be from that move?”

長官に「ハイ」と呼び掛けるのがいかにも米国っぽい気がしますが、それはさておき、この質問は米国が5月25日を期日に設定していた、ロシアのソブリン債の支払を受けることを容認する例外規定の期日を延長する考えがあるかに関するものです。

特例の延長の「可能性は低い」

これに対し、イエレン長官はこう答えました。

“So, you know, we, when we first imposed sanctions on Russia, we created an exemption that would allow a period of time for an orderly transition to take place, and for investors to be able to sell securities. The expectation was that it was time limited. So, I think it’s reasonably likely that the license will be allowed to expire.  There has not been a final decision on that. But I think it’s unlikely that it would, you know, it would continue.”

この発言は、「当該措置は投資家がロシア国債を売るまでの時間的猶予を与えるという例外的なものである」とする米国政府の立場を示すとともに、「最終決定ではないにせよ、これが再延長される可能性は高くない」と述べたものだと解されます。

そのうえで、イエレン氏は次のように続けました。

“You know, in terms of Russia, Russia is not able right now to borrow in global financial markets, it has no access to capital markets. If Russia is unable to find a legal way to make these payments, and they technically default on their debt. I don’t think that really represents a significant change in Russia’s situation. They’re already cut off from global capital markets, and that would continue.”

ロシアは現在、グローバルな金融市場にアクセスする手段を失っており、そのロシアが債券の利払を行う手段を失えば、「テクニカル・デフォルト」が発生するだろう――。

そういう指摘です。

心理的圧迫効果が重要!

この点、イエレン氏は「ロシアはすでに国際的な市場から切り離されているから、(テクニカル・デフォルトが発生したとしても)ロシアの状況が大きく変わることはない」、といった点を付言しています。しかし、ロシアがテクニカル・デフォルトに追い込まれれば、ロシアに対する信用はよりいっそう低下するでしょう。

このあたり、『意外としぶとい?ルーブル「紙屑化」の可能性を考える』などでも議論したとおり、西側諸国の制裁「だけ」で、ロシアから戦争遂行能力を完全に奪ったり、ロシア経済を崩壊に追い込んだりすることは難しいかもしれません。

北朝鮮を道連れでどうぞルーブルが、意外としぶといです。もちろん、国際社会が対露制裁をさらに強化すれば、ルーブルがさらに下落することはあるかもしれませんが、だからとって「紙屑化」するのかどうかに関しては、非常に気になるテーマです。ロシアは内に籠ることができる国でもありますし、北朝鮮のように長年にわたる経済制裁にしぶとく耐えているという事例もあるからです。金融制裁・現時点までの効果金融制裁発表から1週間ロシアがウクライナに軍事侵攻したことを受け、国際社会がロシアに対する厳格な金融制裁を発表してか...
意外としぶとい?ルーブル「紙屑化」の可能性を考える - 新宿会計士の政治経済評論

しかしながら、一見すると実効性がないように見えても、心理的な圧迫効果も期待できるでしょうし、なにより「いまできる制裁措置」をひとつずつ着実に実行することは、ロシアによる違法な戦争を敗北に終わらせるうえで大変に重要な努力であることは間違いありません。

その意味では、いよいよ「ロシア国債デフォルト」が視野に入ったというのは、なかなかに興味深い現象といえるかもしれません。

新宿会計士:

View Comments (6)

  • まさに「テクニカル」という点が重要なんだと思います。償還に必要なだけの「価値があるもの」は準備出来るのがロシアの現状です。
    テクニカルデフォルトに追い込むことは、さらに制裁をつよめることが出来ます。

    ただ、ロシアを兵糧攻めで陥落させるのは、地下資源が豊富なだけに困難な気がします。やはり武力支援が鍵になると思います。

  • >ロシアが債券の利払を行う手段を失えば、「テクニカル・デフォルト」が発生するだろう――。

    ロシアンルーレット(選択?)のステージが、リボルバーから自動拳銃に変わるかのようですね。

    一発一中。弾が・・それん。

  • 「テクニカルデフォルト」匂わし
    すぐに結論ださない今の状況は
    私は効果があると思います。

    もちろんロシアは、
    「西側が制裁で払わさないだけで
     十分払える」と未練たらしく
    主張してくるロシアなだけに、
    「残念ロシア君! 
     君はテクニカルデフォルトなんだよん」
    とロシア生殺し状態にしてあげることは
    プーチンロシアの思い上がりは通用しない
    とじわじわ認識させるいい手だと思います。

    • もちろんロシアと
      ロシア支持するならず者国家と
      日本の鳩ポッポさんたちは、
      不当だあ!米帝があ~!(?)
      とかと騒ぐのでしょうが、
      世界の主要42か国が
      団結しての平和への思いの前には、
      そうした顔ぶれの騒ぎ立ては通用せず
      歯ぎしり噛んでもらう構図を際立たせるのに
      いいことだと思います。

  • ロシアの事だけ考えれば、やっちゃえアメちゃん!って思うがそのせいで影響が出る国は無いのだろうか?
    ロシアに制裁⇒中国の負担増⇒中国から金借りている国が困窮 みたいな。

    なんかスリランカがかなりヤバくなっているようだがロシアの事は全然関係ないのかな。

    • やっちゃいなよ!そんなジャンク債なんか!

      が最近のトレンドですw
      https://www.nicovideo.jp/watch/sm39087349
      ソビエト連邦に反省を促すダンス

      真面目な話。
      財政収支に対する国債依存度を調べてみようと思いましたが、西側先進国の資料は見つかるのですが、アッチ側のはさっぱりです。
      ロシアの国債ってどんな感じなんでしょうか。