X
    Categories: 金融

ロシア・タス通信、日本の追加制裁措置を大きく報じる

日本のメディアがほとんど注目していない対露追加制裁措置を、ロシアのタス通信がでかでかと取り上げました。こうした扱いこそ、ロシアが日本を強く意識している証拠のひとつです。日本政府の措置には実効性はあまりありませんが、心理的圧迫効果が期待できます。というのも、我々日本人にとってロシアは「大国」にも見えますが、現実には、ロシアの方こそ日本を恐れているフシがあるからです。

日本政府が対ロシアで追加制裁

ウクライナ情勢にかんがみ、日本政府は本日、外務省、財務省、経済産業省の3省連名で、ロシアに対する追加での経済制裁措置を発表しました。

報道発表は3省バラバラになされていて大変に読み辛いのですが、ここでは比較的よくまとまっている経済産業省のウェブサイトのページを紹介しておきたいと思います。

ウクライナ情勢に関する外国為替及び外国貿易法に基づく措置を実施します

ウクライナをめぐる現下の国際情勢に鑑み、この問題の解決を目指す国際平和のための国際的な努力に我が国として寄与するため、主要国が講ずることとした措置の内容を踏まえ、閣議了解「ロシア連邦関係者に対する資産凍結等の措置等について」(令和4年5月10日付)を行い、これに基づき、外国為替及び外国貿易法による次の措置を実施することとしました。<<…続きを読む>>
―――2022/05/10付 経産省HPより

具体的な措置の内容は、次の3点です。

  • ロシア連邦関係者8人、自称「ドネツク人民共和国・ルハンスク人民共和国」の関係者133人に対し、資産凍結等の措置(支払規制、資本取引規制)を適用する
  • ロシア連邦の特定団体として指定された71団体への輸出を5月17日以降禁止する
  • ロシア連邦への先端的な物品等の輸出等の禁止措置を導入する

これを、どう見るべきでしょうか。

正直、実効性はほとんどないはずなのだが…

ロシアがウクライナに軍事侵攻した2月24日以降、日本や米国、欧州の対ロシア制裁は三々五々適用されており、今回の措置にも特段の目新しいものはありません。あえて話題性があるならば、資産凍結対象に含められた人物のリストにロシアのミハイル・ミシュスチン首相自身が含まれたことくらいでしょうか。

実際、今回の外務省・財務省・経産省の3省連名による制裁についても、正直、主要メディアのなかで大きく報じたものは見当たりません。今回の措置自体、これまでの制裁措置の焼き直しのようなものであり、実効性にも乏しいためでしょうか。

ただ、「実効性はないから無意味だ」、とする見解は、大きな間違いです。

なぜなら、「意外なメディア」がこの話題を「トップ」扱いで速報的に取り上げていたからです。

Japan sanctions Russian PM Mishustin, LPR, DPR leaders, other people companies

―――2022/05/10 11:20付 タス通信英語版より

ロシアのメディア『タス通信』(英語版)は本日、港湾をバックにした日本国旗の写真とともに、「日本がロシアの首相を含めた個人に対して新たな制裁を発動した」と報じています。

内容としては、論評抜きで、日本政府による措置の内容を淡々と紹介するだけのものではありますが、ポイントは、これをタス通信が非常に目立つところに掲載しているという事実でしょう。ちなみにこの記事、英語版だけでなくロシア語版サイトにも同様に、でかでかと掲載されています。

Япония ввела санкции против Мишустина, руководства ЛНР и ДНР и других физических и юрлиц

―――2022/05/10 09:56付 タス通信より

ロシアはむしろ日本を恐れている

措置の内容自体はロシアに対しさほど大きな影響を与えるとも思えないにも関わらず、ロシアのメディアがこの話題に大きく注目しているというのも、非常に不思議な気がします。

この点、『ロシアのメディアで最近、頻繁に登場する国は「日本」』などでも取り上げましたが、ウクライナ戦争勃発以降、ロシアのメディアに「日本」が登場する日が非常に増えていることは間違いありません。

憲法記念日にもうひとつ考えておきたいのが、ロシアのメディアで最近、「日本」が頻繁に登場しているという事実です。ロシア自身が日本を強く意識しているという証拠ですが、その理由として考えられることは、日本自身が欧米諸国と同様、自由、民主主義、人権、法の支配といった「基本的価値」を強く信奉しているからです。逆に、日本政府がこれらの価値を共有していないとみなしている相手国に、中国、北朝鮮、韓国とともにロシアも入っている、というわけです。ウクライナ問題でさんざん外国メディアを眺める理由著者自身はもともと...
ロシアのメディアで最近、頻繁に登場する国は「日本」 - 新宿会計士の政治経済評論

私たち日本人の間で、ロシアといえば面積で日本の40倍、かつての東西冷戦期の旧ソ連時代には米国と覇を競ったほどの大国として認識している人も多いかもしれませんが、どうもそのロシアでは、逆に日本に対する畏怖の念を抱いているフシがあるのです。

もっといえば、ロシアは現在の日本が核武装もしておらず、「平和憲法」を所持していて、絶対に自分たちに攻撃を仕掛けて来ないと高を括っているフシもありますが、それと同時に日本の憲法改正を誰よりも恐れている国のひとつがロシアではないでしょうか。

もちろん、現在の日本がロシアに対し、直接的な武力行使をすることは難しいのですが、その一方で外為法の規定に基づき、「経済」「金融」という武器を使った攻撃をすることは可能です。日本はその外為法をフルに活用し、現在、ロシアを経済・金融面で攻撃しているようなものだといえます。

軍需工場の操業停止

では、こうした制裁がロシア経済に、長期的にはどのような影響を与えるのでしょうか。

この点、ウラジミル・プーチン大統領を筆頭に、ロシアの関係者の発言自体、威勢だけはやたらと良いのですが、現実には日本、米国、欧州などの西側諸国が団結し、ロシアに対してさまざまな制裁を仕掛けて来ることに困っているのかもしれません。

そういえば、『「5月9日」にあわせてG7がロシアに追加制裁を発表』あたりでも議論したとおり、ロシアでは最近、西側諸国からの部品などの輸入が滞り始めているためか、いくつかの軍需工場などが操業を停止し始めている、といった事例がG7会合でも報告されています。

5月9日といえばロシアにとり対独戦勝利記念日ですが、こうしたなか、5月8日にはG7がオンラインでサミットを開催し、ロシアに対する追加制裁や戦争犯罪の刑事訴追、石油の段階的な禁輸措置などを打ち出しました。制裁措置自体は不十分な点もあるものの、西側諸国の制裁がいくつかの部品に及んだことで、ロシアでは戦車の工場などの操業が停止している、といった事象も生じているようです。ロシアは対独戦勝利を祝うのか?5月9日といえば、ロシアにとっては対独戦勝利記念日だそうです。ロイターによると、例年この日はロシアに...
「5月9日」にあわせてG7がロシアに追加制裁を発表 - 新宿会計士の政治経済評論

このあたり、一部の「陰謀論者」の方から、「西側諸国側の政府発表を鵜呑みに信じない方が良い」、といったお叱りが来ることは承知していますが、それでも産業が高度化し、世界経済が一体化するなかで、西側の対露輸出規制がロシア経済にじわじわと打撃を与えることは、当然に予想される話でもあります。

心理的圧迫効果も!

もちろん、『意外としぶとい?ルーブル「紙屑化」の可能性を考える』などでも議論したとおり、西側諸国の制裁「だけ」で、ロシアから戦争遂行能力を完全に奪ったり、ロシア経済を崩壊に追い込んだりすることは難しいかもしれません。

北朝鮮を道連れでどうぞルーブルが、意外としぶといです。もちろん、国際社会が対露制裁をさらに強化すれば、ルーブルがさらに下落することはあるかもしれませんが、だからとって「紙屑化」するのかどうかに関しては、非常に気になるテーマです。ロシアは内に籠ることができる国でもありますし、北朝鮮のように長年にわたる経済制裁にしぶとく耐えているという事例もあるからです。金融制裁・現時点までの効果金融制裁発表から1週間ロシアがウクライナに軍事侵攻したことを受け、国際社会がロシアに対する厳格な金融制裁を発表してか...
意外としぶとい?ルーブル「紙屑化」の可能性を考える - 新宿会計士の政治経済評論

しかしながら、一見すると実効性がないように見えても、心理的な圧迫効果も期待できるでしょうし、なにより「いまできる制裁措置」をひとつずつ着実に実行することは、ロシアによる違法な戦争を敗北に終わらせるうえで大変に重要な努力であることは間違いありません。

その意味では、ロシアのメディアが日本の制裁措置を大々的に取り上げたこと自体、今回の日本政府の措置がロシアにとって「効いている」という間接的な証拠と見ても良いかもしれません。

新宿会計士:

View Comments (11)

  • NATO諸国や欧州の諸国が急旋回して対応を強化して居るけれど、現状NATO vsロシアに止まり、中東諸国やイスラエルでも農産物や食品の輸出は変わらない。そんな中ほとんど日本だけが欧州諸国に半歩後ろぐらいを大した危機感も無く制裁に参加している。日本はロシアが欧州やウクライナに対する軍事プレゼンスを中共相手として動いている様な所がある。つまり中共とロシアは一蓮托生なのだと。今日のウクライナ戦争は明日の台湾有事なのだと。そう言う気があるから欧米NATOに協調して制裁している。またあまりにも戦後長くシベリア抑留や北方領土の「無賠償無併合」の戦後処理の原則からソ連とロシアだけが日本をおちょくって無視してきた。
    戦争は流した血の代償で戦後処理が行われる。アメリカは正しく日本と徹底的に戦った。だが当時の蒋介石軍もスターリンソ連も中共軍もそうでは無い。二千万人の犠牲は対独戦争での事で、ドサクサ紛れに弱ってる日本に漬け込んで楽して領土をとり、抑留者を奴隷労働させそれを「対独戦争勝利」に混ぜ込ませる事は無理筋です。「独ソ不可侵条約」の様に「日ソ不可侵」も決まっていた。
    日本が長い眠りから覚めて少しずつ国防を固める方向に舵を切った。それは外交establishmentには恐ろしい事が見えているのかも知れません。

  • ①特定団体への輸出等禁止
     詳しくないですが、リスト内容からは軍需関係の基幹工場を網羅している
     ように見えます。一律禁止なので一般民生品も駄目ですね。
     (等なのでう回とか輸出済を回すとかも駄目)
     民生品でもすぐに代替が難しいものがあれば生産停止に追い込まれそう
     です。

    ②先端的な物品等の輸出等の禁止
     「等」が二つあるのに詳細がないのが恐ろしい。輸出管理の対象外である
     食料とかを除けば、事前伺い無しに輸出は怖くて出来そうもないです。
     (で、伺っても安心できる回答がなされない→実質禁輸と予想)

  • >ロシアはむしろ日本を恐れている

    恐れる理由が思い浮かばないのですが・・。でも日本が意外にロシア嫌いだったことが判りショックだったのかも知れません。

    中国と組んで日本の周りを軍艦で威嚇航行するような、下品なならず者国家は一刻も滅びるよう行動に移す必要があります。津軽海峡、大隅海峡を隊列を組んで通過するなど日本を舐めるにも程があると思います。今こそチャンスです。日本はスパイ防止法の施行、核ミサイル搭載の原潜配備を一刻も早くすべきでしょう。

  • 先週のプライムニュースで安倍元首相は、中国ロシア、北朝鮮の3正面も自衛隊が抑えるには厳しいのが現実で、増大する対中国リスクに備えるためだからこそロシアとは27回も会談してリスク管理した、というような発言をされてました。ロシアリスクが段違いに高まったことで、対中国のため益々FOIPが重要になったと思います。

    • いろんな立ち位置違う情報も
      知ることはとても大切で
      匿名さまご紹介ありがとうございます。

      ただそのうえでなのですが
      >偏見のない目でロシアを
      >知ろうとする情報が拡散 ??
      との触れ込みですが、
      本当にそうならいいのですが、
      むしろ、
      初期に見抜かれ失敗した
      KGB旧来手法での工作情報なのでは?
      との懸念も拭いきれません。

    • ひとつめのリンク先に出てきた名前見て目眩してすぐ閉じました。

      ふたつめのリンク先の内容は先日の国連でのANNE-LAURE BONNEL氏の報告内容ですね。

      あと、カナダ人WALI氏の最近の発言に注目しています。

  • 日本語の訳詞では全く違う印象ですが
    誰もが知ってるロシア民謡は
    国境を守るという軍歌ばかり
    あ。トロイカはちがうな
    中露の国境でも中国側は鷹揚に構えてるのに
    ロシア側はピリピリ
    実のところ国境を挟む町の中国側は摩天楼がそびえる大都会
    ロシア側はさびれた田舎町です
    広大な国土を有していても
    領土を卑劣な手段で拡大したという自覚が
    怯えを産むのでしょう

  • 会計士様の日本を恐れる! と言うのはちょっと違うような
    スパイの指摘で笑いながら日本を離れるロシア人。
    北方領土での理不尽な扱い。
    もしかしたら闇夜の北方領土付近で網を引き上げ中の漁船へ貨物船の体当たり。
    これだけやられ続けている日本が楯突いている。
    への恐れ(驚き?)でしょうか?
    それともアジア人が白人へ楯突いた事でしょうか。
    間にも書きましたが、特大北朝鮮になる事も覚悟しておいた方が良いと思います。

  • つらつら考えるに
    『ロシアはむしろ日本を恐れている』?
    は、実はあるかもと考えます。

    これまでロシアは太平洋戦争
    日本敗戦のどさくさで
    領土掠め取ったのに下手に出てくる
    日本にシメシメと甘く見ていたのは
    間違いないと思います。

    ただ、過去に日本を舐めて送った
    バルチック艦隊壊滅の史実と
    まさに今ロシア敗色が濃厚ななかで
    実は過去の後ろめたさとなんせ、
    自国が誇る攻撃ドローンも実は
    日本の民生品カメラ搭載している状況で
    GDPにいたっては日本のたった5分の1しかない
    貧弱な工業力を顧みて勝手に(笑)
    日本におそれをなしているのは
    十分ありうるのではとも思います。

    さりとて、
    ロシアが勝手にびびっているだけで
    今日本がせこいロシア式に武力を行使
    することなどはないのですが
    傲慢で思い上がりのロシアが
    鼻柱おられての今後の平和的な交渉では、
    これまでとちがって、
    世界に仇名した敗戦国ロシアに対して
    これまでの弱気と違って当たり前に堂々と
    強気の交渉をしていくことは
    ならず者国家とは友愛結ぶ
    所詮そんなこんなの人たちである
    鳩ポッポさんたちなんかは捨て置いて 
    当然のあるべき姿だとも考えます。

  • >ロシアのメディアが日本の制裁措置を大々的に取り上げたこと自体、今回の日本政府の措置がロシアにとって「効いている」という間接的な証拠と見ても良いかもしれません。

    日本による制裁がロシアに「効いている」と言ってもブログ主様が書かれているような「ロシアは日本を恐れている」というような話ではなくて,共産チャイナや北朝鮮や韓国(韓国人とりわけ政治家等の言動に非常に良く見られる朱子学原理主義的な全てを上下関係で位置付け対等関係を認めようとしない思考法や中華思想に基づき日本を見下す発想から韓国は権威主義的な性格が十分過ぎるほど強い国家です)のような権威主義国家は,面子を潰されるのを非常に嫌い,また相手国からの自らの面子を潰す外交アクションに強く反応・反発します.

    ソ連・ロシアの場合,ソ連末期のゴルバチョフと崩壊直後の時期を率いたエリツィン政権のロシアは自由民主的な方向へ向かおうとしていましたが,少なくともスターリン的ソ連へと先祖返りしようとしている第二期プーチン政権のロシアは,上述の共産チャイナ等と同じく極めて権威主義的な性格の強い国に戻ってしまいました.

    ですので,日本による対ロ制裁にタス通信やロシア政府が強く反応するのは,日本を恐れているからではなく,ロシアからすれば明らかに圧倒的な格下と看做している日本が遥かに格上の自分を制裁して自らの面子を繰り返し潰そうとしている事実に強く反応していると理解するのが適切だと考えます.