X

報道で狂犬病防疫体制を緩める農水省「本末転倒」ぶり

日本は1950年に制定された狂犬病予防法に基づき、狂犬病清浄国となりました。この防疫に穴が開きそうになっています。テレビ朝日が先週報じた、「ウクライナからの避難民が連れて来た愛犬の待期期間で巨額の費用が発生している」とされる問題を受け、産経ニュースは昨日、農水省が特例措置を講じる方針だと述べたのです。本末転倒とは、まさにこのことでしょう。

ウクライナ避難民の日本への入国・滞在

ロシアによる違法なウクライナ侵略で、ウクライナで大勢の方が犠牲となり、また、大勢の方が住まいを失うという事態が生じていることは、本当に心が痛みます。

個人的に、西側諸国が凍結しているロシアの外貨準備については、ウクライナ復興支援目的に使用できるようにすべきではないかと考えていますし、また、G7を中心に、そのための法整備を急ぐべきではないかと思います。

ただ、さしあたっては、可能な限り、人道的な目的で避難民を受け入れるべきでしょうし、実際、日本政府はすでに複数のウクライナ人の受入を行っています。

出入国在留管理庁のウェブサイト『日本に在留しているウクライナのみなさんへ』などのページによると、ウクライナにおける情勢を踏まえ、「帰国に不安を抱く在留ウクライナ人の方々について、引き続き日本国内に留まることができるよう」、ウクライナ人に対する在留許可の判断を適切に行う方針だとしています。

これに加え、避難する目的で「短期滞在」の在留資格で日本に入国した場合には、就労可能な「特定活動(1年)」への在留資格の変更許可申請を受け付けるなど、とりあえずはある程度の期間、日本に滞在が可能な仕組みを設けているようです。

「徹底して自分に甘い」テレビ朝日の報道

ただ、こうしたなかで、非常に気になる話題も出て来ました。テレビ朝日が先週、ウクライナ避難民が連れて来たペットの犬を巡る検疫で、殺処分のおそれがある、などと報じたのです。

「愛犬を助けて」ウクライナ避難者の負担…1日3000円 ペットに「法律の壁」

―――2022/04/14 18:56付 Yahoo!ニュースより【テレビ朝日配信】

話しは、こうです。

現在の日本では狂犬病予防法に基づき、最長で180日間の検疫所での検査が義務付けられているそうです。これについてテレビ朝日は次のように伝えています。

1泊3000円×181日分と交通費3000円で54万6000円。もしお金を支払えなければ、レイ君(※犬の名前)の世話をすることはできません」。

メールで追い打ちをかけるように、一日3000円かかることを教えられました。こんな金額を支払うのは難しい。仕事もないし、支援金も頂いていませんし…」。

まるで、日本が非常に非人道的な国であるかのような記事です。

(※ちなみにテレビ朝日といえば、『徹底して自分に甘いテレビ朝日:説明は明らかに不十分』でも述べたとおり、昨年8月、東京五輪閉会式当日の深夜に女性局員が渋谷のカラオケ店で泥酔・転落した事件で、社内の調査と報告、関係者の処分が非常に甘かった企業でもあります。)

せめて1ヵ月くらい自主停波しては?「甘い、甘い、甘すぎる」!昨日の『「転落事件」から1ヵ月:ダンマリ決め込むテレビ朝日』の「続報」が出てきました。株式会社テレビ朝日が(なぜかPDFファイルで)例の不祥事についてやっと1ヵ月ぶりに詳細を発表したのですが、事実関係の調査と発表になぜ1ヵ月もの時間を要したのか、そして関係者に対する処分があまりにも軽すぎないか、読めば読むほど疑問に感じます。テレビ朝日がやっと報告書を公表昨日の『「転落事件」から1ヵ月:ダンマリ決め込むテレビ朝日』では、テレビ朝日とい...
徹底して自分に甘いテレビ朝日:説明は明らかに不十分 - 新宿会計士の政治経済評論

事実確認:狂犬病はこんな病気

それでは、事実確認をしておきましょう。

厚生労働省ウェブサイト中の『狂犬病』のページの説明によれば、狂犬病は人間を含むすべての哺乳類に感染する可能性があり、人間の場合は潜伏期間が1~3ヵ月程度とされ、発症した場合には有効な治療法がなく、ほぼ100%、呼吸障害により死に至ります。

ただし、通常は人間から人間に感染することはなく、また、日本国内では犬の登録と年1回の予防接種が義務付けられ、野犬の管理が徹底されているためでしょうか、1950年の狂犬病予防法制定から7年で狂犬病自体が撲滅されています。

とくに日本は島国ですので、狂犬病のウィルスを持った犬、猫、あらいぐま、きつね、スカンクのたぐいが日本にやって来るとしたら、基本的にその手段は船か飛行機しかありません。

しかも公益財団法人奈良県獣医師会のウェブサイトによると、世現在、「界で狂犬病が発生していない国・地域」(つまり「狂犬病清浄国」)は、日本を含めて世界に11ヵ国しか存在しておらず、農水省ウェブサイトによると、「清浄国」指定されているのは、現時点では6ヵ国・地域に留まります。

ということは、基本的にこれら6ヵ国・地域以外からやって来る生きた犬などについては、検疫所で待機させることが必要、ということでもあります。

もっとも、動物検疫所ウェブサイトによると、検疫期間についてはたしかに最長で180日ですが、証明書などがあれば、最短12時間以内にまで短縮が可能です。テレ朝が報じた事例も、おそらく、ウクライナの本国が混乱しているため、本国で証明書が取れなかったという事情があるのだとは思います。

いずれにせよ、難民の方々には同情はしますが、防疫に穴をあけて良い、という話ではありませんし、あたかも日本が非人道的な国であるかのような印象報道を行うテレビ朝日という組織にも、かなりの問題がありそうです。

本末転倒!防疫緩めた農水省

こうしたなか、もっと困った話が出て来ました。

ウクライナから避難のペット犬検疫で特例 農水省が発表

―――2022/4/18 17:43付 産経ニュースより

産経ニュースによると、農水省が18日、ウクライナの避難民が連れて来た犬について「狂犬病予防法に基づく防疫体制を一部見直し、特例措置を適用する」と発表したそうです。

「ウクライナ政府の現状を踏まえ、必要な出国地政府発行の防疫書類がなくても、予防状態を確認後に条件付きで動物検疫所での係留措置を短縮する」、などとしていますが、これはどう考えるべきでしょうか。

冷静に考えて、明らかに本末転倒しています。

「人道上の理由により、特例としてペットの検疫に係る費用54万6000円を国費負担する」、というのならば、まだ話はわかりますが、「必要な証明書がない」状態で検疫に例外を設けるというのは、法の趣旨に照らして明らかにおかしな話です。

狂犬病を甘く見るべきではありません。

ちなみに産経ニュースには、こんな記述があります。

同問題をめぐっては、避難民の一人が愛犬の係留期間中の管理費用を賄えず、動物検疫所から代行費用が負担できないのであれば殺処分になるという趣旨のメールを受け取ったと一部メディアが報じていた。農水省は『そうしたメールは発信していない』と否定。該当する避難民の犬についても、今回の措置で血液検査結果に問題がなければ連れて帰れるとしている」。

この記述が事実であれば、「一部メディア」、すなわちテレビ朝日という「徹底的に自分に甘い組織」の報道を鵜呑みに、行政上の措置を緩めると決定したという可能性が濃厚でしょう。農水省は、メディアの「言いがかり」報道に対し、少々、耐性が弱すぎるのではないでしょうか。

農水省に問い合わせてみた

いずれにせよ、先ほど農林水産省の『農林水産省総合窓口』に対し、本件を巡って次のような意見を送付しております。

産経ニュースは2022/4/18 17:43付『ウクライナから避難のペット犬検疫で特例 農水省が発表』で、農水省がウクライナ人の持ち込んだペットの犬の待機期間を短縮する特例措置を講じると報じました。人道上の理由でウクライナ人避難民が愛犬を持ち込もうとすることについては仕方がない話ですが、狂犬病清浄国であるわが国において、厳格な防疫措置に例外を設けるのはいかがなものでしょうか。論点が「避難民にとってペットの待期期間の費用が高すぎること」にあるのならば、その費用を免除するなどの措置を検討すれば良い話ではないでしょうか。いずれにせよ、産経報道が事実であるならば、農水省はテレ朝などの報道の批判に弱すぎます。防疫措置に穴をあける今回の措置については強く抗議するとともに、措置を直ちに撤回するよう、強く求めます。

これについて農水省から返答はあるのでしょうか?

新宿会計士:

View Comments (28)

  • これが許されるならコロナ感染者も人道的見地から隔離なしで野放しも許されることになりますね。
    防疫を緩めるのではなく、検疫が終わるまで国が補助金的なお金を出してあげるのが正しいのでは。

  • 正論だと思います。
    防疫体制を緩める科学的根拠はなく結論は明らかなのに、ツイッター上では「いつもの」陰謀論が展開されていてウンザリしていました。(笑)

    農水省のHPにも情報が見つけられず、政策変更のプロセスがよくわかりません。課長通達とかでしょうかね。
    左巻きのメディアの圧力でお役所の裁量権発揮なんて、古典的な手口ですけどネット時代でも無くならないかもですね。
    ネット上の陰謀論者対策って、どうしたもんでしょうかね。

  • 原理原則で考えれば確かにその通りですが
    避難先に、わざわざ日本を選択する避難民の程度は 低く無いと思う
    戦争中で 荷物を抱えて移動するのも大変なのに、
    何週間もかけて 日本まで大事に犬を連れてくる。
    そんなに 愛着のある飼犬が感染しているか?・・・と考えると
    ほぼ無いと思います。

    • >ほぼ無いと思います。

      匿名さんのお気持ちを否定するつもりはありませんが、政策を変更するには、それを示す相応の「根拠」が必要だと思います。
      民主国家の宿命と思います。

    • 逆でしょ。感染している可能性高いよ。
      戦争の混乱の中、不潔な場所を逃げまどってたんだから。元々感染してたかもしれんし。

  • 農水省へのお問い合わせ、お疲れ様です。実は少し前、私は、デジタル版購読者としてサンケイ新聞の意見受付先アドレスにメールにて某日1面見出し記事について初めてクレームしたところ、2時間後に「編集に報告します」という短いぶっきらぼうな回答を得ました。
    親方日の丸(古い?死語?)からもし返事がある場合は、逆に慇懃無礼なほど丁寧かつ中身のない返事がくるのかなと勝手に妄想しております。

  • 日本は数少ない狂犬病清浄国、口蹄疫清浄国です。
    このことがどれだけ国内の安全や畜産物の輸出に貢献しているか 政府は自覚するべきです。
    マスコミを気にする政策は 日本を大陸同様の汚染国に落とすことになります。
    イチゴなどの日本開発品種が安易に海外に盗まれたり 今回の措置、農林省 無能ですね。

  • >仕事もないし、支援金も頂いていませんし…
    支援金を貰って当然みたいなこんな言い方を本当にされていたのか、朝日の歪曲か・・・。

  • 発症したら致死率ほぼほぼ100%なのに農水省アタマおかしく気が狂ってる…

  • ご意見もっともだと思います。
    いつも朝日系とTBS系は、法治を破壊しようとする(怒)
    私も農水省に送っときましたw

  • 山際大臣が獣医かなんかではなかったかな。
    大臣はこのこと知ってるのかな。

  • テロ朝は恣意的かつ迷惑この上ない虚偽報道への罰則として1年くらい停波させるべきだね。
    有事に際して各関係部署がごった返している時を狙うかのような、大混乱を招きかねないエビデンスのない報道に対しては粛々と厳罰を下さないとマスゴミのやりたい放題になってしまう。
    TV、ラジオ、新聞が大嘘を報じるなんて今に始まった話ではないが、自浄作用なぞ全く期待できない以上罰則はあって然るべきで、完全な第三者機関を発足させ不穏な報道は精査し、社会に混乱を招く悪質なものは刑事事件として裁くべき。

1 2