ついに、ネット広告費がマスコミ4媒体広告費を追い抜きました。株式会社電通が先月公表した2021年版の『日本の広告費』によれば、マスコミ4媒体(新聞、雑誌、テレビ、ラジオ)の広告費はコロナ禍で急減した2020年と比べてやや持ち直したものの、成長著しいインターネット広告費に、あっけなく追い抜かれた格好です。本稿ではまず、その事実確認をしておきたいと思います。
目次
株式会社電通『日本の広告費』の最新版
当ウェブサイトでは例年、株式会社電通が公表している『日本の広告費』というレポートをもとに、インターネット広告費とマスコミ4媒体の広告費などの比較をしてきました。
昨年に関しては、『埼玉県民様から:2020年版「日本の広告費」を読む』にて議論したとおり、「埼玉県民」様というコメント主様からいただいたデータなどをもとにして、これを分析したところです。
当ウェブサイトでは例年、株式会社電通が公表する『日本の広告費』というレポート(に添付されているデータ)を使い、「広告費から見たマスメディア業界」についての議論を行っています。先日、「埼玉県民」様から今年版のデータが公表されたとの連絡とともに、過年度のデータについても改めてご提供をいただきました。本稿はこれについて、レビューしてみたいと思います。例年の『日本の広告費』例年、この時期になると取り上げるのが、「埼玉県民」様というコメント主様から提供される、『日本の広告費』という公表物に関する話題で... 埼玉県民様から:2020年版「日本の広告費」を読む - 新宿会計士の政治経済評論 |
その最新版が、今年も株式会社電通のウェブサイトに公表されていました。
2021年 日本の広告費
―――2022年02月24日付 株式会社電通HPより
今年に関してはウクライナ情勢などがあったため、ちょっと分析にとりかかるのが遅れてしまいましたが、ざっとレビューが終わりましたので、気になった論点をいくつか紹介していきましょう。
総広告費は横ばいが続く
まずは、総広告費と媒体別の内訳です(図表1)。
図表1 総広告費とその内訳
(【出所】株式会社電通『日本の広告費』および「埼玉県民」様提供データより著者作成。なお、新聞、雑誌、ラジオ、テレビの4つが「マスコミ4媒体」であり、また、図中「PM」と略しているのは「プロモーションメディア広告費」のこと。PMにはたとえば屋外広告、交通広告、折込チラシなどが含まれる)
これによると、2021年の総広告費は6兆7998億円で、2020年の6兆1594億円と比べれば6404億円増えました。単純な「前年比の増加率」でいえば、10%以上です。
ただ、これは「好景気だから増加した」というよりも、どちらかといえば2020年のコロナ禍での落ち込みという要因が大きかったと考えられ、実際に6兆9381億円だった2019年と比較すると、むしろ総広告費は減少しているのですが、これについては図表3の箇所で後述します。
また、図表1で見る限り、この20年あまり、総広告費が6~7兆円程度で横ばいだというのも、いかに日本が経済成長をしていないかという証拠に思えてなりません。
史上初めて「ネット>マスコミ4媒体」
ただ、それ以上に衝撃的だったのは、マスコミ4媒体の広告費を、ネット広告費が史上初めて上回った、という点でしょう(図表2)。
図表2 広告費(インターネットvsマスコミ4媒体)
(【出所】株式会社電通『日本の広告費』および「埼玉県民」様提供データより著者作成)
ネット広告費はコロナ禍の2020年においても前年より6%近く増えていて、2021年に入るとさらに前年比21%と強く伸びて2兆7052億円と、マスコミ4媒体の広告費(2兆4538億円)を大幅に上回ってしまったのです。
マスコミ4媒体の広告費はコロナ禍で落ち込んだ2020年と比べ、2021年にはいくぶんか回復していますが、コンスタントな成長を続けるインターネット広告費には勝てず、あっけなく追い抜かれてしまった格好です。
マスコミ、とくに新聞の落ち込みは回復せず
これについて、もう少し詳細なデータとして、直近3年分のデータを確認しておきましょう(図表3)。
図表3 広告費の比較(2019年~2021年、金額単位:億円)
区分 | 2019年 | 2020年 | 2021年 |
---|---|---|---|
総広告費 | 69,381 | 61,594 | 67,998 |
マスコミ4媒体 | 26,094 | 22,536 | 24,538 |
うちテレビ | 18,612 | 16,559 | 18,393 |
うち新聞 | 4,547 | 3,688 | 3,815 |
うち雑誌 | 1,675 | 1,223 | 1,224 |
うちラジオ | 1,260 | 1,066 | 1,106 |
ネット | 21,048 | 22,290 | 27,052 |
PM | 22,239 | 16,768 | 16,408 |
うち折込 | 3,559 | 2,525 | 2,631 |
(【出所】株式会社電通『日本の広告費』より著者作成)
先ほど述べたとおり、マスコミ4媒体の広告費はあっけなくネット広告費に抜かれてしまったのですが、このマスコミ4媒体のなかでもとりわけ悲惨な状況に陥っているのは、とくに新聞・雑誌・折込でしょう。
このうち新聞に関しては、2019年に4547億円だったのが、コロナ禍の2020年には一気に前年比20%近く減少し、4000億円の大台を割り込んで3688億円へと転落。2021年においても4000億円の大台を回復することができていません。
また、折込チラシに関しては2019年には3559億円だったのが、2020年には一気に前年比30%近くも減少して3000億円の大台を割り込んで2525億円へと転落していて、これもやはり2021年においても3000億円の大台を回復していません。
さらに雑誌に関しては、もともと2019年時点で1675億円と、新聞・折込と比べて少なかったのですが、これが2020年に1223億円におちこみ、2021年においても1224億円と、前年比ほぼ横ばい、という状況にあります。
まさに「紙媒体受難の時代」でしょう。
そういえば、以前の『紙媒体の新聞から10代が離れた』でも話題として取り上げましたが、社会全体で紙媒体の新聞を読む人は急速に減っており、若年層では紙媒体の新聞を読んでいる人は、ほぼ10人に1人いるかいないか、といった状況にあります。
「テレビ利権」はいまだに根強いが、果たしてその将来は?以前の『新聞を「情報源」とする割合は10代以下でヒトケタ台』では、総務省の調査結果を速報的に紹介したものの、記事のなかに盛大な事実誤認が含まれており、その訂正に追われるあまり、続きについて紹介しそびれてしまいました。ただ、ネット上でちょっと興味深い記事を発見したという事情もあるため、あらためて「メディア利権」についての先行きについて、考えてみたいと思います。総務省の調査当ウェブサイトにおける盛大な事実誤認のお詫び以前の『新聞を「情報源」とす... 紙媒体の新聞から10代が離れた - 新宿会計士の政治経済評論 |
紙媒体のメディアが広告媒体としての魅力を喪失するのも仕方がない話かもしれません。
テレビ業界だって「安泰」ではない
もっとも、テレビにしたって、コロナで落ち込んだ広告費の回復は、新聞・雑誌と比べればかなりマシではありますが、それでもコロナ禍以前の水準を回復したわけではありません。2021年の広告費は1兆8393億円、2020年と比べて1834億円増えましたが、2019年の1兆8612億円には微妙に届いていません。
それに、テレビCMだって安泰ではありません。昨年の『テレビ利権を突き崩す、「テレビCMゼロで増収増益」』でも紹介したとおり、すでに一部の企業はテレビCMをやめ、ネットに特化し始めているからです。
しまむらの事例は「アリの一穴」?いよいよテレビ利権の崩壊が始まるのか衣料品大手のしまむらが2021年2月期連結決算で広告費を抑制しながら増収増益を達成したことが、ネットメディア『J-CASTニュース』で報じられました。J-CASTニュースによると、しまむらの企画室は「テレビCMよりYouTubeなど動画広告の方がより低いコストで売上効果も十分あった」と明らかにしたそうですが、こうした動きは他社にも広まるのでしょうか。利権の特徴の3点セットあくまでも一般論で申し上げるなら、「利権」と呼ばれる構造には、個人... テレビ利権を突き崩す、「テレビCMゼロで増収増益」 - 新宿会計士の政治経済評論 |
とくに「しまむら」の事例でいえば、テレビCMの放送を全面的に取りやめたことで、広告費が大幅に減っただけでなく、売上高はむしろ増えています。
当ウェブサイトでは普段から、「新聞業界は下手をしたらあと数年で壊滅する(かもしれない)」などと申し上げていますが、今日の新聞業界は明日のテレビ業界、ということではないかと思う次第です。
【予告】コロナでチラシ需要が急減し始めた…!?
さて、ここから先は、「予告」です。
以前の『新聞社幹部「新聞には正確な情報源として需要がある」』などで、日本新聞協会が毎年発表している新聞部数データについて取り上げました。
新聞部数はこの20年あまりで約4割減少しましたが、それは新聞業界の自業自得、という側面が強いように思えてなりません。インターネットの出現によるテクノロジーの進化に取り残されただけでなく、記者クラブ制度だ、消費税の軽減税率だ、再販価格維持だ、といったさまざまな特権に守られている間に、業界自体がすっかり腐敗し切っているのかもしれません。新聞の部数の減少20年間で新聞部数は約4割減った昨年の『データで読む:歯止めがかからない新聞の発行部数減少』では、一般社団法人日本新聞協会が公表する『新聞の発行部数と... 新聞社幹部「新聞には正確な情報源として需要がある」 - 新宿会計士の政治経済評論 |
あらためてこの新聞協会のデータと今回の株式会社電通のデータを見比べていくと、「ある仮説」が浮かんできます。それは、「コロナをきっかけに、チラシ需要が急減し始めた」、とするものです。
ただし、これについては議論し始めると少し長くなってしまいますので、別稿にて詳しく検討したいと思います。その別稿については、可能なら本日か明日あたりに当ウェブサイトに掲載したいと思います。
記事タイトルは『新聞業界を支えてきたチラシ需要が、ついに崩れ始めた』などとする予定ですので、どうかお楽しみに!
View Comments (9)
ついにそういう時代になりましたか。なんだか、感慨深いです。
これをマスコミ側が認識していない訳がないですが……いつも通り
「時代は厳しい、新しい知恵が求められている」などと言ったコメントでお茶をにごし、
実際は何もしないと言うパターンなのでしょうかね?
業界そのものが品質を向上させないといけない、ネットでは手に入らない様な
プロの仕事を見せなくてはいけない……それが分かっていたとしても、
「既にやっている!視聴者がネットを過剰評価し、我々を過小評価しているのだ!」
と言う態度をつらぬくのなら、マスコミは強制的な減量を強いられるだけですね。
マスコミが絶滅したら、ネットはどうなるか予想つかない
広告業界の中の人からすると予想通りです。
何故ならインターネット化が早かったイギリスなどは5年以上まえから超えています。日本は遅かったくらいです。全世界でも50%を超え2025年には60%を超えると言う予測も。
テレビではOTTやコネクテッドTVが普及しリニア広告からデジタル広告へ移行も早く2倍になるのも数年後という予測もあります。
日本はテレビ局や新聞社の再編成が遅すぎた結果被害甚大と言う感じでしょうか。
広告費収入の減少の影響を直接、または間接的に受けて、早期退職を促していると思われる企業の例・・・。
・博報堂DY
・フジテレビ
・東京スポーツ
・NHK(広告費には関係ないが、今後受信料を引き下げれば、将来の業容拡大見込みなし?)
・・・。
この詳細は、【2022年最新版】大企業のリストラ一覧(早期退職・希望退職)から。↓
https://shigoto-cafe.com/restructuring/
大企業ではかなりの特別優遇加算金が支給されるでしょうから 退職する社員のことを哀れに思う必要があるのかどうかは不明ですが、同時に打ち切りとなる非正規社の方々はどうなる。(if any)。
テレビ広告の効果が薄いなら広告打つ会社は減るはずだが、スポンサーがつかず停波という現象は残念ながらまだみられない。
そのかわり最近やけにショップチャンネルが増えた。BSはほとんどショップチャンネルか韓流ドラマ。コマーシャルもえげつない。「ちょーーーーっと待ってください!」「番組終了から30分以内なら~」「初回限定半額」「オペレーターを増やしてお電話をおまちしま~す」
テレビ広告など高嶺の花と思っていた会社にアプローチして「社長、御社もこれだけ大きくなったんだからテレビ広告やってみませんか」といったところか。
新宿会計士様はしまむらの事例をあげていますが私は逆を。
最近ではアメリカの動画検索ツールが日本に上陸した時にはテレビCMを展開した後に検索量が30%上昇しました。
モバイルゲームのテレビ広告は実は増え続けていると言う事実もあります。あるゲームはテレビ広告展開後にダウンロード数が倍に増えたなんていうのも。
日本のテレビ局は変わらなければ存続は難しいとは思いますがテレビ広告というか映像を使った広告はなくならないしそれを流す媒体特性に従い戦略を考えていくと言う時代にとっくになっています。その結果テレビ広告を減らす企業ももちろんあります。
実際にはテレビ局は広告代理店に営業します。地方だと御社も〜なんて言うのは多いと思います。
BSなんかは制作費はめちゃくちゃ安いです。
私もあるプロモーション企画を立てた時に成り行きで番組つくっちゃったことあります。
韓流ドラマが多いのも使用料金が激安だからです。とにかく安く売り露出を増やす、シェアを取るという韓流ビジネススタイル。
直接関係ないのですが、ほぼ唯一のTVでの視聴番組のBSフジプライムニュースで、昨晩はAC公共広告機構のCMが入っていました。
注意してみていなかったので、どこのスポンサーが抜けたかはわかりませんでしたが、何がきっかけでCMが炎上するかわからない昨今、今回のウクライナ危機でスポンサーのリスク回避判断があったのだろうかと想像しました。
ウクライナ大使やロシア大使が出演するような番組ですしね。
別の記事へのコメントを再投稿します。
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まともな野党の台頭が不可欠であるのと同様に、まともなマスメディアの確保も喫緊の課題だと思います。
新宿会計士様が予てよりご指摘の通り個人ブログや論評サイトにおけるWeb論評はかなり充実しており、数人の論説委員が定型文を垂れ流しているだけの新聞各紙など今や足下にも及びません。
他方、現場での取材についてはまだまだマスメディアに代わる存在が無いのが現状だと思います。
政治経済社会文化に大小の変化をもたらす世の出来事に関する第三者の視点からの調査報道は、情報インフラとして欠かせません。
前述のWeb論評も、大半は議論の前提となる事実関係を当事者機関の公式発表かマスメディアの報道に依存しているため、まともなマスメディアが育たないと情報源が大本営発表のみに限られてしまうリスクが有ります。
辛うじて光明が有るとすれば、一つはSNS、もう一つは各業界の第一線で活躍している専門家による論評でしょう。
白昼発生した事件事故であれば、偶々居合わせた個人によるSNSは「いつ・どこ・で何が」起こったかを世に知らしめる最速の情報源となり得ます。
しかし、「何故・どのように」起こったかを調べるのは素人の手に余り、ましてや政治経済文化に関する情報源としての役割は望むべくも無いため、やはり調査報道のプロフェッショナルとしてのマスメディアは必要でしょう。
また、SNSによる拡散・炎上はかつてのメディアスクラムによる加害行為を大衆化してしまっているため、個人的には当事者(特に事件事故の被害者及び罪が確定する前の容疑者)のプライバシーを守るための規制が必要だと思っています。
各業界の専門家による論評は最も信頼が置ける情報源で、私自身も個人的に一番読む機会が多いのはこの手のWeb記事です。
(このサイトの金融関連の記事も私の中ではここに分類されます)
しかしこれにも難点があり、正確性と客観性がトレードオフの関係にある点には注意が必要です。
優れた論評が書くには業界内部で実務に当たる専門家で有ることが望ましいですが、個々の事象の現場に近くないと正確な情報が得られない一方、近すぎると専門家としての利益相反が発生して当事者となってしまい、ポジショントークのインセンティブが働く恐れがあるからです。
以上を踏まえると、第三者として当事者の中に斬り込んで、正確かつ客観的な取材が出来る専業のマスメディアは無くてはならないものだと思います。
個人的に、我が国で一番その理想に近いのは日経新聞だと思います。
(異論は認めます)
同氏の電子版が国内で唯一黒字化できている理由もそこにあるのでは無いでしょうか。
ネット広告がマスコミ4媒体を越えたと話題になっているが
「マスコミ4媒体由来のデジタル広告費」が1000億円あることはあまり知られていない。
これはマスコミ4媒体もネット広告へ軸足を移しているということ。
いずれにせよ従来の広告ありきのビジネスモデルは通用しない。
マスコミ4媒体には次行構造の大きな転換が必要とされているのだろう。