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「日本の友人」である台湾が3番目の貿易相手国に浮上

2021年の貿易統計で、輸出、輸入ともに台湾が韓国を上回った結果、台湾が日本にとっての3番目の貿易相手国に浮上しました。外務省は昨年の『外交青書』で、台湾を「基本的価値を共有し、緊密な経済関係と人的往来を有する極めて重要なパートナーであり、大切な友人」と位置付けています。そんな大切な友人である台湾との関係が深まることは、日本にとっても重要な意味があります。

貿易高で台湾が3番目に浮上

ついに貿易高で台湾が「3番目の相手国」に浮上しました。

財務省税関が先週金曜日に公表した『普通貿易統計』によれば、日本にとっての貿易相手国は、輸出、輸入ともに1位が中国、2位が米国でしたが、3位が台湾だったのです。

統計データを集計したところ、2021年における日本の輸出高と輸入高はそれぞれ83兆0928億円、84兆5679億円(いずれも速報値)で、貿易高(つまり「輸出高+輸入高」)は167兆6607億円でした。

貿易統計の概要

輸出高

このうち輸出高に関しては中国が17兆9845億円でトップであり、日本の輸出高全体の21.64%を占めていますが、2位が米国の14兆8325億円(17.85%)、3位が台湾の5兆9866億円(7.20%)で、僅差の4位が韓国の5兆7695億円(6.94%)でした(図表1)。

図表1 日本にとっての輸出相手国(2021年の上位10ヵ国)
相手国 金額 構成比
1位:中国 17兆9845億円 21.64%
2位:米国 14兆8325億円 17.85%
3位:台湾 5兆9866億円 7.20%
4位:韓国 5兆7695億円 6.94%
5位:香港 3兆8903億円 4.68%
6位:タイ 3兆6245億円 4.36%
7位:ドイツ 2兆2793億円 2.74%
8位:シンガポール 2兆2007億円 2.65%
9位:ベトナム 2兆0969億円 2.52%
10位:マレーシア 1兆7138億円 2.06%
その他 22兆7142億円 27.34%
合計 83兆0928億円 100.00%

(【出所】普通貿易統計より著者作成)

輸入高

一方で輸入高に関しては、やはり1位が中国で20兆3534億円、割合でいえば24.07%で、続いて2位の米国が8兆8904億円(10.51%)、3位は豪州で5兆6968億円(6.74%)でしたが、台湾は3兆6924億円(4.37%)で、3兆5196億円(4.16%)だった韓国を上回りました(図表2)。

図表2 日本にとっての輸入相手国(2021年の上位10ヵ国)
相手国 金額 構成比
1位:中国 20兆3534億円 24.07%
2位:米国 8兆8904億円 10.51%
3位:豪州 5兆6968億円 6.74%
4位:台湾 3兆6924億円 4.37%
5位:韓国 3兆5196億円 4.16%
6位:サウジアラビア 3兆0189億円 3.57%
7位:UAE 2兆9783億円 3.52%
8位:タイ 2兆8868億円 3.41%
9位:ドイツ 2兆5949億円 3.07%
10位:ベトナム 2兆5218億円 2.98%
その他 28兆4145億円 33.60%
合計 84兆5679億円 100.00%

(【出所】普通貿易統計より著者作成)

貿易高(=輸出高+輸入高)

図表1に示した輸出高と図表2に示した輸入高を足し上げた「貿易高」を求めてみると、1位の中国が38兆3379億円で全体の22.87%を占め、続いて米国が23兆7229億円で14.15%、そして3位が9兆6791億円で5.77%、4位が韓国の9兆2891億円で5.54%でした(図表3)。

図表3 日本にとっての貿易相手国(2021年の上位10ヵ国)
相手国 金額 構成比
1位:中国 38兆3379億円 22.87%
2位:米国 23兆7229億円 14.15%
3位:台湾 9兆6791億円 5.77%
4位:韓国 9兆2891億円 5.54%
5位:豪州 7兆3713億円 4.40%
6位:タイ 6兆5113億円 3.88%
7位:ドイツ 4兆8742億円 2.91%
8位:ベトナム 4兆6187億円 2.75%
9位:香港 4兆0095億円 2.39%
10位:マレーシア 3兆8733億円 2.31%
その他 55兆3734億円 33.03%
合計 167兆6607億円 100.00%

(【出所】普通貿易統計より著者作成)

じつに印象的な変化です。

各国の状況

米中逆転劇

では、「日本にとって最大の貿易相手国が中国、2番目の貿易相手国が米国である」という現在の構図は、いったいいつ定着したのでしょうか。

これについてはもう少し興味深い統計もあります。

じつは、前世紀末ごろまで、中国は日本にとって、さほど重要な貿易相手国ではなく、最も重要な貿易相手国は米国でした。そこで、米国と中国を比較してみると、

図表4-1 輸出高・米中比較

図表4-2 輸入高・米中比較

図表4-3 貿易高・米中比較

(【出所】普通貿易統計より著者作成)

これらの図表で判明するとおり、日本にとっての米中の重要性が「逆転」したのは、輸入面では今世紀初めごろ、輸出面では2010年前後です。

「中国市場は大事」というウソ

よく、日経新聞あたりが2000年前後に煽っていた、「これからは中国の時代だ」とする論調は、「中国は安くて豊富な労働力がある」、「14億人の市場がある」、といったものでしたが、貿易統計を眺めていると、こうした論調のうち、とくに「14億人の市場」仮説が大いに間違っていることがよくわかります。

当たり前の話ですが、もしも中国が「14億人の市場」として成長しているのならば、対中輸出高自体がもっと早いペースで伸びていなければなりませんし、実際、日本から中国への輸出品目の中心を占めているのは、最終消費財ではなく、「モノを作るためのモノ」(生産装置や中間素材など)です。

また、現実には、中国から日本への輸出が2000年代から急増していることがうかがえますが、これは中国が安価な労働力を使い、製品を大量に生産してダンピングのように世界中に輸出したという証拠であり、実際、日本は中国に対し、一貫して貿易赤字を計上し続けています(図表5)。

図表5 日中貿易の状況(※輸入はマイナス表示)

(【出所】普通貿易統計より著者作成)

そして、とくに21世紀に入って以来、中国が「世界の工場」と化したことは事実ですが、日本がその「世界の工場」である中国に、「モノを作るためのモノ」(半導体製造装置や半導体等電子部品など)を輸出しつつも、日本は中国からさまざまな最終消費財(とくにPC、スマホ、衣類、雑貨)を輸入しています。

いずれにせよ、自動車産業など一部の業種を除けば、「日本企業が『14億人のマーケット』に対し、高付加価値の日本製品を輸出して儲けている」、という状況は、統計上は確認できない「単なる虚像」、というのが実態に近いのでしょう。

台湾と韓国の比較

その一方で、今年の貿易統計で判明するもうひとつの興味深い事実は、台湾が日本にとって3番目に重要な貿易相手国に浮上した、という点でしょう。長年、日本にとって3番目の貿易相手国は韓国でしたが、2021年は僅差でその地位が逆転しているのです(図表6)。

図表6-1 輸出高・台韓比較

図表6-2 輸入高・台韓比較

図表6-3 貿易高・台韓比較

(【出所】普通貿易統計より著者作成)

といっても、台湾と韓国の順序は本当に僅差であり、当然、今年以降「再逆転」という可能性もありますので、このあたりは現時点の統計データのみを根拠に、予断を持って「台湾と韓国が完全に逆転し、この傾向は完全に定着した」、などと決めつけるべきではないでしょう。

日台関係の発展

日本の周囲は約束破りのウソツキばかり

ただ、台湾との関係がより一層深まること自体は、現在の日本外交の方針とも整合していることは間違いありません。

そもそも論ですが、日本は自由、民主主義、法の支配、基本的人権尊重などの「基本的価値」を有しており、また、「ウソをつかないこと」、「約束を守ること」を大変に重視している社会でもあります。

これに対し、非常に残念なことですが、日本の周囲には、「ウソをつかない」「約束を守る」という基本的な態度ができていない国が大変に多いことも事実です。

たとえば北朝鮮は自国の人民を虐待し、日本人を拉致し、国際社会を欺いて核・ミサイルなどの大量破壊兵器の開発にいそしむ「無法国家」ですが、北朝鮮に「ウソをつかないこと」、「国際社会との約束を誠実に守ること」など期待できません。

また、中国はウソの歴史を捏造し、東シナ海や南シナ海、インド国境などで領土的野心を剥き出しにし、新疆ウイグル、チベットなどで人権侵害を行い、香港に関する英国や国際社会との約束をいとも簡単に破った無法国家です。

さらにロシアは不法に占拠した日本領を返還しようとしていませんし、そればかりか、いまやウクライナ東部を含め、周辺国に対して領土的野心をあらわにしつつ、国際社会の法秩序をないがしろにする行為を繰り返しています。

日本の周囲は「約束破りのウソツキ国家」ばかりです。

台湾は日本のパートナーであり、友人

このように考えてみると、日本の周辺できちんとした自由・民主主義に基づく社会が出来上がっている「国」といえば台湾くらいなものでしょう。実際、外務省は令和3年版の『外交青書』のなかで、台湾について次のように記述しています。

台湾は、日本にとって、自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった基本的価値を共有し、緊密な経済関係と人的往来を有する極めて重要なパートナーであり、大切な友人である」(『令和3年版外交青書』P55)。

日本政府は台湾を正式な「国」としては認めていないため、このような書き方にならざるを得ないのですが、本来ならば日台両国は基本的価値や戦略的利益を共有するパートナーとして、ともに手を取り合い、未来に向けて発展していけるような関係を構築するにふさわしいのではないでしょうか。

ただし、台湾自身がみずからのアイデンティティを「中華民国」、すなわち「大陸中国の正統な政府」と認識しているのか、あるいは中国共産党政権からは完全に独立した「台湾共和国」と認識しているのかについては、かなりあやふやでもあります(※同じことは香港についても言えます)。

このあたり、日本が台湾と「国同士の友誼」を結ぶためには、台湾が「中国」なのか、「中国以外」なのか、などについて、まずは台湾自身に整理してもらわねばならない論点です。

しかしながら、それと同時に「自由で民主的な社会」というかけがえのない共通点を持つ社会同士として、貿易面での日台関係が徐々に深まることは歓迎すべき話ですし、日本としても台湾がこうした価値を共有し続けるべく、陰に陽に支援することは、大変に良いことではないかと思います。

そのうえで、台湾が自身のアイデンティティを整理するならば、CPTPPに加え、日本政府が現在強力に推進している「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)の理念に、台湾も参加する資格は十分にあるでしょう。

おりしも、半導体産業を巡って台湾メーカーが熊本に工場を新設するなどの明るい話題もあります。

日本にとって台湾が3番目の貿易相手国に浮上した事実は、日台関係の将来を予見させる、大変に良い兆候ではないかと思う次第です。

オマケ:北朝鮮貿易

さて、いちおう貿易統計を取り上げたついでに、「参考」として、北朝鮮との貿易状況についても収録しておきましょう。

といっても、財務省の貿易統計上、北朝鮮との貿易高については、2007年以降は輸入がゼロに、2010年以降は輸出もゼロになってしまっています(図表7)。

図表7 日朝貿易の状況(※輸入はマイナス表示)

(【出所】普通貿易統計より著者作成)

ただし、まったくのゼロというわけではなく、2019年には239万6000円分の輸入取引が発生していますが(※調べてみるとこれは書籍だそうです)、事実上、ほぼゼロと考えても良いでしょう。

少なくとも貿易関係だけで見るならば、日本と北朝鮮は事実上の断交状態にあると考えて間違いありません。

かたや、正式の国交はなくても日本の第3番目の貿易相手国に浮上した台湾。

かたや、正式の国交もなく、日本との貿易がほぼゼロの北朝鮮。

「わが国と基本的価値を共有しているかどうか」、「国際社会との約束を誠実に守るかどうか」、「ウソをつかない・ルールを守る国であるかどうか」などの点で、台湾・北朝鮮の両国には、本当に超えられない壁があると思う次第です。

新宿会計士:

View Comments (3)

  • 香港の貿易額を中国に合算すれば、対中貿易の収支は均衡してるようにも見えること。そして中国製品の主たる輸出先が米日韓であることを鑑みると、原材料(「物を作るもの」を作るモノ)の調達ルートと"組立屋”さえ確保すれば 将来的な『脱中国』も絵空事ではないような気がします。

    *資源と組立屋の確保は現在進行形なのかと・・。

    • カズさま

      >原材料(「物を作るもの」を作るモノ)の調達ルートと”組立屋”さえ確保すれば 将来的な『脱中国』も絵空事ではないような気が

      同じように感じます。中国神話がはがれるとき、というやつでしょうか。
      恵方は、中国奥地ではなくて、南。だからこそ南シナに各国の艦艇が向かっているわけで。

  • 台湾もベトナムも中国に組み込まれる可能性あるよ