米FRBの金融緩和の段階的縮小、米韓為替スワップの終了、そして脆弱化する韓国の資本フロー――。こうした状況のなか、韓国メディア『中央日報』(日本語版)によると、韓国銀行経済研究院国際経済研究室は『最近のウォン安原因の分析』というレポートのなかで、ウォン安の原因に物価、中国要因と並び、外国人投資資金の流出を挙げたのだそうです。果たして韓国は外貨準備の余裕の範囲内で、脆弱な資本フローを乗り切ることはできるのでしょうか。
韓国の資本フローの不安定化と「FRB主犯説」
少し前から、隣国・韓国の資本フローが不安定化する兆候が見られます。
『韓国で「トリプル安」が発生:株式も債券も通貨も下落』でも取り上げましたが、年初には韓国で、いわゆる「トリプル安」が生じる局面も生じました。
じつは昨日の韓国、「株安・債券安・通貨安」という「トリプル安」だったのだそうです。しかも、韓国の個人投資家が投資対象として好むことでも知られる暗号資産価格についても下落したのだとか。このこと自体、投資家(多くの場合は外国人)が株式や債券を売って換金し、その資金をドルに換えて本国に引き上げた、という可能性を強く示唆しています。韓国バブルFRB主犯説昨日の『1ドル1200ウォンの大台を再び突破した韓国ウォン』でも取り上げましたが、韓国の通貨・ウォンが2020年7月以来、約1年半ぶりに1ドル=1200ウォンの... 韓国で「トリプル安」が発生:株式も債券も通貨も下落 - 新宿会計士の政治経済評論 |
ただ、少なくとも為替に関していえば、現在のところは、韓国ウォンの対米ドル相場(USDKRW)は、1ドル=1190ウォン前後で落ち着いています(※日中の為替チャートを冷静に眺めていると、「もしかすると、これは為替介入ではないか?」と思えるような動きもないではありませんが…)。
こうしたなか、当ウェブサイトでかつてから提示してきたのが、「米FRBなどの金融緩和により、結果的に韓国で資産バブルが発生した」、という仮説です(いわゆる「資産バブルFRB主犯説」)。簡単にいえば、FRBなどの金融緩和を通じて、新興市場諸国(EM)に資金が流入した、とするものです。
これをフローチャートにすると、次のような流れでしょう。
韓国資産バブルFRB主犯説
- ①FRB等、主要国中央銀行による金融緩和
- ②為替市場で韓国ウォンを含めたEM(※)通貨高
- ③韓国の通貨当局が「ウォン高になり過ぎれば輸出業者が困る」と判断
- ④韓国のウォン売り・ドル買い介入(→外貨準備の増加)
- ⑤市中のウォン流通量が増大(→マネタリーベースの増加)
- ⑥金融機関の家計向けローンが増大(→家計債務の増大)
- ⑦カネを借りた家計がリスク資産(株式、不動産、暗号資産など)に投資
- ⑧韓国ウォンがビットコイン取引通貨の第3位に浮上
(【出所】著者作成。なお、「EM」とは “Emerging Markets” 、つまり「新興市場諸国」のこと)
テーパリングでフローが逆回転
上記③以外の部分については、いずれも、統計的な資料でその状況を確認することができます。
ところが、先月、米FRBが金融緩和の段階的縮小(いわゆるテーパリング)を加速させると発表したことを受け、この①~⑧の流れに「逆回転」が生じ始めたのではないか、というのが、当ウェブサイトにおける問題意識のひとつ、というわけです。
もっとも、上記の③、④の部分に関しては、ちょっとした注意が必要です。
どの国も、為替相場については「急変すると困る」という事情を抱えているのですが、韓国の場合は為替相場の変動(ボラティリティ)を抑制するために、かなり頻繁に為替介入をしているフシがあります。
ただ、下手に「自国通貨売り」の為替介入をすると、自国通貨が暴落し始めたときに、コントロールを失ってしまう可能性があります。だからこそ、金融市場に対し、「わが国はこれだけの安全弁があるぞ」とアピールする手段のひとつが、通貨スワップや為替スワップといった外貨調達手段です。
しかし、コロナ禍で米国が韓国など9ヵ国の中央銀行・通貨当局と締結した為替スワップ協定(※韓国の場合、上限は600億ドル)が、昨年末で失効してしまいました(『9本の時限的為替スワップは予定どおり12月末で終了』等参照)。
やはり9本の時限的為替スワップは12月末で終了するようです。日本時間の本日未明、米FRBはFOMCの結果発表を行いましたが、2020年3月に開始した9つの中央銀行・通貨当局等との時限的な為替スワップの再延長に関する発表は見当たりません。このことから、これらのスワップについては12月末で終了すると考えて良いでしょう。なお、日銀などとの5つの常設型為替スワップについては引き続き継続すると考えられます。FRBの14本の為替スワップ昨日の『韓国など9本の「米ドル為替スワップ」は年末で終了か』でも取り上げたとお... 9本の時限的為替スワップは予定どおり12月末で終了 - 新宿会計士の政治経済評論 |
そして、『米韓為替スワップ終了で韓国の外貨準備はどうなるのか』でも触れたとおり、韓国の外貨準備は横ばいないし減少傾向がクッキリしてきました。
米FRBのテーパリング局面において、韓国通貨当局が為替介入を行っている証拠が出て来ました。本日公表された2021年12月時点の韓国の外貨準備高は、前月比8億ドルほどの減少となりました。減少幅は個人的な想定よりも少ないな、と思いましたが、先月に600億ドル分の米韓為替スワップが終了してしまったなかで、韓国がウォン安局面でどう対応するのか、今年の隠れたテーマのひとつかもしれません。韓国の外貨準備高は前月比7.9億ドル減少韓国の中央銀行に相当する韓国銀行は本日、2021年12月時点の同国の外貨準備統計を公表していま... 米韓為替スワップ終了で韓国の外貨準備はどうなるのか - 新宿会計士の政治経済評論 |
韓国の外貨準備の動きは、やはり、同国が自国通貨安を防ぐための為替介入をしている証拠だと考えると、大変にうまく説明がつくのです。
韓国メディア「原料、中国、投資資金が原因」
こうしたなか、韓国メディア『中央日報』(日本語版)に本日、こんな記事が掲載されていました。
ウォン下落幅大きい理由…原材料・中国・投資資金流出が原因
―――2022.01.19 11:35付 中央日報日本語版より
中央日報によると、韓国銀行経済研究院国際経済研究室が18日、『最近のウォン安原因の分析』と題する報告書を公表し、そのなかで、「昨年からドルに対しウォンが大きく下落しているのは、原材料価格の上昇、中国の景気鈍化、外国人投資資金流出などが原因」などと述べられていたのだそうです。
ただ、外貨準備統計や韓国の資金循環統計などを眺めていると、どちらかといえばウォン安の原因は、「外国人投資資金の流出」という要因が大きいように思えてなりません。
実際、同報告書では、「グローバル投資家の株式ポートフォリオリバランシング過程で韓国に対する比率縮小で投資資金が流出しウォン安要因として作用している」などと記載されていたそうですが、これはまさに、当ウェブサイトの「FRB主犯説」そのものでしょう。
もっとも、個人的な見解ですが、コロナ禍以降のウォン高局面で韓国の通貨当局はかなり外貨準備を溜め込んだのではないかと思います。ざっと見て、韓国の外貨準備高には、500~600億ドル程度の「真水」が含まれているのではないでしょうか。
このように考えていくならば、韓国の資本フローの脆弱さという地合いは当面続く一方で、しばらくの間、自国の外貨準備の範囲内で通貨安局面を耐えられるのかどうかは、注目するポイントのひとつではないかと思う次第です。
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記事の更新ありがとうございます。隣国の通貨が下落するとワクワクしますが、日本株も経済音痴で無能なコウモリ岸田のせいで暴落しています。笑えなくなってきました。最近は、岸田も天災じゃないかと思っています。
口を挟んですまないが、米株も世界株も暴落しているんだから、岸田は今は関係ないよ
いくつか日本企業がとち狂っていますが、今の状況で韓国に投資したり工場移転したりする投資家や企業の思考が理解出来ません。
感情は抜きにしても、人件や不動産もエネルギー源も高く組合は過激で国の法も企業不利。
米中の政策で世界が二分し、親中と見なされかねない韓国を拠点とした場合には中国と同等のダメージがあり得る。
韓国唯一の優良企業サムスンさえアメリカに主力工場を移転する見込みで、原料・素材関連企業も少なくともサムスンの動向に付いていった方が活路を開ける可能性大。
ウォンが不安定でリスクは計り知れない。
最悪でも中華人民共和国に拘るのは理解できますが、韓国に居残ったり新規進出する理由を探すのは難しいとしか思えない。
東レも未完成の干潟干拓工業地帯にポツンと操業しているだけだしダイキンは進出地の市民団体の反対で工場設立すら滞り中。
過去何度もあった技術だけ盗れ煙たがられ尚且つ組合が撤退すら許さない。
外国人経営者の出国禁止軟禁状態すら起こる。
次期大統領が誰でもとんでもない理不尽な法や税制を突如始めそう。
社員家族すら安全ではない。
製品の素材・原料の輸入や製品輸出に必要な港湾・航空・陸路のロジスティクス壊滅中…
良い材料がほぼゼロです。
まるで新規に日本やアジアや中南米に進出した方がまだリスクが少ないという状況に、韓国自身がこの10年程で自国を変えてしまいました。
メリットゼロの国
寒損はアメリカ国籍に変わりそう
日本も豊田あたりが軒並みアメリカ国籍に変わる可能性意外と高いが
謎のどっちもどっち論は韓国人みたいだからやめな?
今度、サムスンがテキサスに建てるのはそこそこ先端のロジック工場です。近所にSASがあるので主要ベンダーは既にいます。隣の州にはtsmcが来ますし、INTELの工場もあります。
韓国には日本企業のみならず、AMAT、Lam、ASML、KLM、TEL等半導体製造装置企業が軒並み進出しています。2021年半導体売上シェアトップ企業があるのですから自然な事です。
サムスンにしろ、tsmcにしろ、INTELにしろ、最先端工場は自国にあります。
アメリカが最先端技術を韓国に使わせなくなる事態は想定さるていますか?
過去平穏な時でさえ、日米半導体協定でぶち殺された過去をお忘れですか?
まして親中・親北・親共産主義に韓国は傾き、韓国経由で欧米諸国の最先端特許技術が垂れ流し…軍事技術に至るまでも。
中華人民共和国の手先として嬉々としてアメリカにも冗口叩く韓国に制裁しない国でしたっけアメリカは?
既にドイツは態度豹変して中韓への冷徹さをみせはじめていますが。
EUが切り始めたという事はただ事じゃないですよ?
どこの国の企業であれ、貧乏くじ引くのは自己責任。
デメリットがメリットを大幅に上回りリスクは増える一方でハイリターンすら見込めない国になって現実を見ましょうよ。
半導体の中でもメモリーのコストパフォーマンス以外にアドバンテージのある技術と低価格以外に何がありますか?
私は事実を書いただけなんで。
どこに進出するかは自己判断、自己責任でしょう、私企業ですから。
あと、サムスンのメモリーは安くないです。寧ろ高い方です。でないと、あんな利益出ません。
韓国が博打の装置産業の勝ち組になったことと、韓国兵器が大人気で契約をバンバン取ってるのを認めたくない層っているんですよねえ…。
もしかするとKF-21ポラメが売れる未来もあるのかも。
りょうちんさん
半導体製造装置で韓国メーカーの存在感は無いです。日米蘭で牛耳ってます。
博打の装置だとしたらパチンコは衰退産業、マイニングマシンはほぼ中国製ではないでしょうか。
りょうちん様
>もしかするとKF-21ポラメが売れる未来もあるのかも。
さすがにKF-21が売れる未来はないでしょうね.
形だけステルス機F-22の真似ですがステルス塗装の技術を持たず兵装の内蔵もできずでは,空力的に扱いを難しくしただけですからね.(空を飛べるのが不思議と言いたくなるF-117ほどではないにしても,F-22やF-35のようなステルス形状は機体の空力的特性を大きく損ない,高度な飛行制御システムがなければ飛ばせられない)
率直に言って,韓国がKF-21を飛ばせられるかというレベルで疑問なのですよ.
日本はF-2開発でアメリカからエンジン単独の提供を拒否されF-16ベースの開発を強要された際に約束していたF-16の飛行制御システムのソースコードの提供を反故にされた為に,自力でF-2の飛行制御システムを開発したことによって,今度のステルス戦闘機F-3の飛行制御システムを日本で開発できる技術を獲得した訳ですが,韓国の航空業界には今まで飛行制御システムを開発した経験がありませんからね.
韓国航空界が直近に取り組んだ高等練習機と軽戦闘攻撃機とを兼ねたT-50/FA-50開発はロッキードの全面的な協力で行われたので,飛行制御システムはロッキードから技術供与されましたし,そもそもT-50/FA-50は練習機として素直な操縦性が求められているので,空力的には古典的な正の安定性を持ち飛行制御システムに求められる技術もさほど高くありません.空力的にはかなり強い負の安定性となるステルス戦闘機に対する飛行制御システムの技術的難易度とは比較になりません.
それに仮にKF-21が無事に進空できても,見掛けだけステルス風味で実際にはミサイルや爆弾を積んで出撃する時にはステルス性ゼロ同然の機体では,西側のベストセラーであるF-16Vのほうが遥かにコスパが良いし,アメリカに縛られたくなければ共産チャイナの非ステルス戦闘機あたりを買えば良い訳で.
因みに,FA-50ならば売れる可能性は十分にあると思いますよ.あれはF-16Vや中古のF-16でも荷が重いという国で対ゲリラ掃討用なら十分ですから.練習機と同じ整備体制で済むのもコスト的に有利だし.
>>羊山羊さま
「装置産業」をググってください。
装置を売る産業ではありませんw。
>>迷王星さま
F-16Vはもはや安い機体とは言えません。
契約によってはF-35Aと逆転する現象すら起きています。
台湾など政治的に売って貰えない国が悔し涙を流しながら割高なF-16Vを購入しました。
4.5世代機市場は、何が起こるかわかりません。
チェックメイトも気になります。
りょうちんさん
勉強になりました。
ただ、半導体製造は装置産業ではないと思います。故に中国では外資以外ではあまりうまくいってません。
いいえ、大きなウエハ、巨大な高出力露光装置、大規模なクリーンルーム、無人化と半導体製造は現代の装置産業の代表分野です。
多くの中国企業はターンキーといって生産ラインに必要な装置丸ごと揃えて多数エンジニアをスカウトしてもうまくいってないです。+αが必要です。
ここって経済ブログですよね?
なごむわ〜
りょうちん様みたいな方に出会うとなごむわ〜
なんか日本は当分安泰な気がしてくる。
別にその解釈でもいいんじゃないですか…
>個人的な見解ですが、コロナ禍以降のウォン高局面で韓国の通貨当局はかなり外貨準備を溜め込んだのではないかと思います。ざっと見て、韓国の外貨準備高には、500~600億ドル程度の「真水」が含まれているのではないでしょうか。
一時500~600億ドル程度真水が、増えたように思ってます。溶け始めてる段階ではないかと思います。
ウォンドルは、適正レートの幅が狭いので、韓国政府は日常的に介入しています。昨年12月から輸出好調での貿易赤字になって来ましたので、ウォンドルの適正レートは、ウォン高の方にずれ込んで、1190ウォンドルでは、適正レート外になっているのでは、という話を以前しました。
一方でコスピは、2900は割っても2850割らずに堪えてますので、まだアリさんは買っているんだと思います。当面は、2840を割るかどうか。
丁度大統領選挙の頃に、ヤバくなる事を期待しています。
国際決済に際して重要なのは、財産目録ではなくて財布の中身(米ドルに即時換金の可能なモノ)なのだと思います。
その場しのぎ的には、対中通貨スワップの行使で入手した人民元を使って”中国から米ドルを購入”できなくもないのかもなのですが・・。
そんなことしちゃうと、中韓間は「中国の無双状態」になってしまうんですよね。
中国:そろそろ期限だよね。どうしたの "元気" ないね・・。
韓国:そろそろ期限だけど、どうしても "元が" ないnida・・。
> 中韓間は「中国の無双状態」になってしまう
過去完了形でお願いします。
たしかに、「中国の更なる無双状態」とすべきところですね。
去年の12月31日で終了した米韓スワップに際して、
韓国銀行は、延長する必要がなかったから、
延長しなかったと発表しましたが、
政府は、マスゴミに対して、
米韓スワップ霧散と言うな!
まるで延長出来なかったみたいじゃないかと、
注文を付けています。
延長する必要がないのなら、
何故FIMAで600億ドル確保したんでしょうね~
真水、本当にあるのかしら?
ドル経済圏では,韓国も日本も運命共同体みたいです。もう少しすると本格的なカラ売りのタイミングになるかな。インフレは少しイヤだけど。逆に。小金持ちが減ったのか,別荘価格や中古のブランド品は安い気がします。
准基軸通貨とウォンでは全く体力が違うよ