北朝鮮が五輪不参加を公式表明:進退窮まる文在寅政権

北朝鮮が公式に北京五輪不参加を表明したようです。もともと北朝鮮の五輪委は国際五輪委(IOC)から2022年末までの会員資格停止処分を喰らっていましたが、IOCに対して喧嘩を売っているかのごとき北朝鮮の声明を読むと、つくづく北朝鮮は外交が下手な国だと思わざるを得ません。その一方、この宣言で、文在寅政権が掲げる「北京五輪での朝鮮戦争終戦宣言」構想は、完全に行き詰まった格好です。

北朝鮮の五輪委会員資格停止処分

南北揃ってIOCを怒らせた:東京大会「意外な効果」』でも取り上げたとおり、北朝鮮の国内五輪委員会(PRK-NOC)は昨年9月、「東京2020大会の成功に何ら貢献しなかった」として、国際五輪委(IOC)から制裁として、2022年末まで、会員資格停止処分を受けました。

IOCのプレス・リリースについては、下記リンクで読むことができます。

IOC Executive Board suspends NOC of Democratic People’s Republic of Korea

The Executive Board (EB) of the International Olympic Committee (IOC) today decided to suspend the Olympic Committee of the Democratic People’s Republic of Korea (PRK NOC) until the end of 2022, as a result of the NOC’s unilateral decision not to participate in the Olympic Games Tokyo 2020.<<…続きを読む>>
―――2021/09/08付 IOCウェブサイトより

これによると、次の3点が決定されたそうです。

  • 北朝鮮五輪委(PRK-NOC)が東京2020五輪大会の成功に貢献しなかったという状況を踏まえ、これまで国際的な経済制裁の影響でPRK-NOCへの支払が留保されていたIOCからの金融支援については完全に剥奪される
  • PRK-NOCは会員資格停止処分期間中、IOCからのいかなる支援ないしプログラムによる恩恵を受けることはない
  • PRK-NOCの選手が有効な資格審査プロセスを通じ、2022年北京冬季五輪の試合に出場する資格を満たす場合、IOC執行委員会は関係する選手に対し、適切な決定を下す

東京五輪成功にまったく貢献しなかった北朝鮮への「怒り」

なかなか、強力な措置です。

それではなぜ、こんな決定が下されたのでしょうか。これについて、リンク先記事の続きには、こうあります。

“Through the various communications and discussions held between the IOC and the PRK NOC over the months preceding the Olympic Games Tokyo 2020, the IOC provided reassurances for the holding of safe Games and offered constructive proposals to find an appropriate and tailor-made solution until the very last minute (including the provision of vaccines), which were systematically rejected by the PRK NOC”.

ざっくり要約すれば、東京五輪の直前まで数ヵ月に及び、IOCはPRK-NOCとの間で、ワクチンの提供を含め、北朝鮮が東京五輪に参加できるようにコミュニケーションを取る努力を続けてきたにも関わらず、北朝鮮がこれに応じなかった、ということです。

国際的な機関から発せられる情報としては、異例なほどに強硬な文面に見受けられますが、このことは、IOCの北朝鮮に対する怒りの強さを象徴しているのかもしれません。

会員資格停止期間の短縮はおそらくあり得ない

もっとも、IOCは次のようにも述べています。

“The IOC EB reserves the right to reconsider the duration of the suspension at its discretion.”

つまり、北朝鮮の態度次第では、会員資格の剥奪期間を再考することがある、ということです。

この文言だと、北朝鮮が反省を示すなら、会員資格の剥奪期間を短縮することもあり得るのかな、などと個人的には考えていたのですが、その可能性は限りなく少なくなったようです。

というのも、次の時事通信の記事によると、北朝鮮の国営メディア『朝鮮中央通信』は7日、PRK-NOCと北朝鮮体育省が中国五輪委と北京冬季オリパラ組織委員会、中国国家体育総局に書簡を送り、「敵対勢力の策動と世界的な伝染病の大流行で大会に参加できなくなった」と表明したのだそうです。

五輪不参加を表明 北朝鮮、中国を支持

―――2022年01月07日10時16分付 時事通信より

「敵対勢力の策動」というのも強烈な言い分ですが、これを日本や米国など、北朝鮮の無茶苦茶な言いがかりに普段から慣れている国ではなく、IOCという国際機関を相手に言ってのけてしまうあたり、北朝鮮という国の外交センスのなさは絶望的にも見えます。

五輪を政治利用しようとする文在寅政権

ところで、北朝鮮と冬季五輪といえば、韓国の文在寅(ぶん・ざいいん)政権が、「北京五輪の場で米中南北4ヵ国首脳会談を行い、朝鮮戦争の終戦宣言を行う」という構想(妄想?)を掲げていることでも知られています。

というよりも、文在寅政権は昨年の東京五輪でも同じようなことを考えていたようであり、文在寅氏自身が自称元徴用工問題などの一括妥結のために訪日する、といった、読売新聞による飛ばし報道もあったほどです(『文在寅氏訪日失敗:なぜ読売新聞は「間違えた」のか?』等参照)。

まさに、五輪の政治利用そのものですね。

もっとも、文在寅政権は、東京五輪の政治利用には、完全に失敗しました。

文在寅政権の任期は今年5月で切れますが、文在寅氏がやったことといえば、日本との関係を修復困難なほどに破壊したこと、無理な最低賃金引上げや不動産政策を巡る混乱などを通じて韓国経済を傷つけたことくらいであり、後世に残る「遺産」のようなものはほとんどありません(「負の遺産」ならあるかもしれませんが)。

だからこそ、文在寅氏としては、わりと必死になって、「終戦宣言」構想の実現に向けて動いていたのでしょう。

もっとも、米国政府は昨年、北京オリパラに外交使節団を送らない措置を講じる方針を明らかにしましたが(いわゆる「外交ボイコット」、『米国が北京冬季オリパラ「外交ボイコット」を正式表明』等参照)、この状況が続けば、米国もそもそも北京に外交官を送り込むことはないでしょう。

このように考えていくと、そもそも文在寅氏の念頭にある「北京で4ヵ国会合を行う」という構想自体、かなりの無理があるのです。

こうした状況を踏まえるならば、北朝鮮が正式に北京五輪への不参加を表明しようが、しまいが、「朝鮮戦争終戦宣言」構想の実現が絵空事であるという見通しに対して、大して影響があるとも思えません。

韓経「北京構想事実上消える」

その一方で、韓国メディア『中央日報』(日本語版)には、『韓国経済新聞(韓経)』のクレジットが入った、こんな記事が掲載されていました。

北朝鮮、北京五輪不参加を通知…韓国政府の「北京構想」事実上消える

―――2022.01.08 10:05付 中央日報日本語版より【韓国経済新聞配信】

記事タイトルに「北京構想が事実上消える」とありますが、その趣旨はおそらく、記事本文のこんな記述にあります。

北京では北朝鮮が五輪不参加を公式化したことで政府代表団を送る可能性はさらに低下したという分析が出ている。また、来月6日に北朝鮮では最高人民会議が開催される予定であり、代表団を派遣しても幹部は抜けると予想される」。

北朝鮮幹部が北京五輪の会場に現れる可能性が極めて少ないことくらい、最初からわかっていた話だとは思いますが、それでも韓国政府内では、わずかな希望すら潰えたということなのかもしれません。

また、韓経によれば、「北朝鮮専門家」によるこんな発言も取り上げられています。

任期が少ししか残っていない文在寅政権の立場では、ふさがった南北関係の突破口を開くのがさらに難しくなった」。

突破口を開くのが難しいという意味では、べつに南北関係に限られませんし、また、政権が変われば突破口が開くというものでもないでしょう。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

こうしたなか、任期末の文在寅政権がさらに迷走するということはないのでしょうか。

幸いにして、任期はちょうど4ヵ月ほど残っています。

ここで、文在寅政権が起死回生策として、「大統領自身が竹島に上陸する」、「自称元徴用工判決に係る資産売却が実現する」、「主権免除違反判決にかかる日本大使館に対する資産差押が実現する」などの可能性については、少しだけ頭の片隅に置いておいてよいのかもしれません。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. 引きこもり中年 より:

    独断と偏見かもしれないと、お断りしてコメントさせていただきます。
    (そう自分に言い聞かせないと、素人が舞い上がってしまうので)
    (別に韓国大統領府だけの話ではありませんが)韓国の文大統領は、自分の聞きたいことしか聞かないし、見たいものしか見えない。そして周りの文大統領に忖度して、文大統領が聞きたいことしか言わない、という(どこかの組織のような)駄目な組織の典型ではないでしょうか。このため、文大統領のなかでは、外国も自分の構想どおりに動いてくれる、ということになっていて、それに反することは、偽情報扱いになっているのでしょう。
    駄文にて失礼しました。

  2. がみ より:

    なにしろ南北融和鉄道の起工式にウキウキ行ってる間に超音速ミサイル撃たれる芸達者な方。

    次に有力視されている李在明氏は自称投資の専門家で自分が長やってる自治体の土地開発をペーパーカンパニーに落札させて利鞘稼いだりする荒業を投資だと思ってるし、韓国は先進国だから国家債務が60%越えても大丈夫ってハードカレンシーの国の話をそのまま持論にしている詐欺賭博師だから息子も自称ギャンブラー…

    共に民主党界隈では、李在明の次の大統領にチョ・グク氏がなることを願っているらしい。

    他国ながら韓国…あと10年以上どうするつもりなんだろう?

  3. 匿名 より:

    起死回生策・・・
    各種極秘事項満載のブリーケースを携えて大統領専用機にて平壌に飛んで亡命

    1. 裏縦貫線 より:

      >> ブリーケースを携えて
      腑抜け?

      1. 円周率 より:

        座布団2枚!!!

        1. 裏縦貫線 より:

          ありがとうございますm(_ _)m

    2. nanoshi より:

      ハードディスクを携えて崖から飛んだ誰かさんを彷彿とさせますな。

    3. カズ より:

      領空侵犯を口実に撃ち落されて ”亡命” のような気がします・・。

      1. およびじゃない より:

        南無阿弥陀仏
        なんまいだー
        何枚だ?
        今、三枚目。

        1. カズ より:

          次で、お四枚(オシマイ)・・。

  4. 伊江太 より:

    キタの独裁者兄妹との間に太い信頼の絆を結び、もう道は付けておいたんだから、あとは後継政権が着実に進めてくれるはず(だから次も左派に勝たせて)。

    そう言っときゃ、これまでと同様、十分言い逃れはできるんでしょうから、進退窮まったなんて露ほども思ってないのでは。

    この国民にして、この指導者あり、ってことじゃ(笑)。

  5. バシラス・アンシラシスは土壌常在菌 より:

    北朝鮮が来ないのだから
    文大統領は北京訪問をキャンセルして売電大統領の顔を立てることができる
    良かったじゃん

  6. 匿名 より:

    >「主権免除違反判決にかかる日本大使館に対する資産差押が実現する」などの可能性
    あります!

    文大統領の経済対策や外交は
    自身の希望や理想を優先し、悪影響等を考えないで実行するタイプです。
    韓国大統領が退任後にどうなるか文大統領は 当然十分理解しています
    従って退任後の逮捕・失脚を避ける、その被害を軽減させる為なら
    「日本と国交断絶の結果を考えず」実行する可能性は100%ありえます

  7. マスオ より:

    呼ばれてないのに「行かない!」って宣言するあたり、北朝鮮だなぁーと思う。
    自分なら恥ずかしくて言えない。

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