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    Categories: 金融

FIMAレポは為替スワップの代替ツールとなり得ない

韓国銀行は昨日、米FRBが提供する流動性供給ツールである「FIMAレポファシリティ」に参加する、と発表したようです。ただ、このFIMAレポファシリティ、12月末で終了する米韓為替スワップに代替するツールとはなり得ません。これについて、いったいどう考えれば良いのでしょうか。

9本のFIMA為替スワップが終了へ

米国がコロナ禍で世界の9つの中央銀行・通貨当局(FIMA)と締結した時限的な流動性供給為替スワップ協定を12月末で終了させることにしたようだ、とする話題は、当ウェブサイトでは、『9本の時限的為替スワップは予定どおり12月末で終了』でも取り上げたとおりです。

やはり9本の時限的為替スワップは12月末で終了するようです。日本時間の本日未明、米FRBはFOMCの結果発表を行いましたが、2020年3月に開始した9つの中央銀行・通貨当局等との時限的な為替スワップの再延長に関する発表は見当たりません。このことから、これらのスワップについては12月末で終了すると考えて良いでしょう。なお、日銀などとの5つの常設型為替スワップについては引き続き継続すると考えられます。FRBの14本の為替スワップ昨日の『韓国など9本の「米ドル為替スワップ」は年末で終了か』でも取り上げたとお...
9本の時限的為替スワップは予定どおり12月末で終了 - 新宿会計士の政治経済評論

終了させるのは、米FRBが締結している14本の為替スワップのうち、日銀など5つのFIMAとのものを除く、時限的な9つのスワップです。

米FRBが為替スワップを締結する相手と流動性供給上限
  • 常設・無制限…日本銀行、欧州中央銀行、イングランド銀行、カナダ銀行、スイス国民銀行
  • 時限的・上限600億ドル…豪州準備銀行、ブラジル中央銀行、韓国銀行、メキシコ銀行、シンガポール通貨庁、スウェーデンリクスバンク
  • 時限的・上限300億ドル…デンマーク国立銀行、ノルウェー銀行、ニュージーランド準備銀行

(【出所】著者調べ)

為替スワップは金融緩和の一環

この為替スワップ、外国中央銀行等の要求に応じ、米FRBがその国・地域の市中金融機関に対し、直接、米ドルを貸し付けるという流動性供給オペレーションであり、米FRBからすれば、形を変えた金融緩和、という意味合いがありました。

要するに、自国の金融機関に対して米ドルのおカネを貸すのと同様に、他国の金融機関に対しても同様に米ドルのおカネを貸しているのと同じ効果が得られるからです。

ただ、FRB自体が金融緩和の段階的縮小(テーパリング)のペースを加速させるなか、こうした「ニューマネー」を供給するツールについては、できるだけ減らすというのが、どうもFRBの方針であるようです。

だからこそ、これら9本の為替スワップについても終了させる、ということなのでしょう。

ちなみに今回の時限措置終了に関わらず、日銀、ECB、BOEなどと契約する、金額無制限の5本の為替スワップ協定については終了しません。これらの為替スワップについては6つの中央銀行同士の常設型スワップファシリティだからです。

終了させるのはあくまでも豪州、ブラジル、韓国などとの時限的なスワップです。

もっともそうなると、これらのFIMA等にとっては、米ドルの資金を引き出す手段がなくなってしまい、米ドル不足が生じた際にどう対処すれば良いのか、という点では疑問も残ります。

これに対する答えは、「そのために、各国が外貨準備を持っている」、というものです。

つまり、本来であれば、自国の米ドル不足に対しては、各国の中央銀行や通貨当局は自己責任において、外貨準備を蓄えるなり、自国の金融システムを健全に維持するなりして対処すべき筋合いのものです。

実効性のないFIMAレポ

ただ、それと同時に、じつは米FRBは、もうひとつ、「FIMAレポ」というツールを準備しています。

FIMAレポは「為替スワップと並ぶ安全弁」なのか?』でも取り上げましたが、これは「外貨準備などで保有している米国債を担保にして米ドルの現金を調達することができますよ」、というツールです。

米FRBが3月31日(※現地時間)、「FIMAレポ」と呼ばれる新たな流動性ファシリティを創設すると発表しました。難しい言葉を使っていますが、何のことはありません。単に「外貨準備で保有する米国債を担保にカネを貸しますよ」、と言っているだけのことです。米国との為替スワップが存在しない国にとっては流動性ファシリティとして機能するほか、米国にとっては米国債の価格下落を防ぐことができるという意味では「Win-Win」の関係にある、とでも言いたいのでしょうか。米FRBの流動性ファシリティ例の新型武漢コロナウ...
FIMAレポは「為替スワップと並ぶ安全弁」なのか? - 新宿会計士の政治経済評論

「レポ取引」とは、一般に、「債券と現金を短期間交換する取引」のことです。

諸外国の中央銀行・通貨当局は、多くの場合、外貨準備を現金だけでなく米国債などの有価証券で運用していますが、いざとなったときにそれらの有価証券を売却して換金し、通貨防衛や自国金融機関への貸付などに使用する、という仕組みです。

ただ、もしも外国の中央銀行等が巨額の米国債を売却した場合、米国債市場で債券価格が下落(=金利が上昇)するかもしれません。だからこそ、米FRBとしては、「市場で売却するのではなく、レポ形式で資金を供給する」という仕組みを取っているのでしょう。

いちおう、米FRBの言い分を忖度(そんたく)して申し上げるならば、これは「米国との為替スワップが存在しない国にも米ドルを貸し出す仕組みだ」、と言いたいのかもしれませんが、当ウェブサイトでは、正直、このFIMAレポファシリティについてはほとんど意味がないと考えています。

FIMAレポに参加する国にとっては、ほとんどメリットがないからです。

すなわちこのFIMAレポは、支援を受ける国にとっては、自国が保有している有価証券を担保にカネを借りているだけの話ですので、借りられるおカネは自国が保有している有価証券の範囲に限られます。

これが、為替スワップとの最大の違いです。

  • 為替スワップ…自国通貨を担保に米ドルを借りる仕組み
  • FIMAレポ…米国債を担保に米ドルを借りる仕組み

結局、「米国債市場の暴落を防ぎたい」という米国にとってのメリットしかなく、支援を受ける国にとってはべつにニューマネーが借りられるわけではないので、ほとんどメリットはありません。

韓国がFIMAレポファシリティに参加

こうしたなか、ロイターに昨日、こんな記事がありました。

韓国中銀、FRBのFIMAレポファシリティーに参加

―――2021年12月23日14:57付 ロイターより

韓国の中央銀行に相当する韓国銀行は昨日、このFIMAレポファシリティに参加すると述べたのだそうです。

ただ、FIMAレポは為替スワップの代替とはなり得ません。

いまさら参加したとしてなにか意味があるのかはよくわからない、と思う次第です。

新宿会計士:

View Comments (19)

  • FIMAレポについての解説をみるとオーバーナイトの調達で借替可能となっていた。
    1日単位で借りて利息を支払うようだ。
    米国債を保有する国がドル不足になったとき、それを売らずに一時的にドルを調達する仕組みのようだ。
    個人でいえば定期預金を担保に一時的に普通預金をマイナスにできるアレと同じか。

  • こういうのを使うということは「ドルがない」と白状しているようなもので。投機筋の餌食になるのでは?

  • 利用状況をヲチできるとinterestですが、パンピーにできるのかな?

  • 韓国が持ってるアメリカ国債以上のドル調達が出来ない所までは、分かってました。
    韓国のアメリカ国債保有高は、探せませんでしたので、分かる方教えて下さい。

  • 南国が米国債と交換というところを、国債と読み間違っている
    可能性が大である事である。
    なぁ~に国債なら米国も自国も同じではないかという、いつものパターン
    ですよ。 国債に違いはないのだから、問題ないと。

  • 為替スワップと通貨スワップの区別ができない韓国人相手であれば、十分目晦まし可能だと思いますよ。「ドルを調達できるめどが立った!(でも、返済までは考えてない)」でOKでしょう。

    もちろん、世界中のハゲタカさんたちには全く通用しないでしょうが。

  • アメリカ様

    FIMAレポ発動前に、アメリカならではの

    「敵性国家の持つ合衆国国債は無効」

    を発動してみると楽しげかと。

    芸人さん驚かせてリアクション見て楽しむ…ってコメディってあるよね。

  • IMFには、外貨が不足して決済が出来なくなった全ての国を支援する責任があるのでしょうか?
    例えば北朝鮮とか。
    IMFが助けなければ、その国はどうなるのでしょうかね。

    • 基本的にはIMFへの出資額に応じたSDR配分の範囲でしょう。
      https://www.imf.org/en/Topics/special-drawing-right/2021-SDR-Allocation

      状況によっては、かつ韓国が陥ったように、特別な救済スキームが適用されることもあるようです。その場合、国家財政がIMFの管理下に置かれたり、経済構造まで手を突っ込まれたりなど、代償は小さくないようですが。

      > IMFが助けなければ、その国はどうなるのでしょうかね。

      それこそ、デフォルトを引き起こすということじゃないでしょうか。

  • (食い逃げの未然防止策は先払い)
    取りっぱぐれ無し!、担保率100%超の融資案件。
    かの国相手の取引は、こうでなくっちゃですよね。

    そして利息差引後の融通額は担保額面の1割とか。
    決済期限3か月:日歩1円(トイチ)なんですけど・・。

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