福島原発の「汚染水」問題で、韓国が日本に対し、しつこく抗議していることは、日本が韓国を特別扱いしなくなり、日韓関係が普通の二国関係に変化したことの証拠です。韓国政府は相変わらず日本に対する「ツートラック外交」という方針を堅持しているようですが、その外交方針自体がすでに破綻しているおんです。
目次
そろそろ年末ですね
気が付いてみたら、今年も残すところ、あと1週間です。早い人だと、本日でだいたい年内の仕事を終え、明日から年末・年始休みに入る、というケースもあるのではないでしょうか。
ただ、外交・安全保障という観点からすれば、基本的に「休み」はありません。
さまざまな話題がひっきりなしに動いているからです。
とくに、主要先進国や東アジア諸国のなかで、年末・年始に長い休みを取る国という意味では、日本は例外的な国ではないでしょうか。
欧米だとすでに現在がクリスマス休暇のシーズンですが、年始はたいていの場合、1日のみが休日で、2日以降は平日扱いです。また、中華圏の場合だと、旧正月が本格的な休暇シーズンであり、年末年始の休みはあっさりしたものだと聞きます。
旧英領で現在は中国領となっている香港の場合、12月25日とその翌営業日がボクシングデーの休日であり、また、同様に旧正月(例年1月下旬ないし2月ごろ)の期間も休日だそうですが、「日本が長い年末年始休暇に入っているときに、外国ではさまざまな情勢が動いている」といった事態は、例年よく発生します。
「来年もツートラックを維持する」、ですって
さて、年末というタイミングでもあるからでしょうか、昨日は韓国メディア『聯合ニュース』(日本語版)に、こんな記事が出ていました。
韓国外交部「米と供給網はじめ協力拡大へ」 対日はツートラック維持
―――2021.12.23 11:32付 聯合ニュース日本語版より
聯合ニュースによると、韓国外交部は23日、文在寅(ぶん・ざいいん)大統領に対し、2022年の主要業務推進計画を提出したのだそうです。
これによると、米国、中国、北朝鮮などとの関係について詳しく記載されているのだそうですが、もうひとつ、例年の「恒例」のようなものが、日韓関係についてのこんな記載です。
「韓日関係については、歴史問題の解決を模索する一方で実質的な協力は切り離して進める『ツートラック』を堅持していく方針を維持した」。
なんだか、脱力してしまいます。
文在寅政権の5年弱で、それがまったくうまく行っていないことに、どうして韓国政府・外交部は気付かないのでしょうか。
そもそも論ですが、「歴史問題の解決」と言われても、私たちの国・日本としては困ってしまいます。
過去の法的な債権債務関係の精算については1965年の日韓請求権協定で完全かつ最終的に解決してしまっているからです。
この日韓請求権協定を無効にしたうえでさらに日本に謝罪しろ、賠償しろという理屈が通るのならば、同じ理屈で、日本も1910年の日韓合邦以来、朝鮮半島に投資した多大なインフラの対価を請求する権利が生じるはずでしょう。
文在寅氏がツートラックを破綻させた?
いや、もっときついことを申し上げるならば、韓国が主張する「歴史問題」の多くは、韓国側の根も葉もない捏造であり(自称元徴用工、自称元慰安婦などの問題が、その典型例です)、韓国が「過去の歴史問題」を持ち出すなら、日本は「現在の韓国の歴史捏造問題」を持ち出すべきです。
つまり、ありもしない歴史問題で、韓国が日本の名誉と尊厳を現在進行形で傷つけ続けていることに対し、然るべきコストを韓国に負担させる必要がある、というのが、当ウェブサイトの一貫した主張でもあります(ちなみにこれは2月に刊行した拙著『韓国がなくても日本経済はまったく心配ない』の主題でもあります)。
ただ、こうした歴史問題から離れても、現在の韓国が行っている、日韓請求権協定に違反する状態を創り出した自称元徴用工判決問題を筆頭とする不法行為の数々を巡っては、それらの落とし前が付かない限り、韓国との協力を進めたくても、進めようがありません。
その意味で、文在寅政権は韓国が主張する「韓日ツートラック外交」そのものを破綻させた、という言い方をしてもよいのではないでしょうか。
汚染水じゃなく処理水ですよ!
その一方で、最近は韓国による「汚染水問題」を巡る攻勢も、激しくなってきました。
ここでいう「汚染水」とは、もちろん、福島第一原発で発生するALPS処理水のことを、韓国側がわざとこのように表現しているものです(『処理水は「汚染水」に非ず:海洋放出は合理的な決定だ』等参照。なお、最近だと「処理済み汚染水」などと称することもあるようです)。
※なお、科学を無視する政党や国が猛反発している模様「菅政権時代に発生した事故が、菅政権になってやっと解決に向けて少しずつ動き出す」。「菅」は「菅」でも「菅違い」、というわけですが、菅義偉総理が昨日発表したALPS処理水の放出については、やっとここまでこぎつけた、という点で、感慨深いものがあります。米国やIAEAなど国際社会も全面支持しているようですが、なかには科学を無視してこれに噛み付く奇特な人たちもいるようです。足掛け10年、やっとここまで菅総理が「ALPS処理水を2年後から海洋放出」菅義偉総... 処理水は「汚染水」に非ず:海洋放出は合理的な決定だ - 新宿会計士の政治経済評論 |
ただ、韓国側の言い分を認め、トリチウムが含まれる水を「汚染水」と呼ぶのであれば、韓国の原子力施設から海洋などに排出されている水も「汚染水」です。
参考までに、韓国の「月城原発」からは、2016年において、年間で液体17兆ベクレル、気体119兆ベクレルのトリチウムが排出されています(図表)。
【参考】世界の原発等からのトリチウム年間排出量
(【出所】経産省)
あれでしょうか、韓国では自分たちが排出しているものは「汚染水」ではなく、日本が排出しようとしているものは「汚染水」だ、とでも言いたいのでしょうか。
ダブル・スタンダードにもほどがあります。
二重に驚く韓国紙報道
こうしたなか、二重の意味で驚くのが、韓国メディア『中央日報』(日本語版)に掲載された、こんな記事です。
韓国市民団体、日本大使館前で記者会見…「韓国政府は汚染水海洋放出阻止に積極的努力を」
―――2021.12.23 17:48付 中央日報日本語版より
これによると、韓国の市民団体が23日、「ソウルの日本大使館前で」、「韓国政府は汚染水の海洋放出を防ぐために努力すべき」などと述べたのだそうです。
「汚染水」という誤った用語を使って日本を批判しているという点もさることながら、外国公館前で抗議活動をすること自体、そもそも外交関係に関するウィーン条約第22条第2項に違反する行為です。
外交関係に関するウィーン条約第22条
- 使節団の公館は、不可侵とする。接受国の官吏は、使節団の長が同意した場合を除くほか、公館に立ち入ることができない。
- 接受国は、侵入又は損壊に対し使節団の公館を保護するため及び公館の安寧の妨害または公館の威厳の侵害を防止するため適当なすべての措置を執る特別の責務を有する。
- 使節団の公館、公館内にある用具類その他の財産及び使節団の輸送手段は、捜索、徴発、差押え又は強制執行を免除される。
(【出所】外務省ウェブサイト『外交関係に関するウィーン条約』【※PDF】)
福島処理水は韓国を「特別扱い」しなくなった証拠
もっとも、『福島「処理水」放出を中韓への事前相談なく決める日本』などでも述べたとおり、正直、国際社会の法や常識に照らすならば、福島処理水の放出についても、日本は中韓ではなく、国際原子力機関(IAEA)のみを相手に協議すべきであり、実際に日本政府はそうやっています。
福島原発ALPS処理水の海洋放出に関連し、昨日、「関係閣僚等会議」が行われ、その配布資料が首相官邸ウェブサイトに公表されています。これを読んで真っ先に気付くのは、「中韓の要求に応じる」という姿勢がなく、あくまでも国際社会の標準に従い、国際社会の理解を得ることに重点が置かれている、という点です。この姿勢自体、全面的に支持したいと思います。ALPS処理水≠汚染水福島原発で生じている汚染水を多核種処理装置(ALPS)により処理した、いわゆる「ALPS処理水」を巡って、日本政府が準備作業を進めたうえで... 福島「処理水」放出を中韓への事前相談なく決める日本 - 新宿会計士の政治経済評論 |
このあたり、こんな抗議行動が韓国で出て来るということは、現在の日本政府が韓国や中国を「特別扱い」しなくなった証拠といえるかもしれません。
あるいは、もっといえば、『近隣国重視から価値重視へ:菅総理が日本外交を変えた』などでも指摘したとおり、安倍晋三・菅義偉の両総理の仕事により、日本外交は「基本的価値を共有する国々」を重視する方向に舵を切ったといえます。
日本時間の土曜日早朝、菅義偉総理は訪問先の米国で史上初の対面での日米豪印首脳会談に臨みました(厳密には、今年3月のテレビ会議を含めれば、首脳会談としては2回目ですが…)。少しインドのトーンが弱いというのは気になるところではありますが、ただ、今後は「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)が日本外交における基軸となることは間違いありません。まさに菅政権の最後の仕上げ、というわけです。クアッドではなくFOIPが重要先日の『日本外交は「クアッド+台湾」>「中露朝韓」の時代へ』では、「最後の最後まで仕... 近隣国重視から価値重視へ:菅総理が日本外交を変えた - 新宿会計士の政治経済評論 |
当然のことながら、日本は国際社会の法や常識に従って動いていけば良いのであり、韓国が求める「二国間の協議体」などの設置に応じる必要などありませんし、また、現在のところ、日本政府はそのような構想には応じていません。
巷間では岸田首相に対し、(※当ウェブサイトを含めて)「優柔不断ではないか」、などと批判する意見もあるようですが、少なくとも現在までのところ韓国に関しては、岸田首相も林外相も、韓国に対して何らかの「特別な対応」を講じるかのごとき発言はしていません。
というよりも、韓国に下手な譲歩をすることは、もはや自民党が許さないであろう、と信じたいところです。
いずれにせよ、日本外交が「近隣国である」というだけの理由で、韓国に対する特別な配慮をしなくなり、韓国の言う「ツートラック」を受け入れず、日韓関係を「普通の二国間外交」として扱うようになったこと自体は、大変に良い兆候ではないかと思う次第です。
View Comments (25)
処理水に限らず、韓国の特別扱いを全てやめ、様々な優遇措置を全て廃止してこそ、本来の関係に戻れると考えます。
「り地域」のグループB扱いとか、特別永住許可とか(最低限、3世以後は追放すべきです)。
処理水で特別扱いしなくなったのは、よいことですが、
媚中の岸田文雄内閣総理大臣も、
媚中の林芳正外務大臣も、
媚中の茂木敏充幹事長も、
媚中であるが故に、属国ごときの相手はしないだけという可能性もあるのが、気になるところです。
イーシャ様
韓国に対して普通の対応が出来るようになったのも、FOIP とQUAD のおかげだと思うのですが、そのQUAD ももう風前の灯…。
あんなバイデン政権に、首脳会談も先延ばしされている岸田さんって、ねー。
会っても意味ない?
鳩ポッポかムンムンか?っていう下馬評が、悲しいですね…。
>「来年もツートラックを維持する」
思考が痛い!
彼らのは、無限にループする「痛トラック」なんですよね。
上手いなあ(^^♪
>「来年もツートラックを維持する」、ですって
見出しだけ読んで一瞬、岸田政権の事かと勘違いしました。勘違いであって欲しいですが。
無限痛トラック?
仏滅の刃かな?
おはようございます。中国に対する政府の弱腰っぷりが気になる今日この頃ですので、その韓国の親分様関連で一言失礼します。
日鉄がトヨタと中国宝山に続き三井物産も特許侵害で提訴したのこと(本日サンケイ11p)。個人的に大いに注目し、応援したいと思っています。トヨタの車には乗っても、この件は日鉄を応援します。このような特許訴訟こそ、武力(勿論抑止力として防衛費倍増賛成ですが)によらない、また、自由民主法治ウソツカナイ約束守る技術立国日本らしい、大いなる攻撃力になって欲しいと願っています。
トヨタがEVにも力を入れるそうですが、中国に工場作られたら日本は危ういですので。早く高市さんに首相になって欲しいです。
偏見なんでしょうけど、中京圏の企業(に限りませんが)はお行儀が悪いですね。
儲かれば何でもあり、のように見えてしまいます。まだ大阪圏の方がマシでしょうか。
JR東海もJR日本海に名称変更して欲しいです。
ちょっと話はずれますが、EVつながりで。
"中国製EVが攻勢 京都で新たに電気バス運行 警戒も" (THE SANKEI NEWS Iza 20211222)
記事は、中国の不当廉売を問題にしていますが、本当に恐ろしいのはチャイナボカンではないでしょうか。
観光客で満員のバスが爆発したり発火したら・・・
ちなみに、詳しい路線はこちら。
"京都市内路線に「電気バス」を導入します!" (京阪バス 2021年2月24日 (pdf ファイルです))
ご利用は事故責任で。
電気バスでも水素バスでも良いが、京都駅前の排気ガス臭いのが治るならそれで良いと思います。
世界の観光地の正面玄関があんなに臭いのは品がありませんね。
トラムが正解なんでしょうけど、とりあえずは・・・
車と中国で思い出したのですが、
中国の空飛ぶ車、
あれ、大丈夫なんですかね?
想定される移動速度では滑空できる形状でもなく、ヘリコの様にオートローテーションできる機体構成でもない
願わくば視認できる範囲を飛んで欲しくないシロモノと考えておりまする
経産省の図表がわかりやすいですね。
これに日本の値を追加して英語にしたものをバーンと公表すればいいのに。
経産省のサイトに行ってみました。
英語版があったのでそこで検索してみると結果が日本語。。ちょっとつらいですねぇ。
中国、北朝鮮には、ツートラックという言葉さえ使わない。
相手にされないか、逆に痛いめにあうからでしょう。
韓国人自身もよくいう、それが韓国人に対する賢明な対応、だとおもいます。
時間切れで、小出しの制裁希望しております。
ユーチューブの「非株式会社いつかやる」でよく見ますが、歴史上の戦争で裏切り、寝返りは決定的に近いダメージを与える印象を受けております。
鈴置さんのおっしゃっる、「韓国は最初から日本を敵と見てますから。」
それがかなり日本人に理解されている感じを受けているのは、良い方向だとおもいます。
NHKは、英語と日本語で報道内容を変え、海洋放出される水を「radioactive water(汚染水)」と報道した
https://www.asahi.com/articles/ASP4F6D8MP4FUCLV004.html
処理水にしろ、靖国神社にしろ、韓国に攻撃の口実を与え続けているのは、実は日本のマスコミですね。日本のマスコミに食い込んでいる中韓シンパというか。
「汚染水」などという風評に、わが国のメディアも加担していますね。本来なら、IAEAのお墨付きをもらっており、科学的に何ら問題ないことを周知すべき立場なのに。
「ツートラック」をご自分たちで
口にしてしまうのは、
「どっちも同じウリたちニダ」と
白状しているようなものですが、
こちらはワントラックに束ねて
相手にしてあげなければいいだけです。
ツートラックの送られてきても、コチラの出力が1chモノラルだったら意味ないんだけどなあ
きっしー6chマルチトラックモノラルで返すために日韓議連あたり〆てくれんもんやろか?
韓国が対日不当要求をエスカレートさせている要因の一つに、我が国マスゴミの報道の在り方があると思います。
彼らの主張をさも一理ある、ある種正論でもある、かのような取り上げ方、論評をすることが多々あり、一般の読者はそれを鵜呑みにすることも多いでしょう。
韓国の対日戦略や、異常な民族優越主義に基づく貶日行為等であることを伝えているのはごく一部(産経等)です。
韓国は、次期大統向けた向けた動きとも相俟って、ますます反日・用日の姿勢を強めているように思います。軍備の増強などもそうした流れの一環でしょう。
韓国はもはや友好国ではなく、敵性国家であるとの認識に立ち、対応していく必要があると思います。
ひょっとして
なんツートラップの聞き間違いでは?