朝日新聞社の中間決算が出て来ました。コロナ禍の直後と比べれば幾分かマシになりましたが、相変わらず、売上高の落ち込みが止まりません。また、繰延税金資産の取崩が終わり、財務的には健全そのものです。このように考えると、新聞事業を不動産業などの営業利益の範囲内に収まるようにしていけば、新聞事業そのものは赤字でも会社自体は回っていくのかもしれません。
目次
新聞社の決算分析
新聞社の決算分析は非常に難しい
当ウェブサイトではときどき、新聞社やテレビ局の決算分析を行っていて、つい最近も『フジテレビが実施する希望退職募集は「悪手中の悪手」』のなかで、在京民放5社のうちいくつかについて、セグメント情報などを紹介したばかりです。
ただ、在京民放局の場合は、いちおう(親会社が)上場しているため、決算書が比較的容易に手に入るのですが、大手新聞社に関してはどれも非上場であるため、決算書などについては、「誰にでも容易に手に入れられる」というものではありません。
『某新聞社、4期連続営業赤字で自己資本比率も3%割れ』では、偶然、ツイッターに投稿されていたとある「大手」新聞社を事例に、限られた情報のなかから何とか頑張って決算分析をしてみたのですが、これは運が良かった方であり、たいていの場合、決算分析すら簡単にはできません。
有報提出会社である株式会社朝日新聞社
しかし、その数少ない例外が、株式会社朝日新聞社です。
朝日新聞社の場合もやはり非上場会社ではありますが、2021年3月31日時点における株主数が1854人であり、金融商品取引法の規定に従い、有価証券報告書(いわゆる「有報」)の内閣総理大臣への提出が義務付けられています。
(※ちなみに日本取引所グループのウェブサイト『用語集』によると、有報を提出しなければならない会社は上場会社、店頭登録会社などに加え、「過去5年間において事業年度末日時点の株主数が1000人以上となったことがある有価証券の発行者」、とされています。)
今年6月に朝日新聞社が提出した有報については、『株式会社朝日新聞社の有報を読む』でも詳しく触れたとおりですが、非上場会社のわりにはかなり詳細な情報を得ることができる理由は、まさに同社が有報提出会社だからでしょう。
たとえば株式会社読売新聞グループ本社、株式会社日本経済新聞社、株式会社毎日新聞グループホールディングス、株式会社産業経済新聞社は、どれも非上場会社であり、かつ有報提出会社ではないらしいため、結局、大手全国紙のなかで決算分析が可能なのは朝日新聞社しかないのです。
(※ちなみに株式会社産業経済新聞社は株式会社フジ・メディア・ホールディングスの持分法適用関連会社です。)
朝日新聞の決算
前期の大赤字の原因は退職給付にかかる繰延税金資産の取崩
では、その株式会社朝日新聞社の決算は、いったいどういう状況だったのでしょうか。
これについては有報が出てくる前の「決算短信」の段階で、『株式会社朝日新聞社の決算:一過性要因とその他の要因』のなかでざっと分析したとおり、前期(2021年3月期)は繰延税金資産の取崩などにより、連結ベースでじつに442億円という最終損失を計上しています。
ただし、これも繰り返しですが、株式会社朝日新聞社の前期の「大赤字」の最大の原因となったのは、繰延税金資産の取崩という一時的な現象です。
想像するに、これは「退職給付に係る負債」に関連して、それまで計上されていた繰延税金資産について、おそらくは「将来の課税所得で回収することができなくなった」との監査上の判断が下されたことによるものではないかと思います。
しかし、こうした損失は毎期出て来るものではありません。いったんどこかの期で繰延税金資産の取崩が行われれば、その後は同じ項目による損失は原則として出て来ないのです。
したがって、当ウェブサイトとしては、「繰延税金資産の取崩という一過性の要因がなくなれば、来期以降、株式会社朝日新聞社の決算は再び黒字化するのではないか」と予想した次第です。
中間期は黒字化
結論からいえば、その予想は正しかったようです。
大阪にあるテレビ局・朝日放送の親会社である朝日放送グループホールディングス株式会社のウェブサイトに11月29日付で掲載された『親会社等の決算に関するお知らせ』(※PDF)という資料に、株式会社朝日新聞社の2021年9月末時点の中間決算短信が掲載されていました。
連結損益計算書の主要項目について、前中間期と当中間期を比較したものが、次の図表1です。
図表1 株式会社朝日新聞社・2021年9月中間期連結損益計算書主要項目前期比較
項目 | 前中間期→当中間期 | 増減 |
売上高 | 1391億円→1315億円 | ▲76億円 |
売上総損益 | 366億円→313億円 | ▲53億円 |
営業損益 | ▲93億円→31億円 | +124億円 |
経常損益 | ▲82億円→68億円 | +149億円 |
税前損益 | ▲94億円→64億円 | +158億円 |
中間純損益 | ▲419億円→50億円 | +469億円 |
(【出所】株式会社朝日新聞社・決算短信より著者作成。なお、図表中「中間純損益」は、正式には「親会社株主に帰属する中間純利益又は親会社株主に帰属する中間純損失」のこと)
いかがでしょうか。
前中間期は、営業損益以降、各段階の損益がいずれも赤字でしたが、今中間期についてはどの段階でも黒字化していることが確認できます。
売上高のマイナス傾向は続く
ただし、売上高についてはマイナスが続いています。
年度決算のベースでみると図表2のとおりですが、直近約10年分の決算で確認すると、最盛期だった2012年3月期の4762億円と比べ、2021年3月期は連結売上高が2938億円と、一気に3000億円の大台を割り込んでいるのです。
図表2 株式会社朝日新聞社・年間の連結売上高推移
(【出所】株式会社朝日新聞社・有価証券報告書より著者作成)
しげしげ眺めると、興味深いグラフだと思います。
2014年3月期まで、株式会社朝日新聞社は連結売上高が4500億円を上回っていましたが、2015年に4500億円の、2017年には4000億円の大台を割り込み、売上高が「順調に」(?)減り続けていたところ、2020年のコロナ禍で一気にガクンと600億円近くも売上高が落ち込んだからです。
株式会社朝日新聞社・連結売上高
- 2010年3月期…4703億円
- 2011年3月期…4665億円
- 2012年3月期…4762億円
- 2013年3月期…4720億円
- 2014年3月期…4695億円
- 2015年3月期…4361億円
- 2016年3月期…4201億円
- 2017年3月期…4010億円
- 2018年3月期…3895億円
- 2019年3月期…3750億円
- 2020年3月期…3536億円
- 2021年3月期…2938億円
(【出所】株式会社朝日新聞社・有価証券報告書より著者作成)
株式会社朝日新聞社の場合、この10年あまりで売上高は3分の2以下になった、ということです。
そして、「売上高の落ち込み」という傾向は、当中間期で見ても、やはり続いています。さすがにコロナ禍の2020年9月期ほどの急激な落ち込みではないにせよ、やはり「順調に」減少しているという傾向が続いているのです。
株式会社朝日新聞社・中間期連結売上高
- 2019年9月期…1794億円
- 2020年9月期…1391億円
- 2021年9月期…1315億円
(【出所】株式会社朝日新聞社・決算短信より著者作成)
不動産業もコロナ禍の打撃を受けたもよう
ただ、世間的には「朝日新聞社は不動産業で儲かっている」、などと思われているのですが、どうも売上高の減少傾向は、新聞社の単体も連結も、だいたい同じような傾向を示していることがわかります。
先ほどの図表2について、売上高を単体決算のものに置き換えてみると、図表3のとおりです。
図表3 株式会社朝日新聞社・年間の単体売上高推移
(【出所】株式会社朝日新聞社・有価証券報告書より著者作成)
これで見ると、売上高の落ち込みは連結と同じような傾向を示していることがわかりますが、2021年3月期に関してみれば、売上高の落ち込みは、単体よりも連結の方が大きいのです。
株式会社朝日新聞社・単体売上高
- 2010年3月期…3279億円
- 2011年3月期…3168億円
- 2012年3月期…3119億円
- 2013年3月期…3148億円
- 2014年3月期…3135億円
- 2015年3月期…2886億円
- 2016年3月期…2748億円
- 2017年3月期…2624億円
- 2018年3月期…2553億円
- 2019年3月期…2455億円
- 2020年3月期…2396億円
- 2021年3月期…2103億円
(【出所】株式会社朝日新聞社・有価証券報告書より著者作成)
このように考えていくと、メディア・コンテンツビジネスだけでなく、不動産業についてもコロナ禍でかなりの打撃を受けたという可能性はあるのかもしれません。
自己資本は潤沢
もっとも、少なくとも株式会社朝日新聞社に関していえば、売上高が急激に落ち込んでいることは事実でしょうが、いますぐ経営危機に陥る、という状況にはありません。
同社の中間連結貸借対照表上、バランスシートの総資産規模は5739億円ですが、純資産の部は3539億円と、自己資本比率は60%を大きく上回っています。いちおう、営業債務や借入金などの負債も数百億円計上されていますが、事実上の無借金経営に近いといえます。
そして、資産側には現金預金、有価証券、投資有価証券などの金融商品が3186億円も計上されており、資金繰り的にもかなりの余裕がありますし、コロナ禍で傷ついたとはいえ、依然として年間数百億円レベルの営業利益をもたらす不動産も所有しています。
さらには、2021年3月期決算で繰延税金資産をあらかた取り崩したため、不健全な資産はほとんどないと考えられ、財務的にも健全性を確保しています。
このように考えていくと、朝日新聞社は極端な話、不動産業・資産運用業に特化して、そのキャッシュ・フローの範囲内で新聞を刊行するようにすれば、新聞事業は赤字でも十分にやっていけるのかもしれません。
たとえば、「記者の人数を現在の3分の1にまで圧縮する」、「夕刊を廃止する」、「支局をどんどん閉鎖する」、「儲かっている不動産部門に人材を配置する」、といったことが考えられます。
このあたり、純資産の金額を上回る繰延税金資産を計上している某新聞社とは事情がまったく異なるのでしょう。
View Comments (16)
半期の売上と売上総利益の前期比較を見ていると、売上減の7割ほど売上総利益が減っている。
これは売上が増えたとき、その7割の売上総利益が増えるということで、伸びているときは結構おいしいビジネス。追加のコストは紙とインク代くらいということか。
夕刊の廃止をためらう理由がわかるような気がする。
朝日新聞の経営陣が『新聞会社は社会の公器である』と考え、不動産事業での黒字を新聞事業に突っ込むのは、経営判断としてありかもですね。
会社は株主のものであり、利益を株主に還元する為に活動する、と考えれば認められないでしょうけど、新聞会社は道路や水道、電気などに準ずる、と考えればと。
まぁ、その場合の問題は、朝日新聞の報道内容が社会の公器足り得るか、ですかね。
クロワッサン 様
>朝日新聞の経営陣が『新聞会社は社会の公器である』と考え
もし、朝日新聞が(建前でも)『社会の公器』ならば、誤報や記事捏造があった場合に社長の辞任時には、後任の選ぶ際に、外部からの『社内の改革ができる新社長の〇〇』という強い推薦(?)を無視できないのではないでしょうか。
蛇足ですが、(別に新聞業界だけに限りませんが)斜陽の業界は、新社長を選ぶ際に、別の業界からという選択肢があっても、よいのではないでしょうか。(もちろん、それで成功するという保証もありませんが)
駄文にて失礼しました。
引きこもり中年 さん
考えてみたのですが、朝日新聞に社長を送る外部の声がまともかどうかをどう判断するかが難しい気がします。
DTAや退職給付に係る負債など、会計士志望としては出てくると嬉しくなります♪
DTAや退職給付に係る負債など、会計士志望としては出てくると嬉しくなります♪
有形固定資産2000億、投資有価証券2000億、退職給付に係る負債1200億ですか。
新聞が消えゆく産業であることを考えると、現役組かつ高齢者ほど勝ち逃げを考えてしまいそうですね。
若手やこれから入社する若者は大変そうです。
ところで、有報のPDFのP.3って、貸借対照表の下の空欄に透かし数字が埋め込まれてますね。前の期の数字が残ってるのかな?
文字を白くして見えなくしたEXCELのオブジェクトを貼り付けた風情です。
消し忘れ?
大したことは書かれてなさそうですが。
高貴で神聖なる職業に従事する新聞記者さんたちにはどんな配置転換先があるのでしょうか。大企業においては国際時事経済国際経済研究部門のようなポジションがあるのかも知れません。情報分析能力、もしあるとして、は業種を問わず重用されることでしょう。もっともこの先新聞業界から転出して行くであろう記者さんたちを「引き受ける枠」はあんまし大きくないに違いないですね。「角度一切お断り」業種がほとんどでしょうから。
こんにちは。
朝日新聞社の営業利益が黒字化したのは
販管費を前年同期比で大幅削減したことが大きいようです。
※前年同期比で連結ベース38.7%減、単体ベースで45.4%減
>>このあたり、純資産の金額を上回る繰延税金資産を
>>計上している某新聞社とは事情がまったく
>>異なるのでしょう。
財務レバレッジ30倍越な毎日新聞社を
遠回しにディスるのはやめてあげてください!!
某新聞社の方は中国共産党から支援を受けていると数年前に米国に暴露されてましたが、売上不振でますます中国傾斜が進むでしょうね。
朝日新聞の場合は、経営が健全なのに(中国共産党に頼まれもしないのに)反日論調を貫くところは頑固というか一途というか、迷惑ですね。
誰が呼んだか、
侮日新聞・・。
残念ですね。
ィ毎日新聞
ロ朝日新聞
ですね。
ハ東(凍)京新聞もあります。
興味深い記事を見つけましたのでご紹介がてら
「太平洋戦争を煽りに煽って、焼け太りした」新聞社の社史に出てこない空白の歴史
https://president.jp/articles/-/51098?page=1
概略を簡潔にまとめると
戦前は全国各地に新聞社が多数あり、しのぎを削る市場競争原理が働いていたそうですが
日中戦争開始後政府が検閲を容易にするために、数社の全国紙と各都道府県に原則一社の地方紙に強引に統合したそうです。
戦時下を名目とした強引な政策でしたが、一方でライバルが少なくなり筆者のいう「座り心地のいい座布団」が提供された政策でもあったため、中には特高警察のOBを招き入れて厚遇した新聞社もあったとのこと。
そして敗戦後も座り心地の良い座布団の味が忘れられず戦時の体制を継続し、今になってネット等の新しいメディアに対抗できず、衰退の道を進む事になったと結論づけられています。
不動産を切り売りしていくと
いずれ売るものがなくなる