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韓国与党大統領候補が「歴史歪曲断罪法」の制定に言及

来年の韓国大統領選で李在明(り・ざいめい)氏が当選すれば、現在の文在寅(ぶん・ざいいん)政権による日韓関係に対する否定的な動きがさらに加速しかねない――。そう感じさせるような記事が、韓国メディアに掲載されていました。聞くところによると、「歴史歪曲断罪法」なる法律に言及したのだそうです。ただ、じつは韓国にはすでに事後法を成立させた実績もある、という点については無視できません。

日本は法治国家だが…

多くの方が知るとおり、私たちが暮らす日本という国は、近代的な法治国家です。

近代の法治国家では、法律に定めたとおりの効果が生じるという意味において「予見可能性」、つまり、「自分の行為がどういう法的な効果をもたらすかをあらかじめ予測すること」が可能である、という特徴があります。

もっと平たくいえば、「法律をちゃんと知っていれば、思わぬ損をすることはない」、という意味です。

これに対し、前近代的な国、法治が機能していない国、全体主義国家などでは、ちゃんと法律を守っているつもりでも、思わぬ損害を被ることがあります。

わかりやすいのは、発展途上国でビジネスをしていると、担当する役人から公然と賄賂を要求されたり、いきなり資産を没収されたりすることがある、という事例でしょう。

この点については著者自身も金融評論家であり、また、(いちおうは)公認会計士ですので、諸外国でのビジネスについては相手国が「法治国家」かどうかで条件がまったく変わってきてしまう、ということを、実務のなかで学んできたクチです。

あえて国の名前は挙げませんが、現地の法律に従って決められた金額を決められた期日までに資本金として払い込み、許可申請書をちゃんと出してきたにも関わらず、ある日突然、その地域の有力政治家が申請書の細かい部分に難癖をつけ、工場の操業が中止に追い込まれる、といった事態もあったようです。

法律を作ったとしても、結局のところ、その法律を運用するのは「人間」です。

日本のように、決められたことを決められたとおりにきちんと運用していける国は、じつは、世界のなかでは少数派であって、大多数の国はどこかのプロセスをポーンとすっ飛ばしたりしてしまうのかもしれません。

実際に法治が期待できなくなったら、どうなるか

逆にいえば、「法律が予定されたとおりに運営されるのが期待される国」というのは、それだけで非常に価値が高いといえます。

最近は知りませんが、かつての香港は、自由でありながらも英国の植民地として法治(あるいは「法の支配」)が貫徹しており、いわば、「ルールを守っていれば何をやっても大丈夫」という意味では、良い意味での自由主義国の典型例のような場所だったと思います。

ただ、見かけ上は法治国家だと思っていても、現実には法治が期待できなくなる、という事例もあります。

「事後法で全斗煥元大統領から追徴金」が議論される国』でも議論したとおり、どうも最近の韓国は、国際法違反の判決に加え、「遡及効の禁止」という、近代法治国家ならば絶対に守らねばならない最低限のルールすら破る立法がなされているフシがあります。

「事後法」という考え方があります。これは、「後からできた法律を過去に遡及(そきゅう)して適用させる」という考え方で、とくにまともな近代法治国家であれば、刑法などの世界で事後法はタブーです。ただ、その事後法を続々と成立させている国が私たちの隣に存在していることを、私たちは知るべきです。とくに、故・全斗煥(ぜん・とかん)元大統領の財産没収という議論はその典型例でしょう。遡及効の禁止「法治国家」とは?私たち日本国民は、法治国家である日本に暮らしています。「法治主義」と「法の支配」は厳密には別の概念...
「事後法で全斗煥元大統領から追徴金」が議論される国 - 新宿会計士の政治経済評論

当ウェブサイトでは、「そのような国でビジネスをすることのリスク(ビジネスリスク)や法解釈が安定しないリスク(リーガルリスク)などを、もう少し適正に査定する必要がある」と申し上げているわけですが、世の中的にその必要性を、いったいどこまで理解しているのか、どうも疑問でもあります。

意外と早くわかるかもしれない

もっとも、『日本はモノづくり相手を韓国から台湾に切り替えるのか』でも述べたとおり、最近、「ニッポン株式会社」は「モノづくり」のパートナーを、韓国から、徐々に台湾に切り替えるという動きを見せていることもたしかでしょう。

10月分の貿易統計からは、台湾が日本にとって引き続き3番目の貿易相手国であることが判明しました。といっても、4番目の貿易相手国である韓国と比べると、その差は肉薄しています。ただし、もしも当ウェブサイトが考える「日本企業がモノづくりのパートナーを韓国から台湾にシフトさせている」とする仮説が正しければ、いずれ「台湾>韓国」という流れは完全に定着するかもしれません。普通貿易統計・10月分最近、当ウェブサイトで毎月のように確認するようになってきた統計のひとつが、『普通貿易統計』という統計データです。その...
日本はモノづくり相手を韓国から台湾に切り替えるのか - 新宿会計士の政治経済評論

一般的に日本企業では、動きは鈍いのですが、いったん方針が決まったらあっという間に変化します。

その「方針が決まるタイミング」というのがいつ来るのかはよくわかりませんが、意外と遠くない未来にそのタイミングがやってくるかもしれません。

それを感じさせる記事が、昨日、韓国メディア『中央日報』(日本語版)に掲載されていました。

【社説】「歴史歪曲断罪法」を作るという韓国与党大統領候補、危険な発想をやめるべき

―――2021.11.29 13:48付 中央日報日本語版より

記事タイトルに「社説」とありますが、「与党大統領候補」とは、韓国国会の多数党であり、「左派政党」とされる「ともに民主党」の公認候補である李在明(り・ざいめい)氏のことです。

最近の世論調査では、「保守政党」とされる野党・「国民の力」の公認候補である尹錫悦(いん・しゃくえつ)氏と競り合っていて、若干劣勢も伝えられているようですが、このあたりは結局、来年3月の大統領選まではどちらが勝つか現時点で予断すべきではないでしょう。

「歴史歪曲断罪法」とは?

それはさておき、中央日報によると、李在明氏は28日、光州(こうしゅう)の「5・18民主化運動関連現場」を訪問した際に、「歴史歪曲断罪法」を国会で早期に通過させるべきと述べた、としています。

この「歴史歪曲断罪法」とは、「独立運動の誹謗、親日行為の称賛、旧日本軍慰安婦をはじめとする日帝強占期の戦争犯罪、5・18民主化運動の真実を歪曲・否定する行為」を処罰対象にする、というものなのだそうです。

なかなか強烈な発言です。

実際、中央日報の社説でも、「歴史歪曲断罪法は危険な発想だ」、「思想と表現の自由を抑圧するとの懸念が強い」、などと懸念を表していますが、たしかに歴史上の出来事について一面的・一方的な解釈を「真実」などと強制的に規定し、それに反する解釈を罰するというのは、尋常ではありません。

もっとも、個人的にこの社説を読んで真っ先に思い出すのは、それこそ2005年に成立した「親日派財産没収法」です。

この法律も、「親日派」と認定された者やその子孫から財産を没収するという、法治国家ではおよそ考えられない明らかな事後法でしたが、韓国の「保守派」とされる人々がこの「親日派財産没収法」に全力で抵抗した、という話はあまり聞きません。

歴史に対する「事実」と「意見」をハッキリ分けるべき

というよりも、韓国メディアを眺めていて、あるいは韓国の政治家、市民活動家らの発言を見ていて、いつも感じるのは、「真実」、「歪曲」などの単語です。

歴史には基本的に「事実」がありますが、それに対する「解釈」には「唯一絶対の真実」など存在しません。

たとえば、「1910年、日韓併合条約で大日本帝国が大韓帝国を併合した」というのは「歴史的事実」ですが、「日韓併合には、日本は韓国を侵略する邪悪な意図があった」、などといえば、その部分はまさに「解釈」の範疇です。

しかし、どうも韓国では、論者が左派であろうが保守派であろうが、日本による韓国併合を「悪いこと」、「間違ったこと」などとする「解釈」を「真実」と規定する傾向があるように見受けられるのです。

この点、当ウェブサイトとしては、べつに「日韓併合は正しいことだった」などと申し上げるつもりはありません。

ここで言いたいのは、歴史に対しては「さまざまな立場からさまざまな解釈があり得る」ということであり、その意味では客観的事実と主観的意見は明確に峻別しなければならない、ということでもあります。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

こうした点もさることながら、李在明氏の発言を眺めていると、たしかに彼なら「歴史歪曲断罪法」なるものを推進しかねない、という危うさもあります。

そして、来年3月の大統領選で李在明氏が当選すれば、現在の文在寅(ぶん・ざいいん)政権による日韓関係に対する否定的な動きがさらに加速しかねず、その際、さまざまな不法行為を伴うことについては、リスクとして織り込んでおく必要がありそうです。

新宿会計士:

View Comments (20)

  • >「歴史歪曲断罪法」とは?

    「歪曲歴史批判防止法」です。
    国会議員選挙で左派が大勝した時に、文在寅大統領在任中に制定されるかと思ってました。
    その時の政権や国民感情で恣意的に運用されるでしょう。
    制定されれば、言論や思想信条の自由を制限する国だと宣伝しているような物で、自由民主主義側との価値観の相違を浮き彫りにするでしょう。

  • 私は、嫌韓主義の立場から、次期大統領選挙では、イ・ジェミョン推しです。日韓関係のみならず、米韓関係をも悪化させ、中国から冷たくあしらわれるかの国をたのしんぱいしたい、という器の小さい見地からです。今回の”歴史歪曲断罪法”ですが、イ・ジェミョンの性向がやや極端に出ている嫌いもありますが、韓国民の特性も出ていると考えます。OECDによる2018年PISA調査(3年おきに行われる)で、文中の「事実」と「意見」をきちんと分けて理解しているかを試すテストがあり、37ケ国中最も低かったのが韓国の25.6%でした(因みに最も高いのは米国で69.1%、日本は16位47.9%)。もっとも我が国でも”角度をつける”報道が好きなA新聞もありますし、米国でも都合の悪い事実には”フェイクニュース”を連発する元大統領もいますので、あながち韓国民だけの特性ではありません。でもやはり「事実」と「意見」をきちんと分けて理解することは、とても大事なことだと考えます。

    • 非常に面白い情報ありがとうございます。米国は反コロナワクチン派が多くフェイクニュースに踊らされている人が多い印象でしたが、米国が一位なんですね。びっくりでした。
      韓国大統領選挙は残念ながら尹候補の方が支持率は高く、本命は尹氏の方です。尹氏が当選すると中途半端に米国や日本で関係修復の動きが出て、中途半端な関係が継続しそうです。どうせなら落ちるところまで落ちてほしいので私も李在明さんに期待してます。

  • こういう部分で、韓国、と言うか半島はあくまで華夷秩序内、中華中共のサブセットである、と分かります
    「朝令暮改」というのは元々が中華の故事成語ですし、近現代の先進国では少なくとも政府側は慎む事例でありましょう
    ですが、中華の皇帝親政であれば、全ては皇帝(とその威を借る官僚)のさじ加減一つ
    都合の悪いことはとっちめて無くしてしまえばイイだけのことと
    韓国のコレは、それを悪い意味で拡大してやってるんですね
    しかも、コレを支持する層が一定以上いるという恐怖
    韓国では「それが我が身に降りかかるかも知れない、と言う想像が出来ない」という意味でも「想像力がない」のですね

    • hallo さん

      >韓国では「それが我が身に降りかかるかも知れない、と言う想像が出来ない」という意味でも「想像力がない」のですね

      韓国人は、韓国社会の不正や不公平によって誰かが利益を手にしたと知った時、韓国社会に不正や不公平が存在する事ではなく、自分も利益を手に入れられなかった事に憤る、と理解しています。

      なので、都合の悪い事実を隠蔽される側ではなくする側に回れた時の利益を考えて、言論統制・弾圧に賛成すると思います。

      • >>クロワッサン 様
        おっしゃる通りでありました
        その意味では、逆に想像力過多なのかも知れませんね
        「支配者側に回れるのだ」という妄想に駆られるという

  • >もっとも、個人的にこの社説を読んで真っ先に思い出すのは、それこそ2005年に成立した「親日派財産没収法」です。

    私としては、韓国政府が日本政府に対して《正しい歴史認識の共有》を求めている事ですね。

    『歴史には基本的に「事実」がありますが、それに対する「解釈」には「唯一絶対の真実」など存在しません。』での「唯一絶対の真実」に当たるのが「正しい歴史認識」という理解で良いでしょうし。

    厳密には嘘妄想だらけな「正しい歴史認識」ですが、韓国、韓国政府、韓国民にとっては「歴史的事実を根拠に、正しい解釈によって導かれた正しい歴史認識」なので、其れを抱いて【民族自決】の道をこのまま歩んで貰いたいですね。

  •  「歴史歪曲」を禁止・断罪する法律が制定されれば、次のような言論が禁止されるでしょう。
    ➀大日本帝国による大韓帝国併合は、当時の国際法では合法だった。
    ➁竹島は、歴史的にも国際法的にも日本の領土だ。
    ➂日韓請求権協定により、日韓両国間・両国民間の全ての請求権は完全かつ最終的に解決された。
    ➃日本軍が朝鮮人少女20万人を強制連行し、性奴隷としたことは証拠が無く、事実ではない。
    ⑤「自称元日本軍性奴隷判決」は、主権免除原則に違反しており、国際法違反だ。
     また、この法律は、裁判官や国会議員も拘束しますから、「自称元徴用工判決」を是正する判決や立法措置も不可能になるでしょう。
     個人的には、「歴史歪曲断罪法」や「歴史歪曲禁止法」の制定を大いに期待しております。

  • そもそも、漢字を廃棄した時代より以降に生まれた韓国人たちは、1910年当時の新聞記事やら様々な刊行物も解読できないように、知的にはかなり劣化してきていると思われます。

    自分の国で過去にどのようなことが起き、それに祖先達がどのように対処してきたのか、それすらも自分の知識では確認できなくなっているということに対して、彼等は何処までその喪失感や危険性を自覚できているのだろうかと、他人事ながら不思議に思う次第です。

    よく韓国人達は我々日本人に向かって「歴史を知らない民族」などと罵る事が多いようです。が、少なくとも我々は、1910年あるいはそれ以前の新聞や刊行物を読むことができますし、その他の刊行物等も読むことは(少々難しくとも)できます。少々学習すれば江戸時代あるいはそれよりも遙かに昔の書物等も解読することが可能です。

    そして歴史的事実とそれに対する評価とは全くの別物だという事は、ある程度の知性と教養を有する日本人であれば当然のことと受け入れることができるでしょう。つまり、歴史の評価については人それぞれ各自の立場や思想によって微妙に違うであろう事は容易に受け入れられる事だと思うのです。

    であるからこそ思想信条の自由は、最も重要な人間の尊厳を守るための基本的人権の柱となっているはずです。

    しかし韓国では自分の思想信条と異なる価値観を持つ人に対して、日本とは違ってはるかに不寛容なようです。かつて慰安婦は職業売春婦であったことが多かったと発言した学者が、彼女たちの前に連行され土下座させられたことがありました。また日本の統治にもよいところがあったと居酒屋で話した老人がその場に居合わせた若者に撲殺された事件もありました。

    しかし、韓国社会ではこの若者に同情的であり、片や被害者の老人に対しては殺されて当然という非難の声も多く上がっていたと云います。何とも恐ろしい国だなと思わざるを得ません。

    自分と異なる歴史観を許さない風土が、元々あの国にはあるのだと改めて思う次第です。

    つまりこの問題は李在明氏個人の資質の問題なのではなく、韓国人の多くが元々共有している宿痾なのだと我々な認識すべきでしょう。

    つまり結論としては・・・

    悪友ヲ親シム者ハ共ニ悪名ヲ免カル可ラズ
    我レハ心ニ於テ亜細亜東方ノ悪友ヲ謝絶スルモノナリ

    というところに行き着いてしまうしかないのでしょうね。

  • 洋の東西を問わず歴史は常に勝者により書き換えられてきています。「歴史歪曲断罪法」云々より、韓国の候補者はそれを言う李在明氏に勝たねばならないし、日本は韓国に勝たねばなりません。具体的には韓国を元の最貧国へ落とすこと。

  • 法律に縛られない国は多くあります。
    何故なら、法律の上に〇〇があるからです。
    (〇〇は国により、異なります)
    法律をどのように運用するかは、その国の法律を呼んでも解りません。
    そもそも法律を民衆迄周知させているかが、解らないからです。

    当該国を列挙すると
    1)共産主義国
    2)王制国(例:北国)
    3)部族国(例:南国)
    尚、上記の区分に該当するが、当てはまらない国も存在します。
    共産主義国は王制国の「王」を廃止し、集団指導体制化しようとしましたが
    結局「王」が「書記長」「主席」等に変わっただけです。

  • 自国の歴史を良く見せるため多かれ少なかれいくらかの嘘を入れるということはあると思いますが、殆ど全てが嘘乃至はファンタジーで、それを元に更にそれを膨らますような国は韓国だけかと思います。もちろん中国や北朝鮮もですが、一応表面上民主主義で言論の自由もある国では唯一でしょう。
    逆に言うと中国より危ないと思います。
    日本の政府は韓国への渡航や投資に関して注意を喚起すべきだと思います。

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