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真冬の北海道野宿計画を「美談」にしたメディアの責任

先日の『冬の北海道に徒歩で挑む沖縄の若者に辛辣な大人の意見』で取り上げた若者の日本列島縦断という話題を巡っては、その後も北海道在住者などを中心に、「無謀だ」、「せめて時期を選んでくれ」、といった悲痛な意見が寄せられているようです。ただ、個人的な見解ですが、おそらくこの方は北海道に上陸すらできずに、下手をすると西日本を抜けることもできずに旅を終えるのではないかという気がしてなりません。こうしたなか、もうひとつ気になるのが、この無謀な計画をあたかも美談であるかのごとく報じたメディアに責任はないのか、という視点です。

冬の北海道を舐めてはいけない

先日の『冬の北海道に徒歩で挑む沖縄の若者に辛辣な大人の意見』では、沖縄に在住する18歳の若い男性が、10月22日から来年1月28日までの日程で、沖縄県波照間島から稚内まで「徒歩で」向かう、という、琉球新報に掲載された話題を取り上げました。

若い人の挑戦は、素晴らしいと思います。著者自身も若いころ、ずいぶんといろんなことに挑戦したつもりですし、とにかくやりたいことをやりたいようにやるのは後悔しない(かもね)、と言いたい気持ちもあります。ただ、「若さ」にかまけて、あまりにも無計画で無謀なことをやるのはいかがなものかと思ってしまうのも事実です。沖縄の18歳が「今から」真冬の北海道まで徒歩で出掛けると聞くと、どうもおそろしい気持ちになってしまうのです。旅行の思い出著者ごときが若い人たちに偉そうに教えを垂れる立場にはないという点は承知して...
冬の北海道に徒歩で挑む沖縄の若者に辛辣な大人の意見 - 新宿会計士の政治経済評論

端的にいえば、恐ろしい話です。

北海道ではすでに初雪が観測されていますし、本州などでも高山などを中心に雪が降り始めています。この方は日本縦断中はおもに野宿をする予定だと述べたそうですが(予算の都合でしょうか?)、正直、冬の寒さを舐めてかかるのは感心しません。

下手をしたら、命を落とします。

この点、著者自身も職業柄、真冬の北海道と沖縄の両方を経験することがあります。

2月の沖縄といえば、最低気温が平均して15度前後にまで下がるため、さすがに夜は上着を羽織りたくなる気候ではありますが、それでも日中の平均気温は20度前後と温暖であり、正直、「命の危険」を感じるほどの寒さを経験することはありません。

これに対し、2月の北海道といえば、地域にもよりますが、たとえば十勝平野あたりだと最低気温は「マイナス」15度に下がります。内陸部だと、夜間にマイナス30度にまで下がるケースもあるようです。

ましてや、野宿など、出来っこありません。

それどころか、大変な積雪のなか、雪道を徒歩で行くのは、本人にとって危険であるだけでなく、道をゆく自動車にとっても同様に、大変に危険でもあります。

どう見ても、雪道以前に防寒対策で場数を踏んでいるとも思えない18歳の方がこの旅行をするというのは、無謀というほかにありません。

たぶん、そもそも北海道に上陸すらできない

もっとも、「yuwa1025_」というアカウント名を使うこの方が、インスタグラムなどに公開している、今回の行程と思しき地図を見ると、少し考えを改めました。おそらく、北海道に上陸するよりかなり以前の段階で、この方は旅行を断念せざるを得ないと思われるからです。

行程を見ると、九州・鹿児島の、おそらくは薩摩半島あたりから、熊本、福岡、北九州(関門海峡)などを経由し、さらには山陽地方(広島、岡山、姫路)から京阪神あたりを経由し(※このあたりならまだ理解できなくはありません)、その後、おそらくは福井から日本海を通るようなのです。

報道によれば、この方が踏破を目標としている期間は100日前後であることから、福井県の日本海沿岸に到達するのは早くても11月中旬、下手をすると12月に入るでしょう。おそらくここまでくれば、この先を踏破することは不可能であり、下手をすると滋賀県あたりで早晩、旅行を断念せざるを得ない、と信じたいところです。

計画こそがすべて:出発日を含めて練り直しを

さて、先日も紹介したとおり、この方はどうも公認会計士試験の受験を目指されているようですが(※現在でも勉強を続けていらっしゃるのかどうかは存じ上げませんが)、この点、まさに資格試験の勉強とも通じるものがあります。

資格試験の場合、試験の実施時期はあらかじめ決まっていますので、「この年に行われる公認会計士試験に合格したい」と思うならば、そこから逆算して、「だいたいこの時期にこの科目で合格点に達しておく」、「この科目の勉強はこの時期から始める」、などとめどを立てておかねばなりません。

この点、試験も「気合い」で乗り切れる、などと思っている人がいますが、一般には公認会計士などの「難関」(?)試験の場合、よっぽどの天才(あるいは受験秀才)などではない限り、計画を立てなければ試験の合格など覚束ないものです。

逆に、この計画の立て方によっては、最低の勉強時間数でも十分に試験に合格することもできますし、実際、そのように自分で計画を立て、実行できるような人は、その後の人生でも、ビジネスで大きく成功しているケースが多いです。

(※なお、本稿は公認会計士試験のノウハウを議論するものではありませんので、詳しいことについては専門のウェブサイトないし受験専門学校などに尋ねていただきたいと思います。)

このあたり、「日本列島踏破」もこれと非常によく似ていると思います。

「約100日の時間をかけて、日本列島を縦断する」という目標を立てたのであれば、自身の予算、自身が歩く速度、通過する地点の時期と気候、といった諸条件がわかるのですから、それにあわせて最適な計画を立てれば良い、という話でしょう。

いずれにせよ、もしも本気でこのルートを使って日本列島を縦断しようと思うならば、まずは時期を選び直すべきでしょう。

たとえば、100日前後の期間をかけて北上するのであれば、西日本が温暖になる4月中旬から5月上旬を出発日に選ぶべきであり、そうすれば、ちょうど初夏の時期に涼しい日本海を北上し、北海道に着くころには7月から8月を迎えているはずです。

あるいは逆に、7月下旬から8月上旬に北海道を出発し、寒くなる前に日本海を抜けて近畿地方に到達すれば、秋口の涼しい時期に西日本を踏破することができるかもしれません。

このあたり、仕事にも通じるものがありそうですね。

美談であるかのごとく報じたメディアの責任

こうしたなか、やはり個人的に強い疑念がもうひとつあるとしたら、この若い方の挑戦を、あたかも美談であるかのごとく報じたメディア(この場合は琉球新報という新聞)に責任はないのか、という点です。

琉球新報の該当する記事のリンクを、あらためて確認しておきたいと思います。

日本縦断2800キロを徒歩で挑む 18歳の比嘉さん、きょう波照間を出発

―――2021年10月22日 10:14付 琉球新報より

沖縄の18歳が日本縦断2800キロを徒歩で挑む理由 きょう日本最南端の波照間島を出発

―――2021/10/22 12:39付 Yahoo!ニュースより【琉球新報配信】

琉球新報の記事には、こんな記述があります。

日本縦断中は主に野宿する。同級生は『頑張ればできるよ』と励ましてくれるが、『知識がある大人ほど止めてくる』。両親にも反対されたが、●●さんは諦めなかった。『自分のやりたいことを、まだ1回もやったことがないのに止められるのは嫌いだ。やってみて無理ならいい。大人に子どもの夢が止められることが多いが、ちゃんと準備すれば達成できることがあると証明したい』」(※原文では「●●」部分には実名が入ります)。

琉球新報はご両親が反対したというこの挑戦を、「諦めなかった」、などと前向きに紹介していますが、正直、この琉球新報の記事を執筆なさった方も含め、是非とも目を通していただきたい記事がひとつあります。

『ITメディア』が運営するウェブサイトに2018年5月25日付で掲載された、こんな記事です。

登山家・栗城史多さんを「無謀な死」に追い込んだ、取り巻きの罪

―――2018年05月25日 08時00分付 IT media ビジネス ONLiNEより

これは、世界最高峰のエベレストに自身初登頂を目指していた栗城史多(くりき・かずのぶ)さんが下山中に亡くなったことを取り上げた記事ですが、記事を読んでいただければわかるとおり、どうもこの栗城さんという方の挑戦は、最初からずいぶんと無謀だったのではないか、という指摘がなされているようです。

とりわけ、栗城さんが「無謀」ともいえる「単独無酸素・エベレスト南西壁ルート」に挑んだことについて、同記事は次のように述べています。

今回の死に至る悲運の結末を招いた『単独無酸素・エベレスト南西壁ルート』への挑戦も大手の某インターネットテレビ局で山頂アタックの瞬間が配信されることが決まっていた。だが、これまでも有名登山家から『市民ランナー』と称されていた人が自分の実力を測り切れていないうちに周囲から持ち上げられ続けて『大丈夫だから、君ならばやれるよ』と背中を押されれば、どうなるか――」。

「市民ランナー」とは、「マラソンでいえばプロランナーではなく市民ランナーのようなもの」という、「著名な登山家」による栗城さんに対する評価です。

もちろん、今回の沖縄の若者の事例は、この栗城さんの事例とはいろいろと異なっています。

しかし、「琉球新報」という、沖縄県内ではそれなりのシェアを誇るメディアが、この「冬場の日本列島踏破」という無謀な挑戦をあたかも美談であるかのごとく取り上げたという意味においては、栗城さんの失敗に通じるものがあるように思えてなりません。

いずれにせよ、資格試験、登山、ビジネスなどのさまざまな分野において、計画性と実行力は、まさに「車の両輪」です。未来ある若者が無謀な挑戦で最悪命を落とすこと、さらには周囲に多大な迷惑をかけることがないことを、切に願いたいところです。

新宿会計士:

View Comments (39)

  • どうせ九州辺りで、辛抱出来なくなるでしょう。
    そして「失敗した経験があるから大丈夫」と言い張れば、晴れて立憲共産党。

    • 琉球新報イチオシの幹部候補生としてすでにリストアップされているかも。
      とりあえず(元)志位るsあたりから…

  • 本州・九州・四国にはいないヒグマと言う脅威がありますから,正直言って北海道での野宿は夏場であってもお勧めできません
    よほどアウトドアの経験が豊富で慣れた人ならまだマシでしょうが……

    と言うか,冬に北海道を歩いて稚内まで移動とか自殺志願者としか……

  • 昨晩投稿した者ですが、続きがあって、波照間島を知らんかった無知の息子に、友達が行くって言ったらどうするとも聞いていたのですが、「死ぬからやめろと言うと思う」かつ「そもそもそんな馬鹿なこと言うやつはいない」とのことでした。
    波照間島さえ知っていれば完璧な回答でした。
    同じ年頃の子供を持つ親として心配ではあります。イエスマンは本当の味方ではないです。早めに目が覚めてくれればいいですね。親御さんのためにも。
    冬場の北九州は関東に比べ相当寒いです。生前祖父が正月にわざわざ上京し、年越ししておりました。
    「こっちは温いな」と。

  • 私は東北出身ですが、11月下旬〜12月の九州四国の夜が意外と冷え込むのにびっくりしましたね
    軽にテントと寝袋を詰めて、東急フェリーで東京有明〜徳島を航走、そこから野宿で西日本をブラブラする予定でした
    が、吉野川沿いでの1泊目から思った以上に寒くて眠れない…寒さには慣れてるつもりだったんですがね
    それからは予定を無理やり変更し、野宿なら低地のみ、どうしても高地なら宿をとる…としました
    偏見ですが、南国の人は寒さに弱いきらいがあると見受けられます…それだけに寒冷地へ足を運ぶことをとても嫌うように思われますが、彼は違うようですね
    人生の先達に学ぶことができないならばせめて、早いうちに経験に学ぶものとなってほしいものです

    • > 偏見ですが、南国の人は寒さに弱いきらいがあると見受けられます

       いいえ、偏見じゃなくて事実です。
       九州でも内陸や山間部の人はしっかり防寒対策を取りますが、平野部や都市部の人はあまり防寒対策を取りません。防寒着をあまり持ってない人もいます。外はジャンバーと手袋、家の中はこたつとエアコンくらいでしのげる程度の寒さである日が多いので。
       そのため、真冬日日や風の強い日は外に出たがらない、家の中でも寒がる事が多いです。北海道の人のようにしっかりと防寒対策を取ってればなんて事ない寒さであっても。

      • その上
        知識としてわかっていて、それなりの防寒対策をしていても
        身体が寒いのに慣れていないからすぐ風邪をひく。という展開もあるからね

  • 毎日の更新お疲れ様です。私もこの様な時期に北海道までは計画だ開でアウトだと思います。予算と自力で調達できずに他人任せでは甘えどころか、最初から九州辺りで確信犯的に断念して残金を着服するつもりではと邪推すらしています。

  • >あたかも美談であるかのごとく報じたメディア(この場合は琉球新報という新聞)に責任はないのか、

    あくまで取材対象として扱って、スポンサーとして振る舞わなければ、責任は負わないと割り切ってるんじゃないかな?
    「判断は全ての本人の意志。取材対象として、時々、様子を聞くことはあり、その際に記事への反響を聞かれれば答えていたが、助言なんかはしていない。」って言えば、なんとかなるみたいな♪

    それで、成功すればもちろん、途中で断念しても、その行程を記事にすればひと儲けだし、遭難しても助けるのは自分じゃないし♪
    「電話取材で異変を感じて通報したが対応が遅かった」みたいにすれば批判する側に回れますしね♪

    芸能人が無人島から脱出するみたいな番組は好きで見てた頃もあったけど、あんな風に「制作」をするためには出演者の体調管理や地元との調整とか、とっても大変だと思うのです♪

    それが「取材」になれば、全ては取材対象の責任なんだから、美味しい話なんじゃないのかな?って思うのです♪

    ただ、本人の意志がとても硬いならって前提だけど、1点擁護するなら、誰にも知られずに野垂れ死にするよりも、良くも悪くも注目を集めたので、事故発生なんかの発見は早まるかな?って思うのです♪

    ただ、それも引っ込みがつかなくなるってリスクの上昇とセットなんだけど・・・・・

  • よろしいんじゃなですか?
    マスコミは事実に基づかず感情論で記事を書く事がお好きのようですから。
    事実を元にしたら記事にならないいじゃないですか?
    特に沖縄の新聞は、内地の新聞より妄想多めで記事にしていますから。

    みんな、自称若者を止めちゃダメだよ!!
    現実よりも理想で突き進む事こそ、赤である事の証明なんだから。
    そして現実にぶつかり、政府が悪いと叫ぶまでが、お約束です。
    人数が2人以上の場合は、総括が始まります。

  • まぁ沖縄本島の新聞に何かを期待する方が間違っているように思います。

    前の記事で三太郎について言及しましたが、仕事の関係で客先に(実質)出向し北薩に2年程住んでいました。
    荷物もまだ届かない正月明け、安普請とはいえ布団なしでは寒くて寝付けなかったことを思い出します。
    佐敷太郎は趣味のロード(自転車)で越えたことがありますが、結構なきつさでした(球磨川に抜けて新八代迄約100km、そこから輪行で帰った)。

  • >知識がある大人ほど止めてくる

    これが真実なのでしょう。多分とめたひとは論理的にその辺を諭しているのでしょうが、全く話を理解することができない。

    まあ、失敗していい経験になるでしょう。案外沖縄すら抜けられずに終わったり。

    そこでいろいろ気づくんだと思います。マスコミがただ利用するためだけに持ち上げ出た事実を。マスコミも無謀さはわかってます。ただ、それを言ってしまうと一人のバカをネタに記事が書けなくなってしまう。マスコミって大人ならすべき忠告もしないひどい奴らですね。

  • 私とて良く知らない頃にフジテレビが推してやらかした、伝説の「風呂桶に気球くくりつけての太平洋横断」の風船おじさん殺人事件を思い出します。
    要するにマスコミは悲惨な最後か成功時に成果を我田引水して主張を張り生死に関係無く部数なり視聴回数なり視聴率がとれれば平気で殺人だってやるって事です。

    左翼はいつでも女性・母・子供を盾に利用します。

    まぁ乳幼児でもなく自我は既にお持ちでしょうから、出来たら学校行かない宣言革命児ゆたぽんでも誘ってあげて欲しかった。

    少なくともクラウドファンドで他人の金でやる奴なんで失敗しちゃったテヘ♪で済むものではいので、成功すればともかく失敗した時には責任持って金返すくらいの覚悟はあるんだろうと思います。

    琉球新報と沖縄タイムズの売りは、沖縄県内の訃報等の冠婚葬祭記事を有料で掲載する事で講読者を集めていることが有名です。

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