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小売業者は罰金50万円払ってレジ袋を無料化しては?

レジ袋有料化政策は科学的に効果を疑問視する意見も多いばかりか、物流や国民生活に甚大な悪影響を与えているという意味で、直ちに改めなければならない政策のひとつだ、というのが当ウェブサイトのこれまでの見解です。こうしたなか、レジ袋有料化を定めた法令を読み解いていくと、罰金を50万円払えば、レジ袋を無料で配りたい放題ではないかと読めてしまうのに気づきました。そして、小泉進次郎さんの現在はいったいどうなっているのでしょうか。

憲法>法律>政令>省令

普段から当ウェブサイトでときどき申し上げている論点のひとつが、「法律、政令、省令」という関係です。

一般には意外と知られていませんが、「法令」という単語には注意が必要です。というのも、私たち一般国民には、「法令」と聞くと一律に「お上が決めたルール」という印象を持ちがちですが、この法令にはさまざまな種類があり、かつ、優先順位があるのです。

このうち法律は国会が制定するものであり、憲法に次いで強いものですが、政令は法律に次ぐもので、閣議で決定され、さらにその政令の下位に各大臣が決定する省令が置かれています。憲法、法律、政令、省令の関係は、図表のとおりです。

図表 わが国における法令の種類(例)
種別 制定者または改廃方法 性質
憲法 衆参両院の3分の2以上の発議+国民投票 国の最高法規。これに反する法律、命令、詔勅等は効力をもたない(憲法第98条)
法律 国会 憲法に次ぐ重要な規定。刑罰や税金は法律で定めなければならない(憲法第31条・第84条)
政令 内閣 憲法・法律の実施のための命令。法の委任がなければ罰則を設けることはできない(憲法第73条第6号)
省令 各省大臣 法律・政令の施行のため、または法律・政令の特別の委任に基づいて発する機関の命令(国家行政組織法第12条第1項)

(【出所】著者作成)

この省令(内閣府が発するものに関しては内閣府令)のさらに下位に、規則だ、通達だ、告示だ、といった命令が設けられることもあるのですが、日本の場合はこの政令、省令、規則・告示・通達などを無駄に複雑にすることで、官僚機構がその解釈をわざと困難にしているフシもあります。

(※その具体的な権利濫用事例としては、とくに金融庁や金融庁、さらには金融庁などが有名です。)

環境省令という闇

ただ、国民生活に大きな影響を与える変化(たとえば消費税等の増税)に関しては、いかに財務省が実質的に強大な政治権力を握っているとはいえ、基本的には国会で法律を通さなければ実現できません。

だからこそ、私たち有権者が国会議員に対し、増税は許さないぞ、という強い意志を見せつけることができれば、財務省の政治的権力を抑え込むこともできるはずですが、こうした強い意志を見せることを妨げているのが新聞、テレビを含めたオールドメディアだ、というのは、普段から当ウェブサイトで申し上げている議論でもあります。

それはともかくとして、環境省が2020年7月に導入した「レジ袋有料化」については、根拠規定はいったいどこにあるのでしょうか。

じつは、これも同じく「法律」「省令」という関係に注目する必要があります。

容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律』という法律があります。

これは、制定されたのが平成7年、つまり1995年と、約26年前の話ですが、このなかにこんな条文が設けられています。

容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律第7条の4第1項

主務大臣は、容器包装廃棄物の排出の抑制を促進するため、主務省令で、その事業において容器包装を用いる事業者であって、容器包装の過剰な使用の抑制その他の容器包装の使用の合理化を行うことが特に必要な業種として政令で定めるものに属する事業を行うもの(以下「指定容器包装利用事業者」という。)が容器包装の使用の合理化により容器包装廃棄物の排出の抑制を促進するために取り組むべき措置に関して当該事業者の判断の基準となるべき事項を定めるものとする。

法律の条文に、「主務省令で~を定めるものとする」、と記載されていますが、これは法律から政令を飛び越えていきなり省令に委任するという意味では、少し珍しい事例です(※ただし、法律からいきなり省令に委任するという事例は、ほかにもないわけではありません)。

レジ袋有料化は「法律ではなく省令で」

そのうえで、この条文を受けて設けられているのが、『小売業に属する事業を行う者の容器包装の使用の合理化による容器包装廃棄物の排出の抑制の促進に関する判断の基準となるべき事項を定める省令』という、非常に長い名称の政令です。

名称が長すぎるので、本稿では便宜上、「環境省令」と略します(仕事ができない人たちがやたらと長いタイトルの文書や法律を作るのは、世界共通のテンプレートのようなものでしょう)。

環境省令第2条第1項

事業者は、商品の販売に際して、消費者にその用いるプラスチック製の買物袋(持手が設けられていないもの及び次の各号に掲げるものを除く。以下この項の各号列記以外の部分及び次項第一号において同じ。)を有償で提供することにより、消費者によるプラスチック製の買物袋の排出の抑制を相当程度促進するものとする。

一 繰り返し使用が可能なプラスチック製の買物袋のフィルムの厚さが五十マイクロメートル以上のものであって、その旨が表示されているもの

二 プラスチック製の買物袋のプラスチックの重量に占める海洋で微生物によって分解が促進するプラスチックの重量の割合が百パーセントであるものであって、その旨が表示されているもの

三 プラスチック製の買物袋のプラスチックの重量に占めるバイオマス(動植物に由来する有機物である資源(原油、石油ガス、可燃性天然ガス及び石炭を除く。) をいう。)を化学的方法又は生物的作用を利用する方法等によって処理することにより製造された素材の重量の割合が二十五パーセント以上であるものであって、その旨が表示されているもの

…。

つまり、レジ袋有料化は、(国会の議論が必要な)「法律の改正」によってではなく、環境大臣(たとえば、小泉進次郎前環境相など)の一存で可能な「省令の改定」によって実現したものだ、ということです(※本稿では、あえて「改『正』」、という単語は使いません)。

国民生活への影響の大きさなどを考えると、これを省令改定でやってしまったというのは、いかがなものかと思います。環境省のこの行政が違法だった可能性も否定できないからです。

条文を読むと、レジ袋を「有償で提供すること」を義務付けているだけであり、そのレジ袋代金を税金として国に納めよ、という話ではありませんので、「租税立法主義」に反するものではありません。

また、法の条文も「当該事業者の判断の基準となるべき事項」を「省令で定める」と規定しているのであって、この条文から、「当該事業者にレジ袋を有料で販売せよと命令して良い」とまで解釈するには、少し強引ではないかという気がします。

罰金50万円でレジ袋無料化復活!

もっとも、「法律の委任がない限り、罰則は政省令に設けることができない」という一般原則は、ここでも生きて来ます。

もしある小売業者が、環境省令に従わず、レジ袋を顧客に無償で提供し続けたとしたら、いったい何が起こるでしょうか。

「環境省令」ではなく、法律の方を読んでいきましょう。

容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律第7条の7

主務大臣は、容器包装多量利用事業者の容器包装の使用の合理化による容器包装廃棄物の排出の抑制の促進の状況が第七条の四第一項に規定する判断の基準となるべき事項に照らして著しく不十分であると認めるときは、当該容器包装多量利用事業者に対し、その判断の根拠を示して、容器包装の使用の合理化による容器包装廃棄物の排出の抑制の促進に関し必要な措置をとるべき旨の勧告をすることができる。

2 主務大臣は、前項に規定する勧告を受けた容器包装多量利用事業者がその勧告に従わなかったときは、その旨を公表することができる。

3 主務大臣は、第一項に規定する勧告を受けた容器包装多量利用事業者が、前項の規定によりその勧告に従わなかった旨を公表された後において、なお、正当な理由がなくてその勧告に係る措置をとらなかった場合において、容器包装の使用の合理化による容器包装廃棄物の排出の抑制の促進を著しく害すると認めるときは、審議会等<中略>で政令で定めるものの意見を聴いて、当該容器包装多量利用事業者に対し、その勧告に係る措置をとるべきことを命ずることができる。

(※細かい話ですが、日本の法律では、第1項の冒頭に「1」という数値は付されません。数値が付されるのは第2項以降です。)

少し長いのですが、第7条の7の規定を、あえて大部分、引用しました。

その事業者がレジ袋有料化という国の命令に従わなかった場合は、まずは環境相は「判断根拠を示したうえで勧告をする」ことができます(同第1項)。次に、その事業者が勧告に従わなかった場合、その旨を公表することができます(同第2項)。

さらに、環境相はその「公表」後に、「措置に従え」と命令することができる(同第3項)、という流れです。

では、その「命令」に、さらにその事業者が従わなかったら、いったいどうなるのでしょうか。

容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律第46条の2

第七条の七第三項の規定による命令に違反した者は、五十万円以下の罰金に処する。

…。

最大50万円の罰金を納めてお終い、です。

逆に言えば、スーパーもコンビニも、罰金として50万円を国に支払う覚悟があれば、環境省の違法省令など無視して、レジ袋をどんどん無料で配ってしまえば良いのではないでしょうか。

小泉さんの末路

さて、このレジ袋有料化、コロナ禍の最中にごり押しされ、国民・生活者に不評なだけでなく、レジ袋製造業者からも「環境的にまったく意味がない」と批判されている(『「レジ袋有料政策廃止」は経済浮上の切り札となるか?』等参照)のが実情です。

レジ袋無料化こそ、国民生活を抜本的に改善する切り札になるのでしょうか。昨日発足した岸田文雄内閣では環境相も交代しました。あえて岸田政権にひとつ注文を付けるとすれば、政策をちゃんと見直したうえで、それらに誤った政策があったのであればその事実を認め、誤った政策を撤回する勇気を持つことだと思います。岸田政権にそれができるでしょうか。2021/10/05 15:00追記本文中にPDCのことを「Plan-Do-See」と記載してしまいましたが、この略だと「Plan-Do-Check」であるはずですので、修正しています(厳密にはこれに「Action...
「レジ袋有料政策廃止」は経済浮上の切り札となるか? - 新宿会計士の政治経済評論

また、当ウェブサイトとしては、レジ袋有料化政策自体、環境省が法の趣旨に反し、違法性が極めて濃厚な省令を出してしまった可能性があるという意味では、環境省という役所の非常に危険な側面が出て来たと見て良いとすら考えている次第です。

こうしたなか、このレジ袋有償化を巡っては、やはり「あの人物」について取り上げざるを得ません。産経ニュースに一昨日、こんな記事が掲載されていました。

「完敗」小泉進次郎氏失速 同世代台頭、集客に陰り

―――2021/10/17 21:44付 産経ニュースより

小泉進次郎・前環境相の「環境相就任前は数千人規模を呼び込んだ」という「集客力」に「陰りが生じている」のだとか。

産経ニュースによると、小泉氏は17日、他候補を応援するために街頭演説に立ったところ、小雨という事情はあるにせよ、駅前に集まった聴衆は100人程度に過ぎなかったそうです。

その理由について、産経ニュースは岸田文雄内閣で、福田達夫総務会長、小林鷹之経済安保担当相ら自民党の若手が党幹部、閣僚に抜擢されたという事情などもあり、小泉氏の「若手」としての注目度が下がっている、という事情を指摘します。

また、甘利明・自民党幹事長との対立、環境相時代には気候変動対策を巡り「実現性に裏付けのない高い数値目標を掲げた」こと、「脱炭素電源である原発の有効活用を求める党内の声を黙殺したこと」なども影響している、と手厳しく評しています。

このあたり、産経ニュースが触れていない話題としては、ほかにもレジ袋有料化という「やらなくて良い政策」に力を入れる反面、福島第一原発処理水海洋放出決定という、環境相としての本来の仕事を菅義偉総理に押し付けたこと、といった面もあるのでしょう。

小泉氏が閣僚に抜擢されたのは、2019年9月、安倍晋三政権当時の内閣改造のときでした。当時は30歳代でしたが、その小泉氏は今年40歳であり、「若手」というよりは「中堅」の部類に差し掛かりつつあります。

少し厳しい言い方ですが、責任ある仕事を任せてみたら、何にも成果があげられなかったどころか、誤った仕事をして国民生活に打撃を与えたという始末だった、という言い方をしても良いでしょう。

もし安倍晋三総理大臣とが小泉氏の本質を見抜いていて、わざと閣僚に抜擢したのだとすれば、やはり安倍総理は老獪な人物だったといえるのかもしれません。

新宿会計士:

View Comments (20)

  • >仕事ができない人たちがやたらと長いタイトルの文書や法律を作るのは、世界共通のテンプレートのようなものでしょう

    非同意と言うわけではないのですが、

    『愛のままにわがままに 僕は君だけを傷つけない』-B’z

      • 洋画の日本誤訳も原題と比べて長過ぎ長過ぎと言われているね
        ミレーのおいしいレストランとかカールじいさんの空飛ぶ家とか

  • そもそもレジ袋は容器でも包装でもないと思うんですが。これってコンビニ弁当とかの容器を狙ったものですよね?米国だと肉とかを入れる薄い袋は対象外だけど、日本だと包装カテゴリに入るのか?後、生分解性プラスチックなら対象外みたいですね。最近はポリ乳酸の袋って流行ってないのかな?

  • 小泉進次郎法相とか見てみたい。
    どれだけ死刑執行できるかな。

  • 50万円という金額は小売業において死活問題や倒産に繋がりやすい金額です。
    小売業というとイオンや7.11のような大企業ばかりではございません。

    レジ袋をヤリ玉にしたのは、主婦層に対する解りやすいメッセージになるからです。
    小泉氏本人があまり買い物をした事が無いから、簡単で解りやすいと思ったのでしょう。
    海洋プラゴミ問題がメインなら、「海洋にゴミ排出国」や「元祖海洋にゴミ排出国」に
    問題提起すべきなのですが、日本はこれ等の国に対し文句を言えないからね。

    • レジ袋さえ減らせば環境対策した気になり、肝心のプラごみのポイ捨てが全然問題視されず本末転倒になってますね。

    • その昔、環境保護団体やその賛同者たちが割箸を糾弾したことがありました。木材の無駄遣いであり、森林伐採を促進するものだと。当時、意識高い系の人たちは、わざわざmy箸をどこにでも持参し、意識の低い愚民どもを見下していましたっけ。
      実際には、元々割箸は杉などの間伐材の有効利用であり、あるいは白樺などの他に使途のない材の有効利用でした。つまり、たとえ割箸を禁止したところで、一番懸念される熱帯雨林の伐採には何も効果や影響はなく、むしろ間伐材の用途がなくなることで林業者の間伐意欲が薄れ、山が荒れることにしかなりません。そのことが静かに広まったせいか、いつの間にか割箸を敵視するような言説はほとんど聞かれなくなりました。要するに、環境保護論者たちの不勉強ぶり、一知半解ぶりだけが明らかになったということです。

      環境問題は広く大きな影響を与える問題であり、環境保護論者たちの主張や活動を一概には否定しませんが、上記割箸問題のように、短絡的で近視眼的な「木を見て森を見ない」姿勢という事例が時々見られることを残念に思います。

  • なんと、海洋でも分解するバイオマス由来製品があるんだそうです。
    それは、20℃以上の環境下で効果がみられるんだそうです。
    けれど、海水よりも重たくて沈んじゃうんだそうです。
    つまり、沈んだそれは分解されないんだそうです。
    ・・。 これって環境にやさしいのかな?????
    *****

    レジ袋の有料化が環境保全に寄与しないことが社会実験によって実証されたのですから、一日も早い方針転換を期待したいところです。
    このことを失敗とするか成果とするのかは今後の政策次第だと思っています。

  • >逆に言えば、スーパーもコンビニも、罰金として50万円を国に支払う覚悟があれば、環境省の違法省令など無視して、レジ袋をどんどん無料で配ってしまえば良いのではないでしょうか。

    1回50万円払えば免罪符が与えられるわけじゃなくて、命令違反の度に罰金を払わなきゃいけないと思うのです♪

    あと、新宿会計士様がどこまで本気で言ってるのかわかんないけど、あたしはあんまし好きな考え方じゃないのです♪

    懲役刑があるからハードルはもっと高いけど、例えば、「どうせ見つからないし、見つかって訴えられても一千万円払えば済むんだから、よそのサイトのコンテンツの盗用なんかは、どんどんやれば良いんだ!!」
    みたいな考えに通じるものを感じるのです♪

    著作権法
    第百十九条 (省略)十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

  • 罰金だから刑事罰ですよ。
    過料とか、反則金でないです。
    前科つく感じになるので、ちょっとだめでしょうね。

  • レジ袋が有料になってから、自宅のゴミ袋に充てるために袋を卸売問屋さんから買うようになりました。そこでわかったのは、袋もそれなりにコストになるということ。頭では分かっていたはずなのですが、実際に買ってみるとなかなか馬鹿になりません。
    いったん有料になったレジ袋。果たして小売事業者は無料・サービスとしてレジ袋を提供する状況に戻れるでしょうか。
    ちょっと難しいんじゃないか…という感じもしないではありません。

    • レジ袋、フランチャイズのコンビニオーナーは自腹で買取らしい。スーパーはキャッシュレス決済の手数料に頭を悩ませている。多分袋無料には戻したくないだろうな。

  • 金払うのしゃくだからマイバッグ持っていくけど、百円ショップでレジ袋買ってます。
    部屋のゴミ箱にかぶせて使うため。

  • 勘違いされている方もいるようですが、大手のスーパーやコンビニは罰則適用となりますが、年間50トン以上の包装容器を扱う小売事業者以外は、実質的に罰則はありません。

    私もレジ袋有料化には反対ですが、罰則が無いからといっても、省令破りを推奨するかのような提案をするのは法治国家の国民としてはダメでしょう。
    直接大臣を選んだわけではありませんが、選挙で選んだ大臣が決めたことですから、反対するのであれば、署名なり、デモなり、嘆願なりの反対運動をすれば良いだけ。
    表現の自由の範囲かもしれませんが、同じことを朝日新聞あたりがしたら、ここぞとばかりに叩くでしょう?
    問題提起をするのは良いとだと思いますがね。

    環境問題というのは、多分に感情論を含みます。資源の無駄遣いやゴミは出さない方が良いのは当たり前で、利便性がトレードオフ。
    怖いのはスケープゴートになること。
    省令を無視した場合、「あの店は環境汚染をしている」と店のイメージダウンになりかねない。マスコミに報道されてたら、まず、環境問題に過敏な方から様々な嫌がらせを受けるおそれもあります。

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