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産経「発表ベースで1日100万回達成」報道は本当か

気がついたら、高齢者の約4人に1人以上に対し、1回目の接種が終わっていました。1日当たりの接種回数、菅義偉政権が掲げる「1日100万回」にはまだ届かないにせよ、それでもワクチン接種が急ピッチで進んでいることは間違いありません。ただ、その一方で、産経ニュースには昨夜、「1日100万回を達成した」とする記事も出ているのですが、これについてはどう考えるべきでしょうか。

どんどん進むワクチン接種

昨日の『1回目接種状況、いつのまにか「高齢者の4人に1人」』では、政府が公表したデータを集計すると、65歳以上で1回目を接種した人が月曜日時点で対象者の23.70%に達していた、とする話題などを取り上げました。

タイトルに含まれる「高齢者の4人に1人」の文言は、データの反映などに時間がかかることを踏まえると、「もう事実上、25%(つまり4人に1人)に達したと見て良いのではないか」、という当ウェブサイトなりの判断において付したものです。

また、1日の接種能力は、現時点で平日に限定すれば70~80万回、休日を含めた平均値だと55~60万回程度であり、菅義偉政権が掲げる「1日100万回」にはまだ届きませんが、ワクチン接種が急ピッチで進んでいることは間違いありません。

医療従事者等への2回目接種も一巡し、もしも今月中、あるいは来月にも職域接種が始まれば、高齢者接種がさらに進むでしょう。職域接種が進めば、職場で接種が受けられる人は一般の病院等に来場しないため、その分、高齢者等への優先的な接種が期待できるからです。

そして、1日当たり接種回数が保守的に見積もって最大60万回だと仮定しても、このペースで進めば、3549万人とされる65歳以上の対象者については、計算上は今月中に2700万人前後、来月の東京五輪開会式直前には全員が1回目接種を終えているはずです。

といっても、接種は「強制」ではないのに加え、地方自治体で接種状況にバラツキがあるため、現実には65歳以上の100%が接種を完了する、ということはあり得ないとは思いますが、それでも重症化率が高い高齢層へのワクチン接種が一巡すれば、このコロナ危機も違う局面を迎えます。

いずれにせよ、ワクチン接種の初動の遅さはたしかに問題ではありましたが、すくなくともこの状況にまで持ってきた菅義偉政権の仕事の実績、正当に評価すべきでしょう。

産経「発表ベースで1日100万回を達成」

さて、菅義偉総理は先週金曜日、「6月中旬までに1日100万回は達成できそう」と述べた、とする話題がありました。

首相「目標達成できそう」 1日100万回接種

―――2021/6/4 16:29付 産経ニュースより

ただ、これに関連するのでしょうか、少し気になる報道がありました。産経ニュースのこんな記事です。

ワクチン接種、発表ベースで「1日100万回」達成

―――2021/6/8 22:36付 産経ニュースより

記事タイトルでもわかるとおり、ワクチンの接種が「1日100万回に達した」、とするものです。

首相官邸に8日付で掲載されたワクチン接種回数が「7日時点で1834万8184回」で、「前日比109万3504回増」、というのが産経の指摘であり、これが記事タイトルにある「発表ベースでの1日100万回」ですが、はたしてこれは正しいのでしょうか。

結論から言えば、大変に不適切でミスリーディングな記事です。

問題のページは、首相官邸ウェブサイトの『新型コロナワクチンについて』というページのことを指しているのだと思います。

現時点で掲載されているのは「6月7日現在の情報」ですが、これを図表形式に加工したものが、次の図表1です。

図表1 ワクチン接種状況
区分 総接種回数 増分
医療従事者等 8,494,017回 +239,337
高齢者等 9,854,167回 +854,167
合計 18,348,184回 +1,093,504

(【出所】「医療従事者等」「高齢者等」の総接種回数と前日比は首相官邸ウェブサイト『新型コロナワクチンについて』、合計欄は著者作成)

計算してみると、たしかに総接種回数と増分の合計は、それぞれ産経ニュースの記事のものとピタリと一致しています。

しかし、このページ、著者自身もよく見ているので気付くのですが、じつは、集計されるのにタイムラグがかなりあり、そもそもの政府CIOポータルに掲載されるオープンデータ自体、バックデートで修正されることがままあります(※なお、これもデータの仕様上、仕方がない話です)。

また、増分については、あくまでも「直近に公表した総接種回数との差」であり、「前日比」ではありません。とくに医療従事者等のデータについては土日分が月曜日にガサっとまとめて加算されます(これについてはPDFファイルではありますが、政府ウェブサイトにちゃんとした説明があります)。

データをちゃんと分類しましょう

したがって、「累計」、「前日比」を見るのであれば、以下のデータを取得して分類し、集計する必要があります。

これをユーザーサイドが手作業でやらなければならないというのも大変ですし、また、これらのデータを集計しても、首相官邸ウェブサイトに掲載されている数値とはピタリとは一致しません。

著者自身が政府オープンデータを直接入したうえで計算したところ、6月7日時点における累計接種数については、次のとおりです(図表2)。

図表2 6月7日時点の累計接種数
データ区分 6月7日時点 増分
4月9日以前のデータ 1,592,517
医療従事者等への接種状況 6,901,500 239,337
CIOポータルのデータ 10,238,281 511,844
合計 18,732,298 751,181

(【出所】厚生労働省『新型コロナワクチンの接種実績』、首相官邸『新型コロナワクチンについて』、CIOポータル『新型コロナワクチンの接種状況(高齢者等)』をもとに著者作成)

いかがでしょうか。

おそらく、産経の記事に出ていた「1日100万回」云々は、あくまでも首相官邸のトップページに掲載された情報をもとにしたものであり、それぞれのデータを積み上げてみると、増分は75万回少々(しかも「医療従事者等」の区分は土、日、月の合算値)、というわけです。

いくらなんでも仕事が少し雑ではないでしょうか。

「1000万人超え」・「4人に1人以上」に

ただ、65歳以上に対する類型の接種数は、6月8日までのデータ上ではすでに1000万人を超えていて、接種率で見ても4人に1人以上に達しています(図表3)。

図表3 累計接種数・接種率(65歳以上)

(『新型コロナワクチンの接種状況(高齢者等)』オープンデータより著者作成。なお、「接種率」とは累計接種数を『令和2年住民基本台帳年齢階級別人口』【※エクセルファイル】記載の日本の65歳以上人口3548万6339人で割った数値)

菅義偉政権のこういうところは、もっときちんと評価しても良いのではないかと思う次第です。

新宿会計士:

View Comments (12)

  • 駄文で済みませんが投稿します。
    接種数について厚生省⇒首相官邸のページで公表されてきてますが、週末の集計公表が無く週明けは数が膨らんだり公表が遅れたりします。土日も働けというつもりはないのですが、いろいろな情報が人系に頼っているから週末は集計公表できないのでしょう。国としての重要な活動である接種の状況が公表されないのは「如何にもIT後進国である惨めさ」を感じてしまいます。
    接種そのものは60-70万回/日に上がってきて、菅総理の号令の下、医療関係者や自治体関係者が努力してくださっている成果が出ていると思います。残念なのは少しの不備もあげつらうマスゴミや政治屋、無断キャンセルする輩が横行している日本の現状です。
    もう少し大きな心を持つ国民であって欲しいです。

    • 急ごしらえの接種システムですから人海戦術は止む得ないと思います。
      マイナンバーで一括管理出来ていたら、簡単に必要な切り口簡単に加工出来るのと思います。
      日本はIT化の前にやるべき事が沢山有ります。

    • ワクチン開発後進国、IT後進国など国民がガッカリするような現状を作りだしたのは、批判と足を引っ張ることに血道をあげている野党やマスコミなどの反社会的集団による飽くなき活動と公務員の現状維持を目的としたサボタージュに因るところが大きいのでは無いでしょうか?

  • 大規模接種センターの予約枠が大量に余っているという報道も含めると
    接種年齢拡大に向けての情報操作というか、世論誘導ではありませんか。
    かつて、記者クラブには政府発表数日前に基本方針変更の連絡があって
    大手新聞社や大手通信会社が大衆相手に恥をかかないようにするため
    社説や論調を方向変換する余裕が与えられていたと聞きました。
    罹患すれば死ぬからウルサイ団塊の接種に目途が付いたら、
    一番動き回り感染源となり、かつ稼いでいる10代後半から60代の
    接種を始めるのではないでしょうか?

  • 自己コメント。

    やっぱり産経の「1日100万回」は誤報だと思われる。

    その理由は、首相官邸ホームページ上の「前回公表値と今回公表値」の差分に、バックデートで接種が進んだ数値が紛れるため。

    産経新聞さん、訂正報道を出された方が良いと思いますよ。

    • 推定として100万回達成は正しいと思います。
      根拠は、接種した数をバックデートした数値が余りにも多いこと。これは接種したが登録していない数が40万程度あると推定されることです。
      例6月8日
      新規 477,465 前日差 +861、579
      前日差と新規の差 384,114 が6月7日以前の数がアップデートされています(7日の分と比較して検証済み)。
      つまり、6月8日の分も後日その程度アップデートされると推定する方が合理的ではないでしょうか?
      医療従事者の分は不思議なことに後日アップデートはないので、こちらはそのまま加算でよいと思います。

      • 匿名のコメント主様

        ご指摘の「バックデートした数値があまりに多い」につきましては、その可能性は十分にあると思います。つきましては、あと数日、データを眺めてみたいと思います。
        引き続きご愛読並びにお気軽なコメントを賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。

    • すべて承知の上のアドバルーンかも・・・

      昨日のは疑義がありますが、今日も同じことが起こっています。PDFファイルの方は違う数字なのですが、確かに前日比は100万超なんですね。

      拙ブログでは一日100万回達成を表示いたしました。

  • 当院では人員の抽出にヒーヒー言いながら、一日96件こなしています。
    これが一万施設くらいかなあ。まあ大きなところじゃもっとこなしているんでしょうから、施設数はもっと少ないでしょうけど。

  • IT後進国の話が出ましたので一つ。
    マイナンバーがなかなか浸透しない(取得が進まない)理由に
    ・国が国民をナンバーで管理する。
    ・国民を一元管理するのはプライバシーの侵害
    ・財産を国に見られる
    だったと思います。
    しかし最近RINEが便利な為多くの人が使用し最近は金融、モバイルにも進出しています
    ・LINE情報は海外にも流出(中国様にも)
    ・実質的に韓国の会社(役員の多くは韓国人、始めたのは韓国情報局出身)
    と日本国内から離れ海外に情報を押さえられる始末。いったいプライバシーは何処行った?
    所謂ゴミメデアと夜盗に踊らされた結果がマイナンバーの普及が進まない原因です。
    緊急時の迅速な行動でマイナンバーが必要な事は今回ハッキリしました。
    (もたもたしているのは日本が平和すぎて緊急事態が殆ど無かったから)
    世界的な感染症は10年毎に起きています。
    (サーズ、マーズ、武漢肺炎。他局地的にも)
    国防・公安・経済全てに情報の一元管理を行い、その管理方法の習熟(我々のIT感性の習熟も)が必要だと節に思います。

  • 職域での接種が始まりますので、接種率は飛躍的に増えるのではないかと思っています。
    大病院の片手間仕事や、自治体のお役人仕事でなく、企業は金儲けが懸かってます。
    これでコスパの悪いテレワークや、自粛営業から逃れられると思えば、一気に進めると思います。しかも費用は親方日の丸なんですから。
    義務化されてる健康診断も、数人(以下)の医師と看護師と庶務係員で1日数十人も数百人(盛ってます)もこなすのです。
    中小企業向けに健康診断に特化してるクリニックもあり、そういう所は更に手際よく捌いていきます。産業医を舐めてはいけません。
    特例で、ワクチン接種をする場合は通常の健康診断を免除または延期とすれば、10月だ11月だなんて言わずに、五輪までに終わるんじゃありませんか。知らんけど。